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資料3-1

ワーキング・セッションⅠ:成年後見制度も含めた意思決定支援など議論の概要

○基本計画該当項目:「1.生活支援」「8.差別の解消及び権利擁護の推進」

○コーディネーター:田中委員、玉木委員、野澤委員

○参考人:
佐藤彰一(国学院大学)
都築美幸(愛知太陽の家)
細川瑞子(富山育成会)

○出席委員
第1回 5月22日:
 田中委員、玉木委員、野澤委員、石川委員長、石野委員、伊藤委員、大河内委員、加野委員、佐藤委員、松森委員

第2回 6月12日:
 田中委員、玉木委員、野澤委員、伊藤委員、大河内委員、大原委員、大日方委員、加野委員、河井委員、佐藤委員、辻井委員、松森委員、三浦委員、山崎委員

■第1回 (5月 22日)
*分野別施策の番号の記述がないものは、 1-(1)-4、1-(4)-3、8-(2)-2に関しての意見

【参考人意見】

○佐藤参考人
・ 2000年に始まった成年後見制度は、行為無能力者制度の制限的行為能力者への変更、補助制度や任意後見制度の導入、後見人・保佐人・補助人などの職務の実施にあたって利用者本人の意思に配慮すべきとの規定の新設の点など、いくつかの点でノーマライゼーションの方向へ向いたものであるが、制度の基本的な建付けが取消権を中心とした保護主義的な代行型の枠組みであり、利用が圧倒的に後見類型に偏っている。
・ 取消権(行為能力制度)や法定代理権が持っている社会的な排除作用(銀行口座の扱いや欠格条項など)についても改革のための検討が充分に行われているとは言いがたい。
・ 本人に判断能力がないことを制度利用の前提にしつつ、他方で、本人の意思(つまり判断)に配慮することが求められることのわかりにくさが未整理のままであることが大きな原因。
・ どんなに重い認知症の方、どんなに重度の知的障害のある方でも、その人なりの意思や判断があることを基本においた再整理(能力存在推定)が行われなければならない。
・ 身上監護について、民法 858条に「本人の意思の尊重」が規定されているが、どうすれば本人意思を尊重したことになるのか、条文上は空白である。さらに、本人の意向に沿っているかをどうチェックするのか、本人の意向に沿っていない時に、成年後見人などの支援はどのように評価されるのか、現状では何も分からない。
・ 嫌がる本人を閉鎖的な入所施設に入れ、後見人も家族も会いに行かず、預貯金の通帳だけを後見人が管理しているような例があちこちに存在する。
・ 本人の意向に沿った支援ができるようにする検討や工夫が、成年後見人になる人たちの腕の見せどころであり、そのための支援や社会環境整備が必要であるが、充分整備されていない。法人後見の利用や個人後見人を支援するための各種センターの拡充は有効な手段として期待されてよいが、社会的に十分な援助が、そのような組織に与えられているとは言い難い。
・ 成年後見は家庭裁判所の所管である。本来、裁判所の仕事は裁判をすること。裁判が終われば裁判所の仕事は終わるが、成年後見制度にあっては、所管する家庭裁判所が裁判(審判)をした後も、裁判所の仕事として監督業務がずっと続くのが日本のいまの姿である。裁判所では、管理継続案件と呼んでおり、毎年 1万件を超える規模で増えている。平成25年度の統計では、その数が17万6,564件となっている。今後も増え続けると推測され、負荷過剰になりつつある。
・家族後見人や専門職後見人の横領事件の中に、家庭裁判所の監督の瑕疵が指摘される案件が登場しつつあり、国家賠償請求訴訟が提起され、裁判所の過失が認められる案件が数件報告されている。
・家庭裁判所も様々工夫を行っている。後見支援信託は、裁判所が職権で選任した監督人あるいは共同後見人により、被後見人の財産をチェックし、不要不急の財産はすべて信託銀行に預け替えて、以後は家裁の許可がないと引き出せないとする仕組み。従前の後見人が、後見支援信託の利用を拒否することもできるが、その場合は、監督人や共同後見人が継続して監督業務を行う。この運用は財産保全並びに家庭裁判所の監督業務の負担の軽減を目的として 2012年にスタートした運用であり、財産保全の点では効果的な方法である。
・ しかし、被後見人の財産は本人のよりよい生活の実現のために使うことが許されなければならず、そのために成年後見人を選任している。特に障害者の成年後見の場合には、支援期間は長い。財産を保全するだけでは本人のための後見利用にはならない。選任した成年後見人を信用しないのは、選任手続き自体が問われる話である。
