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旅で始まるいきいきライフ

第1章 旅は道連れ世は情け

2. 「見えない旅」の面白さ
─視覚障害者にとって旅はどんな意味があるのか─

(社福)日本盲人会連合 情報部長 鈴木 孝幸

「旅」ってなに?

「見えない人が旅行に行って面白いの?」とわざわざ質問する人はまれでしょうが、だれもがそのように思うことでしょう。結論を言えば「とっても面白い」のです。

「え~何で?」とまたまた聞き返されるのではないでしょうか? それでは反対に聞きたいのですが、皆さんは旅行で何が楽しみですか? きっと風景などを写真で撮ったり、絵を描いてみたり、はたまた温泉につかることやその土地土地の食べ物やお土産など、いろいろな目的があるでしょう。

そんな視点から考えると、視覚に障害があっても楽しめることは多いのです。

要するに、人それぞれの目的で旅行に行くのですから、見えない人には見えない人なりの楽しみを持って行くのです。他の人がとやかく言うことではなく「その人なり」に楽しめれば良いのです。それこそ「みんなちがって、みんないい」ですよ。

楽しみ方って?

ここで、皆さんと私?(視覚に障害がある人)のちょっとした楽しみ方の違いを見てみましょう。

●身体で感じる

例えば温泉につかることをとって見ましょう。皆さんが温泉につかるときは思わず「あ~いい湯だ」と目をつぶっていませんか? それからおもむろに周りの風景が良かったりすると目を向けるのです。温泉につかること、風景を見ることが一緒になっていますよね。

私は温泉につかれれば良いのです。その暑さや温かさを身体で感じているのです。でも成分などは判りませんけどね…。

観光船に乗って1時間の遊覧をした時のことです。船の最上デッキに行って風に当たりながら船のスピードを感じると共に、スピーカーから流れる説明を聴きながらイメージを楽しむクルーズとなりました。船がスピードを上げたり落としたり、方向を変えて進んだりすることも、私たちには判るのです。

「なぜ」って聴かれてもその理由は皆さんの体感とは敏感さが違うのではないでしょうか?「目」を使わない分、感覚が鋭いのかもしれませんね。

●声でわかる素晴らしさ

私たちは、周りにいる人の歓声や話し声で風景をみることができます。

いつだったか箱根に行った時、つづら折りの坂道をバスで登っていてカーブを曲がった時のことです。車内の人たちが突然一斉に「わーっきれい」と歓声を上げたのです。その理由は私にもすぐにわかりました。それはつつじが満開でとてもきれいに咲いていたのです。その見事さを口々に表現されていて私にも素晴らしさが伝わって来ました。

こんなこともありました。友達に誘われて福井県の民宿に魚料理を食べに行ったんです。出てきた刺身が船に盛りつけてあったのですが、なっ、なんとその船の大きさが4尺(1.2㍍)くらいもあったんです。運ばれてきたときの歓声たるやものすごいものでした。その声で「どうしたの」と聞いたのです。

友人は「ただの舟盛りじゃなくって、触ってみたら」と触らせてくれてこちらもびっくりでした。一緒にいる人や、周りの人が声を出したことによってこちらは声に反応してその見事さや素晴らしさが伝わってくるのです。

ですから視覚に障害のある人と一緒に行く時は「感性や歓声の高い人」が望ましいかも知れませんね…。

●音で見る

北海道屈斜路湖に行った時のことです。「あそこでボートが動いてるんだ」と一緒の人に話をすると、「見えないよ」と言うのです。私は、モーターボートの音がするので指さしながら言うと、「あれかな?」とかすかに見えるようだったのです。「なんで判んないの?」と思っていたら、その時は、あいにく濃い霧がかかっていて風景がよく見えなかったのです。

写真 1

みんなは「景色が見えなくって残念」と言っていましたが、私は「きれいに見えましたよ~」って言っちゃいましたけどね。

そうそう、こんなこともありましたっけ。喫茶店でなかなか飲み物が出てこなかった時のこと、「もうすぐ来ますよ」と教えてあげたのです。すると本当に飲み物が出てきました。「なんで判ったの」と聞かれたので「壁の向こうが見えるんですよ」と答えました。

喫茶店などに入ると、店にもよりますが冷蔵庫の開け閉めの音や、食器の音などで何をどうしているかがわかるのです。店の動く人の動線や足の動きで店の作りがわかったりするのです。

