会議レポート
第8回障がい者制度改革推進会議(2010年4月19日:内閣府)
「アクセシブルな会議の運営」という視点から
2010年5月6日
(財)日本障害者リハビリテーション協会情報センター
4月19日に内閣府で開催された第8回障がい者制度改革推進会議を傍聴した。
福島内閣府特命担当大臣は第1回目の挨拶で以下のように発言された。
「本日の障がい者制度改革推進会議は、この本部の下で障害当事者の皆様や関連分野の有識者の皆様に御議論いただき、改革の具体的検討を進めていくための言わばエンジン部隊です。……この推進会議は当事者あるいはその家族の皆さんたちに多く入っていただいて、『私たち抜きに、私たちのことを決めないで』ということを強く実現していきたいと考えております。」
このような確固たる意志のもと、会議のあり方も、どのような障害があろうと情報が共有でき、発言の自由が保障されるよう様々な角度からの配慮が求められる。
第8回障がい者制度改革推進会議の議事は「団体ヒアリング」で、以下12団体が要望や意見を質疑応答を含め15分で発表を行った。
- 日本自閉症協会
- 尼崎市内障害者関連団体連絡会
- 障害のある子どもの放課後保障全国連絡会
- 障害者差別禁止法(JDA)を実現する全国ネットワーク
- 全国知的障害者施設家族会連合会
- 全国遷延性意識障害者・家族の会
- 全国引きこもりKHJ親の会(家族会連合会)
- 難病をもつ人の地域自立生活を確立する会
- 全国福祉保育労働組合
- 全国肢体障害者団体連絡協議会
- 年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会、学生無年金障害者訴訟全国連絡会
- 「障害者の地域生活確立の実現を求める全国大行動」実行委員会
ヒアリングの内容は内閣府ウェブサイトのヒアリング団体提出資料と動画配信で確認していただくこととし(議事録は内閣府が作成中)、今回は「アクセシブルな会議の運営」という視点から、障がい者制度改革推進会議をレポートしてみたい。
日本障害者リハビリテーション協会情報センターは、情報アクセスに焦点をあてた記事を数多く掲載しており、また、当協会が開催するセミナーや講演会等には多くの障害者の方々が参加されることから、その経験や失敗から多くのことを学んできた。今回の推進会議はまさに多種多様な障害のある方が一同に集まり、それぞれのニーズに対応した会議の運営や情報提供・共有が試行錯誤されており、今後、公的または民間で開催される様々な会議をアクセシブルにするためのモデルになりうる。そのような意味でも、この障がい者制度改革推進会議は注目されるべき会議である。
おりしも2010年3月23日、JIS規格、「高齢者・障害者配慮設計指針-アクセシブルミーティング」(JISS0042)が制定された。アクセシブルミーティングとは「高齢者及び障害のある人々が会議に参加できるように、支援者、支援機器などを配置及び活用して、安全かつ円滑に運営する会議」と定義されている。 今後当協会で運営する会議のアクセシビリティ向上を念頭に置きながら、障がい者制度改革推進会議のアクセシビリティの要素を見ていきたい。
1. 会場のアクセシビリティ
建物のアクセシビリティは障害者の方もそうでない方も大変重要な要素である。会場は中央合同庁舎第4号館で開催されている。東京メトロの出口からはアクセスが良いが、東京メトロのホームから出口まで障害者の方が介助なしにたどり着くには物理的に難しい構造になっているのは否めない。
会場内にたどり着くと、推進会議会場のスペースはかなり狭かった。他の広い会場を借りることは難しかったと考えられる。車椅子で傍聴される方々が何名かいらっしゃったが、車椅子スペースをとることは難しく、通路での傍聴となった。第1回目の推進会議の会場は縦長でさらに狭かったようで、「できればお互いの顔が見える丸い部屋を用意してほしい」という要望があり、丸い部屋ではないが2回目からは会場が変更になっている。
2.手話通訳者