・家庭裁判所が本来的に担う業務とは異なるものであるにも関わらず過重な負担を担わされているとすれば、後見監督業務を他が担うことが模索されなければならない。
・ 諸外国では行政機関が担うことが多く、我が国でもそうした方向が検討されるべき。中短期的な施策としては、意思決定支援に習熟した機関が法人後見や成年後見人などの支援を担う方向が現実的である。
・ 成年後見制度を意思決定支援の枠組みへ作り変えていく作業は必須。仮に代行決定の仕組みが残るとしても、支援の枠組みとしては必要悪であり最後の手段として位置づけられるべき。代行決定の利用促進を主張している国は少なくとも条約の批准国には存在しない。
○細川参考人
・ 障害者権利条約が批准され、障害者が一人の人格としてあまねく尊重されるようになることに期待している。しかしながら、本人意思こそが絶対であり、知的障害者の支援もこれからは成年後見制度でなく意思決定支援でとの意見については、知的障害者の障害特性を知らない人の考えである。
・ どんなに障害が重くても意思のない人はいないとの意見もあるようだが、意思決定をする事項の中には簡単な行為から難しい法律行為まであり、内容を理解できない事柄については意思決定できない。形式的な本人意思の尊重だけでなく、実質的な権利を守ることも重要な権利擁護ではないか。
・権利条約の理念は、形式的な本人意思を尊重する余り、実質的に本人への不利益を見逃すことを勧めてはいないはず。
・ 成年後見人は、本人の生活を守り、広げるために代理決定や同意、取消をする。法定代理人である成年後見人は家庭裁判所が決め、監督し、だからこそ法的権限がある。一方の意思決定支援においては、支援者には法的権限がなく、無責任になりがち。
・ 日常生活の範囲、毎日の活動においては意思決定支援は有効であり、体験を増やし、生活を豊かにし、もし間違った決定であっても被害は少ない。
・ 一方で、本人に取り返しのつかない不利益を及ぼす重要法律事項の決定は、本人意思や意思決定支援に委ねず、成年後見制度で守る必要がある。重要法律行為は、中度の知的障害者などが対象である被保佐人が法律行為をする場合に、保佐人の同意を必要とする行為として、民法 13条1項に掲げられている。具体的には、借金、保証、不動産売買、訴訟行為、相続などで、これらの事項については、たとえ支援をしても本人に意思決定させてはならない。ただ、民法13条には、財産管理に関する事項しか掲げられておらず、身上監護における重要事項を明確にすべき。
・ 成年後見制度がスタートして 15年。当初は親族が中心だった成年後見人が、今や福祉専門職など、第三者が 65%を占めるまでになった。
・ 認知症高齢者や知的障害者への法律家の理解も深まり、虐待対応などにも積極的にかかわり、行政とも連携をとって本人の利益を守る方向性ができつつある。成年後見の社会化が進む機動力にもなっている。知的障害者も家族や福祉だけでなく、社会で支えられて生きていく時代へとダイナミックに様変わりしようとしている。
・ 一方で、意思決定支援は、普段の生活を熟知した支援者が一人一人の気持ちに寄り添い、本人の日常生活を豊かにするために、より細やかな支援をすることが期待される。それによって本人の決定能力が向上し、意思表出が可能になれば、本人の意思尊重の理念は関係者の意識を変えていくことも期待できる。それこそ福祉の役割。
・ 知的障害者には成年後見制度も意思決定支援も必要であり、双方の役割分担を考え、重要な事柄の決定についても、成年後見人が1人ではなく、普段の生活をよく知っている意思決定支援者や関係者が同じテーブルについて、本人を中心に協議する場を設定する等、より本人の最善の利益を目指す前向きの制度設計が必要。それこそが権利条約の理念を判断能力に困難を抱える知的障害者へ展開するための合理的配慮だ。

【質疑・議論】

○伊藤委員
・ 成年後見制度や意思決定支援は、医療の場でも適用できるようなものと考えることはできるのか。
→医療同意権が成年後見人にはないというシステムになっている。(佐藤参考人)
→医療の同意は、本人の意思が明確でない限りできないと言われている。本人の意思が明確でないからといって、医療から疎外されるということはあってはならない。身上配慮義務の中に当然医療は含まれると思っている。(細川参考人)

