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日時:2013年02月03日(10:30~16:00)
場所:戸山サンライズ 大研修室
 

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資料6

「障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定等」 に関する差別禁止部会の意見(部会三役の原案1の修正)(修正箇所表示版)

はじめに(準備中)

(推進会議と当部会における検討の経緯)
(差別禁止法に関する世界的状況)
(日本における立法事実の存在)
(本法の必要性、基本的性格など)

第1、理念

 本法において理念規定を設けるに当たっては、以下の視点が重要である。

1、差別の解消に向けた取組の重要性

 全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するためには、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上での社会的障壁をなくすことが重要であり、なかでも、障害のある人の完全参加と平等に大きな制約をもたらす見えざる社会的障壁としての差別は早急に解消されなければならないこと。

2、本法が相手方を一方単に法的に非難し制裁を加えようとするものではないこと

 この差別をなくそうとする試みは、人類普遍の原理を希求するものであり、障害の有無にかかわらず個人の尊厳を認め合う社会の実現に資するものである。ゆえに、差別者・被差別者という形で国民を切り分けてこれを固定化するものであってはならず、今後、差別者・被差別者を作り出さないためにも、国民誰しもが理解し得る共生社会の実現に向けての共通のルールとして機能することが重要であること。

3、差別の解消がこれからの社会により活力を与えるものであること

 属性や能力において多様性に富む個人により構成される社会において、それぞれがその力を発揮し、お互いに支え合って行くには、その間に存する差異は尊重されるべきであり、障害のある人の完全参加と平等の実現は、特に少子高齢化が進行する我が国にとって社会全体に活力を与えるものであること。

第2、目的

 本法において目的規定を設けるに当たっては、以下の視点が重要である。

1、行為規範(人々が行為する際の判断基準)行為準則の提示

 我が国において悪意を抱いて差別するといった事案は少ないと思われる。観念的には差別はしてはならないという思いを抱きつつも、障害又は障害者についての無理解や偏見又は固定化した概念やイメージにより差別的な行為に出てしまうことが多いことに鑑みると、本法は、国民国、地方自治体及びこれに従事する公務員のほか、民間事業者、私人も含めた社会に対して、何が差別に当たるのか、何が許されるのかの判断の物差しを提供することが求められる。このことを本法の目的に明示すべきである。

2、救済の仕組み

 次に、差別的取扱を受けても、これまで民法や刑法などの既存立法で解決が不十分であったことに鑑みると、相互の調整や調停など話し合いを出発点として簡易迅速に問題を解決する仕組みの創設とそれでも解決できない場合には司法において解決するための法規範を定立することが重要である。したがって、この点も本法の目的に掲げるべきである。

3、国等の責務

 さらに、2も含め、差別の防止、啓発、相談体制等に関わる国等の責務を定めることも本法の目的に掲げるべきである。

4、共生社会の実現

 最後に、以上の措置を講ずることで、差別を解消し完全参加と平等が図られる共生社会の実現に資することを明記すべきである。

第3、障害の定義

1、議論の背景

 「障害」の捉え方、特に障害者が負う社会的不利の原因を巡っては、従来から医学モデルと社会モデルという考え方があるとされている。
 そのような中で、障害者権利条約の前文では「障害は発展する概念であり、機能障害をもつ人と他の者との平等を基礎として社会に完全にかつ効果的に参加することを妨げる態度や環境の障壁との相互作用に起因するものであることを認め(部会長訳)」るとされ、障害が機能障害(インペアメント)と社会的障壁の相互作用から生まれるという考え方が示された。
 ただ、かかる視点を踏まえて平成23年に改正された障害者基本法(昭和45年法律第84号)は第2条において、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」を障害とした上で、障害者を、これらの障害がある者であって、「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義された。
 したがって、この定義では「障害」そのものではなく、「障害者」の定義の中に社会的障壁が位置付けられることになった。

