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資料1

日本における障害者統計等の課題とその改善方法

勝又幸子
国立社会保障・人口問題研究所
情報調査分析部長

権利条約では、第31条「統計及び資料の収集」で締結国に、条約を実効あるものとするために資料を整備することをもとめているが、日本では現状3つの課題があると考える。

1.障害者と障害のない人との比較が可能となるデータがないこと。
2.複合差別の解消に役立てるために、性別調査の徹底が必要なこと
3.事実に基づく政策立案と事後評価のために、国と自治体の様々な統計データの活用が必要だがそのための施策が無いこと。

1.「他との平等」をめざす権利条約が実効性をもっているかどうかを判断するには、障害者と障害のない人との比較が必要だ。これまでの障害者の実態調査は障害者だけを対象にしていて、障害のない人との比較ができない。

欧州共同体では家計パネル調査において障害の有無を特定する設問をいれている。国連では途上国の技術協力において、国勢調査に障害者を特定する設問をいれることを推奨している。日本においても、国勢調査や全人口を対象とした統計調査(全国消費実態調査・国民生活基礎調査・社会生活基本調査、等)で、障害の有無の問をいれるべきである。そうすることで、「他との平等」の実現の状況を監視し、権利条約の実効性を客観的に評価することができる。

2.男女共同参画会議は男女別統計の整備を全省庁にもとめているが、障害者雇用促進法に基づく「障害者雇用状況報告」では男女別の統計をとっていない。権利条約第6条の複合差別の解消のためにも、あらゆる公的統計において男女別統計の整備が必要である。

障害者政策委員会(2015年 6月 5日)で、厚労省障害雇用対策課は「障害者雇用状況報告」の目的は、雇用されている男女の人数等に基づく指導を行うためのものではないから性別は聞いていないとの回答だった。しかし、一般の雇用者の男女差と同様、障害雇用者の男女差も女性の社会進出には重要な解消すべき問題である。権利条約第6条の複合差別の解消のために男女別の統計の整備は不可欠である。

3.事実に基づく政策立案と事後評価のために、国と自治体の業務統計を含む様々なデータの活用が必要である。権利条約第31条の2にあるように、統計を利用しやすくすることと普及することは締結国の義務の履行の評価に役立て、権利行使の障壁に対処するために必要不可欠なことである。

①「生活のしずらさ調査(全国在宅障害児・者実態調査)」を世論調査から、統計法上の二次利用可能な、公的統計調査にもどすべきである。そして、施設や病院も対象として、包括的な調査として質の向上をはかるべき。調査方法については回答者の障害に対応した方法を採用し、記入だけでなく、調査員による聞き取り調査も採用すべき。公的統計調査にもどせば、自治体は統計法に沿った二次利用が可能になり、それぞれの基本計画に活用できる。国の統計調査の二次利用は、自治体の調査費用の削減に繋がるだけでなく、共通調査項目の利用によって自治体間の比較も可能になる。

②新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見(平成 24年 12月 17日)において述べられているように、監視に必要な適切な統計等を整備するために、統計にかかる基本計画を所管する統計委員会や隣接領域の施策を所管する省庁との連携を積極的に行うべきある。

第2期統計基本計画は平成26年から5カ年で実施されているが、そこには経済・社会の環境変化への的確な対応が明記されており、ジェンダー統計の整備も書かれている。次期計画策定においては、障害者に関する統計調査の推進が基本計画に盛り込まれるように、内閣府(障害者政策委員会)は統計委員会に対して意見をだすべきである。

③現状で、さまざまな補助金による調査が国と自治体において行われているが、調査対象者の負担の軽減や、プライバシー保護の観点からも、障害者をめぐる調査について国と自治体の連携を強め、調査票情報をデータベースにして、利活用する途をひらくべきである。

第三十一条 統計及び資料の収集
1 締約国は、この条約を実効的なものとするための政策を立案し、及び実施することを可能とするための適当な情報(統計資料及び研究資料を含む。)を収集することを約束する。この情報を収集し、及び保持する過程においては、次のことを満たさなければならない。
(a)障害者の秘密の保持及びプライバシーの尊重を確保するため、法令に定める保障措置(資料の保護に関する法令を含む。)を遵守すること。
(b)人権及び基本的自由を保護するための国際的に受け入れられた規範並びに統計の収集及び利用に関する倫理上の原則を遵守すること。
2 この条の規定に従って収集された情報は、適宜分類されるものとし、この条約に基づく締約国の義務の履行の評価に役立てるために、並びに障害者がその権利を行使する際に直面する障壁を特定し、及び当該障壁に対処するために利用される。
3 締約国は、これらの統計の普及について責任を負うものとし、これらの統計が障害者及び他の者にとって利用しやすいことを確保する。
(抜粋)外務省ホームページより (下線追加)