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資料1-1

基本方針に関する委員意見一覧 その1

目次

1.行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項(2・3号関係)

1-1 不当な差別的取扱いの基本的な考え方として、どのような場合を差別的取扱いと考えるのか。

1-2 不当な差別的取扱いの基本的な考え方として、正当な理由がある場合は、差別とはならないとされているが、どのような場合に正当な理由があると考えるのか。

1-3 合理的配慮の基本的な考え方として、どのような場合に、どのような配慮が求められると考えられるか。

1-4 合理的配慮については、その実施につき「過重な負担」が生じる場合には、合理的配慮をしなくても良いということになるが、どのような場合に「過重な負担」と考えるのか。その判断要素をどう考えるか。

1-5 各行政機関等及び事業者において、障害を理由とする差別を解消するための取組として望まれる取組(職員・従業員の研修、相談・紛争処理体制の在り方など)はどのようなものがあるか。

1.行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項(2・3号関係)

1-1 不当な差別的取扱いの基本的な考え方として、どのような場合を差別的取扱いと考えるのか。

阿部一彦委員

 部会意見で示されている「障害者に対して障害のない者と異なる取扱いをすることは、障害者に対する不利益な取扱いにつながり、障害及び障害者についての無理解や偏見を固定化させることとなりかねないため、基本的にはこれらの異なる取扱いは広く本法の対象とすることが妥当である。」という案を支持する。
 そして、今回は取り上げられていないが、「間接差別」「関連差別」についても今後生ずる事例をもとに検討を重ねて、必要が生じた場合には柔軟で、円滑な対応を図るべきと考える。このとき、海外の事例などについても情報を収集して取り組む必要がある。

石川准委員

 直接差別、間接差別、関連差別などの概念は行為者による当該行為の正当化や目的等に注目した分類であり、それらの排除的、拒絶的機能にはなんの違いもない。
 政府も同じ考え方に立っていると考えられる。

 たとえば、政府の本法の解説では

 「直接差別」に関しては、基本的には「不当な差別的取扱い」に含まれる。その上で、「間接差別」「関連差別」については、具体的にどのような事例が該当するのか必ずしも定かではなく、現時点で一律に判断することは困難であるため、具体的な相談事例や裁判例の集積等を踏まえた上で対応することとしている。

としている。

 つまり、ある行為が間接差別、関連差別に当たるかどうかの判断は、ある行為が直接差別に当たるかどうかの判断より難しいが、間接差別、関連差別と判断できるときには、直接差別同様不当な差別的取扱いとなると考えていると解釈できる。
 したがって、内閣が策定する基本方針においては、差別的取り扱いは、あからさまな直接差別に限定されるわけでなく、障害者を排除する機能において直接差別と実質的に変わらない機能を果たす間接差別や関連差別も差別的取扱いとなりうることを明示する必要がある。
 そのうえで、内閣はヒヤリングを通して典型的な間接差別や関連差別の事例を収集し、それらを基本方針でも例示しつつ、間接差別、関連差別に当たる行為もまた差別的取り扱いとなること、少なくとも事例で示すような行為や言動は間接差別、関連差別に他ならないことを対応要領、対応指針に明記することを基本方針とすべきと考える。

石野富志三郎委員

 障害によって生じる健常者との違いを理由とし、その補完とする手段を講じずに行われた全ての取扱い(区別や排除、制限等)は「差別的取扱い」であると考えます。
 なお、この対象は障害者にとどまらず、障害児およびその保護者も対象とすべきだと考えます。

上野秀樹委員

 精神科医療において、精神保健福祉法という特別法によって医療が提供されていること自体が差別的取り扱いにあたる可能性があると考えている。

 日本の精神科医療では、精神科病床数がきわめて多く、入院期間も長期にわたり、さらに、本人の意思によらない非自発的入院(措置入院、医療保護入院)の比率が40%以上と10%前後の先進諸国に比較して非常に高い、などの特徴がある。入院患者の在院期間別分布をみると、非自発的入院の医療保護入院患者よりも、本人の自発的意思に基づくはずの任意入院患者で長期在院患者の割合が高率である。
 任意入院患者179,290人(平成21年度)の41.2%にあたる73,911人が5年以上の入院期間となっており、そのうちの24,451人は20年以上の入院期間となっている。調査時に20歳以上40歳未満の在院者13,642人の中で50人が20年以上入院している。さらに任意入院であるにもかかわらず、半数近くが終日閉鎖で処遇されている。
 このように、多くの精神障害者が非自発的入院処遇を受け、さらに自発的入院であるはずの任意入院患者の多くが閉鎖病棟に収容されているという実態がある。閉鎖病棟は密室であり、外との交通の手段がほとんどない。疾病の特性と長期入院によって社会生活能力が低下した精神障害者にとって、その権利を擁護してくれる外部の存在と連絡を取ることは困難である。また、家族も入退院の問題に関しては、本人と利害が対立する場合が多く、本人の権利擁護者としての実効性には疑問が多い。頼みの綱の行政機関でも、たとえば、入院中の精神障害者から電話で「不当な扱いをされている」などの訴えを聞いたとしても、それが精神症状によるものなのか、それとも事実なのか判別が出来ず、適切な対応が難しいという現実がある。

 多くの入院中の精神障害者はその疾病の特性と誤った政策による長期入院により社会生活能力が低下した状態を余儀なくされ、さらに外部との接触も十分に出来ず、権利擁護してくれる存在も身近にない状況に置かれてしまっている。
 日本の特殊な精神科医療事情が入院中の精神障害者の差別的取り扱いに拍車をかけている。

 また、精神障害者に対する医療・福祉を規定する精神保健福祉法自体の立法趣旨が問題である。第一条で、「この法律は、精神障害者の医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 (平成十七年法律第百二十三号)と相まつてその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、」と述べている。まず、「社会復帰の促進(中略)のために必要な援助」という「精神障害者が社会から排除されること」を前提とした記述をしている。また、精神保健福祉法は、精神障害者の自己決定を支援し、その社会生活を支援するというよりも、精神障害者の効率的な管理を優先とした内容になってしまっている。

精神保健福祉法 第一条 この法律は、精神障害者の医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 (平成十七年法律第百二十三号)と相まつてその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによつて、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする。

 こうした精神障害者に対する扱いは、精神障害を理由とした差別的取り扱いにあたるものと考えられる。

氏田照子委員

 障害を理由にした不平等な扱いをしない(障害の有無によって人権の差が生じてはならない)ことを基本に据えるとともに、障害のある人に対する理解を広げることで、製品・サービスについて障害に基づく差別を生ずることのないよう提供することを基本とし(90%)、それでもなお差別が生じる場合は精査、改善し、結果99%の製品・サービスについて障害の有無に関わらず利用できるようにすべきと考えます。
 障害を理由としたサービスの提供の拒否、制限、条件付与などの実例があります。一例としてA自治体の放課後全児童対策事業の条例案で示します。

※条例案 第8条(利用の不承認)
教育委員会は、次の各号のいずれかに該当するときは、前条第2項の承認をしないことができる。
(1)心身に著しい障がいがあり、集団生活に適さないと認められるとき。
(2)前号に掲げるもののほか、教育委員会が特に利用を不適当であると認めるとき。

 また居住権についても看過できない状況にあります。日本国憲法第14条は「法の下の平等」を定め、障害者基本法は、障害を理由にした差別を禁止しています。ただし、いずれも抽象的で、どの行為が差別にあたるかの規定がないことに加え、法的な根拠が不明確なため、裁判所に救済を求めることが困難になりえます。こ れまで、各地において、住民と障害者のグループホーム等の建設の対立が起きていますが、障害を理由に居住権が侵害されることは、差別であり、この居住権の問題に関しては、障害者差別解消法により、グループホーム等の建設において、障害を理由に反対運動が行われることは差別であることが明確化され、どこに住むのかの自由は誰にでもあるという基本的人権を周知し、具体的な取り組みを推進していくことが行政に求められていると考えます。
 さらに、成年後見制度については、大きな課題があります。まず制度利用者の8割以上が家庭裁判所により後見類型と審判されていますが、その大半は「事理弁識能力に欠ける常況にある」とは言えない人であり、被後見人とされる事によって広範囲に及ぶ行為能力の制限と後見人への代理権付与という権利制限を受けています。また、後見人による被後見人の財産搾取事件が多発しており、家庭裁判所による後見監督事務が不十分です。これらは家庭裁判所による差別行為であると言えます。公職選挙権については解消されたとはいえ、公務員資格をはじめとする多くの欠格条項が残されており、この解消も求められます。さらに、類型により行為能力を一律に制限する現行の成年後見制度自体が障害者権利条約第12条に違反しています。現行の成年後見制度の枠組みとその運用の両面において知的・精神的障害を理由とする差別が存在しており、当該障害者への意思決定支援を基本とする制度への早急な改革が不可欠です。

大谷恭子委員

 不当な差別的取り扱いとは,部会意見で取りまとめたとおり,障害を理由とする区別,排除,制限等の異なる取り扱いがなされる場合である。
 これは障害を理由として,例えば入店を拒否するような直接差別,中立的な基準,規則,慣行を適用することによって結果的に障害者に区別,排除,制限その他の不利益が生じる間接差別の場合,さらに障害に関連する事由を理由に,区別,排除,制限の異なる取り扱いをする関連差別の場合を含むあらゆる場面における不均等な取り扱いである。そして、不均等扱いの行為類型として,区別,排除,制限の異なる取り扱いがあるのであり,これを明示するべきである。
 なお障害者権利条約2条は差別の定義を,障害に基づくあらゆる区別,排除,制限であって,あらゆる分野において,他の者との等しく,人権及び自由を享有し,行使することを害し,妨げる目的および効果を有するものとしている。区別,排除,制限が差別の行為類型として明文化されたのは,障害者権利条約が初めてではない。国連で最も早くに採択された人種差別撤廃条約(1996年採択,1996年日本批准)1条において,人種差別とは,人種等に基づくあらゆる区別,排除,制限又は優先として定義され,また,女性差別撤廃条約(1979年採択,1985年日本批准)1条も,女性差別とは,性に基づく区別,排除,制限と定義している。これらは差別の行為類型として,国際的にも,さらに女性差別撤廃条約や人種差別撤廃条約の批准によって、国内的にも定着している。
 よって,基本方針においても,明確に障害に基づく区別,排除,制限は差別であると明示するべきである。
 具体的にどのような場合が差別となるかであるが,たとえば,教育においては,障害を理由に地域の小中学校から排除するとか,学校行事への参加を制限することがあげられる。

大濱眞委員

 差別禁止部会で提起された、「障害又は障害に関連した事由」を理由とする差別類型で「直接差別」「間接差別」「関連差別」の3類型が「不当な差別的取扱い」である。

尾上浩二委員

○ 現在、障害者権利条約の締結に向けた承認手続きが進められており、批准も間近と思われる。その権利条約第2条の「障害に基づく差別」の定義から見ても妥当と言える、「障害者政策委員会・差別禁止部会意見」(以下、部会意見)に取りまとめられた「不均等待遇」を差別的取扱いの概念として採用すべきである。

○ 「障害を直接の理由として、あるいは障害に関連することを理由にして、区別や排除、制限をすること」

嘉田由紀子委員

 以下の意見については、全国知事会内で社会保障常任委員会構成自治体および差別禁止・解消に関する条例の制定自治体に意見照会を行った回答をもとに、委員として作成したものであり、全都道府県の総意として取りまとめたものではありません。

意見・考え方・想定事例

  • 「障害があることのみをもって、障害のない人と違う対応をする。」等、具体的かつ限定的に記載すべきではないか。
  • 「障害を理由とした区別、排除、制限であって、障害のある人の権利や利益を侵害するもの」を差別的取扱いと考える。
  • 障害のある人の生活に関わる主な分野(例:福祉サービス、医療、教育、雇用など)ごとに具体的な内容を定義すべきと考える。
  • 直接差別については、差別的扱いと考える。間接差別、関連差別については、一律に判断することは困難と考えられるので、内閣府や障害者政策委員会において事例等の集積を重ねて検討する必要があると考える。
  • 例えば、相談対応や行政サービスの提供にあたり、当該障害者に対し手話通訳者等の支援者を一緒に連れて再度来所するように言うことなどが差別的取扱いに該当すると考える。

質問・疑義

  • 障害福祉サービスにおいて、①障害福祉サービスの給付量が市町村間で差がある場合、②以前に住んでいた市町村で受けていたサービス(単独サービスを含む)が、転居に伴い、現所在地の市町村では受けられなくなった場合なども、不当な差別的取扱いに該当するか。
  • ろう者に対して、職員採用試験に、健聴者と同様にヒアリング試験を課すことは差別的取扱いにあたるのか。

条例の規定または解釈との関係

  • 「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」(以下「千葉県条例」という。)では、8つの分野(福祉サービス、医療、商品及びサービスの提供、労働者の雇用、教育、建物等及び公共交通機関、不動産の取引、情報の提供等)ごとに、障害を理由とした不利益な取り扱いをする行為を差別的取り扱いとして明文化している。
  • 「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」(以下、「長崎県条例」という。)においては、「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」をもとに、差別を「客観的に正当かつやむを得ないと認められる特別な事情なしに、不均等待遇を行うこと又は合理的配慮を怠ること」と定義している。法第7条第1項中の「不当な差別的取扱い」は、長崎県条例で規定する「不均等待遇」(障害又は障害に関連する事由を理由として、区別、排除若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他の異なる取扱いをすること。)と同様と考える。