2、本法における障害の定義に求められるもの

 障害についてはかように、「障害」の定義の中で社会的障壁を考慮するやり方と「障害者」の定義の中で社会的障壁を考慮するやり方があるが、本法においては本法の目的や趣旨から「障害」を定義する必要がある。
 まず、本法は人種や性別などのあらゆる事由を含む包括的な差別禁止法あらゆる事由を理由とする差別を禁止しようとするものではなく、障害を理由とする差別に特化した法律であるがゆえに「障害」とは何かを明らかにする必要がある。
 もちろん、一言で「障害」と言っても実際の在り方は多様であり、また、医学の進歩や技術の革新等により変容し得る概念であるため、法律上の定義としてはある程度曖昧な内容を含むものとならざるを得ない側面もある。
 しかしながら、本法は、様々な場面において国、地方自治体及びこれに従事する公務員のほか、民間事業者、私人も含めた社会の行為規範(人々が行為する際の判断基準)国民の行為準則として機能することが求められるため、本法の基本的な概念である「障害」の意味については、誰しもが観念し得る一定の明確性が確保される必要がある。そういった観点に立つと「障害」の中に社会的障壁を盛り込む障害者権利条約上の「障害」の考え方より、機能障害(インペアメント)に限定する障害者基本法上の「障害」の考え方の方が「障害」の内容を分かり易くより明確なものとして提示できると思われる。、一般の予見可能性が担保されなければならない。
 また、憲法や諸外国の立法例を見ても、差別が禁止される事由は、性や人種等に見られるように、個人に関係した属性であり、それらの事由により差別されないとされている。したがって、本法においても、個人の属性といった観点から「障害」が定義されることが求められる。このことは、個人の属性に社会的不利の原因を求めるものではなく、差別という社会的障壁の発生の契機となる事由を特定するに過ぎないものであるがゆえに、社会モデルの考え方と相反するものではない。
 そうした点に鑑みると、本法においても障害者基本法と同様に心身の機能の障害(インペアメント)を「障害」と定義することが妥当である。

3、障害の限界事例に関する議論

 障害を「機能障害」と理解した上で、例えば、日常誰しも経験するような風邪に伴うような軽微で一時的な機能障害までも含むのか、または、必ずしも病気による肥満ではなく、医学的な意味での機能障害はないが、極度に身体の大きな人が様々な社会生活上の制約を受ける場合にも本法の障害の定義に含めるべきでは、といった議論がなされた。
 これらは、いずれについても重要な議論ではあるが、現段階では、機能障害についての法解釈の余地を残しつつ、将来の議論に委ねるべきである。なお、本法にいう機能障害は、世界保健機関(WHO)の国際生活機能分類(ICF)が機能障害に含むとしている構造障害も含まれる。したがって、容貌の障害(facial disfigurement)もこれに含まれると思われる。

第4、差別の定義

1、禁止されるべき差別の形態

1)障害者権利条約とその実施

 障害者権利条約は、「障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を認識し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するもの」を禁止されるべき差別とした上で「障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と規定している。
 本法においても、このような権利条約の規定や諸外国における立法例を踏まえ、合理的配慮の不提供を含むあらゆる形態の差別が禁止されるべき差別として規定されることが適当である。
 ただ、その際、本法は、障害を理由とする差別に関して、国、地方自治体及びこれに従事する公務員のほか、民間事業者、私人も含めた社会の行為規範(人々が行為する際の判断基準)私人間を含む社会における行為準則を示すことを目的とするものであり、立法に当たっては、どのような行為が禁止されるのか、どのような行為が求められるのか、どのような行為は許容されるのか、ができるだけ分かりやすい形で看取できるようなものであることが重要である。

2)あらゆる形態の差別

 当部会では、障害者権利条約及び諸外国の立法例を参考にしてこの分野で禁止されているあらゆる形態の差別について検討を行った。
 検討の俎上に上った差別の形態としては、直接差別、間接差別、関連(起因)差別(以下「関連差別」という)、合理的配慮の不提供の四つの類型である。
 これらの類型は、諸外国においても必ずしも同じような定義が与えられているとは言えず幅のある概念であるが、おおまかに言えば、おもに下記のような場合を念頭に、それぞれの類型の有用性や守備範囲、類型相互の違いや関係などが検討された。
 なかでも、直接差別、間接差別、関連差別については、あまりにいろいろな類型があると行為規範準則として分かり難く、多くの人の理解を得がたいのではないかといった観点から、これらを包括的にまとめる方向での議論を行った。

