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資料4

「障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定等」に関する差別禁止部会の意見(部会三役の原案2-2)
【簡易迅速な裁判外紛争解決の仕組み】

第1、紛争解決の仕組みの必要性

 本法の目的のひとつは、国、地方自治体及びこれに従事する公務員のほか、民間事業者、私人も含めた社会に対して、行為規範(人々が行為する際の判断基準)を法で定め、何が差別に当たるのかの判断の物差しを提供することにある。これにより差別等の紛争が事前に回避されることが望ましい。
 しかしながら、不幸にして紛争が発生した場合に備えて、司法的解決のほか、本法の目的を実現するため、本法にかかる紛争の性質に即した簡易迅速な裁判外紛争解決の仕組みが用意される必要がある。

第2、想定される紛争事案

1、相手方と事案の性格

 紛争の解決の仕組みを検討するに当たっては、まずは、誰に対してどのような紛争が起こりうるのか、ある程度そのパターンを想定する必要があろう。その際、前記の通り、本法が国、地方自治体及びこれに従事する公務員のほか、民間事業者、私人も含めた社会に行為規範を示すものであることや本法において規定される個別分野の特徴を踏まえる必要がある。
 そうした観点から見ると、一定の分野(【雇用や就労】、【公共的施設及び交通施設の利用】、【商品、役務、不動産の利用】、【情報】、【医療】、【婚姻、妊娠、出産、養育】*各論の議論を経ないと確定できない)においては、主に民間事業者や私人が相手方として想定される。
 もちろん、この分野においても、雇用主が国や自治体である場合など、相手方が公的機関である場合もあるが、この分野における紛争の性格において、民間事業者と区別して取り上げる必要性は少ないと思われる。
 他方、それ以外の分野(【司法手続】、【選挙等】、【教育】、【資格取得】*各論の議論を経ないと確定できない)においては、主に、国、地方自治体及びこれに従事する公務員が相手方として想定されるだけでなく、事案の性格も権力作用に関わる行政処分的な要素も孕んでいる点で、前に述べた分野における事案の性格とは異なる点があると言えよう。

2、紛争の態様

 つぎに、紛争の態様といった視点からの考察も必要であろう。そうした点から、
1)まず、解決の困難性という観点から大まかに見ると、

  1. 相手方の思い込みや誤解をなくしたり、少し相手方に配慮してもらえれば解決可能な軽微な事案、
  2. 一定の利害対立が想定され、正しい理解や情報の提供など簡易な調整では納得が得られないような事案であるが、一定の時間をかければ、合意的な解決が望めそうな事案
  3. 利害対立が強く合意的な解決では解決が望めない事案

等、紛争の度合いにおいて異なるパターンが想定される。

2)また、紛争の個別性や地域性という観点から見ると、

  1. 事案が個別的であって、地域的な広がりを持たず、他への影響をあまり考慮しなくて済むような個別的事案、
  2. 事案が構造的なものであって広域にわたるとか、行政の一般的な運用に関わるもので、個別的な解決が困難と思われる事案といった違いも考慮すべきであろう。

3)さらに、日常的な生活のなかで、一定の継続性を持った関わり合いがある中で発生する事案であるかどうかといった点も紛争解決の仕組みにおいて考慮される必要があるであろう。特に関わり合いが一定の継続性を持った関係の中で発生する事案においては、紛争事案の発生後においても関係が継続されることを考えると、可能な限りしこりを残さない円満な解決が望まれるからである。

第3、自主的な解決の仕組みと第三者が関与する解決の仕組み

1、自主的な紛争解決の仕組みと促進

 紛争が発生した場合においても、本来的には、自主的に解決されることが望まれる。そこで、国等にあっては、一般的な広報啓発活動の他にガイドラインの策定や事例集の作成等、当事者間の自主的な紛争解決を促進するため取組を進めることが求められる。
 その中でも、本法において規定される【雇用や就労】の分野のように紛争当事者間に継続的な契約関係がある場合においては、可能な限り、当事者間における自主的な努力により円満な解決が図られる仕組みが事前に用意されることが望まれる。  また、【教育】の分野のように、本来学校や教師と児童生徒及び親との間に継続的な信頼関係が特に求められる分野においても、同様の仕組みが必要である。ただ、【雇用や就労】の分野のように使用者と労働者の立場を対等な関係に立たせる法的な仕組みがないので、児童生徒及び親の立場をサポートする第三者の参加等の工夫が必要である。