川﨑洋子委員

 不当な差別的取り扱いは、障害があるということで、差別、排除することと考える。
 精神障害の場合、医療では精神科医療が別立てであり、精神科特例が設けられていること、また、障害者手帳サービスでは他障害に適用されているJR運賃の割引、障害者医療費助成制度が対象になっていないことは、精神障害への差別であり、排除であると考える。精神保健福祉法の改正においては、医療保護入院に関して、家族の同意が要件づけられたことは、精神障害に対する差別的なことと考える。

北野誠一委員

① その障害者が可能な、市民に一般的な社会参加を結果的に排除・抑制するような、直接的・間接的な異なる待遇・対応

② その障害者が可能な、市民に一般的な社会参加を結果的に排除・抑制するような、必要な合理的配慮の不提供

後藤芳一委員

(1) 障害者権利条約は人権法であり、障害者差別解消法はそれの下での法律です。障害の有無による人権の差は認められるものではないので、公共機関等にはすべての製品・サービスが障害者を排除しないようにする義務があります。これを原則とすべきと考えます。

(2) 求めるべき水準として、例えば、9割は最初から差別しないように提供し、残りの一割を精査して10分の9は過重な負担ではないとして対応すれば、対応できないのは1%になり、99%は排除されないことになります。一方、2割は原則対応として、残りの8割を過度の負担であるか精査し、半分は認めるといった水準では6割しか利用できないことになります。

(3) 行政機関及び事業者が提供する製品・サービスについて、行政機関及び事業者が合理的配慮を施さないために、障害者が利用できない場合が差別的取扱いに当たると考えます。

(4) 成年後見制度にも課題があります。後見類型とされているうちの多くはそれに当たらない人であり、被後見人とされたことで行為能力の制限と後見人への代理権付与という権利の制限を受けています。後見人による財産搾取もあり、これらの一因は家庭裁判所にあるとも考えられます。公務員資格等の欠格条項も残されています。類型により行為能力を制限するのは障害者権利条約第12条に反します。成年後見制度には枠組み、運用ともに知的・精神障害を理由とする差別があり、適切な意思決定支援を実現する制度への改善が必要と考えます。

佐藤久夫委員

 「障害」の概念・意味が障害者基本法や障害者差別解消法の定義に基づいて適切に理解・活用されるように特に注意を促したい。特にこの点が重要である理由や背景事情は2つある。
 1つは、障害者とその家族ですら3人に2人は自分(の家族)に障害があるとは思っていない人がいると予測されること。
 2011年度の厚労省「生活のしづらさ調査」はモレ・谷間のない在宅障害者実態調査としてはじめて実施され、今年結果報告がなされた。この調査ではモレが出ないよう、3種の障害者手帳所持者でなくても「発達障害のある方、難病、慢性疾患などの長引く病気やけが等により日常生活のしづらさが生じている方」も調査対象であるとした。モレが出ないよう調査票の9ページ分を使い13の質問で障害者であるかどうかを確認した。
 しかしこの調査を踏まえた日本の障害者割合は5-6%(結果の解釈により若干異なる)であり、従来推計と余り変わらない。WHOが推計する「人口の15%」の約3分の1にとどまっている。正確にはWHOの各種調査との比較(年齢、性別、機能障害の種類・程度、疾患の種類など)が必要だが、今回の「生活のしづらさ調査」で漏れているのは、活動障害や参加障害が中・軽度の、身体・精神の慢性疾患、知的障害、聴覚障害、発達障害等ではないかと予測される。(今後の調査の継続と、障害者理解の改善によって日本でも国連推計に近づくと考えられる)。
 しかし、いずれにせよ現状では、当事者・家族の障害理解が基本法に追いついていない。一般市民・事業者などはより理解不足と思われる。
 2つ目は、基本法・差別解消法で規定する「障害」と障害者権利条約で規定する「障害」とが異なる概念・意味となっていること。基本法等の「障害」は身体・知的・精神・その他の心身の機能の障害であるが、条約ではこれは「機能障害」(impairment)といい、この機能障害と環境の障壁との相互作用により生まれるもの(社会参加の困難)を「障害」(disability)と言っている。この法律用語・概念の矛盾は「障がい者制度改革推進会議」でも指摘されたが、政府は従来の理解と大きく異なる障害概念の導入は日本では混乱を招くと恐れて採用しなかった。
 このままでは「障害を理由とする差別」が狭くなるが、「障害に関連する差別」も禁じることによって対処することとなった。
 とりあえずこの対応策を見守りたいと考えるが、「障害を理由とする差別」には「障害に関連する差別」も含まれることを周知するなど、法的定義の矛盾が生み出す可能性のある否定的影響に注意が払われるべきである。

新谷友良委員

 障害者権利条約は、差別を「障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を認識し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するもの」とした上で、「障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む」と規定している。差別的取り扱いの基本的考え方は障害者権利条約の規定を踏襲すべきである。
 具体的には、障害者政策委員会差別禁止部会意見(以下、部会意見)にあるように、差別的取り扱いを「不均等待遇」と「合理的配慮の不提供」の2類型とし、基本方針の実効性を確保するために、「不均等待遇」を構成する「直接差別」、「間接差別」、「関連差別」については、その典型例を例示すべきである。

関口明彦委員

 実際にある障害あるいはあると見なされた障害を理由としたあらゆる違別取り扱い、直接差別(本来相対欠格であるにも関わらず疾病名により一律に絶対欠格とされるものを含む)、間接差別、関連差別、合理的配慮の欠如(例えば公務員採用時における年齢制限も、病歴のある精神障害者には不利益となり、差別という効果をもたらす)。
 具体的な例としては、精神障害を理由とした公衆浴場の入場禁止を始めとする立ち入り禁止措置、精神障害を理由とした退職の強要及び労働能力の判定をしない一律的な一般傷病求職扱い、警察における「マル精」保護という手続き的対応、司法における証言能力や裁判官の心証に与える影響、精神科医療に於けるインフォームドコンセントの欠如、精神科以外の医療機関における治療拒否(精神科病院に行くように促すことなど)などがあげられる。

竹下義樹委員

  1. 平等の機会を与えないこと。
  2. 他者より不利な状態に置くこと。

田中正博委員

 基本的な考え方という意味では、次のいずれも満たす場合が「差別的取扱い」であるという整理が想定されます。

  1. 障害があることを主な事由としており、
  2. 他の者との比較において著しく不利益を被っている場合

 1については、「障害者」差別解消法ですので、当然ながら障害に関する事項が対象になると思われます。たとえば、障害の有無に関わらず、レストランが男性の入室を禁じているような場合には本法の適用にはなりません。(別の意味では問題です)
 2については、「著しく」であることと「不利益」であることがポイントになると思われます。
 前者については、どの程度をもって「著しい」とするかという課題はありますが、受忍限度を超えていることが条件になると考えます。(1-2とも関係します が、正当な理由がある場合には差別が容認される、という考え方の前に、受忍限度内であればそもそも差別には当たらない、という考え方も必要と考えます。ただし、受忍限度の設定は障害のある人が必要以上に我慢を強いられることのない水準とすることが重要です)
 後者については、法律上の差別概念が「別異の取扱いをすること」となっていることを踏まえ、障害があることで優遇されている取扱いを「差別」と判断されないような考え方が必要と考えます。

土本秋夫委員

「わかりやすい情報」について

① 公共交通機関(地下鉄、JR、バスなど)で、駅の名前が漢字(例えば、「増毛」「長万部」)、わかりやすい説明をしてくれる人がいないことで切符の買い方、乗り方や乗り換えがわからない。

② 区役所(市町村の役場など)に、サービスの申請や相談に行くが、看板や地図にふりがながなく、説明してくれる人もいないので、自分の行く場所がわからない。

③ 災害で避難所に行くが、張り紙にふりがながないことや、書いてある意味がわからずに、必要なものをうけとれない。情報が音声だけで、聞こえない人は、わからない。

④ 精神障がいがある人が、入院中に医師の説明がわかりづらいまま、薬が増える。

などなど、社会の中には「わかりやすい情報」が少ないです。バリアが目に見えない分、忘れられていることや差別だとわかりづらいところもあります。 法律の中にしっかり書かれることが大切だと思います。

「自分で選んで、自分で決める(自己選択・自己決定)」

 いくつかの情報が自分の中に入ると、その選択肢の中から自分で考えて選ぶことができます。
 情報はわかりやすく、自分で選んで決められる情報であることが大切です。

「雇用条件」「進学」

① 雇用の条件に市役所で働く人は、身体障がいのみの募集であることがある。

② 受験したい高校に、車いすの出入りをするスロープやエレベーター、リフトなどの設備がなく、受験を断られた。

など、行政や民間企業で「雇うにあたって(入学させるにあたって)、どうしていいかわからない」というだけで排除することも差別であることをしっかりと書く必要があると思います。

「行政と同じような機関について」

 行政は「差別をしてはいけない」ことが義務ですが、民間企業は「努力義務」になっています。
 しかし、障がいのある人が毎日通うところや公共交通機関や公共の施設、学校など、ほとんどの人が関わる民間企業は、行政と同じくらいの決まりがあってもいいと思います。

中西由起子委員

 不当な差別的取り扱いとは、障害又は障害に関連する事由を理由として、区別、排除もしくは制限し、又はこれに条件を課し、その他の異なる取扱いをすること。
 また、合理的配慮が欠如されている状態も差別的取扱いである。合理的配慮の欠如とは、障害者の求め(障害者がその意思の表明を行うことが困難である場合にはその家族等の求め)に応じて、障害者が障害のない人と同等の権利を行使するため、又は障害のない人と同等の機会及び待遇を確保するために必要かつ適切な現状の変更又は調整が欠如していること。

中原強委員

 障がいを理由とした差別的な取り扱い(区別・排除・制限等)をすること。結果として障がい者の権利利益を侵害すること。
 特に知的障がいのある人の場合にあっては、自身で情報を獲得し、それらを整理し、表明する(周囲に伝える)ことに支援が必要な場合があることから、それらの場面において必要に応じた支援の環境整備がなされないこと。
 また、何が差別にあたるのかの判断となる基準を掲示していくことが必要。

花井圭子委員

  1. 障がいおよび障がいに関連する事項を理由として、障がい者および家族等の合意を得ることなく障がいのない人と異なる対応をすること。
  2. 障がいのない人には、求めていない制限と制約を求めること。
  3. 障がいを理由として障がいのない人と比較して、不均等、不利な処遇を受けること。
  4. 障がい者が、障がいのない人々と同様の機会等を保証するために障がいに応じて必要とする配慮(合理的配慮)が正当な理由なく提供されないこと。

藤井克徳委員

● 差別的取り扱いの基本的考え方は障害者権利条約の規定を踏襲すべきである。具体的には、障害者政策委員会差別禁止法部会意見(以下、部会意見)に取りまとめられた不均等待遇を差別的取扱いとするのが妥当である。すなわち、機能障害や能力障害(以下、障害)を直接の理由として、あるいは障害に関連することを理由にして、区別や排除、制限をすること。

(例)

  • 学校など障害のない人と分離された環境を強制されること
  • 障害のない人と同等の生命保険加入要件を備えているにも関わらず知的障害を理由に生命保険に加入させないこと
  • 盲導犬を連れた人が「動物は店に入れることができません」とレストランの入店を拒否されること

三浦貴子委員

 直接間接に障害を理由とする拒否、排除、不許可、区別、制限、障壁の放置、代替手段の設定や検討の放棄。①障害があること以外に理由のない拒否・排除、②社会的障壁の克服手段(車いす、補助犬、介助者、点字使用など)の拒否・制限、③代替手段を考慮しない・認めない(代理人拒否、障害特性への無配慮など)、④範囲を逸脱した欠格事由(懸念だけを根拠に不要な条件を課す、資格取得を制限するなど)、等。

1-2 不当な差別的取扱いの基本的な考え方として、正当な理由がある場合は、差別とはならないとされているが、どのような場合に正当な理由があると考えるのか。

阿部一彦委員

 正当な理由が客観的に立証できる場合には差別とはならないと考えられるが、その説明責任は行為者側が担うべきと考える。
 正当な理由として考えられることは、障害当事者の生命・健康への大きな危険が予想されるときや、その取り組みにおける障害に基づく不便性、不利益性を解消できる環境条件を整えた上での区別、すなわち選考などが行われる場合などである。
 また、「正当な理由」に関しては、科学技術の進展などに照らし合わせてその都度柔軟に対応する必要がある。すなわち、機能障害のみに着目した判断だけに頼ることのないようにすべきである。科学技術の進展により、障害に基づく不便性、制限がなくなったり、またはそのような制限に関して別な手段で基盤的な条件がクリアできるのであれば、その「正当な理由」がなくなる場合もある。