○ 直接差別の類型においては、

  障害を理由にした区別、排除、制限などの異なる取扱い(不均等な取扱 い)がなされる場合。

○ 間接差別の類型においては、

  外形的には中立の基準、規則、慣行ではあってもそれが適用されることにより結果的には他者に比較し不利益が生じる場合。

○ 関連差別の類型においては、

  障害に関連する事由を理由とする区別、排除又は制限などの異なる取扱い(不均等な取扱い)がなされる場合。

○ 合理的配慮の不提供の類型においては、

  障害者他の者と平等な、権利の行使、又は機会や待遇が確保されるには、その者に必要に応じて現状が変更されたり、調整されたりすることが必要であるにもかかわらず、そのための措置が講じられない場合。

3)間接差別と関連差別

 このうち、間接差別は外形的には中立の基準、規則、慣行ではあってもそれが適用されることにより結果的には他者に比較し不利益が生じる場合であるが、何故中立的な基準等の適用が障害者のみに不利益を与える事態が生じるかといった観点から考察すると、それは、適用される基準、規則、慣行の中に、障害そのものを問題とする条項がなくとも、障害と関連する事由を問題とする条項があれば、実質的に障害者を排除する結果(効果)を生じることになるからである。
 したがって、適用する基準等の面からいえば、直接障害を理由とするものではないため、間接的な形態の差別と言いうるが、他方、問題となる事由から見れば、障害に関連した事由を理由とする差別の形態と評価することが可能である。
 具体的な事例をみても、たとえば、盲導犬を伴った視覚障害者が、レストランの入店を拒否された事案において、犬の同伴は一般的に断っているといった外形的には中立的な規則の適用により視覚障害者だけが排除されるといった事態は、間接差別の問題として扱うことも可能である。しかし、同時に視覚障害という機能障害に関連する事由による差別と構成することも可能である。
 このように、間接差別は、障害に関連する事由を理由とする関連差別と基本的な部分で重なり合うものと評価できる。したがって、関連差別のほかに、一般に理解が困難であると言われている間接差別を独自の類型として規定する意味は少なく、間接差別は関連差別の類型に統合するのが適切である。
 なお、この場合、間接差別に当たる実態が法の規定から漏れることがないよう十分配慮されなければならない。

4)直接差別と関連差別

 そのうえで、直接差別は障害を直接理由にする場合、関連差別は障害そのものではなく、障害に関連する事由を理由にする場合を指すものとして、別個独自に規定する方法もあり得るであろうが、実際に見るとそれが障害そのものを理由とする場合であるのか、それとも障害に関連する事由を理由とする場合であるのか、その区別が困難な場合もある。
 そうした点に鑑みるとこれらの両類型はこれを「障害又は障害に関連した事由」を理由する差別類型(仮に「不均等待遇」と呼ぶ)として一本化すべきである。

5)本法における差別禁止規定

 したがって、本法においては、不均等待遇と合理的配慮の不提供の二つの差別類型を含む形で差別を禁止する規定を設けるべきである。

2、不均等待遇

1)障害又は障害に関連した事由を理由とする差別

(直接差別)
 「障害者はきっと障害があるために○○することはできないだろう」、「障害者は○○であるべきだ」というような障害又は障害者に対する無理解や偏見又は固定化した概念やイメージ思い込みやステレオタイプが根底にあり、それが、障害を理由にした異なる取扱いという行為になって現れる場合があるが、これが、本法において禁止されるべき差別の基本形態である。
 ただ、さすがに障害を直接的な理由とすることに躊躇を覚えるのか、別の理由が持ち出される場合もある。こうした場合、外形上、又は表面上どのような理由持ち出されているのしたかではなく、客観的にその理由が何であったのかが問題とされなければならない。