2、紛争解決の仕組みに求められる機能

 先に述べたように紛争解決に当たっては当事者間での自主的な紛争解決が望ましいが、解決の受け皿がないことによって、障害に基づく差別事案の多くが放置されてきたことに鑑みると、中立・公平な第三者が当事者間に関与する仕組みを設けることで、紛争の円満な解決を促進することが求められる。

1)相談機能

 どのような事案であれ、解決紛争の仕組みに求められる機能として、最初にあげなければならないのは、障害者が身近なところで、安心して相談できるものであることである。
 ここで留意すべきことは、差別によって精神的にも被害を受けている状況の中で、このような痛みを理解できるピア・カウンセリング的手法を用いた相談であることが重要であり、かかる機能を担当できるような障害者、家族、障害及び障害者に理解のある専門家などの社会資源(以下「相談担当者」という)をこれに当てることが求められる。

2)調整機能

 障害をめぐる紛争は、障害や障害者に関する理解不足や思い込み、あるいは双方のコミュニケーション不全に起因して発生する場合もある。このような場合には相手方の誤解をなくし、相手方の理解が深まることで解決可能な場合もある。
 このような場合には、地域の身近なところに配置された相談担当者が相手方に出向き、相談で問題となった事柄、障害者の置かれた状況等について説明し、相手方との関係を調整することが求められる。
 これは、一定の継続性を持った関わり合いがある中で発生する事案で可能な限りしこりを残さない円満な解決が望まれる事案においても同様のことが求められる。

3)調停もしくは斡旋機能

 事案の中には、一定の利害対立が想定され、状況の説明、正しい理解や情報の提供など簡易な調整では納得を得ることが困難である事例も想定される。
 このような事案でも、一定の調整の手続きを経るべきであるが、調整だけでは紛争の解決が困難であると見込まれる場合には、障害者の権利擁護につき専門的な知識、素養、経験といった資質を備えた専門家を含む中立・公平な機関による調整もしくは斡旋等の手法により、粘り強い紛争の解決を図ることが求められる。

4)仲裁機能

 紛争解決のひとつの手段として仲裁がある。これは、紛争当事者が、第三者の判断に解決を委ねることを予め合意することを条件に、中立・公平な第三者の判断により紛争の解決を図るものである。この手法も合意的解決のひとつであり、このような手段による紛争の解決も検討されるべきである。

5)裁定機能

 事案の中には、利害対立が強く、以上のような合意的な解決手法では解決が望めない事案も想定される。
 このような場合に、本法による解決の仕組みに、第三者による裁定等によって解決を図る仕組みを導入するのが適切か、それとも、司法による解決に委ねるのが適切か、これについては、本法の施行後の状況も見つつ検討することが妥当であろう。

6)実効性の担保

 以上のような解決手法において、その実効性を担保する上での事実調査に関する協力義務や出頭など手続きに協力する義務について、またこれに加え、一定の解決を見たにもかかわらず、相手方が任意にこれを履行しない場合、あるいは、明らかに差別に該当する行為が認定され、しかも、事案が悪質であると認められるような事案については勧告ないし公表などの解決の実効性を図る仕組みが検討されるべきである。