○野澤委員
・ 判断能力にハンディのある知的障害者に対する意思決定支援の議論は、どうすれば本人の意思や判断を尊重したことになるのか、本人の意向に沿った支援ができるのかに尽きる。それを定型的な方程式、方法論というところできちんと文言化できるのか。
→本人の意向に沿った支援はどうやったらできるのかについては、文章化は難しい。生活の場、人生設計の場、命にかかわる場という3層構造でガイドラインのようなものはできるだろう。関係者の間で意思決定支援のやり方について紛議が生じたときに、調整あるいは判断をするといった役割を担う機関があれば足りる。そういう形のプロセス的な判断枠組みができるべき。(佐藤参考人)
・ 後見類型がいけないとして、補助や保佐でやっていけばある程度はクリアできるのか。
→取消権と代理権をどのように理解するかということ。今の国連のモニタリング委員会の一般意見に従うと、保佐でも補助でもいけない。それに各国が従えるかはかなり微妙なところ。仮に補助を使うにしても、相当改めないといけないだろう。(佐藤参考人)
・ 法改正は時間がかかるとすれば、現行制度の運用で改善できるのか。どうすれば可能か。
→現場ではやっている人がたくさんいるが、本来の業務でないからほとんど評価されない。このような現在の評価システムあるいは行政の対応を改めないと、なかなかうまくいかないだろう。(佐藤参考人)
→いわゆる本来の意思決定支援をやっている人たちを支援するような仕組みづくりをしていかなければならない。そのための方法としては、法人後見を活用しながら、意思決定支援の本来の姿にかなり習熟している人たちが集まった機関が担えば、何とかそこが支援をしていけるのではないか。(佐藤参考人)

【参考人意見】

○都築参考人(1-(1)-1、1-(1)-2)
・ (「1カ月でどのくらいの給料をもらえているのか」との問いに対して)それはちょっと言えない。
・ (「大体生活はできているのか」との問いに対して)できているところはできているが、厳しいときもある。お金が自由に使えないところだ。
・ (「1カ月のお金のやりとりは、いつもどのようにやっているか」という問に対して)今週はこのぐらいだよとか、使い過ぎている週があるので次は節約しようなどという感じで(相談しながら)やっている。
・ (「これまでで苦しかった、お金が欲しかったという時期はあったか」との問いに対して)スマートフォンを買いたいと相談をしたら、だめだと言われたから少し残念だった。車の免許が取りたいが、お金がなくて取れないこと。
・ (「相談員はどうか」との問いに対して)それは言えない。いいことは、仕事で失敗したときや友達には話せないことを話せるところ。悪いところは、甘えたいときに甘えられないこと。好きな人がいるよとか、今日職員とかに注意されたのだが、こういうことはどういう意味か、言葉の意味がわからないので、聞くことができる。友達に話したら、友達も自分のことで精いっぱいなので、やはり話せない部分もあるもので、相談員に話したりする。お金は自分で持っていると好きなだけ使ってなくなってしまうので、支援員に預けて、持っても らっていたほうがいいと思う。

○石野委員
・統一選挙があり、行かれたと思うが、今まで投票の中で嫌な思いをされた経験があれば教えてください。(9-(2)-2)
→嫌なことというか、紙を裏表間違えて書いたことが失敗した。(都築参考人)
・弁護士に相談に行く中で嫌な経験をしたか教えてください。(1-(1)-8)
→(弁護士に何か相談をしたということは)ないです。(都築参考人)

○佐藤委員
・寮は、ヘルパーなど身の回りのことを世話してくれる人はいるのか。洗濯などはどうされているのか(1-(1)-1、1-(1)-2)
→ちょっとだらしないところもあるのでときにはさぼったりもするが、なるべく毎日回そうとしている。(食事は)食堂で食べている。こんな言い方をしてはいけないが、(以前は)ヘルパーが来ていたが気が合わなくてやめてしまった(都築参考人)

○玉木委員
・例えばほかの人にかえてほしいなどとは言わなかったのか。( 1-(1)-1、1-(1)-2)
→言わなかった。本当はヘルパーが欲しかったが、その人と合わなくて、もう無理だと思ったからやめた。(都築参考人)

・スマートフォンは何でだめだったのか。
→何か危ないネットなどに引っかかるみたいなので、それでだまされてお金を請求されたりするのではないかという心配があるから持たせないと言われた。納得はしていないが、仕方がないなと。(都築参考人)