(関連差別)
 しかし、そうでなくても、障害に関連した事由を理由にする場合、例えば、あなたが車いすだからうちのお店の利用は困ると言っているだけで、あなたに障害があるからという理由ではありませんと説明される場合においても、車いすでは何故利用が出来ないのか、相手方にその拒否を正当化するだけの事由があるような例外の場合を除いて、やはり、その取扱いは禁止されなければならない。
 そもそも、世界保健機関(WHO)が示した国際障害分類(ICIDH)は、疾病の諸帰結として、疾病により機能障害が発生しそれが能力障害を生むことにより障害者に社会的不利が発生するという考え方を提示したが、現在においては、社会モデルの影響を受け、環境因子との相互作用という概念を取り入れた国際生活機能分類(ICF)に改訂されていることは周知の通りである。従って、社会的障壁などの環境要因を捨象したまま機能障害の存在のみによって能力障害が発生する、或いは社会的不利を被るといった理解は、一面的であり、誤った過去の見解といわざるを得ない。しかし、反面、能力障害或いは社会的不利の発生に機能障害が一つの要素として影響を与えていること自体は否定しがたい現実でもある。
 仮に機能障害が機能障害に留まり、他に何らの影響を与えないものであれば、不均等待遇という差別類型においても、障害そのものを理由にした異なる取扱い(直接差別)のみを対象にすれば事足りるはずである。
 しかしながら、能力障害或いは社会的不利が機能障害の影響のもとにあるとすれば、機能障害に関連して発生する能力障害や社会的不利に関わる事由を理由とした社会的排除が発生すると、それは結局、「機能障害」のある人を排除する結果となるのである。これが、直接差別の他に関連差別といった差別の類型を必要とした根拠(これは間接差別にも当てはまる)である。

(関連する事由)
 そこで、例えば、能力障害や社会的不利それ自体、能力障害を補う車いすなどの補装具、補助犬、その他の支援器具などの利用や携行、介助者の付き添いや同行、利用できる公共交通機関がないといった社会的不利を補う代替的移動手段の利用など、こうした障害に関連する事由を理由にした異なる取扱いも不均等待遇の類型に取り込む必要があるのである。
 もっとも、この関連差別を不均等待遇の一つであるとすることは、即座にそれが差別に該当するということではない。この点は直接差別と何ら変わりのないところであり、差別に該当するというためには、それが異なる取扱いであるかどうか、さらには正当化事由の存否の吟味を経る必要があるのである。従って、例えば、能力障害を理由にする場合には関連差別の問題とはなるが、誰に対しても本質的に必要な能力が求められる場合には、異なる扱いをしたとは言えず、差別には該当しないことになるのである。

(関連する事由の多様性)
 そうした理解の上で、関連性の程度についてどう考えるかが問題となるが、性別や人種と異なり、障害という属性はその種別、程度又は態様において多様性に富むため、それに関連する事由もまた多様性に富むことになる。上記に挙げた例はあくまで一つの例に過ぎない。従って、予め関連する事由を類型化し、又はその関連の程度を法定化することは困難であるだけでなく、線引きによって生ずる弊害も大きい。
 従って、不均等待遇に当たるかの判断に当たって、問題とされている事由が客観的に障害に関連すると認定されれば、関連差別に該当すると考えるのが妥当である。もちろん、その上で、当該行為が異なる取扱いであるかどうか、正当化事由があるかどうかの判断を経た上で、最終的に差別に該当するか否かの判断がなされることになるので、どんなに些細な関連事由がある場合でも即座にそれが差別だと判断されることにはならないのである。

(異なる取扱い)
 不均等待遇における区別、排除又は制限その他の異なる取扱いの具体的な内容としては、例えば、公共施設の利用を考えると、そもそも障害者の利用を排除する、障害者の利用については制限を付ける、障害者には障害のない者とは異なる形態での利用を認める、障害者の利用に当たっては障害のない者には付されない条件を付す、等が挙げられる。
 障害者に対して障害のない者と異なる取扱いをすることは、障害者に対する不利益な取扱いにつながり、障害及び障害者についての無理解や偏見に対する思い込みやステレオタイプを固定化させることとなりかねないため、基本的にはこれらの異なる取扱いは広く本法の対象とすることが適当である。

2)過去の障害等

 障害を理由とする異なる不均等取扱い(直接差別)については、障害又は障害者についての無理解や偏見又は固定化した概念やイメージに基づく差別の禁止が目的の一つでもあり、かかる視点に立てば、過去に存在した障害又は将来発生する障害もしくは誤認された障害を理由に障害のない者に対して異なる取扱いをすることも、さらには、障害を理由として家族等の障害者関係者に対して異なる取扱いをすることも、本法において「障害を理由」とする差別として禁止される。

