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委員提出資料

「公共的施設及び交通機関の利用」に関する三役案への意見

東洋大学ライフデザイン学部 川内美彦

第4、公共的施設及び交通機関の利用

(略)

2、この分野において差別の禁止が求められる対象範囲

1)差別が禁止されるべき事項や場面

a)公共的施設

公共的施設の場合、たとえば、障害を理由に宿泊を断わられる、知的障害者というだけで公営プールを利用できない、あるいは、精神障害者というだけで、議会の傍聴を禁止されるといったことがあるが、当該施設の利用自体を制限するものである。この場合、当該利用が契約に基づくものである場合には契約の拒否といった形で利用が制限されることになる。

また、利用が認められた場合でも、他人の同伴を条件に許可されるといった利用の制約や当該施設の物理的な障壁によって、利用が制限される場合もある。段差や階段、障害者に使えないトイレ等が典型である。

さらには、当該施設を利用する上で必要なアナウンス情報や案内表示板が障害者には分からないといったことによって、当該施設の利用上困難を伴うこともある。

  • 公共の用途に供されたエレベーターには利用時間の制限が加えられているが、隣にある階段には特にそういった制限はない、といった場合がしばしばある。障害者にのみ、他の者とは異なる利用時間の規定を設けることは、社会参加への大きな制約となっている。
  • 例えば劇場などでは「障害者用」席しか居場所がない。ホテルでは車いす使用者には料金の高い部屋しかない。また聴覚障害者のコミュニケーション装置や緊急用のフラッシュランプが料金の高い部屋(バリアフリールーム)にしか設置されていない、というように、障害者にのみ選択肢が制限されている場合、あるいは他より高い料金を求められる場合がしばしばある。
  • ホテルではバリアフリールームの存在がインターネット等で広報されず、その存在を知ることすらできない場合がしばしばある。

その他、施設利用者一般に提供しているサービスに合理的配慮がないため、これを受けられないといったこともあり得る。

  • 現行ではハードについてのバリアフリー規定はあるが、接遇についての具体的規定はない。従って接遇の内容は事業者側の任意になっていることが大きな問題である。

したがって、公共的施設の利用において、差別禁止の対象となる事項としては、施設利用契約の締結、利用の許諾、利用に必要な手続や条件の付加、施設内やその敷地内における移動や施設に付属する設備等の利用、施設利用に伴う情報の提供、施設利用に伴う役務の提供などに関する事項も含まれる。+障害者にのみに加えられる利用上の制限(「利用に必要な手続や条件の付加」が時間や料金の制限まで包含するのであればこの記述は不要)。

b)交通機関

交通機関の場合、たとえば、車いす利用者だからといってタクシーの乗車を拒否される、「通勤時は込み合うので無理」という理由でバスの乗車を断られる、ハンドル型電動車いすやストレッチャー型車いすは安全でないといった理由で、鉄道利用を断られる等、利用そのものを拒否される場合や長距離列車に設置してあるトイレが使えなかったりする場合のように、交通機関に付属して設置してある設備などが使えず、交通機関そのものを利用できないといった場合もある。

  • 例えば駅と外部をつなぐ経路として隣接ビルのエレベーターを使わなければならないような場合には、隣接ビルの営業時間が終われば車いす使用者は駅の利用ができなくなる。障害者にのみ他の者とは異なる利用時間の制限があることは、社会参加への大きな制約となっている。
  • 新幹線では車いすで使える席が指定席にしかなく選択できない。従って、指定席料金を払うことが利用の前提となっている。
  • 現行ではハードについてのバリアフリー規定はあるが、接遇についての具体的規定はない。従って接遇の内容は事業者側の任意になっていることが大きな問題である。

また、一般よりも早く事前の利用申込みを求められる、一般とは全く異なる利用申込み方法を求められる、申込みにあたって障害者以外では求められないような個人情報を求められる、飛行機に乗るのに介助者の同伴を求められる、医者の診断書を要求される、電動車いすのバッテリーの取り外しを当事者側で行うように求められる等のように利用に条件が課されることもある。