○松森委員
・生活の中で、男性がたくさんいて嫌だと思ったことなどはあるか。 (1-(1)-1、1-(1)-2)
→お風呂とトイレは別々なので、男性のトイレもあって女性のトイレもあるので、分かれているので嫌だなと思うことはない。(都築参考人)

○伊藤委員
・ヘルパーがいなくても、今、暮らしに不便していないか。(1-(1)-1、1-(1)-2)
→部屋の片づけがうまくできないときなど、手伝ってほしいと思うときはあるが、今はヘルパーを頼んでいないので自分でやっている。(都築参考人)
・仕事以外に、自分の寮で生活していて一番楽しいことはどんなことか。
→寝ること。フットサルのクラブに入っているので、それもやっている。

【質疑・議論】

○野澤委員
・ 就労も日中支援もサービスの量も種類もとても増えてきたが、どれもこれも全国どこへ行っても似ており、本当にそれでいいのかと思う。このあたりが判断能力にハンデがあると言われる知的な障害のある方と、それ以外の自分で判断ができる方たちとの本質的な違いかもしれない。(1-(1)-1、1-(1)-2)
・既存のいろいろなサービスの類型があって、非常にたくさん出てきてよくなっているが、その中から選ぶことしかできない。本人がやりたいことを、制度やルールをはみ出してももっとオーダーメイトでクリエイティブにつくっていくような生活支援が、この国で知的障害を持った方たちにもあっていいのではないか。
・ 誰がどうやって、既存のサービス類型でないものまでも、本人のニーズに沿ったものをつくり上げていくのか、もう少し踏み込んだものをこれから考えていかなければいけない。
→何か決定をすると失敗をすることがあるが、失敗を日本は極度に嫌うので、日本は全国一様に失敗が起きないようなシステムをつくってしまう。失敗した人はもう支援をしない。何か間違った決定をしたら、それはもう自己責任だから放っておけという感じでやるが、この意思決定支援で一番大切なことは、間違った決定をした場合でも支援は続けるという感覚。そうでないと、意思決定支援の議論はできない。そうしないと選択の幅が広がらないし、経験も積めない。経験が積めないところで決定も選択もできない、こういうことの繰り返しになるので、決定概念をきちんと整理し、失敗しても支援を続けるという考えで制度設計をすることが必要。(佐藤参考人)
→失敗が許されない領域もある。それはまさに命にかかわる医療の世界の最終的な問題。どの領域の話をするのかによって定義が違う。今、我々が基本に置かなければならないのは自己決定の支援が中心であるということは、まず間違いがないのだろう。(佐藤参考人)

○田中委員
・どんな環境で暮らしているのかという前提に意思決定の仕組みを当てはめたときに、どんな個人個人の答えが出てくるのか。権利条約を前提にして、特に新しい言葉としての意思決定支援に関しては、まず仕組みをつくって個別の事情を取り込んでいくという仕組みが、これから必要になってくると思う。(1-(1)-1、1-(1)-2、1-(4)-3)

○伊藤委員
・生活のスタイル全般、社会全般が大きく変わってきて、様々な機器があり、医療も非常に発展して複雑に、ある意味過激にもなっている。知的障害だけでなく、病気や様々なハンデを持っている人たちの生活環境も変わっている中で、考えなければいけない問題。(1-(1)-7)

○加野委員
・(弁護士は)裁判所から選任をされて、全く今までかかわりのなかった人の後見に突然つくので、意思決定支援というところまではとても及ばない
・弁護士や司法書士などの専門職の後見人は財産管理の面だけに目が向きがちなので、本人の身上監護などにも配慮するときに、(本人の意思尊重というところで)福祉の専門の方などと相談、連携ができるような体制を整備する、意思決定支援という考え方自体をより普及、広めていくことが大事。(1-(4)3)

○玉木委員
・ 成年後見制度も相談支援も、本来は本人の権利を守るためにできた制度であるはずが、支援者や家族のためのリスクマネジメント(になっている)。財産管理と身上監護という言葉が業務の中にあるのだと言われながら、結果的には使えない財産管理というのが主流ではないか。
・一足飛びに変えることではないが、移行期にあって、司法だけでなく行政、支援者、家族会の方々も含めて、どうやって本人のことを確認できるかということを探るツール―例えば相談支援のサービス等利用計画、権利擁護の観点でも、成年後見制度の援助計画、成年後見制度―を活用して、この方の生活をこう応援していくという具体的な形が明確にされないといけない。
・後見人、保佐人がついているからいいではないか、最終的には保佐人、後見人に決めてもらおうといった、丸投げ的な支援が本当に支援なのかということを、きっちりと整理していかなければいけない。