3)主観的要素

 障害又は障害に関連した事由を理由とする不均等取扱い不均等待遇というためには、行為者が障害又は障害に関連した事由を理由に故に区別、排除又は制限その他の異なる取扱いを行っていることを認識していれば(あるいは認識すべきであれば)足り、積極的に相手に害を加えようとする意図までは必要とされないとすべきである。なお、障害以外にも異なる取扱いを行った理由が存在する場合には、必ずしも障害が主たる理由であることまでは必要とならない。
 もっとも、完全参加と平等の実現といった観点から考えれば客観的に差別状態が発生していれば、相手方の認識の有無にかかわらずこれを差別としたうえで、これをなくしていくということが求められる。そうした観点からすると差別が成立するうえでは積極的な害意だけでなく相手方の認識も不要であるとする考え方も成り立ちうると思われる。
 しかし、本法が行為規範を提供することの重要性を謳い、相互の理解のもとで差別を無くしていくべきという基本的なスタンスを取っていることに鑑みると、不均等待遇に当たると認識し又は認識し得たにもかかわらず、敢えてそれに該当する行為に及んだ場合には、差別に当たるとして本法を適用する必要性があるが、全く認識し得なかった場合にまで本法を適用すべきではない。
 ただ、その際においても、本法は今後の適切な認識を求め、同じ行為の繰り返しを回避することを求める契機として機能するものであり、同種事案の発生防止に効果を発揮することが期待される。
 なお、障害又は障害に関連する事由を理由として区別、排除又は制限その他の異なる取扱い(不均等待遇)が行われた場合に、それ以外にも異なる取扱いの理由が存在することは本法の適用の妨げとならない。

4)正当化事由

 障害又は障害に関連する事由を理由とした他と区別、排除又は制限その他の異なる扱い(不均等待遇)は、それが如何なる場合においても本法において禁止される差別とすることは適当ではない。相手方にも正当に保護すべき利益がある場合があり得るからである。
 しかしながら、差別をしてはならないことは公序として守らなければならない社会の基本的なルールであること、往々にして差別を受ける少数派に対して多数派の利害が優先されがちであることに鑑みると、当該取扱いが客観的に見て、正当な目的の下に行われたものであり、かつ、当該取扱いがやむを得ない場合においては、障害は障害に関連する事由を理由とする異なる取扱い不均等待遇は例外的に是認されるとすることが適当である。
 ここで、「客観的に見て」とは、正当化事由の存否の判断は、相手方の主観的な判断に委ねられるのではなく、相手方の主張が客観的な事実によって裏付けられるもので、それが第三者の立場から見ても納得を得られるような客観性を備えたものでなければならないといったことを意味するものである。
 なお、このような場合において、正当化事由の存否について、最終的な立証責任を行為者に負わせるなど、当事者間の訴訟遂行能力や証拠へのアクセスの要否等を踏まえ、立証責任の配分が考慮されなければならない。

5)不均等待遇が禁止される範囲

 不均等待遇は、障害又は障害に関連する事由を理由とした区別、排除又は制限その他の異なる取扱を禁止するものであるが、すべての範囲にその効力が及ぶのか、それとも一定の範囲には及ばないのか、検討が必要である。
 本法は、差別禁止という要請を国や行政だけでなく、私人間の行為規範としても法定化することに大きな意義を有しているが、私人間においては、結社の自由や私的自治の原則、法律の謙抑性等を踏まえると、合理的配慮の分野でも述べるとおり、どのような関係を取り結ぶかについて、個人の自由な意思に委ねられ、異なる取扱いをすることが社会的に容認されている私的な領域においては、法律で差別とすることは適当ではない。