さらに、利用ができる場合でも駅舎にエレベーターがなかったり、プラットホームと電車のステップにかなりの高低差がある場合もある。しかし、このような物理的障壁をなくす何らかの合理的配慮がなされていない場合も多い。加えて、交通機関を利用する上で必要な駅や空港のアナウンスによる運行状況の情報や行き先等の案内表示板が障害者には分からないといったことによって、当該交通機関の利用に困難を伴うこともある。

したがって、交通機関の利用において、差別禁止の対象となる事項としては、運送契約の締結、運送に必要な手続や条件の付加、交通施設内やその敷地内における移動、施設に付属する設備(たとえば券売機、改札、トイレ)等の利用、交通機関の運行に伴う情報の提供、交通機関の利用に伴う役務の提供、外部とその交通機関を結ぶ経路において障害者にのみに加えられる制限などに関する事項も含まれる。

2)対象物と差別をしてはならないとされる相手方の範囲

本法における公共的施設とは、障害者の社会参加といった視点と他者との平等を図るといった視点からすると、対象物は、不特定または多数の者の利用に供される建物、施設、設備(たとえば、学校は特定の者の利用に供されるものであるとしても、多数であるのでここに含まれる)であれば足り、不特定かつ多数の者の利用に供されるもの(たとえば、デパートや公会堂)だけに限定するのは妥当でない。しかし、特定された者でかつ少数の者だけの利用に供されるもの(たとえば、戸建ての個人住宅やそれほど大きくはない共同住宅)は除外するのが妥当である。

※現行の一定面積以上の共同住宅についての基準では、共用部分の規定はあるが、個別の住戸の規定はない。そのため、わが国の民間共同住宅に車いすで使える部屋を見出すのは極めて困難である。車いす使用者は知人や親せきの家にも行けないのはおかしい、という意見がある(Visitability)。特定少数の者の利用だとしても、不特定または多数の者に対して販売活動が行われるものにあっては、全住戸の何%かは段差解消など車いすでの最低限の利用を可能とすべきといった何らかの言及が必要なのではないか。

また、交通機関とは、上記同様の視点からすると、不特定または多数の者を想定した旅客の運送を行うための車両その他の運搬手段、駅舎等の運送のために供される建物と建物内に設置された設備、付属の駐車場やバス停などの路外設備などを含むものである。

※外部からその交通機関に到達するために移動困難者に提供されている経路も 含むべきである。

なお、不特定または多数の者の運送を想定したものであれば、実際の運行において、少人数であるタクシーであるとか、多数ではあるが特定の者だけを運ぶ貸し切りの場合もここに含まれる。

そこで、この分野における相手方としては、上記公共的施設及び交通機関を管理する者であり、官民を問わないことになる。

3)国のバリアフリー施策との関係

国は以前よりこの分野におけるバリアフリー化を図るため、法に基づいてこのための施策を推進している。これは「はじめに」において述べたように、障害者権利条約が求める施設等の利用可能性に関する最低基準及び指針を設定して実施するための措置と言える。

ただ、これらは、障害者全体の利便性確保といった観点から行われるものである以上、全体的に必要性が高く、障害者の利用が多いと思われる対象に絞って、実現可能性の高いところから行うことにならざるを得ないといった側面がある。したがって、公共的施設及び交通機関の範囲、既存のものであるか否か、またはその規模などにおいて、求める施策の内容が異なることになる。

こういった施策は障害者権利条約が求めるほどに重要なことではある。(ここの記述は意味が不明瞭)

しかし、バリアフリー基準を満たしている場合であっても、個別的接遇においては不均等待遇といった事例が起こり得ることであるし、一般的なバリアフリー基準が、障害の多様性とか個別の状況に沿った合理的配慮を満たすとは必ずしも言えないこと。現行のバリアフリー基準はハードについての規定であり、接遇についての具体的記述はない。従って駅員による接遇の内容は事業者側の任意になっていることが大きな問題である。