石川准委員

 著しく本人または第三者の安全等基本的人権を脅かすとき。
 ただし、その場合、本人への説明責任を果たす必要がある。
 間接差別や関連差別と同様、安全と危険の線引きも個々の状況により異なるので、恣意的な判断を抑止するための指針が必要となる。
 裁判以前の紛争解決の仕組みも必要と考える。

石野富志三郎委員

 物理的に困難な状況や、目的が正当で、かつそれしか実現のための方法がそれしかない場合においては、正当な理由があるとする可能性がありますが、本来、「不当な差別的取扱い」に「正当な理由」はあるべきではなく、また基本指針においても容易にそれを認めるべきではないと考えます。
 「正当な理由」を認めざるを得ない具体例については、障害種別ごとに整理し、その具体例を審議する場が必要ではないかと考えます。

上野秀樹委員

 精神障害の場合、自傷他害の恐れがある場合などの例外的な場合に限られるのではないかと考えられる。

氏田照子委員

配慮が合理的な範囲を超える場合。ただし同一のサービスが提供出来ない場合は同等のサービスの提供を準備する必要があると考えます。合理的配慮の提供を行わないことが正当化される場合としては、その提供に伴う負担が過度な場合が具体的に挙げられており、財源問題に偏らないようにすることが求められます。

大谷恭子委員

 障害を理由に区別,排除,制限をすることに正当な理由がある場合は差別にならないということであるが,これについても部会意見で取りまとめたとおり,あくまでもこれは例外的な場合に限られる。よって原則は,区別等があった場合は差別である,とされるのであるが,その取り扱いが客観的に見て正当な目的の下,その正当な目的の範囲内で,目的に照らしてやむを得ないと認められる場合は,正当な理由があるとして差別にならない。そして,これは例外的な場合であるから,この正当な理由があるということの立証責任はあくまで異なった取り扱いをする方に負わされている。
 以上,正当な理由がある場合とは,例外的にやむを得ない場合であり,それの立証責任も区別等をする方に負わされていること,これを明らかにし,基本方針に明記するべきである。そうでなければ,異なった取り扱いをしても主観的に自らの正当性を主張すれば差別にはならないということになりかねない。正当な理由は制限的・限定的なものであるということを,いかにして理解してもらうかが必要である。

 なお,障害当事者が合理的配慮を要求したらこれを提供しなければならないのであるから,やむを得ない場合とは,合理的配慮を尽くしてもなお区別等をすることがやむを得ない場合である。

 具体的には,障害のある子が地域の小中学校への就学を希望するとき,小中学校で当事者が求める合理的配慮を尽くしても,小中学校では当該障害のある子の教育権を保障しえないということを教育委員会が立証しえたときに,障害のない子と異なる取り扱いとしての特別支援学校への就学が強制される(本人保護者の意に反して措置される)ことが,正当な理由があるということになる。この場合の当該児童の教育権を保障しえない場合とは,文科省の定めるいわゆる学力を基礎とした指導要領が達成しえないということではない。障害者権利条約24条1項が定める教育の目的(特に(a)の自尊感情の育成、(b)社会に効果的に参加すること)をどのような教育方法で実現するかの問題である。そして,これを決定することが出来るのは,まずは本人・保護者であり,本人・保護者の意向に反する場合には,本人・保護者が求めている小中学校での教育では本人・保護者が求めている教育内容が実現しえないということを教育委員会が立証しえなければならない。しかもまずは合理的配慮を尽くす事が義務付けられているのであるから,例えば医療的ケアを要する子に看護師等の配置を合理的配慮として小中学校で保障して,それでもなお小中学校では教育を実現できないということを教育委員会が立証しなければならない,ということである。

 さらに障害のない者の多数の者の権利・利益と障害者の権利が衝突する場合,これを正当な理由がある場合とすることが出来るであろうか。例えば発達障害のある人が不規則に発言したり動いたりする障害を理由にレストランの入店を,他のお客さんの迷惑になるからという理由で拒否することが正当な理由となるかどうかである。障害のない人が静謐な環境で食事を楽しむ利益とそのようなお客を大事にする営業上の権利を優先することは,障害者を排除することの正当な理由とすることはできない。なぜなら障害者の権利は少数者ーマイノリティの人権に属するものであり,これは時に多数の共通の利益や権利と衝突することがあるが,その時多数の者の共通の利益や権利を優先すれば,少数者の権利が実現することは難しく,少数者にのみ我慢を強いることになり,それこそが不公平な結果となるからである。このことについては,長く隔離生活を強いてきたハンセン病国賠訴訟判決やアイヌ民族二風谷ダム判決においても指摘されてきたことである。
 教育の場面においても,障害のないクラスの子どもたちの教育権の保障を理由に障害のある子を教室から排除することは正当な理由とならない。

大濱眞委員

直接差別

 特定の病名、障害名を持っている人は車の運転を禁止する、例えば脳卒中の後遺症がある人は一律に運転禁止とした場合は差別に当たる。しかし、明らかに手足の緊張等が酷く、特殊な運転装置をもってしても緊急時にブレーキが踏めない等、明らかに危険運手となると判断されたときは、運転を禁止する正当な理由となる。しかし、技術の進歩で、その人に準じた特殊な運転装置が開発された場合は、その時点で運転を許可すべきであろう。

間接差別

 チケット購入の際(鉄道、航空、各種イベント会場、博物館、美術館等)に、
① 毎回医師による診断書や誓約書の提出を求めること。
② 氏名、年齢、電話番号等のプライバシーに関わる事項の提示を求めること。

関連差別

 例えば、企業において、専属の介助者による介助が常に必要な者は雇用しないとしときは差別なる。しかし、専属の介助者による介助が常に必要な重度障害者を雇用する場合、月に数十万円の介助費用がかかる。1人を雇用することで企業が得られる収入をはるかに上回る介助費用を企業に求めることは無理で正当な理由となりうる。ただし、雇用分野で、職場介助者に対する助成金制度が認められているので、正当な理由とならない可能性もある。
 いずれにせよ、障害者雇用と障害福祉サービスが縦割りの制度であるために、専属の介助者による介助が常に必要な重度障害者がこの雇用助成金制度を利用することは、実質的にほとんど不可能である。このような中途半端な制度の分断を解消するには、福祉政策におけるシームレスな介助制度の構築が不可欠である。

尾上浩二委員

〇 客観的に見て正当な目的で行われ、その他の方法がない場合

〇 積極的差別是正措置とされた優遇措置

嘉田由紀子委員

 以下の意見については、全国知事会内で社会保障常任委員会構成自治体および差別禁止・解消に関する条例の制定自治体に意見照会を行った回答をもとに、委員として作成したものであり、全都道府県の総意として取りまとめたものではありません。

意見・考え方・想定事例

  • ①障害のある人の生命又は身体の保護のために、そのように取扱うことがやむを得ないと認められる場合、②法令や通達等で、正当な理由がある場合とされている場合、又は正当な理由がある場合として挙げられているものに該当する場合を、正当な理由があるとしてはどうか。
  • 他者への影響がある場合や多大な費用が掛かるもの等で合理的理由がある場合も正当な理由があるとしてはどうか。
  • 障害種別や障害程度、相手方における保護されるべき利益など様々であり、全てのケースにおいて客観的な事実に基づいて公平に判断できるような基準が必要ではないか。

質問・疑義

  • 市町村が実施する地域生活支援事業の手話通訳派遣で、必要額分の国庫補助がなされていないことを理由に手話通訳派遣に応じないことは、正当な理由にあたるか。

条例の規定または解釈との関係

  • 千葉県条例においては、障害に起因する差別なのかどうかについて「合理的理由」がある場合には不利益取り扱いに該当しないこととしている。
     なお、合理的理由のある場合の事例として、
    ① 福祉サービスの分野及び医療の分野
     本人の生命または身体の保護のためやむを得ない必要がある場合
    ② 商品及びサービスの提供の分野
     サービスの本質を著しく損なうことになる場合
    ③ 労働者の雇用の分野
     労働者の募集又は採用にあたって、本人が業務の本質的部分を遂行することが不可能である場合、また、賃金、労働条件その他の労働条件又は配置、昇進もしくは教育訓練もしくは福利厚生について、本人が業務の本質的部分を遂行することが不可能である場合
    ④ 建物等及び公共交通機関の分野
     建物の本質的な構造上やむをえない場合、また、本人の生命または身体の保護のためやむをえない必要がある場合
    を条文で規定している。
  • 長崎県条例においては、差別の禁止を特に明記している個別分野(条例第10条~第19条)に「客観的に正当かつやむを得ないと認められる特別な事情」を例示しており、法における「正当な理由がある場合」も同様と考える。

川﨑洋子委員

 精神障害の場合、非自発的入院制度がある。医療につなげ、早期に回復を図るという点では、正当な理由といえるが、本人の意志のないところでの決められることは本人の人権を侵すものと考えられ、「正当な理由」といえるかどうか疑問を残すところである。
 また、雇用の面では、精神障害の場合は合理的配慮としてマンパワーの充実が必要であるが、「過度な負担」として合理的配慮の不提供が「正当な理由」とされた場合、精神障害者の雇用の場が限定的になり、社会参加の機会が失われる。
 このようなことを考えると、「正当な理由」があるからと言って、差別にはならないとは一言では言えない。「正当な理由」の判断をいかにするかが課題だと考える。

北野誠一委員

 1-1の①②に当たる行為において、相手方にも正当な保護すべき権利や利益がありそれが障害者の権利や利益を上回る場合には、その上回った程度に応じて、差別認定を免除される。
 ただし、その場合において、結果として障害者の市民的社会参加が制限されることになるので、正当化事由の存否については、最終的な立証責任は、相手側に負わせることが望ましい。

後藤芳一委員

(1) 配慮が合理的な範囲を超える場合。たとえば、視覚障害者を航空管制官として雇用するといった場合。

新谷友良委員

 部会意見にあるごとく、当該取扱いが客観的に見て、正当な目的の下に行われたものであり、かつ、その目的に照らして当該取扱いがやむを得ないといえる場合においては、不均等待遇は是認されるとすることが妥当である。そして、その差別的取り扱いが業務遂行にあたっての本質的要請かどうかが判断基準となる。また、現実の紛争形態を考えたとき、差別的取り扱いを受ける側は情報量も含め社会的に弱い立場にあると考えられるので、差別を受けた側は差別を受けた事実だけを主張すれば良く、差別を正当化する説明責任は差別的取り扱いをしたとされる側が負うべきと考える。
 なお、差別意図がなく結果的に差別的取り扱いが生じた場合は、差別意図がないことを「正当な理由」に含めるのではなく、過失責任を紛争の現実的な解決策の中で考量すべきである。

関口明彦委員

 不当な差別的取扱いは、障害に基づく異なる取り扱いが当該障害者に不利益という結果をもたらした場合を想定している。すなわち、異なる取扱いが利益となる場面は、不当な差別的取扱いの対象とはならない。あくまで、不利益の発生を要件としており、その点で正当な理由となりうるものは、ごく限られている。
 とりわけ、障害者の雇用の問題は、差別解消という観点からの取組みだと限界があり、社会保障と積極的差別是正措置という観点からの取り組みと両立させていかなければ、社会秩序の均衡を著しく壊す結果をもたらす。たとえば、職場において鬱病を発症した場合、当人が苦痛で同僚もフォローに戸惑うようなことがあるが、そのような場合は、労働安全衛生法の手続きに従い、場合によっては一般傷病求職扱いにして復帰までの期間を休息にあてるようなことはあっていいだろう。その場合、期間中のキャリア形成ができないなどの不利益が生じ得るが、ひとまず休養に伴う健康上の利益が達成されたという実態がある(本人が健康上の利益を得たと実感している場合)ならば「正当な理由」とされていいだろう。
 また、雇用場面では、社会保障と積極的差別是正措置という観点など代替手段が整備されている場合にのみ、面接場面で障害者の採用をしないことを責務上の問題とまではできないだろう(正当な理由)。この場合は、法定雇用率を達成した企業のみが、最低生活水準をかなり上回る社会保障を受けている障害者で、心身のほとんどが動かず職務の遂行が不可能と見込まれる場合にのみ例外的に雇用しないという場面を想定している。逆にいえば、こうした例外を除いては、積極的に雇用されていく必要性があるわけであり、この点が徹底されないのに雇用から除外だけがなされていくことはあってはならない。
 生活保護の基準額が下がったということは、就職によらなければこれまでの生活水準を維持できないことを意味し、こうした場合、いかなる場面においても「正当な理由」を形成しえないことになる。また企業の努力は、現状の法定雇用率で満足してよいものとはいえないため、多くの事柄は「正当な理由」に該当しえない。
 心臓疾患のある人の絶叫マシーンの利用を控えさせように促すとか、献血の際に服薬中の者を排除することは、「正当な理由」になり得るが一律な科学的根拠のない排除は差別にもなり得る。
 全盲の人に車の運転をさせないのは現状では「正当な理由」である。