3、紛争解決に当たる組織の在り方

1)相談及び調整を行う機関

 相談及び調整の機能を担当する組織の検討に当たって、重要なことは、障害者が気軽に相談等を行うことができるよう、また、障害者が気付いていない場合でも問題を発見することができるよう、障害者にとって身近な存在であることである。
 ここにおける相談担当者は、法律のみならず、障害の置かれた立場、心情をよく理解できる素養、障害や障害者に関する知識、紛争を円滑に解決するために紛争当事者を説得する技術も求められる。
 このような者として、具体的には、相談実務の経験を有する障害者、家族、身体障害者相談員、知的障害者相談員、障害者と日常的に接する関係者や支援者及びそれらのネットワークや障害者団体等の知見を活用することも考えられる。
 また、政府は、相談及び調整の重要性に鑑み、これを担当する者の研修、さらなる人材の育成・確保に努めるための取組を進める必要がある。
 これらの点を踏まえた具体的な組織としては、例えば、障害者総合支援法に基づいて市町村が設置する基幹相談支援センター、又は都道府県の条例等において独自に設置された広域の相談支援センター等の既存の組織を活用することなども含め、検討されるべきである。

2)調停、斡旋、仲裁等を行う機関

 一定の利害対立が想定され、調整によっては解決が望めない事案については、先に述べたとおり、調停、斡旋、仲裁等による解決の仕組みが用意されることが求められる。
 この仕組みもできるだけ身近なところで解決されることが要請されるので、少なくとも都道府県毎に、調停、斡旋、仲裁等の機能を果たすものとして、障害者の権利擁護につき専門的な知識、素養、経験といった資質を備えた専門家を含む中立・公平な機関による機関が必要となる。
 これらの点を踏まえた具体的な組織としては、例えば、障害者基本法に基づいて都道府県が設置する審議会その他の合議制の機関、あるいは都道府県により障害者の権利擁護を図るために設置された委員会等の既存の組織を活用できるかも含め、検討されるべきである。

3)中央に置かれる機関

 事案の中には、先に述べたとおり、構造的なものであって広域にわたり、他に与える影響が重大で個別的な解決が困難な事案もある。また国の行政の一般的な運用に関わるもの、又は国が行った行政処分的な事案は性質上地方公共団体の解決にはなじまない事案である。こうした点に鑑みると、このような事案は、例えば、国が障害者基本法に基づいて設置する障害者政策委員会等の既存の組織を活用できるかも含め、検討されるべきである。

第4、他の紛争解決の仕組みとの関係

 本法に係る紛争について、既存の紛争解決の仕組みを通して解決することは排除されるものではない。
 例えば、労働分野において、労働者と事業主との間の個別労働関係紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)に基づく都道府県労働局長による情報提供・相談等や紛争調整委員会によるあっせん等の仕組みが設けられているが、本法に係る紛争の解決にこれらの仕組みを利用することも妥当と考えられるが、この点については、手続きの実効性の観点から、政府において引き続き検討することが期待される。

第5、司法判断

 本法は行為規範であると同時に司法判断を踏まえた裁判規範性も有している。
 本件にかかる紛争について、以上の解決の仕組みで解決が図られない場合、 最終的には、司法の判断に委ねられることもある。
 その際、どのような訴訟形態が取られるのか、民法や民事訴訟法等の法律の一般規定に基づいて、原告により判断されることになり、それに対してどのような判決があり得るのか、一般的には現行法の一般規定に委ねられるが、差別の是正といった観点から適切な判決の在り方の議論もあり得るところである。

第6、制度的な解決

 紛争解決の仕組みにおける事例の蓄積や当事者からもたらされる個別の紛争を超えた制度自体に関する問題点の指摘等によって、既存の制度や施策の問題点が明らかになることも考えられる。個別の紛争において、制度や施策自体の改正を行うことは困難なものと考えられるが、このような情報を国又は地方公共団体が権限ある行政機関にフィードバックすることで、必要に応じて、既存の制度や施策の見直しにつなげることが重要である。
 障害者政策委員会において、本法に係る紛争やその解決の状況、紛争解決の仕組みを通じて得られた情報に基づく制度や施策の状況等を把握し、必要に応じて、政策提言が行われることも期待される。
 また、制度的な解決においては、本法に係る紛争は幅広い分野で起こることが想定されるものであり、単独の機関だけで解決することは困難である。このような観点から、政府においては関係する行政機関間での連携の在り方や体制整備等についても検討する必要がある。