5)6)積極的差別是正措置等

 他方最後に合理的配慮が個別の障害者のその時々の具体的な状況において必要とされるものであるのに対し、障害者全体を念頭に置いた事前の制度であるいわゆる積極的差別是正措置や障害者に対する各種優遇措置については、将来、社会的障壁が除去され、障害者が何の制限を感じることなく日常生活又は社会生活を送ることができるようになった際には廃止されることが望ましいと考えられるが、当面はその必要性が認められることから、これらの措置が本法に基づき禁止される差別に当たらないことを明確にする必要がある。
 ただし、現行法上、積極的差別是正措置として想定されるのは雇用率制度であるが、その具体的な内容については差別禁止の趣旨に即して「障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置(障害者権利条約)」であることが求められる。

3、合理的配慮の不提供

1)障害者権利条約における定義

 障害者権利条約は合理的配慮を「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義している。
 これは、障害者の場合、単に障害者の持つ障害を考慮しないで非障害者と同一の取扱いをしても、様々な社会的障壁のために実質的に平等な権利を享有し、行使することは困難であり、権利の制限の原因を除去するために何らかの配慮、調整が必要なためであり、わかりやすくいえば、障害を理由とする不均等取扱いが意思決定に際し障害を考慮要素としないことを求めているのに対し、本項の合理的配慮の不提供は意思決定に際し障害を考慮要素とすることを求めるものである。このように障害者権利条約は合理的配慮の目的を「すべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するため」としている。
 ここで示されている「人権」とは、例えば、投票所に段差があり、車いすでは投票箱までたどり着けないといった事例においては、選挙権という権利であり、選挙権の行使を確保するためには、何らかの人的又は物的な段差解消の措置というものが必要とされることになる。
 また、「基本的自由」といったものも示されているが、これには、差別を受けない自由が含まれる。したがって、これまで差別禁止によって達成すべきとされてきた機会や待遇の平等を確保するうえで、必要な合理的配慮がなされなければならないことを指しているのである。
 そして、そもそも、「すべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使すること」は本来誰にでも認められるはずのものであるところ、なぜ改めて障害者権利条約に規定されなければならなかったのかというと、それは人権及び基本的自由の享有や行使が形式的に認められても、障害者の場合は、その享有や行使に当たって障害者の個々の状況を考慮した一定の措置がなければ、実質的に見るとその享有や行使が困難だからである。
 本法においても、社会的障壁により障害者の実質的な権利行使が妨げられている場合において、障害者から求めに応じて障害者が非障害者と同様に権利を行使するために必要かつ適当な障害者から求めに応じて障害者が障害のない者と同様に、人権を行使し、又は機会や待遇を享受するために、必要かつ適切な現状の変更や調整を行わないことを禁止されるべき差別として位置付けることが妥当である。