手話通訳者は1人の委員に対し、3名配備されている。それとは別に会場から見える位置に手話通訳者が交代で通訳を行う。リアルタイムで放送される映像と同じ内容を映し出すモニターも傍聴席に用意されているので、聴覚障害のある傍聴人はそのモニターで会議の内容を手話、字幕で観ることができる。
3.指点字通訳者
委員の中には盲ろうの方がいるので、2名の指点字による通訳者が委員の隣に同席する。
4.要約筆記者
聞こえに障害がある方のためには5名の要約筆記がサポートを行い、スクリーン上に要約筆記が映し出される。
5.ルビ付き資料
意見書は漢字の理解が困難な委員、参加者のためにルビ付きとルビなしが用意される。ルビ振り版の意見書は各委員が用意をするが、技術的なサポートについて必要であれば担当室が情報を提供している。テキスト化できない写真や複雑な表やグラフは、その意味するところを要約した資料要約版を作り、リビを振るように担当室から求められている。
6.点字資料
点字が必要な視覚障害者のためには点字資料が用意される。
7.発言を行う場合の注意点
発言を行う前には、挙手、その他の方法で議長に知らせ、指名を受けた後、名前を名乗る。簡潔に、しかもわかりやすい発言を心がける。名乗らないで発言した場合、特に視覚障害者や聴覚障害者にはだれがしゃべっているのか全くわからない。
8.情報公開
会議の議事録と議事要旨はそれぞれ内閣府と厚生労働省のウェブサイトに随時アップされる。また、会議の資料は事前にPDFで内閣府及び厚生労働省のウェブサイトに掲載される。ルビ付き資料も後日ウェブサイトにアップされる。この会議を熱い想いで注目しているが会議に出ることができない全国の方々も同じ情報を共有することができる。
当協会では、視覚障害者が利用しやすいように設計された統合ソフトウェアALTAIR(アルティア) [注1]の無償提供を行なっているが、そのテキストブラウザ機能を使って、障がい者制度改革推進会議のPDFをいくつか読んでみたところ、HTMLのテーブルや図等も順を追って読み上げられるようになっており、音声ユーザに利用しやすい形に作られていた。
また、会議はリアルタイムでインターネット上で配信されるので、その場で傍聴できなくても、また、遠隔でも観ることができる。動画はウェブサイトからいつでも閲覧することができるので、第何回の誰の発言が聴きたい、というときには大変便利である。
動画には手話通訳とキャプション入りで、聴覚障害の方々への情報保障もされている。
障がい者制度改革推進会議のウェブサイト
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/kaikaku.html#kaigi(内閣府)
9.休憩時間の確保
手話通訳、指点字通訳者、要約筆記者には非常に高い集中力が求められ、心理的、肉体的負担が伴う。そのため、1時間ごとに必ず15分の休憩時間を確保する。障害者の委員の方、そうでない方、また傍聴者にとっても集中力を持続させるためには休憩時間は必須であり、実践されていた。
ありとあらゆる障害者の方々の完全参加という観点から満足のいく会議にするために、その運営に費やされるエネルギーと統率力は想像に難くない。非常に過密なスケジュールの中、担当室のご尽力には頭の下がる思いがした。
今回の障がい者制度改革推進会議はありとあらゆる障害分野から当事者の方々や団体の方々が委員として、また傍聴者として参加されている。この経験に基づき、当協会としてもアクセシブルな会議の手法の普及に努めたい。そのためには実際に手話通訳、要約筆記、点字資料等、ニーズのある方々の実際の評価を検証することは不可欠であると感じた。
参考文献:
1.JIS規格「高齢者・障害者配慮設計指針-アクセシブルミーティング」(JISS0042)
2.「情報通信技術システムのアクセシビリティ 障害者の標準化プロセスへの参加」 ジョン・ギル 英国王立盲人援護協会(RNIB)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/standard.html#meetings
掲載者注:
ALTAIR(アルティア)について
http://www.normanet.ne.jp/~altair/index.html