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資料1

2015年8月31日
障害者政策委員会ヒアリング資料

欧州諸国との比較からみる我が国の精神科強制入院制度の課題

(公財)東京都医学総合研究所 西田 淳志

1.医療保護入院、代弁者制度について

■ 欧州諸国における精神科入院全体に占める強制入院割合 

(低):Portugal(3.2%)、Denmark(4.6%)、Belgium(5.8%)

(中):Ireland(10.9%)、Italy(12.1%)、France(12.5%)、Netherland(13.2%)、UK(13.5%)、

(高):German(17.7%)、Austria(18%)、Finland(21.6%)、Sweden(30%)

『厚生労働科学研究 精神障害者への対応への国際比較に関する研究(主任研究者:中根允文)(2011)』

■ 我が国の現状(平成 24 年時点)

強制入院(医療保護入院を含む)割合:40%以上

強制入院発生頻度(届出数):160人以上(対人口10万)
⇒ 自由権規約、および拷問等禁止条約に関する日本政府報告への総括所見:
  強制入院要件の厳格性欠如、入院を回避する代替手段の欠如、
  強制入院の最終手段性、等々の問題について繰り返し批判されている

■ 強制入院割合と関連する制度要因 2

強制入院手続きに医療から独立した代理人(アドボケイトカウンセラー、ソーシャルワーカー、弁護士等)の関与が義務付けられている EU 諸国では、そうでない国々に比べ強制入院の割合が有意に低い.

例)Portugal(3.2%)、Denmark(4.6%)、Belgium(5.8%)、Ireland(10.9%)、Netherland(13.2%)、Austria(18%)

2『精神障害者の強制入院ならびに非自発的医療:EU 加盟国の法制度と実践に関する最終報告書(2002)』

◇代弁者が実質的なアドボカシーを担える仕組みの要件◇

1.強制入院手続きに関与が義務付けられている各国のアドボケイトカウンセラーやソーシャルワーカーは、医療から独立している(大前提).

2.法律機関等に所属を置き、医療(または家族)からの独立性を担保したアドボケーター制度

2.認知症の精神科入院について

■ 各国の認知症政策の方向性

「認知症の人の思いを尊重し、住み慣れた地域での生活の継続を目指す。」

認知症国家戦略を打ち出している先進諸国において認知症の人の精神科強制入院は極めて限定的 3

例)France:行動心理症状による認知症の人の入院は老年科病棟で短期間。精神科病床の入院は年間全国で 1000 人未満(平均在院日数約 2 か月)

例)Netherland:重篤な心理行動症状により他害要件を満たす場合(自傷要件のみの場合は対象外)のみ精神科病院に入院(裁判所、または市長同意による強制入院のみで任意入院は基本的にない).

例)Denmark、Sweden:認知症の人を精神科病院に収容していた時代は過去

3『平成24年度厚生労働省老人保健健康推進事業 認知症国家戦略の国際動向とそれに基づくサービスモデルの国際比較研究(研究統括:西田淳志)』

■ 各国の認知症国家戦略の重点政策

行動心理症状への在宅対応、モバイル・チームによる支援体制の普及・拡充(認知 症国家戦略を打ち出している欧州 8 カ国) 4 (目的):入院・入所によるリロケーションダメージを回避し、住み慣れた地域で の生活継続を可能とするサービスモデルの普及・拡充

4 『欧州認知症協同プロジェクト(ALCOVE)報告書 2013』

■ 我が国の現状と認知症政策の問題点

認知症の人の精神科入院(医療保護)の急増

長い平均在院日数

<参考> 944日(厚生労働省 平成22年9月調査)
     722日(認知症治療病棟)(神戸学院大、前田潔教、精神誌 2013年)

新オレンジプランにおける「循環型の仕組み」の推奨、国際的方向性に逆行

認知症の基本特性(リロケーションダメージ)を踏まえない不適切サービスモデル

■ 認知症と強制入院(医療保護入院)

 認知症の人が主として行動心理症状を理由に強制入院となっている。介護で疲れ果てた家族の意向(同意)と精神科医(指定医)の判断で医療保護入院となる事例が少なくない。医療保護入院手続きにおいて、認知症の人の権利擁護が実質的に担保される仕組みになっていない。

◇認知症政策の適切な方向性なくして精神医療改革なし◇

1.病床削減と余剰スタッフの地域チームへの移行政策を同時に推進する(参考:近年のベルギーの精神医療改革)。

2.空床化した精神科病床を認知症の人の入院によって埋めることを容認する政策(ビジネスモデルの容認、および極めて不十分な権利擁護体制の容認)を継続する限り、精神医療改革、すなわち「精神科医療の地域移行」は困難となる。

3.認知症の国際政策動向(当事者の思いを尊重し住み慣れた地域での生活継続)および障害者権利条約の趣旨と反する政策(「循環型モデル」)を推進している。認知症や精神障害の当事者の視点に立った正しい政策の方向性とそれを真に実現するための正しい政策選択とそれを確保するプロセスが不可欠。

<参考>

伊勢田堯「フィンランドとベルギーの精神医療改革」より引用

『こころの科学』No180・3-2015, pp63-69

ベルギーの精神医療改革

a.病床転換型地域移行政策の失敗

 ベルギーは日本に次ぐ世界第2位の精神病床数を持ち、民間精神科病院の影響が強かった点で、日本に類似した状況にあった。脱施設化を目指して1990年に精神医療改革を開始、精神病床を保護住居とナーシングホームに転換して地域移行を目指す「病床転換政策」をとったが、病院中心体制を崩すことができず、失敗に終わった。

b.プシ107条プログラム

 2010年から、新たな政策として病床の地域訪問治療チームへの転換を進めた。①精神科病院の収入を補償しながら、病床をモバイル・チームに転換していく。②モバイル・チームは、家庭治療危機解決チーム(急性治療チーム)と積極的地域治療チーム(慢性期治療チーム)から構成される。国が人口に応じて地域別のモバイル・チームの必要数を数値目標として設定、病院は病床の削減し、所定数のモバイル・チームの立ち上げを義務付けられる。③病院は、病床削減をしても職員数は維持し、より集中的なケアを行う病床を確保することが許される。

c.プシ107条プログラムの成果

 2005年までは、人口1万人に対する精神科病床数は25~26床でほとんど変化がなかった。しかし、2011年には約17床と大幅に減少した。

病床削減率;1997年~2005年 3%
      2005年~2011年 約30%

◇ベルギーの経験から学ぶべきこと◇

①地域訪問治療に予算と人材を投入し、病床削減により余剰となる人材を地域訪問チームと院内での手厚いケアに振り当てる。

②強制力と抗精神病薬に依存した治療体制から、人手をかけた人間的な対応を基本とした治療体制に転換する。

③入院を回避するための地域のニーズに応じた柔軟で機動的な治療チームを育成する。