または、施策の対象範囲外である場合には、何ら合理的配慮をしないといった事例の発生を防止するのは困難であること。

さらに、バリアフリー施策では、差別事案が生じた場合の紛争の解決の仕組みが提供されていないこと、等に鑑みると本法においてこの分野における差別禁止カバーすることが求められる。そうした場合、国のバリアフリー施策と本法による差別禁止は、障害者の社会参加を確保するための両輪であるといえる。

※長年、国土交通省は、障害者が公共交通機関を利用することは権利ではないとする立場を取ってきている。権利と認めれば、現行基準による整備を即座に行う義務が国に生じるが、物理的に無理だとの理由づけであるが、こういった現行のバリアフリー施策そのものの差別性を問うことができるのであろうか。そういう観点からすると、本法においては、対象物の規模の大小等は経営規模に関わるので、不均等待遇や合理的配慮の不提供における正当化事由として考慮される要素にはなるであるだろうが、本法の適用対象自体としては、既存か否か、規模の大小等は問わないことになる。

※社会の中には、法に適合しない公共的施設が多数ある。これらは新築時には当時の規定を満足していたが、法改正によって不適格になったもののほか、そもそも最初から適合していないものもある。合理的配慮が何らかの法や基準に担保された整備レベルの上に求められる柔軟な配慮だとしたら、例えば違反した状態で入口にスロープのない建物がある。ここにスロープを付けろと求めることは、合理的配慮の範疇なのか、法令への適合なのか。合理的配慮の範疇ならば差別禁止法の紛争解決のルートがあるが、バリアフリー法令違反ならば紛争解決のルートは確立されていない。

3、この分野で禁止が求められる不均等待遇

1)不均等待遇の禁止

この分野においては、前述のとおり、公共的施設及び交通機関の利用における不均等待遇および合理的配慮の不提供が禁止されることになる。不均等待遇の事例としては、先に述べたとおりである。

障害者が他との平等に基づき社会参加できるようにする観点から、これらの障害及び障害に関連する事由を理由とする利用の拒否、利用の制限、利用に条件を課すこと、その他の異なる取扱いをすることを差別とし、これを禁止することが求められる。

2)不均等待遇を正当化する事由

この分野における不均等待遇における正当化事由は、総則で述べたとおりであるが、合理的配慮を尽くした上でもなお、建物または交通に供される車両等の構造上、安全上やむを得ないと認められる場合などの理由がある場合は、差別に当たらないとすることが妥当である。

ただし、以下の点に留意すべきである。

すなわち、安全性は誰に対しても保障されなければならないものではある。

しかし、交通機関の運行に際して事故の発生の根絶は困難であり、そういった意味で抽象的なリスクは誰に対しても負わされていると言える。そして、そのような抽象的なリスクがあるからという理由で障害のない者が交通機関の利用を拒否されることはない。

にもかかわらず、障害者の場合は、極めて抽象的な危険性の存在を問題にされて利用を拒否される場合もある。合理的配慮を提供しないまま障害者に対してのみ一般的・抽象的な可能性のレベルで安全が保障できないと判断されるのは、それ自体が異なる取扱いといえる。そういった点に鑑みると、安全性の判断は個別具体的な根拠を要するものと考えるべきである。

  • この安全性の判断をどこが行うのか?

4、合理的配慮及びその不提供を正当化する事由

合理的配慮の内容や例外として正当化される場合があることについては、総則で述べたところがこの分野にも当てはまる。

合理的配慮の具体的な内容としては、たとえば、移動においては物的障壁を除去すること、または人的支援を提供すること、接遇においては障害特性に配慮した対応をすること、設置してある設備の利用においては障害者にも可能となるような手段を提供すること、当該施設の利用に必要な情報においては容易に理解したり、受け取れるようにするための手段を提供するなどが考えられる。