○細川参考人
・ オレオレ詐欺、 JR東海が家族に損害賠償を求めた裁判など、いろいろなことが現実に起きてきている。これからは、そういうところに目を向けていかないと、障害者の自己決定だけでは済まないのではないか。自己決定、意思決定は非常に重要だが、一方では社会としての大きな問題の中に障害者の権利の問題も含まれているという視点も持っていただければありがたい。

■第2回 (6月 12日)

【質疑・議論】

○加野委員
・ 意思決定支援のあり方と成年後見制度についての推進状況について、何も触れられていないのは検討がされていないのか、まだ途中なのか、また、これから検討するなら、例えばどの審議会で、どういう時期に検討する計画があるのか、お示しいただきたい。(1-(7)-1)
→社会保障新議会の障害者部会において、障害者総合支援法の3年後見直しに関する検討をスタートしたところである。4月下旬に論点整理のペーパーが出され、その後、関係団体の方々からヒアリングを行っているところ。(厚生労働省)

○辻井委員
・ 成年後見の利用者数を考えても、解任などの件数の増加はかなり著しい。これが何を意味すると理解しているか。
→後見人が、本人の財産を不正に使うといった事案が社会的に問題になってきたこともあり、裁判所でも後見に関する取組として監督を強化していることが背景にあると思う。(法務省)

○佐藤委員
・ 条約の一般的意見1で、代理決定はいけないと言っていると思う。日本の後見人制度でいうと後見と保佐は代理決定になっているため、(条約に)抵触していると思っていたが、もう少しわかりやすく説明いただきたい。
→条約の文言を見る限り代理権の付与自体がこの条約に反するとは解釈できないということが前提としてある。現実問題としても例えば我が国の成年後見制度のうち一番判断能力が少ない「後見」については、事理を弁識する能力、つまり判断能力を欠いているのが通常の状況にあることが要件になっている。 その方に意思決定をさせることになるとかえって本人の利益が害されるおそれもある。その場合は、代理人が適切に判断することが大事だと思う。ただ、今の後見制度で一番重い後見類型についても「本人の意思を尊重しなければならない」という規定がある。後見人が代理行為をするにあたっては、本人の意思を尊重し、かつ心身の状態や生活の状況に配慮しなければならないという注意義務が課されている。当然、本人と相談しながら最終的にはどういう契約をするか決めていくというのが民法上も予定されているのではないか。(法務省)

○河井委員
・ 長期にわたる鑑定が必要なのはどういう理由か。また、鑑定費用が 20万円を超える理由は。
→理由は法務省では把握していない。鑑定が必要になるものは、非常に微妙な事案や判断が難しい、要するに、診断書だけでは判断が難しいなど特殊な事情がある場合に通常は行われている。(法務省)

○三浦委員
・具体的にはどのような方法で後見人の監督を強化されているのか。
→基本的には、定期的に後見人に財産状況などを報告させ、裁判所がそれを精査し、問題があると思われるものについては後見人にきてもらって事情を聞いたり、客観的な資料を追加で求めたりしながら、問題がある事案についてはより重点的に監督をしている。(法務省)

○玉木委員
・ 後見人を代えて欲しいという申し入れがあった事案や、裁判所がこの後見人は不適切だという評価をして解任していくといった事案は大体何件くらいあるか、解任した理由なども明確に挙げてもらわないと、解任事件のうち終局した数だけでどうだという話にはならない。
・そもそも今の裁判所の中できちんと障害のある人の状態を判断できるのか。できないとしたら診断書や鑑定書に頼ってしまって、鑑定書で後見人がついてしまったら、そのまま後見類型で辛抱させていると危惧しているが、どうお考えか。
→最高裁判所の統計結果を通じてしか実態を把握できない面があり、どういう理由で解任されているかについては統計資料が全くないので法務省としてはお答えできない。(法務省)
・ どういう理由で解任が起きたのか、どういう問題があがってきているのかなど、運用上の課題や問題点などが整理できていない中で、権利条約に批准しているという評価を出すには早過ぎるのではないか。仕組みを動かすのも人なので、むしろ法の仕組みよりは、その人がきちんと障害のある人に対する理解を持っていかないと、結局、書面上の審査であったり、声の強い人の意見だけが反映してしまう怖さを十分に秘めていることを、理解していただきたい。
→成年後見事件について実務上、どういう点が問題なのかは、法務省と最高裁でも意見交換はしている。統計の具体的な内容については、これ以上詳しくということは難しい点もあるが、問題状況などについては、最高裁と連携しながら、こちらとしても把握していきたいと考えている。(法務省)
・ 地域生活支援事業の中の必須事業となっている成年後見制度利用が 100%になっていないということは、今もなお権利保障の対象になっていない状況もあると思う。その辺りの啓発などを進めようとしているか。
→各市町村ごとに事情があり、優先順位もいろいろあるとは思うが、全国の担当者の会議など様々な機会をとらえて、この仕組みを支援することの大切さを伝えていきたいと思っている。(厚生労働省)