竹下義樹委員

 客観的に見て危険な状態に置く結果となる場合。

田中正博委員

 不当な差別的取扱いに関しては、法律上「禁止」ですので、行政機関や事業者が直接的に相手方となる場合には、差別しなければ生命・財産の危機に瀕するような状況でなければ、原則的には正当な理由になりえないと考えます。たとえば、障害者グループホームなどの事業所を整備する際、地域住民からの同意書を求めるような運用は正当な理由が見当たりませんので、差別になると考えます。
 他方、行政機関や事業者が間接的に相手方となる場合には、施設利用者の権利保護などの観点が入ることから、正当な理由の範囲は広がると考えます。たとえ ば、行政主催のコンサートが防音室の設備がない会場で開催されたケースで、大きな声を出してしまう自閉症の人の入場を拒否した場合には、コンサート鑑賞者の権利保護の観点から、正当な理由になりえると考えます。

土本秋夫委員

 たとえば、駐車場がない小さなお店に駐車場を作ってほしいといってもお店を半分つぶす必要があるので、お店の経営を続けていけない。
 など、相手の生活や経営が成り立たなくなるような場合が、過重な負担の正当な理由だと考えられる。

中西由起子委員

 エレベーターを設置するなど、建物改修を行うに当たって、建物の耐震性を基準以下にしてしまう場合。
 教育の場での、常時の介助者、手話通訳者、ノートテイカーを準備することが時間的に間に合わない場合(当然配慮することが望ましいが、直ぐにできない場合は本人と協議の上、代替手段を検討する)。
 職場での緊急の会議が行われる時の、手話通訳、ノートテイカー、点字資料などが間に合わない場合(当然配慮することが望ましいが、直ぐにできない場合は本人と協議の上、代替手段を検討する)。
 小規模な駐車場で、車椅子使用者が乗り降りするスペースが確保できない場合。  障害に起因して生じている具体的な状況により、業務の本質的部分を遂行することが不可能な場合。
 障害に起因して生じている具体的な状況により、生命、身体、財産に対する侵害が現に生じている場合。
 職場において、障害のある人が補助機器等を活用したり、労働環境を整備するなどしても、なお業務を遂行することが不可能な場合。
 ただし、全ての場合において、対象者が民間等の代替サービス等を利用することが適当な場合は、障害者にその経費の負担を負わしてはならない。

中原強委員

 極めて限定的かつやむを得ないといえる場合に限るが、事故(危険)を回避する場合や、他者にも正当に保護すべき利益がある場合。

具体的には、
① 事故(危険)回避のための制限
→ ただし危険認識が異なるため、事故(危険)回避を口実にした制限が乱用されることのないよう歯止め(一定程度の基準等)が必要
【例】 障がいにより危険回避ができない場合にアトラクション遊具等の利用を制限すること
② 本質を損なう行為の制限
【例】 障がいにより一人言や大声を発することがあり、それを制止することが困難な場合の「能」「クラシックコンサート」など静を重んじる芸能鑑賞

花井圭子委員

  1. 設備等の状況とその対応方法の変更・調整等をしても、なお不均等待遇とならざるを得ない場合が考えられる。
  2. 但し、この場合であっても障がい者および家族等への説明と納得を得ることに努める必要がある。なお、正当な理由の是非については、客観的・第三者的な物差しや、不服申し立て等の調停・救済の仕組みの構築が必要である。

藤井克徳委員

●物理的に困難な場合

(例) 神社が山の上にあり、階段の段数が激しく多く、車イスで参拝しようとし、神社の神主に頼んだが、その神社には神主ひとりしかいなく、車イスを担ぎ上げることもできない、とされる場合など)

●目的が正当で実現の方法がそれしかない場合

(例) 動物アレルギーの治療などを行っていて、当該患者も多数出入りする病院や施設などの場合に盲導犬を拒否する場合

 なお、差別的取り扱いを受ける側は情報量も含め社会的に弱い立場にあると考えられるので、差別を正当化する説明責任は差別的取り扱いをしたとされる側が負うべきと考える。

三浦貴子委員

 差別禁止部会意見のとおり、相手方の主張が客観的な事実によって裏付けられ、第三者から見ても納得を得られる客観性を備えたもの。①労働災害を回避するため、心身に危険が及ぶ可能性がある就業環境におかれる職種で、最低限の身体機能を採用基準とすること、②特定の行為を行う職種の採否に、その業務が遂行できる心身状況を判断基準としておくこと、③事業者等が講じた合理的配慮が、財政規模や経済的負担に鑑みて最善と思われる場合、等。

1-3 合理的配慮の基本的な考え方として、どのような場合に、どのような配慮が求められると考えられるか。

阿部一彦委員

 事前の改善措置(環境の整備)が十分に行われている場合も含めて、特定の障害者にとって困難が生じる場合において、当該障害者の根拠に基づいた申し立てをもとに、行政並びに事業者が講ずべきことに関して取り組むことであり、障害に関する十分な理解をもとに改善、工夫すべきような配慮が合理的配慮と考えられる。
 また、部会意見(p28)にもあるように、「障害者からの意思の表明がない場合にも、法的な義務は発生しないものの、行政機関等や事業者が自主的に適切な配慮を行うことは、本法の趣旨に照らし望ましい」と考える。

石川准委員

1.教育機関における合理的配慮

 高等教育においては昨年の障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告を参照していただきたい。
 初等中等教育においては中教審の特別支援教育のあり方に関する特別委員会の報告を参照していただきたい。

2.国の行政機関等が公開する情報へのアクセスについての合理的配慮

 国の行政機関等が市民、国民に電子的に発信する情報のアクセシビリティを合理的配慮義務として明記すべきと考える。

石野富志三郎委員

 障害の特性に応じた対応が必要になりますが、聴覚障害者の場合は下記の内容が主にあげられます。

① 情報保障

 聴覚障害者の場合、聴覚による情報収集ができないため、周囲との情報量に差が生じます。
 障害者がその能力を発揮するためにも、聴覚障害者にとって「情報をいかに本人に合った形で受け取り、その情報を周囲と共有することができるか」が大きなポイントとなります。
 また、話し合いの場で、どういった内容の発言が取り交わされているのかを知り、その場で自分の意見を発言する機会が保障されることが必要です。
 障害の程度や本人の希望するコミュニケーション手段を選択できるよう、筆談やFMマイクの活用、手話通訳・要約筆記等の情報保障を検討することが重要です。

② コミュニケーション

1)対人関係が1対1の場合、口話、筆談(PCメールも含む)等、双方にとって負担の少ない形でのコミュニケーション方法を確認する必要があります。

2)対人関係が1対複数の場合(職場での朝礼、会議等)は、その場において、同じタイミングでの情報共有を図るために、手話通訳等の人的支援以外にIT等の設備を活用し、音声情報を見て分かるようにする必要があります。

 なお、合理的配慮は原則として「障害者からの申し入れ」により行われるものであるが、申し入れがなければ「提供しなくともよい」ものでもないことを、基本的な考えとして認識すべきであると考えます。

上野秀樹委員

 入院している精神障害者に関しては、第三者の権利擁護者を選ぶことが出来るようにすることが求められると考えられる。

氏田照子委員

 差別や合理的配慮に関して、当事者の参画、当事者の声を反映させる仕組みを地域で整備する必要があります。また合理的配慮を実効性のあるものとするために、各分野に横断した基本的な考え方として、知的や発達障害の人の意思決定支援のための積極的権利擁護としての情報アクセシビリティの向上を組み込む必要があると考えます。
 また、知的障害・発達障害等については、相談支援や権利擁護、障害福祉サービス、就労、司法等、生活のあらゆる場面において、合理的配慮として意思決定の支援が特に必要です。

大谷恭子委員

(どのような場合ー合理的配慮の提供義務が発生する場合)

 合理的配慮とは,権利条約が定義しているように,障害のある人が他者と等しく権利や自由を享有し,行使するために,当事者の求めに応じて,そのものの属する集団もしくは社会が変更調整することである。
 要するに基本的に当事者が求めた場合に発生するということである。当事者が求めた場合とは,障害当事者が求める場合のみならず,その代理人として,特に当事者が児童の場合は養育に第1義的責任を有している保護者が求めた場合もこれに含まれると解するべきである。また知的障害によって意見表明が不確かな場合も,意見表明の適切な支援を保障した上で,家族や支援者らがこれをくみ取ることも必要である。
 合理的配慮とは,調整と変更であり,幅のあるものである。当事者の求めるものと提供する責務のあるものとで齟齬がある場合は,協議し調整するべきである。そのプロセスは,それがなければ差別になる,という人権の実現に密接に絡むものである以上,可能な限り当事者間で協議した上で,それでも調整できない場合は権利擁護委員会等の適切な第三者が調整に入るべきであり,それでも調整不能な場合は司法的救済の対象であることを意識するべきである。

(合理的配慮の内容)

 合理的配慮とは個々具体的に異なるものである。
 例えば教育における合理的配慮とは,手話での授業や手話通訳者の配置,点字や拡大文字による教科書およびデジタル教科書等の提供,バリアフリー等利用可能な物理的環境の提供,介助員,あるいは複数担任等の必要な人員の配置等,障害の特性に応じて様々な配慮が想定できる。
 また,あくまで障害のない人と等しく権利や自由を享有し行使するためのものであり,合理的配慮を提供することによって,本人保護者の同意なくして,差別の類型である区別・排除・制限があってはならないことは当然である。
 特別支援学校は合理的配慮を含む支援を,分離された空間(学校・学級)で実現・保障しようとするものであるが,たとえば,点字教科書を小中学校での就学において合理的配慮として要求する場合,小中学校で提供されなければならず,特別支援学校(学級)で提供しても提供したことにはならない。

大濱眞委員

① 車いすの障害者を雇用した場合、車いすで使用できるようにトイレを改修する。

② 車いす通勤で混雑時に通勤電車を使用することが困難な場合は、勤務時間を変更する。

尾上浩二委員

 「電車やバスに乗るとき」「住まいを探すとき」「試験や面接を受けるとき」「学ぶ」「働く」など、日常生活・社会生活のあらゆる分野の特定の場合において、障害のある個人に対して、障害のない人と平等な機会を確保するための配慮であり、以下のような形態が考えられる。

〇 時間や順番、ルールなどを変えること

〇 設備や施設などの形を変えること

〇 障害の特性に合った補助器具やサービスを提供すること

 例えば、点字を常用している人は、方法に見合った時間延長の下で、点字で受験できるように、拡大文字・拡大回答用紙による出題と回答を求める人はその方法で受験できるように、面接のうえで手話通訳や筆記通訳が必須の人はその方法で受験できるように、合理的配慮の提供が求められる。また、失明した年齢等によって点字も活字も使用が難しく音声PCを使って読み書きができる人の場合は、音声PCを用いて受験できるようにするといった配慮が求められる。(当然、試験の後、採用や入学後も同様の配慮が必要)

嘉田由紀子委員

 以下の意見については、全国知事会内で社会保障常任委員会構成自治体および差別禁止・解消に関する条例の制定自治体に意見照会を行った回答をもとに、委員として作成したものであり、全都道府県の総意として取りまとめたものではありません。

意見・考え方・想定事例

  • T・P・Оや障害者の年齢、障害の状態に応じた合理的配慮が求められる。例えば、障害の特性に応じた配慮、公共の場所等における字幕表示や音声案内などが考えられる。
  • 障害者が社会生活を営む上で、除去すべきものが存在する場合に、過重な負担を伴わずにその除去が出来る場合等を合理的配慮としてはどうか。例えば、聴覚障害者に対して筆談をすること、視覚障害者の利用も見込まれる大きな駅周辺の主要道路の歩道に点字ブロックを敷設する等が考えられる。
  • 障害がある人にとって障壁となっていることに対し、その障壁を除去又は緩和するために、一般的に有効と考えられる手段等を提供することを合理的配慮としてはどうか。
  • 配慮の内容については、障害のある人が障害のない人と同じように生活するための配慮や工夫について、障害のある人の生活に関わる主な分野(例:福祉サービス、医療、教育、雇用など)ごとに想定される事例を記載すべきではないか。
  • 車いす使用の障害児が普通学校に就学を希望する場合の学校の段差解消などが合理的配慮と考える。
  • 誰の視点からみて「必要かつ合理的」な配慮と判断するのか明確にすべきではないか。
  • 一律に判断することが困難であると考えられ、事例等の積み重ねが必要であると考える。
  • 内閣府の「障害を理由とする差別解消の推進に関する法律Q&A集」問11-4によると、既存の法令に基づく「事前的改善措置」については、法第5条の規定に位置付けられるとのことであるが、既存法令での取り組み対象外(規模要件、施設区分、既存施設など)における配慮の合理性について、過重なものとならないよう、緩和要件や経過措置を具体的に定めるべきと考える。

質問・疑義

  • 相談対応や行政サービスの提供にあたり、筆談や読み上げ等の配慮は可能であるが、手話通訳が必要な場合は、すべての部署において手話通訳が常時対応可能な状態にあるわけでないため、後日の対応を要請せざるを得ないケースもあり得るが、そのような対応も、「合理的」な配慮として考えて差し支えないか。
  • 障害者にも教育の機会を提供している大学等において、学生である障害者の学内移動へのサポート体制などを整えてない場合なども、差別的取扱いに該当するか。
  • 取組が遅れているローカル放送の字幕付与を合理的配慮を理由に求めることができるのか。