2)合理的配慮が求められる根拠

 このように、合理的配慮の不提供は差別と位置付けれら、相手方に積極的な作為義務が課されることになる。
 このことについては、単に権利条約が合理的配慮の不提供を差別に位置付けたから本法においても同様の規定を置くべきだということではなく、その社会的背景を理解する必要がある。
 合理的配慮の不提供がなぜ差別と位置付けられるのかを考察する上で、まずは、障害のない者もその者自身が有する心身の機能や個人的能力だけで日常生活や社会生活を送っているわけではないことに目を向けることが必要である。
 例えば、
 二階建てのスーパーマーケットで仮に階段が壊れた場合には事業主がその負担で修理することになる。店を訪れたお客は事業主のこのようなサポートによって、二階にある飲食品等の購入の機会を享受している。
 視覚や聴覚に支障のない学生であっても、その有する個人の視力や聴力では対応できない大教室においては、学校設置者によってマイクやモニターが設置され、その結果視覚や聴覚に障害のない学生も勉学の機会を享受できている。
 知的障害のない者でも人間の個人的な体験による知見の集積や記憶力には限界があるので、図書館が提供する人類の英知を参照することで、間違いなく物事を判断する機会を享受している。
 自己主張する能力に障害のない者であっても、自己が無実であることを訴え続けることには困難があるため、憲法や刑事訴訟法が被疑者・被告人に黙秘権を初めとする様々な権利を付与し、その結果として被疑者・被告人は自己を防御する機会を得ている。
 このように障害のない者もその日常生活や社会生活を送るに当たっては、様々な場面で人的サービス、社会的インフラの供与、権利の付与などによる支援を伴う待遇や機会が与えられているのである。
 ところが、こうした支援は、障害のない者を基準にして制度設計されており、障害者の存在が想定されていないことが多く、往々にして障害者はこれを利用したり、その恩恵を受けられないといった事態が発生することになる。
 こうした観点から見ると、国、地方自治体、民間事業者、個人などによって提供されるこうした待遇や機会の提供、ないしは一般に認められる権利といったものが、一般には利用できる形で提供されるにもかかわらず、障害者には利用できない形でしか提供されないことになれば、そのことによって障害者が日常生活や社会生活から排除されることになるのは明らかであろう。
 上記の例で言えば、二階フロアーでの買い物を希望する障害者に階段に代わる、例えば、人力で二階に上げるとか、二階の商品を一階に持ってきて見てもらうとかの何らかの手段を提供しなければ、実質上は、二階フロアーでの買い物の機会を障害者だけ拒否しているのと同じである。
 このように、一般には利用できる形で提供する反面、障害者には利用できない形でしか提供しないこと、言葉を換えれば障害者が利用できるように合理的配慮を提供しないことは、実質的には、障害のない者との比較において障害者に対して区別、排除又は制限といった異なる取扱いをしているのと同じであるから、障害者権利条約は合理的配慮をしないことは差別であるとしたのである。
 そこで、その結果としては、相手方は「合理的配慮を提供しない」という差別をしてはならない義務を負うことになるので、結局のところ、相手方は合理的配慮を提供する義務を負うことになるのである。
 これは、障害のない人には日常生活や社会生活を支えるサービス、社会的インフラなどが様々な形で提供され、障害のない人にとってもこれを利用することなくしてはもはや日常生活や社会生活が営めないほど人々の生活に深く関わりを持っているにもかかわらず、それらを障害者が利用できなければ、一般的な日常生活又は社会生活を送る上で制約を被ったり、排除されたりすることがあることに鑑みて、障害のない人に諸種のサービスや様々な機会を提供するのであれば、障害者にも利用可能な形で提供できるような措置をとることを求めるものであり、それをしないことは、障害のない人と実質的に異なる取扱いをしたことになるからこそ、差別に当たるとしたものである。

3)合理的配慮が求められる範囲

 したがって、合理的配慮をしないことが差別と位置付けられ、そのための積極的な作為が求められる分野は、障害のないへ何らかのサービス、役務提供、機会や権利の付与がなされている分野である。
 もっとも、障害者に対するこのような配慮については、すでに様々な分野において社会連帯や思いやりの観点から一定程度実施されているものと認めれる。合理的配慮という概念は、言葉としては新しいものであり、日本社会に定着しているとは言い難いが、その実体はすでに日本にも古くから存在しているものである。ただ、これらのなかで、配慮をしないことが差別と認められる限りにおいて、合理的配慮を提供する作為義務が発生することになるわけである。
 したがって、人と人が何らかの接触を持つ場合においてであれ、どのような人間関係を築くのか、一般的に個人の自由な意思に委ねられていると認められる私的な領域についてはのほか、他との比較において実質異なる取扱いに該当する場合を除いて、合理的配慮の提供が義務づけられることはない。

4)合理的配慮の内容

 障害者が必要とする合理的配慮の内容は、障害の態様や配慮が求められた状 況等に応じて変わるものであり、その内容を予め確定することは困難であるが、 諸外国における運用等を踏まえると、典型的なものとしては以下のような措置 が考えられる。