○野澤委員
・ 法人成年後見事業を社会福祉協議会が受託している件数、社会福祉協議会以外に受託しているところなどはあるか。
→法人後見支援事業に関しては市町村が研修事業を行っており、運営費を補助しているものではないので、どの自治体が実際に行っているか分からない。(厚生労働省)
・ 解任の状況が知りたいが、統計等は?
→裁判所が監督を強化している理由については親族の流用事案が多い。後見人の選任についても相当額の財産がある方については専門職の方を後見人としてつけるという運用も聞いている。(法務省)
・ 26年度だけで 692件、1日2件くらいずつ解任されている。クローズアップして分析してもいいのではという気がする。

○河井委員
・ 申立ての動機について。身上監護が3番目の理由にあげられていて、決して小さくない数字。肢体不自由や高齢等と重なって身上監護の問題が出てくる。この辺りの判断をどうするのか、法務省として制度の中でどういうふうに位置づけるのかというのがあれば伺いたい。
→成年後見人というのは基本的には契約などの法律行為をするのに判断能力が不足している方を保護するための制度。身上監護でも、例えば身の回りをするなどは後見人の権限には含まれておらず、介護制度など他の制度で対処していただくという整理だと思う。ただ、身上監護についても、例えば介護契約を結ぶなど身上監護に関わる契約締結ならば後見人の権限に含まれる。民法上も、注意規定があって、成年被後見人が本人の生活などを支援するときには本人の意思を尊重したり、身体と心の状態を配慮しなければいけないという規定はあるので、その限度で身上監護に対しても成年後見人は適切に対応しなければならないとなっているものと考える。

○伊藤委員
・ 神経系疾患等の治療開発が進み、相当重症な方々でも入院なり家庭なり施設なりで生活を行うことが可能になっている。その中で意思決定の前に、まずコミュニケーション、意思疎通をどうするかが重要な要素になっているが、なかなかうまく進まない。たくさん開発されている機器を本人に合わせた状態でうまく使えていない。これについて、マンパワーの問題だと思うが、どうそういった人材を育てるかもここに含んだ方がいいと思う。(6-(3)-2)

○玉木委員
・継続して話し合いを持っていく仕組みが大事。成年後見制度においても意思を尊重しながら決めていくと言っているが、相談支援の現場ですらこういうやりとりがなかなかできていない中で、果たして本当に弁護士や司法書士といった法律の専門職の方が、ここまでのやりとりを懇切丁寧にやっているのか。現場の相談支援専門員も、ここまできちんと丁寧にやりきっているのかも、少し考えていきたい。

○田中委員
・ 調整をどうしていくのかが、非常に大事だと思っている。法務省の方からの裁判所との関係性を聞くと意見交換という関係性はなかなか難しいのではないか。うまくかみ合う状況を作るのが難しいのではと感じた。
・現状をどうにか変えていかなければならない。省庁の方に来ていただいて、できていないところだけを皆で確認して、できていないと言っても前に進まない。
・ 障害者自立支援法の当時、契約が本格的になるということで、成年後見についてはサービス利用の一環として使うのだと、特に代行制を用意しないと、本人の意見だけでは契約の際の書類のサイン自体も怪しいということで始まった。そのこと自身がいつのまにかおざなりになっていて、新しく「意思決定支援」という言葉に、皆が新たな展開を切り開いてくれるように期待している面もあるが、根の部分は、そこをきちんと見ていかないと変わらないのではないか。
・ 成年後見制度でなければダメ、意思決定支援が持ち込まれないとダメだとかではなくて、迷いながら日常を生きている状況に一番、寄り添えるのは相談支援の方かと思う。