条例の規定または解釈との関係

  • 千葉県条例の解釈指針においては8つの分野(福祉サービス、医療、商品及びサービスの提供、労働者の雇用、教育、建物及び公共交通機関、不動産の取引、情報の提供等)において、合理的な配慮に基づく措置の例を示している。
  • 長崎県条例における「合理的配慮」については、「障害のある人の求め又はその家族等の求め(障害のある人がその意思の表明を行うことが困難である場合に限る。)に応じて、障害のある人が障害のない人と同等の権利を行使するため又は障害のない人と同等の機会及び待遇を確保するために必要かつ適切な現状の変更又は調整を行うこと」と規定している。

川﨑洋子委員

 基本的には個人に対しての配慮であるから、その個人の思いが十分に伝わるように寄り添うような支援が必要である。障害特性を十分に理解した上での配慮が必要。相談窓口で、精神障害者は話が長いといって相談時間を30分などと決めているところがあるが、精神障害の特性を無視しており、配慮が求められる。

北野誠一委員

合理的配慮の一般的な内容については以下の2つが想定される。

① その障害者の社会参加を可能とする、事前措置としてのバリアフリー環境(情報環境を含む)を超えた個別的な環境調整・変更と特別な支援

② その障害者の社会参加を可能とする、通例の基準・手順に対する個別的な調整・変更

 合理的配慮が請求される場合は、その社会参加に関連する法的主体に対して、障害者本人及び支援者(家族を含む)がその提供を請求した場合である。本人が希望しない合理的配慮を関係者は強制できないが、それが、本人や他の市民・関係者の安全等のために必要不可欠の場合には、その限りではない。

後藤芳一委員

(1) 合理的配慮は、その事前的な改善措置である環境整備と相まって効果を発揮します。換言すれば、環境整備が遅れていると合理的配慮に担わせる負担が大きくなります。それによって「過重な負担」になることも考えられます。それを定義どおり運用すると、合理的配慮部分のみをみて瑕疵がない場合でも、結果としてアクセシビリティの谷間を生む恐れがあります。事情の如何に関わらず、求められるのは、切れ目のないアクセシビリティと考えます。よって、切れ目が生じる恐れのある場合には、環境整備と合理的配慮のいずれに課題があるのかを明らかにして、埋める方策を講じる必要があると考えます。

(2) 情報アクセシビリティは、ICT(情報通信技術)が発達し、医療・教育・雇用等広範な分野で積極活用されている現在は、本来は、合理的配慮の前段階である環境整備に含まれ、例外規定である過重な負担の議論の対象ではないと考えます。

(3) ただ、現状を考えると、合理的配慮を実効あるものにするため、分野横断の原則として情報アクセシビリティの向上を総則的に位置づけていただきたく思います。
【根拠】
① 障害者権利条約では、前文の(v)や第九条において、「物理的環境」と「情報通信」が同列に書かれています。
② 本来、物理的環境と情報通信は、事前的改善措置である環境整備として合わせて位置づけられるべきところ、差別解消法第5条には、「施設の構造の改善及び設備の整備」しか書かれていません。
③ 建築物や交通機関はバリアフリー法で取組みが進められていますが、情報通信には法律がない現状では、差別解消法が権利条約への対応の役割を担うことが求められます。
④ 差別解消法が施行される3年後には、遠隔医療が広がり病院通院の形が変化している可能性があり、デジタル教科書の出現で教育現場も変わっていることが予想されます。新たな支援機器が開発され、障害者の働く環境や情報保障の方式も一変している可能性があります。
⑤ 今後一層、ICTの活用は広い分野に広がると予想しますので、医療、教育、雇用という分野別にではなく、分野横断的な基本的方向としてアクセシビリティ向上が組み込まれることが必要と考えます。

(4) 例えば、行政機関及び事業者が提供する製品・サービスに関して、合理的配慮の条件を定めた国際・国内標準が存在する場合、国際・国内標準に適合することが求められます。

新谷友良委員

 一見平等な社会が実は障害を持たない人を基準に設計された社会であり、それ自身が障害のある人にとっては不平等な社会であることが合理的配慮を必要とする背景であり、求められる合理的配慮は、障害を持たない人が享受している役務、機会、権利を障害のある人も同等に享受できる内容なければならない。情報が音声で伝達されることが基準になっている社会は聴覚障害者にとって不平等な(バリアに満ちた)社会である。レストランでメニューに書かれていないサービスがあれば、ウエイターはサービス内容を筆談で説明すべきだし、電車事故の場合、車掌はマイクで伝えるだけでは内容のわからない人がいることを念頭に置き、文字表示の工夫をすべきである。
 留意すべきは、情報・コミュニケーション分野では個別具体的な場合に求められる合理的配慮と多数の人を対象とするバリアフリー対応(基礎的環境整備)とが多くの場合重なることである。聴覚障害者の場合、典型的な人的支援としての手話通訳・要約筆記など(多くの場合、合理的配慮)と同時に、音声情報への字幕表示や騒音の少ない環境準備など多くの人が享受出来るサービス(多くの場合、基礎的環境整備)が、「障害を持たない人が享受している役務、機会、権利を同等に享受する」ために求められる。

関口明彦委員

 あらゆる場合に、もっとも適切な配慮が求められる。具体的には、合理的配慮の性格上、不作為の禁止を求めるものであり、故意及び過失のいずれもが含まれる。故意によるものが想定されているということは、障害者の求めてくる場合があることを前提としており、障害者が合理的配慮を求めてきたのならば、それに応じて合理的配慮がなされるべきである。
 一方で過失の場合がありうるのならば、合理的配慮はある程度前提とされている必要性がでてくる。この場合は、求められるまでもなく合理的配慮となりうる事項を達成させ、常態化していくことになる。
 たとえば、常態化させるべき事項としては、精神障害者の場合、医療の提供に際して拒否権を含む本人に対するインフォームドコンセントを行うこと、会議場に休息可能なスペースを用意することや会議中に会場内での休息を認めることなどが想定される。とりわけ、現代社会の規範上なかなか許容されていない、延滞、遅刻、急遽の退席などが合理的配慮として認められていく場面(学校、一部の職場など)を設定していく必要がある。
 又、精神障害者や中途障害者に対して経済的負担のない就学期限の特別な延長やカリキュラムの柔軟化、相談支援も求められ得る。

竹下義樹委員

  1. 実質的な平等を作り出すための条件。
  2. 実質的な機会を保障するための条件。
  3. 本人の選択を可能にする条件。

田中正博委員

 まず、合理的配慮の発動条件から「本人からの申し出」を削除すべきと考えます。これでは、自ら発語による意思表示が難しい重度知的・発達障害者を「差別」することにつながりかねません。そのことを前提とすると、
-どのような場合については-
 障害者が自ら配慮を求めた場合、もしくは当事者と有識者等によって取りまとめられた「求められる配慮ガイドライン(仮称)」で示された配慮に該当する場合に、
-どのような配慮が-
 障害者が自ら求める配慮、もしくは当事者と有識者等によって取りまとめられた「求められる配慮ガイドライン(仮称)」で示された配慮が求められると考えます。

土本秋夫委員

 「間違った合理的配慮はいらない」
 多目的トイレや札幌市ではノンステップの市電など、行政や民間企業が合理的配慮で作った建物や物は、完成してから実際に使ってみると使いづらいものがあり、基準もバラバラです。
 統一した基準にできるように、完成前に助言ができる人や当事者を派遣する仕組みをつくることが必要だと思います。

中西由起子委員

合理的な配慮についての具体例は以下の通りです。

○ 不特定多数の者が利用する施設(公共交通機関を含む。)を提供するとき

 タクシー、電車、バスなどの乗降で利便を図ること。一般のトイレのドア幅を広げて、車椅子でも利用できるようにすること。電車やバスの行き先表示を文字や音声等により、障害者にとって分かりやすいものにすること。案内表示の文字職と背景のコントラストをつけるなど見やすさに配慮すること。人的案内での対応をおこないすべての障害者が利用しやすくすること。施設内の展示、表示や音声案内などによって視覚障害者が利用しやすくすること。

○ 意思疎通を図るとき及び不特定多数の者に情報を提供するとき

 講演会における手話通訳、要約筆記、点訳、音訳資料の配布を行うこと。政見放送等放送するテレビ番組の字幕をつけること。電話だけではなくFAXでの連絡も可能とすること(不特定多数を前提とした事業者はFAXは必須)。

○ 商品を販売し、又はサービスを提供するとき

 車椅子使用者の手の届かない高いところの商品を代わりに取ること。視覚障害者に商品の説明をすること、障害者が盲導犬や介助犬等と一緒に店に入れるようにすること。適切なコミュニケーション手段(手話・筆談等)を使用できるようにすること。サービスの内容を理解するために必要とする援助者の同行同席を承諾すること。障害のある人がサービスを利用することを容易にするための補助機器及び人的援助を提供すること。サービスの提供に関する運用、方針又は手続が障害のある人に対して相当の不利益を及ぼしている場合において、その不利益を除去するための施策を講じること。

○ 不動産の取引を行うとき

 契約に必要な説明を障害者が理解できる方法で行うこと。不動産を管理する者は、当該不動産の構造又は設備が障害のある人に対して相当の不利益を及ぼしている場合において、その不利益を除去するために必要な範囲で、当該不動産の改造を行うことを承諾し、便宜をはかること。

○ 労働者の募集、採用及び労働条件を決定するとき

 本人に適するようにテーブルやドア、トイレの改造を行うこと。就労時間や日数について調整すること。仕事を行う上で必要な機器を使えること。公的制度を使って職場で介助者がつくことを認めること。職務の遂行にあたり、障害のある人がその内容を理解し、意思疎通・情報伝達することを容易にするため、障害のある人が選択したコミュニケーション手段を用意すること。

○ 医療又はリハビリテーションを提供するとき

 病状の説明やインフォームド・コンセントを適切なコミュニケーション手段、分かりやすい言葉で行うこと。必要な場合に介助者が付き添えること。一般的な治療の方針、治療方法の手段を用いることが、障害のある人に対して不利益を及ぼしている場合において、その不利益を除去するために必要な変更や調整を行うこと。

○ 教育を行うとき

 利用可能な形態の教科書、教材を用いること。障害特性に応じた方法で試験を行うこと。トイレやエレベーターのアクセス化のための改造。校外学習等で本人が活動しやすいような条件を整え、必要な人員の配備、食事や身体介助、通学条件の整備をすること。手話通訳、点字資料を提供すること。

○ 療育を行うとき

 障害のある子どもが利用しやすい環境を作ること。

○ その他社会的障壁となって、障害者に対し日常生活又は社会生活に相当な制限を与えているとき

 劇場などで車いすの座席数を必要に応じて増やしたり、混み合った場合に見えやすい場所に車いすの座席を移したりすること。障害者用の駐車場に一般の人が駐車しないように国民が協力すること、道路の誘導ブロックの上に自転車やものを置かないこと。狭い通路に商品を置かないこと。障害のある人が地域で生活することに正確な知識や理解に基づかずに一方的に反対すること。

中原強委員

 物理的、制度的、文化・情報、意識上の障壁を、その除去を必要としている旨の意思表明がある場合に、障がい者の性別・年齢、障がいの状況に応じた必要かつ合理的な配慮が求められる。
 ただし、知的障がいのある人の場合には自身の意思を表明することが難しい場合もあることから、意思表明には当事者本人の家族や後見人を含めるなど、障がい特性を考慮した対応が望まれる。

花井圭子委員

  1. 障がいのない人々が利用している交通機関、施設、行事・娯楽等の日常生活全般および教育、労働等の社会生活全般への参画が障がいを理由として障がい者にのみ制限、制約および排除をもたらしている場合は、その要因となっている社会的障壁を取り除くために個々の肢体、聴覚、視覚、知的障がい等に応じて必要な配慮を確保することが求められる。(段差解消、文字放送、音声解説等)

藤井克徳委員

● 時間や順番、ルールなどを変えること

(例) 精神障害がある職員の勤務時間を変更し、ラッシュ時に満員電車を利用せずに通勤できるように対応する。

(例2) 点字を使う視覚障害者に対して、点字用紙の提供や例えば試験時間の延長など

(例3) 知的障害がある人に対して、るびをふったりわかりやすい言葉で書いた資料を提供する。

● 設備や施設などの形を変えること

(例) 建物の入口の段差を解消するために、スロープを設置するなど、車いす利用者が容易に建物に入ることができるように対応する。

(例2) 発達障害者のために、他人の視線などをさえぎる空間を用意する。

● 障害の特性に合った補助器具やサービスを提供すること

(例) 視覚障害がある職員が仕事で使うパソコンに音声読み上げソフトを導入し、パソコンを使って仕事ができるようにする。

(例2) 通勤や通学など、障害のない人と平等な機会を提供するための介助等の人的支援

三浦貴子委員

 ①社会的障壁が除去しきれない場合、それを克服あるいは代替できる手段を提供すること(点訳、点訳されていない書面の読み上げ、字幕、手話通訳や要約筆記、筆談準備、録音データの提供または録音の了承、意思疎通支援者の同席、仮名を振った書面の準備など)、②合理的配慮の継続・反復が想定される場合、設備や環境の状態化や実施訓練・マニュアル変更などを行うこと(飲食業や旅客・集客業、劇場などで車いすやストレッチャー使用者スペースを常時確保、または転用可能とするなど)、等。