・基準・手順の変更

例1.パニック障害がある労働者の勤務時間を変更し、ラッシュ時に満員電車を利用して通勤する必要がないようにする。

例2.視覚障害がある顧客に対して、求めに応じて、大きな文字で印刷された利用案内を提供する。

例3.コミュニケーション特性に応じた会話や職業指導を行う。

・物理的形状の変更

例4.建物の入り口に存在する段差を解消するために、スロープを設置して、車いす利用者が建物に入ることができるようにする。

例5.職場において車いすを利用する労働者が使用する机の高さを変更し、車いすを利用したままで机を使用して仕事ができるようにする。

・補助器具・サービスの提供

例6.視覚障害がある労働者が職務遂行上使用するパソコンに音声読み上げソフトを導入し、パソコンを使用して仕事ができるようにする。

例7.発達障害者がパニックになった場合などに備えて、他人の視線や態度を遮る避難所的な空間を用意する。

5)正当化事由

 合理的配慮は相手側の負担でその実施を求めるものであるが、無制限の負担を求めるものではない。
 このため、障害者権利条約においても合理的配慮の定義において「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」であることを求めている。
 本法においても、同様に均衡を失した又は過度の負担が生じる場合には措置が義務付けられないとすることが適当である。なお、「均衡を失した」と「過度」という文言に殊更異なる意味が付与されるとは考えられないので、以下「過度」の負担という。
 過度の負担であるかどうかの判断に当たっては、諸外国における立法例・運用等を踏まえると経済的・財政的なコストの他に業務遂行に及ぼす影響等を考慮する必要がある。
 まず、経済的・財政的なコストの面では、相手方の性格(個人か、団体か、公的機関か)、業務の内容、業務の規模、業務の公共性、不特定性、事業規模、及びその規模から見た負担の割合、技術的困難の度合いなどが、判断の要素として考慮されるべきであり、一方で、障害者が直面している事柄の重要性、配慮の不可欠性、非代替性、配慮がないことによって被る不利益の性格や重大性が判断の要素として考慮されることになるであろう。
 次に、業務遂行に及ぼす影響の面では、合理的配慮の提供により、業務遂行に著しい支障が生じるのか、提供される機会やサービス等の本質が損なわれるかどうかが判断されなければならない。
 以上のように、合理的配慮の提供に過度の負担が生じる場合には、相手方に当該措置の提供が義務付けられることはないが、措置を求めた障害者の側が事業規模や負担の程度割合といった情報にアクセスすることは困難であることから、措置を求められた者に立証責任を負わせるなど、立証責任の配分の在り方に配慮する必要がある。

6)ガイドラインの設定

 合理的配慮は個別性の強い概念であり、具体的な場面に即して必要となる措置の内容を判断することが求められる。また、過度の負担か否かの判断はケース・バイ・ケースで行うこととなる。
 したがって、法律上、これらの概念を規定する場合にはある程度抽象的なものとならざる得ないが、障害者及び措置を求められた者が合理的配慮の措置内容や過度な負担について適切な判断ができないのでは、本法が社会において実効性のある行為準則規範(人々が行為する際の判断基準)として機能することは考えられない。
 このため、政府においては、障害者や事業者等の意見を聴くとともに、広く国民の理解を得つつ、各分野における措置内容や負担の判断に関するガイドライン等を作成し、これを周知するとともに、時代の変化に応じてステップアップすることが求められる。

7)合理的配慮の実現に向けたプロセス

 障害者が実質的な均等な待遇を受けるために必要とする合理的配慮の内容は、障害の態様や配慮が求められた状況等に応じて変わるものであり、障害者と配慮が求められた者の間で協議して、その具体的な内容が確定されることが望ましい。
 そのための措置として複数提供可能なものが存在する場合などにおいては、障害者の希望に沿った措置が取られるよう配慮されるべきだが、配慮が求められた者の判断とは異なる場合もあり得る。かような場合も含め、どうしても合意できない場合には、調停など合意形成をベースとした行政機関による解決の仕組みや最終的には司法の場における判断によることになる。

8)事前的改善措置との関係

 合理的配慮は個別の場面において、障害者からの求めがあって初めて問題となるものだが、このような合理的配慮を実効性のあるものとするためには、障害者からの求めがない場合においても、予め何かしらの措置を講じておくことが望ましい。
 しかしながら、本法は事案ごとの個別調整を求めるものであるのに対し、このようなことは、社会の全般的な枠組みに大きな影響を与えるだけに、当面は、重要な政策課題として位置付けるのが妥当である。また、本法における合理的配慮との関係や事業者等の義務等との関係をどう整理するのかの課題もある。さらには、建築物や交通機関のバリアフリー化等、特定の分野においては現行法に基づく取組が進められていることもあり、現時点では本法の対象とはしないこととするが、本法の実施状況や関係法に基づく施策の実施状況を見つつ検討を続けるべきである