○辻井委員
・ 発達障害関連は後見制度にあまりうまくのらない。どこまでをきちんと守ってあげるか、ただしそれは本人の希望と異なる形で制限することになるのかもしれないところで、いつも後見制度の話(となる?)。相談支援の中で何とかするべきなことなのか、一定の守りが必要なときにはかけられる仕組みを想定しているのか。(1-(1)-5)
→(相談支援で対応できるかと言うと、)現実的に無理である。気付くことがあったとしても、気付いた後にどういう仕組みを使って行うかということと、法務省の方が、そういうものを活用してと、簡単に言われるかもしれないが、事実確認ですらできない状況の中で相談に持ち込まれてきても、どこで、どうつながって何を活用して、その問題を解決するには、なかなか厳しいのではと思う。(玉木委員)

○野澤委員
・ 法務省は、非常に苦しい立場だと思う。当然抵触しないと判断したから批准したわけだとおもうが、特に後見の代行決定は、制度面なのか運用の問題なのかは別にして本人の意思に本当に沿っているのか、多くの方が疑問を持っているのは間違いない。「解任」が年間700件近くある。
・ 家庭裁判所に機能を求めること自体が無理だという意見があった。ではどうするかであるが、一つは成年後見自体を法改正して大きく変えていくか。今すぐには難しそうだとなると、成年後見を限定的なものとして、今直面している問題意識に沿ったような運用ができる仕組みを新しく作るかどうか。理想的なものを議論するだけでなく、実際に法務省・厚生労働省をはじめ、行政の中でどのような形で制度化していけるのか、制度改正できるかも踏まえた現実的な議論が必要。

○大原委員
・ 市町村の職員や相談員、場合によっては親も、この制度がどういうものでどう運用できるのか具体的にイメージできていない。財源の問題もあるだろうが、市町村で創意工夫をして推進に努めているなど、運用に関してそれぞれ工夫しているところをもっと平易に伝えていくような展開が必要なのではないかと現場で感じる。

○山崎委員
・ 本人のお金は本人が使っていいと思っているが、暮らすための生活だというのをクローズアップしないとどうにもこうにもならなくなるという気が現場ではしている。こちらが使っているのは社会福祉士の保佐人だが、生活支援している我々と保佐人とでかなりコミュニケーションを細かくして「このお金はこうだ」と連携をとらないと難しい。グループで支援するのがいいかと思っている。
・ だまされるのは日常茶飯事で、そこがグレーゾーン。だまされる前に私たちが手を出すべきなのか。そこが非常に毎日苦しい思いをしている。

○田中委員
・後見の動きに関して数字でざっくりと丸まった状況でしか把握できてない。裁判所がどう把握しているかは法務省では三権分立なので難しいと。どこかで誰かが調整しないと、このまま交わることがないまま、後見人の問題が法務省は気にしても裁判所は気にしないということになるのか、そこにどう依頼をしたら届くようになるのかも、模索しなければいけない状況もある。
・ 知的障害の分野での調査によると、ほとんどの場合に財産を保全する。守るものがある人が、これを使っている。高齢と障害とで分けるのではなく、お金がある人とない人の関わり方が違うことにもう少し着目したほうがいいのではないかと思う。
・ 相談員がサービス等利用計画を立てていくときに、ないサービスを思いつけない現状をどうしたらいいのか。そこには、意思決定支援という新しい切り口が役に立つのではないかと思う。
・ お金の取り扱いに関しての成年後見がかなり全体を占めていて、お金を守ることが優先されているのが前回の佐藤さんの提案の中でも、位置づけとして課題だとなっていた。改めて厚生労働省として契約行為に関しての成年後見をもうあきらめたのか、もう少し前向きに取り組む工夫をしようとしているのか。そこにサービス等利用計画のような仕組みを考えているのかについて、検討していただきたい。
→難しい問題があると改めて認識した。相談支援という方向でこの4月に完全に施行したのだが、まさにスタートしたばかり。まずは量的な充足も必要なのだろうと思いつつ、これからは契約や法律的な行為についても、どういうバックアップができるかも課題になっていくと思っている。(厚生労働省)

○三浦委員
・ 解任された事例は、経済的な虐待の事例になるのではないかと思う。公的機関で数を把握されていて、虐待の市町村の通報義務にのっているか疑問に思い、通報の仕組みがあるかお尋ねしたい。
→専門職が仮にそういうことをしたら、資格剥奪もある。後見人が財産上の損害を本人に負わせた場合、民法上は損害賠償を、損害を与えた部分に関して自分の財産から補填する義務を負うことになる。不正をした後見人を解任して、それに代わる新たな後見人を選任し、その新たな後見人が前の後見人に対して損害賠償を請求していくことになる。(法務省)
・意思決定支援を考えるとき、非常に細やかな支援はきわめて重要だと思う。本人から見ると、体験もしていなくて意思を決めなさいと言われても特に地域移行などの場合、非常に不安。サービスの仕組みの中に、体験してみたら戻れる場所があって、地域生活の体験ができるというように担保されていないと感じる。