1-4 合理的配慮については、その実施につき「過重な負担」が生じる場合には、合理的配慮をしなくても良いということになるが、どのような場合に「過重な負担」と考えるのか。その判断要素をどう考えるか。

阿部一彦委員

 Q&A(p19)にも示されているように「過重な負担」として「事業等の規模やその規模からみた負担の程度、財政状況、業務遂行に及ぼす影響」が考えられる。
 部会意見に示されている「合理的配慮の提供に過度の負担が生じる場合には、相手方に当該措置の提供が義務付けられることはないが、措置を求めた障害者の側が事業規模や負担の程度や割合といった情報にアクセスすることは困難であることから、措置を求められた者に立証責任を負わせるなど、立証責任の配分の在り方に配慮する必要がある。(部会意見p27)」という案を支持する。
 ところで、合理的配慮の提供にあたって過重な負担がかからないようにする取り組みも重要である。そのためには、各種職能団体、医学・工学分野を含めたさまざまな応用技術(障害当事者の体験的工夫も含む)が活用できるような環境の整備と民間並びに公的な支援のしくみを構築すべきである。そして、これらの取り組みによってソフト面・ハード面にわたる新しい環境づくり、ひいては誰もが便利な製品・設備づくりにつながることも期待される。

石川准委員

 インクルーシブ教育における障害の特性に応じた教科書の提供を個々の学校が負うべき合理的配慮とするのは過度な負担である。
 したがって障害の特性に応じたアクセシブルな教科書の提供は環境整備で対応しなければならない。
 個々の合理的配慮では対応が難しいが環境整備でなら対応できるものは環境整備で対応していくことを基本方針に明記する。
 合理的配慮で対応するより環境整備で対応するほうが効率的かつ合理的なものは環境整備で対応していくことを基本方針に明記すると同時に、環境整備が整うまでは、個々の現場での合理的配慮の過重な負担を、政府が財政的に補填する時限的施策を行う旨基本方針に明記すべきと考える。

石野富志三郎委員

 手話通訳・要約筆記派遣等の「情報保障」費用や、文字等、視覚によって分かるよう配慮された職場環境整備のためのIT機器の導入費用等の負担があげられますが、情報保障の質・量については、提供側・被提供側とも十分協議をし、一律的でなく、情況に合わせた柔軟な対応をお互いに考えていくべきであると考えます。
 また、「過重な負担」の判断は、誰によって、どのように行われるかを明示すべきです。コミュニケーションが成立するには受益者が双方にあることを理解しておく必要はあります。
 事業者の多くは、財政的な面もあり、合理的配慮が十分に行えない可能性があるため、国からも積極的な支援が必要です。
 合理的配慮の実行には財源が必要不可欠であるため、財源の明記が必要ではないかと考えます。

上野秀樹委員

 権利擁護者を選任する件については、過剰な負担が生じる場合はないものと考えられる。

氏田照子委員

 合理的配慮をすることで財政破たんを招くような大きな経済的負担が生じる場合は、合理的配慮をしないという要因となりますが、その判断要素としては、事業者等の年間コストをベースに限度を設けるなどの基準が必要であると考えます。企業は経済的犠牲と経済的成果によって利益を生み出す組織なので、例えば一過性の設備投資の場合は原価償却を目安とすることなども考えられるのではないかと思います。また、環境整備(物理的な環境整備やジョブコーチやサポーターなど発達障害のある本人の意思や意向の通訳者の配置などの人的な環境整備)についても上限を設けることにより「際限がなくなる」という不安が取り除かれ、合理的配慮の提供がしやすくなるのではないかと考えます。合理的配慮に関する人的な環境整備については、例えば、定期的合理的配慮3者協議(最低月1回。メンバー:職場側、当事者、本人の支援者)の義務付けなども有効であると考えます。

大谷恭子委員

 過重な負担とは,合理的配慮が個別具体的に異なるように,提供を義務付けられたものの性格,例えば個人か公的機関かによっても大きく異なり,また実現するべき権利の内容によっても異なる。
 たとえば,教育においても,義務教育の場合は,学校教育として義務教育を実現するとした行政の責務として,すべての人が等しく就学できるように条件を整備することが義務付けられているのであるから,どんなに障害が重くても合理的配慮が過重な負担とすることは極めて限定的な場合である。

大濱眞委員

 電動車いす使用者が飲食のために特定の店舗に行った場合、オーナーひとり人の小規模店舗であり、なおかつ、その店舗が2階で階段がある時は、店舗のオーナーは断ることができる。
 部会意見にもあるように、

 合理的配慮は個別性の強い概念であり、具体的な場面に即して必要となる措置の内容を判断することが求められる。
 経済的・財政的なコストの面では、相手方の性格(個人か、団体か、公的機関か)、業務の内容、業務の公共性、不特定性、事業規模、その規模から見た負担の割合、技術的困難の度合い等が、判断の要素として考慮されるべきである。

 また、衆議院内閣委員会の附帯決議第4項と参議院内閣委員会の附帯決議第4項では、合理的配慮に関する過重な負担の判断においては、事業者の事業規模、事業規模から見た負担の程度、事業者の財政状況、業務遂行に及ぼす影響等を総合的に考慮することとし、中小零細企業への影響に配慮すること。

尾上浩二委員

○ 物理的に変更が困難な場合

○ 業務の本質的な変更となる場合

〇 事業所の運営・経営を困難にする事情があるとき

 具体的には、その方法以外には方法がなく、かつ、その方法を実施するには、事業者の財政規模からみて負担が過重で、かつ、その負担の過重を相殺するような税の減免制度、あるいは助成金補助金などを、一切活用することができない場合に、はじめて、「『過重な負担』であり提供しかねる」と言える。
 例えば、民間の古い社屋でエレベーターがなく、事業者の財政規模等からエレベーターをつける財源もただちにはなく、2階以上で執務することができない。従って車いす使用者などのエレベーターが欠かせない状況の人を採用することは過重な負担になる、という判断はありえる。
 ただしこの場合も1階の部屋で主要な業務等ができるように環境を変更するなど、他の方法での調整の可能性を検討することが前提として必要である。
 また、官庁や学校など公共の建物は、幅広い市民の利用という観点からも、エレベーターやスロープや車いすで使用できるトイレ、視聴覚障害者にも使える緊急時の情報伝達装備などあらかじめ整備しておくのが当然との考え方で取り組む必要がある。災害時の避難所にもなることから必須である。

嘉田由紀子委員

 以下の意見については、全国知事会内で社会保障常任委員会構成自治体および差別禁止・解消に関する条例の制定自治体に意見照会を行った回答をもとに、委員として作成したものであり、全都道府県の総意として取りまとめたものではありません。

意見・考え方・想定事例

  • 個々の事案において「変更及び調整」を行う主体にとっての負担という観点から判断されるものであり、経済的・財政的なコスト面(相手方の性格、業務の内容、業務の公共性、不特定性、事業規模、その規模から見た負担の割合、技術的困難の度合い等)及び業務遂行に及ぼす影響面(合理的配慮の提供により、業務遂行に著しい支障が生じるのか、提供される機会やサービス等の本質が損なわれるのか等)について十分検討することが重要であると考えている。
     また、「過重な負担」の説明責任は、「変更及び調整」を行う主体にあるものと考えている。
  • 社会通念上相当と認められる程度を超えた人的、物的、経済的負担その他過重な負担を課すと認められる場合が「過重な負担」に該当すると考えられる。判断要素としては、業務の内容、業務の公共性、不特定性、事業規模、負担程度・割合、技術的困難度、業務遂行への影響等が考えられる。
  • 事業規模、事業規模からみた負担の程度、事業者の財政状況、事業遂行に及ぼす影響等を考慮すべきものと考えるが、判断要素としては、社会通念上相当と認められる範囲を超えたものであって、個々の事例によって判断することとなることから、過重負担の判断が容易にできる具体的な基準が必要ではないか。
  • 「時間的な対応可能性」も判断要素の一つと考える。例えば、申し込み不要の説明会やセミナー等で当日や数日前に手話通訳を求められても手配困難な時もあるのではないか。
  • 「代替措置の有無」も判断要素の一つとして考えられるのではないか。例えば、「段差の解消のための渡し板」を常備しなくても何人かで車椅子を抱えるなどの代替措置によって対応可能な場合など。
  • 点字文書を用意することを求められた場合、必要とされるすべての文書について対応することは費用面でも時間面でも「過重な負担」が生じると考えられ、その抜粋や概要のみの作成で対応することが合理的と言えるのでないか。
  • 同じ業務内容、事業規模等であっても、地域特性により困難な度合いに差が生じることは明らかであり、判断要素を示すにあたっては、都市規模や都市化の程度などを含めて明示し、安易に「地域の実情に応じた判断」に委ねることを避けるべきではないか。
  • 措置を求められた者に立証責任を負わせる場合、過度に事業者等に負担を求めるのではなく、立証責任配分に資するよう具体的な判断要素を示す必要がある。
  • 各自治体や企業の財政規模や状況などにより「過重な負担」の判断が異ならないように、①県民と接する機会の多い職員への研修などの自治体が行う人材養成への支援、②省庁をまたぐような制度間の調整、③社会的障壁の除去を行う自治体や企業に対する財政的な支援などを図る必要があり、そのことも基本方針に明記すべきではないか。

質問・疑義

  • 障害者総合支援法の地域生活支援事業に係るサービスは統合補助金に基づいて財源措置が行われているが、国から十分な財源措置が担保されていない。このような中で、財政状況を理由に合理的配慮を行わないことは、「過重な負担」が生じる場合と言えるのか。また、このようなことが生じないような交付税措置を含めた財源措置を行うことが必要ではないか。

条例の規定または解釈との関係

  •  千葉県条例においては、社会通念上相当と認められる範囲を超えた人的、物的及び経済的負担が生じる場合を「過度の負担」としている。
     また、千葉県条例の解釈指針において、過重な負担であるかどうかの判断要素としては、①当該措置の実現可能性、②当該措置を課する場合に必要とされる費用、及び当該費用を支出することによる事業等への影響、③事業主等の資産規模、④当該措置を講じることによって事業主等が利用できる財政的又はその他の支援等を考慮することとしている。

川﨑洋子委員

 「過重な負担」の判断は、第三者機関により客観的にされるべきである。
 雇用の場における精神障害に関しては、支援者の充実が図られるべきであるが、中小事業所では費用面で「過度な負担」となるケースが多くなる。
 事業所の運営のあり方などを第三者機関の介入により調査し、「過度な負担」とされた場合は、公的資金の在り方も検討されるべきではないか。

北野誠一委員

 過度の負担とは、一般的には、その負担を負う法的主体の社会的活動を一定以上制約してしまう負担を言う。それはその結果として、その障害者の社会参加を制約してしまうことになるので、それが過度の負担であるかどうかの立証責任は、法的主体に負わせることが望ましい。
 法的主体の責任についての認識を高めるだけでなく、国による各種のサポートが求められる。

清原慶子委員

  • 地方公共団体としては、財政的な負担、人的な負担(対応に必要な人数や時間など)が過重とならないよう、具体的な事例をもとに検討を進めていただきたい。

後藤芳一委員

(1) 配慮することが大きな経済的負担を必要とし、配慮したことがもたらす経済的な効果を上回る場合を「過重な負担」とすべきと考えます。
 注:「過重な負担」の場合に配慮が難しいというのはやむを得ないとして、その際に「配慮」という言葉を使うべきであり、「合理的な配慮」という言葉は費用対効果が確保できる場合に使うべき。「過重な負担」が生じるので「「配慮」しなくてもよいようなものを「合理的配慮」と呼ぶのは、用語・用法として問題があると思われます(次項(2)に記載)。

(2) 権利条約にいう合理的配慮は、「不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう」と定義されています(権利条約第2条)。一方、差別解消法では、「負担が過重でないときは…(中略)…合理的な配慮を行う」(差別解消法第7条第2項、同第8条第2項)としています。
 差別解消法にいう「合理的な配慮」は、権利条約を踏まえたものとされています(内閣府Q/A 問10-7)が、用語の定義が同じとすれば、差別解消法では、2重に過重な負担の場合の免責がかけられていることになります。

(3) 過重な負担の例としては、視覚障害者を航空管制官として採用するため管制塔の機器をすべて入れ替える、聴覚障害者をピアノの調律師として職業訓練する等(そのような水準の達成困難さなものだけ)にすべきと考えます。

佐藤久夫委員

 この法律は、障害者が平等な市民として社会参加できるようにすること(共生社会の実現)が目的であり、そのために合理的配慮をすることは行政・事業者の義務であるとする。したがって行政機関・事業者は「自分の努力と責任」で合理的配慮を提供することが求められている。
 しかし同時に国の助成制度や診療報酬制度上の配慮などがあれば、行政機関や事業者の「負担」が軽くなる。したがってどこまでが「現場」の責任で、どこまでが制度やシステムの責任であるかは判断が難しい。
 「過重な負担」かどうかは現状の助成制度を前提に判断することとし、しかし同時に、「過重な負担」であるとして必要な合理的な配慮が提供されなかった事例を集積して、助成制度やシステムの改善に反映させるメカニズムも構築したい。