○野澤委員
・ 法務省の中で成年後見制度そのものを、少し改正しなければいけないという議論はどれぐらいあるのか。
→運用による改善で工夫ができる点については運用で改善していくと、事案に応じた適切な処理ができる面で優れている。まずは運用による改善ができないかどうか。それができないことになると法改正を検討することになる(法務省)
・ 家裁の機能を強化しよう、あるいは人員や配置を厚くしようといった議論は法務省内でどの程度あるのか。
→最高裁判所を含め、運用の改善を工夫していると聞いている。これは議員立法の話だが、成年後見制度の利用促進のための何か政策がとれないか、現実に困っていることについて見直しができないかを、国会議員の中で検討している動きがあると聞いている。(法務省)

○加野委員
・ 成年後見制度について運用の改善という話も聞いたが、重要なところは、本人の意思尊重が実際にされているか。例えば東京家裁などは今年から、弁護士後見の場合でも、一定の額以上の財産がある方には後見監督人を重ねて選任するという運用になっている。監督人にはどういう人がつくかというと、結局弁護士。複眼的な視点で見るということが難しく、横領されてないかという点だけをチェックする形になってしまう。後見人の多くが財産の保全がメインになっている中で、財産の保全がきちんとできるかという方向だけで運用の改善がされているのではないか。1人は弁護士後見でも、もう1人は福祉関係の人ということもできると思うが、現実にはそういった運用になっていない。改善としては、まだまだいろいろできる余地があると思っている。

○野澤委員
・ 家裁が全部チェックするのは、現実的ではない。もっと福祉サイドの仕組みが必要になると思う。
・厚生労働省の成年後見制度の後見支援事業で市民後見人も含めた法人後見のあり方が模索されている。これは従来の考えよりももう1つ先をいっている。前裁きとして福祉でやっていくことがもっと考えられていいと思う。事例をもっと研究する余地があると思う。現場での意思決定をもっと厚くして、下から積み上げたところで最後に家庭裁判所の機能や役割がどういうものがふさわしいかなど、そういう考え方もありうるのではないか。
→意見を踏まえながら私どもも検討していきたい(厚生労働省)

○伊藤委員
・ 医療の現場で後見人の立場というのはどうなるのか?
→権限としては契約などの法律行為をする、本人の財産を管理するということ。病院との間で診療契約を結ぶことは権限に入るが、医療同意などは、契約とはまた別の話。この問題についてはそもそもこの成年後見制度に限らない問題ではないか。すなわち乳幼児や意識不明になられた方など、意思を発言できないような方の治療をどうやって行うかの問題ではないかと。そうした場合、本人にかわる誰かの同意が必要かどうか、医療規制としてどういった規制をかけるのかという問題。そうした問題を、成年後見制度の中だけで議論するのは難しいというのがかねてからの法務省の立場。(法務省)

○松森委員
・虐待防止法の最新報告では虐待被害者の 69.2%が女性であるという報告が出されている。女性の被害者が多いことが、単純統計としてある。ジェンダーの視点からの分析がされていない。分析し、女性に重点を置いた施策が必要であり、法令にも女性の障害者に関する記述の改正が必要になると思う。
・障害者虐待防止法には虐待や暴力を禁止して防止しなければならないと書かれている。ここには福祉施設従事者、使用者や雇用主、養護者による虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は市町村に通報しなければならないという通報義務がある。障害がある女性の複合差別実態調査でも医療機関や学校での虐待や暴力が報告されている。しかし学校や病院は通報義務の対象とされていない。こうした課題を踏まえて、障害者権利条約第16条に対応できるように、女性に重点を置いた施策立案、障害のある女性への法令の改正が必要だと思う。(1-(1)-8)

○大河内委員
・ わずかな感覚機能を使って意思疎通、意思決定のプロセスにある作業をしている人たちにとっては、細かなマーケットになかなか乗らないような機器支援が得られにくい。声を上げにくい重度の障害を持つ人たちの操作性が見過ごされてきているところがある。(8-(2)-2)