新谷友良委員

以下の部会意見を支持する。

 合理的配慮は相手側の負担でその実施を求めるものであるが、無制限の負担を求めるものではない。障害者権利条約においても、合理的配慮の定義において「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」であることを求めている。
 過度の負担であるかどうかの判断に当たっては、経済的・財政的なコストの他に業務遂行に及ぼす影響等を考慮する必要がある。経済的・財政的なコストの面では、相手方(合理的配慮を提供する側)の性格(個人か、団体か、公的機関か)、業務の内容、業務の公共性、不特定性、事業規模、その規模から見た負担の割合、技術的困難の度合い等が、判断の要素として考慮されるべきである。
 業務遂行に及ぼす影響の面では、合理的配慮の提供により、業務遂行に著しい支障が生じるのか、提供される機会やサービス等の本質が損なわれるかどうかが判断されなければならない。
 合理的配慮の提供に過度の負担が生じる場合には、相手方に当該措置の提供が義務付けられることはないが、措置を求めた障害者の側が事業規模や負担の程度や割合といった情報にアクセスすることは困難であることから、措置を求められた者に立証責任を負わせるなど、立証責任の配分の在り方に配慮する必要がある。

関口明彦委員

 質問の文脈では、合理的配慮を拒む口実を規定するような構成になっている。だが、合理的配慮とは、その実施につき「過重な負担」が生じる場合に合理的配慮をしなくても良いとするものではない。「過重な負担」が生じるために合理的配慮の提供がなされなかったとしても法律上の障害に基づく差別に該当しないというものである。そのため、公然と合理的配慮を拒絶する口実をあらかじめ規定できるものと考えられるべきではない。よって「過重な負担」に該当する場合を事前に設定するという観点ではなく、法律上の障害に基づく差別に該当しない理論構成がいかにして可能になるかを先んじて示す程度にとどめるべきである。
 それを示すとしたら、まず合理的配慮とは、不作為責任を問うものであり、故意及び過失のいずれもが含まれるものであることを確認しておく。合理的配慮は、やれることはやる、という観点に立つため、やれないことまでは強要しない。すなわち、やらないのとやれないのは異なるため、やらない場合は障害に基づく差別となる。問題は、やれないことの範囲である。やれないことの範囲は、合理的配慮をする側の潜在能力とその地域社会の潜在能力との関係の相互作用によって決定づけられる。このことは、単に財産上の制約を理由とした合理的配慮の拒絶を禁じるものである。というのは、潜在能力概念によると、活用可能な資源は単に金銭にだけ還元されなくなるため、あらゆる要素の活用が検討されなければならなくなる。そして、いかなる方法でも合理的配慮ができない場合においてのみ、やむを得ず社会秩序の均衡を優先して、法律に基づく差別として責務の範囲から例外的に除外するものである(補充不可能な場合のみ除外)。
 例えば、貧困状態にあるビルオーナーに対して車椅子利用者がスロープの設置を求めたとする。その場合、単に財産上の理由で合理的配慮をしないものと考えられるべきではない。そのオーナーは、少ないなりにビルの経営によって利益を得ているわけであり、最低でも、車椅子利用者を求めるフロアまで運ぶ責務までは合理的配慮としてなされなければならないのである。この将来にわたる労働力に対して、スロープの設置が結果的に安いと判断するならば、スロープの設置がなされるはずである。また、ビルの建築段階でそのような労働力を縮減するようなビルの設定にしなかったという行為は、ビルのオーナー自身が選んだ事柄であり、その過失によって後にスロープを設置する費用が生じたとしても、それは障害者側が負うべきではなく、ビルのオーナーが負うべきである。逆にスロープが設置されたビルの設計に基づく建設費用とスロープが設置されていないビルの設計に基づく建築費用との間の差はおよそ過重とはいえないため、過重な負担とはならない。
 また、某大学では、学生による騒音を懸念する近隣住民との関係を重視し、二名以上一緒に路上を歩行してはならない取り決めを大学当局と住民自治会との間で取り交わしている。しかし、ガイドヘルパーを利用する障害者の歩行を禁じることは、大学当局、近隣住民ともにあらゆる方策をもって実現不可能な場合にのみ「過重な負担」と位置付けられなければならない。そのような場合は、配慮の試行によっても不可能であったということが一定程度挙証された上でしか合理的配慮が免責されるとはいえない。
 このように個別性の高い合理的配慮の中身を一律的に定めて免責の中身を規定するのは困難ではあるが、ここで示される最低限の要件は、「過重な負担」とは、あらゆる方法が試されても尚、やれないような場合の例外として限定されるものである。そのため、公然と合理的配慮の拒絶を正当化するものではない。
 国権による自由剥奪、選挙権被選挙権、政治活動、医療においては「加重な負担」の抗弁は認めがたい。
 分野別、場面別に一定の基準をもうけ、判断要素を考える必要がある。

竹下義樹委員

  1. 経済的負担が社会通念から見て不相当な場合。
  2. 実現すべき結果がより簡便ないし安価な方法で実現できる場合。
  3. 求められる結果が役務ないし商品の本質を変じてしまう場合。

田中正博委員

 「過重な負担」を考える際の判断要素としては、以下の要素が考えられます。
 障害者が他の者との公平性を可能にする際に時間と経費に関しては無頓着では済まされない面について、一定のガイドラインを設けてそれに基づいて協議できる体制を自治体毎の協議会などで調整をしていく方法が必要と考えます。
 項目としては、金銭的に負担が過剰ではないか?人員的な負担が過度ではないか?時間をかけ過ぎてはいないかと言った事が考えられます。精神的な負担に関しては、事例などを通して実態の理解から求めて行く必要があると考えます。

土本秋夫委員

1-2と同じ意見です。

 たとえば、駐車場がない小さなお店に駐車場を作ってほしいといってもお店を半分つぶす必要があるので、お店の経営を続けていけない。
 など、相手の生活や経営が成り立たなくなるような場合が、過重な負担の正当な理由だと考えられる。

中西由起子委員

合理的配慮の規準については以下の通り。

  • 合理的配慮を行うに当たって、本来業務を遂行できなくなったり、困難に陥るような場合には、合理的配慮を実施しなくてもよいと、障害者差別解消支援地域協議会の裁定がなされる事。
  • 合理的配慮の欠如を理由に就労、商品の販売、就学を断る場合は、合理的配慮を行うべき事を障害者側が立証責任を負うことは許されない。事業者側に差別をやむをえず行う事を立証する責任を負わせる。
  • 行政サービスにおいては、財政的理由によって合理的配慮の欠如や差別を行っているという論法は使えない。
  • 上記事業実施のために過剰な負担が市町村に負わされると予想される場合には、国が補助金を交付して差別の解消を早急に実現させなければならない。

中原強委員

 事業者の場合、事業の規模からみた負担の程度、事業者の財政状況等の他、業務に及ぼす影響(業務遂行に著しい支障が生じていないか、提供される機会やサービス等の本質が損なわれないか)などを含めて総合的に判断されることによる。

 具体的には、
① 多大な財政的負担の発生が見込まれるとき
② 医療に対応できない施設での医療的ケアの必要な方の受け入れ
③ 職員の突発的不足(病気等の発生)の際の受け入れ

 しかし、判断要素となる基準が曖昧なために、合理的配慮が提供されないことの口実となるおそれがあるため、配慮に要する経費等の交付金(助成金等)の仕組みを制度化していくことも必要である。

花井圭子委員

  1. 合理的配慮を提供する立場の事業者等にあって、その提供に係る負担が、当該事業所の設備・構造により困難な場合が「過重な負担」と思われるが、それは提供する合理的配慮の内容と当該事業者等の状況や具体的な対応策等、個別に判断されるものである。
  2. その判断にあたっては、個別状況を勘案しながらも判断基準を明確にしなければ、社会的な公平性や納得性を確保することが、困難であり、ひいては、合理的配慮の必要性の周知を阻害することも懸念される。
  3. したがって、どのような基準から「過重な負担」の可否を判断するかを明確にするための仕組みや考え方を検討・整理することが必要と思われる。(紛争解決、調停・調整機能とも関係するのではないか)

藤井克徳委員

● 会社経営に影響を及ぼすような経済的に大きな負担が強いられる場合

● 業務の本質を変更せざるを得ない方法しかない場合

三浦貴子委員

 ①財政規模や経済的負担に鑑みて、不相応に設置・維持経費が嵩む場合、②合理的配慮を必要としない他者との著しい不均衡が生じる場合や、他者に不利益が生じる場合、③合理的配慮を講ずるために必要な最低限の情報(障害の状況や配慮してほしい方法・範囲など)の説明を、本人や家族・支援者が拒む場合(予測不可能)、④社会的障壁の除去・解消・軽減が見込める対応以上に配慮を求められ、それが実行不可能な場合、等。

1-5 各行政機関等及び事業者において、障害を理由とする差別を解消するための取組として望まれる取組(職員・従業員の研修、相談・紛争処理体制の在り方など)はどのようなものがあるか。

阿部一彦委員

 障害及び障害理解に関する研修・啓発においては、これまで様々な体験を積み重ねてきた障害当事者(団体)が関与できるようにすることが重要である。また、研修は十分な時間をかけて、障害特性、ニーズの理解を深めることができるように配慮し、定期的に行うべきである。
 また、相談、紛争処理体制についても障害当事者(団体)が参加できるような体制のもとに、障害者の申し立てをもとに改善を図ることができるようにすべきである。

石川准委員

 障害平等研修を実施する
 各プロセスへの当事者参加

石野富志三郎委員

① 職員を対象とした研修において、「情報保障」が聴覚障害者にとって、いかに重要であるかを理解してもらうためにも、聴覚障害の特性について、ガイドラインやマニュアル、研修等にて学習する必要性があります。

② 相談支援体制においては、コミュニケーション不足・情報不足によって、人間関係での問題が発生した場合に備え、あらゆる権限から独立した第三者的な相談支援機関(聴覚障害者情報提供施設等)を設置し、その機関との連携が必要ではないかと考えます。

③ 国の責任において、障害者の差別事例の収集と分析が必要です。全日本ろうあ連盟では、手話を巡る差別事例の全国調査を行っており、1,200件余りの事例を把握しています。こういった事例を収集・分析・公開することによって、差別の基準が共有化されていくはずです。

上野秀樹委員

 精神障害に対する正しい知識の研修、啓発活動がきわめて大切である。特にポジティブな啓発が大切であろう。
 精神障害者の精神症状は、環境的な要因を受けやすい。たとえ重度の精神障害があろうとも障害を受け入れるあたたかい社会があれば、重度の精神障害があっても、普通に社会生活を送り、いろいろな新たな価値を生み出す存在として社会で生きていくことが可能になる。そうした当事者を中心としたポジティブなキャンペーンが必要である。

氏田照子委員

 職員・従業員の研修、相談・紛争処理体制の整備はもちろんのこと、当事者の方々が、意見を表明していくことのセルフアドボカシーの支援、代弁の支援のあり方も重要となりますが、この分野の取り組みが非常に遅れているので緊急で取り組む必要があると考えます。

大谷恭子委員

(研修)

 各行政機関及び事業者がこれからは普段に障害者と関わることがあるのだということを自覚し,障害者は特別な存在ではなく社会の一員であるということの認識を持てるような研修が必要である。それは障害者の「専門家」を育てるのではなく,普通の職務の中に,必ず障害を持った人がいて,その人に対しても通常業務として対応するための研修である。例えば教育においても,今までは小中学校には障害者が原則としていないことになっていたが,これからは障害者も就学してくるのだということの前提に立ち,障害のない子と同じくどんな子にも教育できるような研修をするべきである。

(相談・紛争解決体制等)

 今回の差別解消法では独自に救済機関を設けず,既存のものを利用して解決を図るべきとしているが既存のものでは不十分である。特に教育については現在その機関が存在しないのであるから,新たに障害当事者の立場に立った相談及び紛争処理体制を設けることが望まれる。そのためには障害者差別解消地域協議会を活用することも視野に入れるべきである。

大濱眞委員

 各行政機関等及び事業者においては、内部での差別事例検証や障害当事者にどのような差別を体験してきたかヒアリングをする等の差別に対する意識改革をする必要がある。小規模な事業者に対しては、公的な研修等の支援が必要であろう。
 また身近な相談、苦情処理機関等を通じて内部での自主的な解決を促す、ここで解決しないときは行政型裁判外紛争解決制度、司法判断となろう。

尾上浩二委員

○ 採用段階から(また、その後も必要に応じて)ニーズを出していきやすいリクエストシートを用意すること。そして障害者本人と関係者が相互に対等に十分に時間をかけて話し合える関係を築きながら、ハードとソフトの環境の整備を進めること

○ 管理者及び職員(従業員)に対する研修については、障害当事者を講師に含むこと。その際、相談や紛争解決の経験を積んできた当事者が講師になるとともに、一方で具体的な課題を共有する観点から現に採用されている障害労働者も講師に含むこと

○ 一定規模をこえる職場では現場コーディネーターをおいてコーディネーターが重点的な研修学習討論機会をもてるようにすること。

○ 相談・紛争解決のための担当者・窓口、労働組合等も含めた協議機関の設置

〇 差別事例や関連するデータの収集就学就業など

(参考)現場コーディネーターとその研修、リクエストシートの実例については、米国ADA法とその運用の先例について「季刊福祉労働」130号(現代書館)に詳細の記事がある。

嘉田由紀子委員

 以下の意見については、全国知事会内で社会保障常任委員会構成自治体および差別禁止・解消に関する条例の制定自治体に意見照会を行った回答をもとに、委員として作成したものであり、全都道府県の総意として取りまとめたものではありません。

意見・考え方

○ 職員・従業員の研修

  • 差別に関する事例集等を用いた職員に対する研修・啓発が必要ではないか。
  • 差別の解消に向けた好事例についての研修会の開催が必要ではないか。
  • 事業者向けリーダー研修や普及啓発セミナー、障害のある人の体験談発表等の研修会の開催が必要ではないか。
  • 県民と接する機会の多い全ての部局において、この法律が適切に運用されるよう、自治体が実施する職員研修や周知・啓発への支援が必要ではないか。
  • 独自の対応方針の作成(職員研修計画や差別解消計画)が必要ではないか。
  • 差別解消法の趣旨から国として事業者向けの研修の実施が必要ではないか。同様に現在未実施の障害者虐待防止法における事業者向けの研修も国として実施することが望まれる。

○ 啓発

  • 広島県など複数の県で共同して取り組まれている「あいサポート運動」のように地域や企業も含めた差別解消にも役立つ啓発運動を展開することが望まれる。
  • 国民の十分な理解の下、実効性のある法律の運用のためには、障害者当事者のみならず、法の施行により義務等を課される事業者等からの理解を得ることが重要であり、一般国民に対して十分な周知活動を行うことが必要ではないか。
  • 障害者本人及びその家族等向けの障害者差別に関する知識を学ぶ機会の確保、一般県民向けのシンポジウム・研修会、障害のある人とない人との交流の場などのイベントの開催が必要ではないか。
  • 小学校・中学校等児童生徒向けの学習の機会、園児から高校生を対象とした障害のある人との交流・共同学習の実施、教職員を対象とした障害理解のための研修会や障害福祉サービス事業所での実習など教育現場における対応も必要ではないか。
  • 幅広い層を対象とした広報・啓発資料の作成が必要ではないか。

○ 相談・紛争処理体制

  • 相談・紛争処理にあたっては、これまでの法務局や人権擁護委員のノウハウを活かすため、これらの機関が地域協議会の中核機関として参加することが求められると考える。
  • 行政措置の権限を有する機関との連携体制の構築が必要ではないか。
  • 対応職員の確保及びその確保に資する研修機会の確保が必要ではないか。

条例の規定または解釈との関係

  • 千葉県では条例に基づき、
    ① 個別事案の解決のため、県内16各圏域に配置している広域専門指導員や市町村ごとに委託している地域相談員が相談・紛争解決のための業務にあたる。
    ② ①において解決が困難な場合には、関係者の申し立てにより、専門的かつ第三者的立場である調整委員会が問題の解決にあたることとしている。
    ③ また個別事案などの背景に制度や慣習・慣行などがあり、構造的に繰り返される問題には、関係者による協議を行う場として推進会議を設置している。
    といった取組を行っている。

川﨑洋子委員

 研修としては、啓発活動として障害理解のための研修会、勉強会を開く。その時には当事者、家族などの体験など意見を聴くようにする。
 相談、紛争処理体制としては、身近かなところで行われることがたいせつで、体制作りとして、事業所内部体制を充実させ、また、外部支援体制と連携をとることが必要である。

北野誠一委員

① 人権研修について

 一般的な講義形式の人権研修は効果があがっていない。
 地域構成員・公務員・従業員等のそれぞれに立場で遭遇しやすい改善事例(グッド・プラクティス)について、ICFでいう障害者の社会参加阻害的環境因子としての差別・偏見的対応と、障害者の社会参加促進的環境因子としての共感的・支持的対応についての、自分自身の理解を深めることが可能な、グループワーク的な研修が求められる。

② 相談・紛争処理体制の在り方ついて

 現在、わが国では、人権擁護の関する、相談支援の仕組みがきわめて希薄である。
 地域に存在する人権擁護委員は、その専門性も権限も弱く、一般市民に浸透していない。
 障害者の差別・偏見に対する様々な相談支援が、一般的な相談支援機関になじむのか、それとも障害者専門の相談支援機関が必要なのかについては、各国において、様々な仕組みが構築されている。
 例えばアメリカのシステムを考えても、雇用・就労に関する差別相談支援は、全般的な雇用・就労差別に関するEEOC(雇用機会平等委員会)で対応しているが、EEOCは、1990年のADA制定後、障害者雇用についての差別や合理的配慮と過剰な負担についての一定の共通見解を擁したスタッフ体制を確立するまで10年以上を要している。つまりは差別が生じる分野ごとの専門性と、障害者の特性に応じた専門性との両者の接点に、必要な相談支援が実質機能することになる。
 一方カナダ各州においては、差別全般に対応する相談支援や紛争解決の仕組みとしてHRT(人権委員会)が存在するが、かつてはその相談の半数を占める障害者の差別に対する対応能力、なかんずく合理的配慮の不提供についての専門的判断に弱点があったと言われている。
 わが国においては、差別全般に対応する相談支援や紛争解決の仕組みは存在しない。障害者の差別に対する相談支援体制については、雇用・就労については、一般的な労使関係の紛争に関する相談支援や紛争解決の仕組みは存在するものの、性別・年齢・出自・障害といった雇用差別全般にわたるEEOCのような相談支援と紛争解決の仕組みをいまだ持っていない。
 わが国においては、まさにこれからそのような仕組みを構築してゆく訳であるが、3つ提案しておきたい。
 1つ目は、ともかく当事者の立場に立って、本人の侵害された思いを聞き、その問題を整理し、不服申し立てをサポートする公立民営を問わない権利擁護機関が必要である。
 2つ目は、本人と相手方の双方の権利性と主張を踏まえて、その状況が有する差別性について調査検討し、第3者として中立公正な判断を行う一定の権限を有する準司法的機関が必要である。
 3つ目は、1つ目や2つ目の機関、あるいは本人や支援者や相手方が、その問題を明確にし、様々な偏見を取り除き、各種の専門的・機能的支援が得られる情報提供機関を構築することである。例えば、バリアフリーに関するUSAB(アメリカアクセスボード http://www.access-board.gov/)や障害者雇用の合理的配慮に関するJAN(合理的配慮ネットワークhttp://askjan.org/)のような、様々な障害特性に応じた対応が可能な専門的情報提供機関が不可欠である。

清原慶子委員

  • 職員研修の実施にあたっては、法の趣旨・基本的な考え方等を説明した後、地域内の障がい者支援施設のスタッフ及び当事者等をメンバーに加えてワークショップを行うなど、より具体的な内容理解につながる研修が好ましい。また、地域、施設等をまわり、実地で理解を深める取り組みも考えられる。

後藤芳一委員

(1) 差別を解消するための取組は、計画・実施・評価・改善の周期で恒常的に展開することによって、持続的に向上させる必要があると考えます。

(2) 差別を解消するための取り組みは、行政や事業者のみならず、障害のある人自身が、差別を解消できるための取り組みも必要と考えます。
例1:
何が差別に当たるか、またどのような合理的配慮を必要とするか、解消法が施行された後も変わりゆく状況に応じて、いろいろな媒体を通じて、思うことを発信、伝えていく必要があります。
例2:
行政や事業者が行う研修に、障害がある人が講師として協力する。

新谷友良委員

 現在、一定規模の事業体に於いては、階層別・職種別の従業員研修で「情報管理・環境管理・労務管理(人事処遇・ハラスメント相談など)」などの研修が行われている。差別が起こる現場での差別に関する意識向上や差別解消への取り組みが障害者差別解消の原点に据えられるべきで、行政機関・事業者での研修のテーマとして「障害を理由とする差別」を積極的に取り入れるよう基本方針に明記すべきである。また、行政機関・事業者内の職制を超えた相談部門での「障害に基づく差別」に対する相談機能を強化し、事案によっては当該職場の関係者へのヒアリングを実施するなど、行政機関・事業者内での差別解消の取組みを実質化すべきである。

関口明彦委員

 アドボケイト体制を創ること。千葉県条例では窓口への訴えは精神障害者が一番多いが手続きにまでのらない事例が多い。これはしっぺ返しや迫害を恐れての泣き寝入りと言うことがある。その為当事者の側に立つアドボケイトもしくはアドボケイト組織が前提されなければ意味がない。
 精神障害者への差別解消の取組みとしての研修については、講師として精神保健福祉士や精神科医といった専門家を採用するでは、従来の問題との間に有意な差は認められない。そのため、精神障害者の差別解消に向けては、精神障害者団体が発行する参考書に基づき、精神障害者を講師として採用するよう努められなければならない。
 なお、労働現場においては労働組合自身による研修も必要となる。
 こうした参考書の策定のためには、内閣府の指針に加えて、個別的な参考書を作成するための予算を必要とする。

竹下義樹委員

  1. 広報、啓発。
  2. 交流の場の設定。
  3. 提供者による障害者のニーズや希望、改善に関するヒアリング。
  4. 紛争(苦情)の受付機関の設置。
  5. 提供者、利用者、中立機関によって構成された懇談会の設置。
  6. 個別紛争機関の設置と解決の公表。

田中正博委員

以下の取組みが考えられます。

  • 当事者団体等と協働した「差別事例(いやな思いをした事例)」の収集
  • 対応指針やガイドラインを用いた内部研修
  • 障害福祉担当窓口における「差別相談受付票」などの整備
  • 差別相談受付担当者、対応責任者の明確化
  • 各法制度における紛争解決機関との連携

 なお、「差別」や「合理的配慮」について、すべての知的障害者が自ら受けた厚意を分類できるわけではなく、人によっては「嫌だったこと」として認識し、相談に訪れることも考えられます。「嫌だったこと」の中には、福祉サービス事業者や学校、職場、家族などの不適切な対応や、虐待的な要素をもつ行為など多様な事象が含まれる可能性があります。差別相談窓口は、「差別」や「合理的配慮」ではないからと対応しないのではなく、相談支援事業所や虐待防止センター、他の行政窓口につなぐなど柔軟な対応を行うべきと考えます。

土本秋夫委員

  • 研修を行う時は、相手の立場にたってみる体験があるといい。たとえば、ホテルで視覚障がいの人がいけるバイキングがあるが、アイマスクをして目の見えない人の状態を体験する。
    車いすの目線に料理があるかなど。
  • 差別なのかどうか質問することろや差別を受けた時に相談できる場所が大切です。 でも、「相談の窓口がわからない」「相談を受ける側は、障がいに対しての理解がない」「相談を受ける態度が悪い」という問題があります。
    相談を受ける研修や経験がある当事者を置くこと、その役割を第3者委員会にもってもらうことがいいと思います。

中西由起子委員

  • 市役所の全課長対象の差別解消法の説明会の開催、全職員に対する研修会の開催
  • 公共交通機関事業者(電車、バス、タクシー等)の継続的な新人職員研修会の開催
  • 商店の従業員に対する合理的配慮の説明会の開催
  • 市民対象の差別解消法の公開セミナーの開催
  • 警察官、消防署職員に対する研修セミナー
  • 学校教育者や、保護者を対象とした差別解消法セミナーの開催
  • 病院や施設の職員に対する差別解消法説明セミナーの開催
  • 障害者相談支援事業者に対する紛争解決処理方法に関するセミナー

中原強委員

職員・従業員の研修

① 権利擁護研修の義務化
② 障がい特性理解のスキルアップ研修
③ 障がい者施設(入所施設等)での体験型研修(体験型研修は、障がい特性を知り、何が社会的障壁なのか気づく上でも重要である)

相談・紛争処理体制の在り方

① 相談・調整・斡旋・助言などを行う救済システム機関を設置していくこと。差別を受けた時に気軽に相談できる弁護士や障がい者団体、学識経験者等で構成された「解決できる組織」の仕組みをつくること。
② 第三者機関(オンブズパーソン)の導入(民間第三者機関が望ましい)

花井圭子委員

  1. 障害者基本法で規定される障がい特性および社会的障壁、不均等待遇、合理的配慮に関する認識を深めるため、新入職員や中堅、管理職ごとのOFF-JT研修や節目研修などの実施や障がい者の雇用を想定した実践的なケースワークを行う。

藤井克徳委員

● 障害当事者からのヒアリング。調査データに基づいて問題点を明らかにし、解決策を打ち出す。

● 差別(と思われる)事例を収集すること

● 職員・従業員の研修にあたっては、当事者自身が参加することが、啓発や理解のうえからも望ましい。

 なお、行政機関・事業者での研修のテーマとして「障害を理由とする差別」を積極的に取り入れること、また、行政機関・事業者内の相談部門での「障害を理由とする差別」に対する相談機能を強化することなどは、基本方針に明記すべきである。

三浦貴子委員

 ①法人理念・行動規範への明記と全職員への周知、②日々の業務において差別行為や合理的配慮の不提供にあたるのではないかと懸念・疑問をもった事象や、国の収集事例を素材とした学習会・研修、③相談・紛争処理体制を相談支援事業所の業務に加えること、等。