●一人旅での工夫

私は出張でよく飛行機や新幹線に乗ります。それも一人でです。「すごいね~」と言われますが、そんなことはありません。私はすごくないのです。ちょっとした工夫をしているだけなのですから…。

自宅を出て駅まで行きます。ここまではいつもと変わりません。でもここからが大事なのです。駅員さんに「○○駅まで行きますのでお願いします」と伝えると、乗り換え駅で駅員さんが出迎えてくれて目的の駅まで安全に行くことができます。まるでVIP待遇で旅行することができるのです。

しかし、これをするには少し条件があります。

まず、指定券を購入することです。特に新幹線の場合は奇数号車の後ろ側か偶数号車の前側、それもDの席を予約します。そうすることによってトイレに近い場所になるので安心してトイレに行けます。一人ででも行けるのです。

次に、時間に余裕を持って動くという事です。どうしても乗り継ぎの時には待つことが多いので、そこで時間がないと自分も駅員さんも焦ってしまうからです。

いつだったか、岡山から海峡線で高松に行った時のことです。その電車が遅れてすでに高松では発車のベルが高らかになっていました。他の乗客はみんな走っているのです。そこで「急がなくていいんですか?」と駅員さんに言うと「大丈夫だよ、あなたが乗るまでは待っていてくれることになっていますから」と話されたのです。やっぱりVIP待遇だなぁってうれしい時間でしたよ。

それから、誰でも声をかけること。恥ずかしがらずに周囲の人に協力を求めると皆さん快く(本当は迷惑?)引き受けてくれることが多いのです。しかし、うまく行くことばかりではないので、めげずにやらないと「楽しい旅」は得られません。

写真 2

ここで一言ですが、これまで書いてきたことは視覚に障害のある人全てに当てはまると思われても困るのです。あくまでも私個人の感覚ですし、やり方です。しかし、一緒とは言えないものの的外れでもありません。当たらずとも遠からずではないかと考えます。

もし、皆さんが旅をしている時に視覚に障害のある人を見つけたら、さりげなく声をかけてみてはいかがですか? 一言「お手伝いすることはありますか?」と…。これが意外と難しいかもしれません。

●座席を見つける難しさ

皆さんは時々「自由席」に乗ったり、通常の電車やバスに乗った時に、空いている座席をすぐに見つけることが出来るでしょう。しかし、その簡単なことが私たち視覚に障害のある者にとってはとっても難しいのです。「なぜ」って?それは、最初から全て空いているのであればどこに座っても問題はないのですが、人と人の間を見つけることが出来ないのです。

乗車した時に「空いている席はありますか?」と聴く人がいます。でもこれをするといかにも「席を空けて欲しい」と言っているようなものですよね。だからあまりそのようなことを聞くことはないのです。ガイドヘルパーさんや家族、友人と一緒に乗るときにも、そのようなことを言うと、それが聞こえた周りの乗客が気を使って席を空けてくれることもしばしばです。

そうそう、こんな友人がいました。電車の場合、乗車したドアーのすぐわきに皆さんが好んで座りますよね。乗車した時に軽くその近くの手すりに触れるようにするのだそうです。するとごくわずかに乗客の方に触ってしまうのです。すると気づいた乗客の方が「どうぞ」と席を譲ってくれるのだそうです。私のような「弱気」な者はなかなかできません。そんな時には、皆さんが「ここ空いてますよ」と少し手伝って頂ければありがたいのです。

●トイレに行きたい

トイレに行きたいときにはどうしますか? きっと皆さんは周りを見渡して見つけると思います。しかし、それが私たちにはできないのです。

こんなことがありました。駅員さんがいたのでトイレを聞くと案内してくれたのです。そこは「みんなのトイレ(障害者用)」でした。

私たち視覚に障害のある人は、あのトイレはとても苦手なのです。なぜかって?それは広いからです。ある人は入ってから用をすませ出てこられなくなったという笑い話のようなホントの話があります。

一緒に行った人が出るときに、トイレ内の閉めるボタンを押してでたのです。当事者はそのボタンの場所がわからず外にいる人に声をかけたのですが、なかなか見つからず往生したそうです。それに、いろいろなボタンがあるので、流すボタンと思って非常ベルを押したりすることもあります。

私もできれば普通のトイレがうれしいですね。

こんな話もあります。電車に乗っていた時におなかの具合が悪くなりトイレに行きたくなったのです。あと10分我慢すれば地元の駅だったのでトイレの位置もわかるし、ホームにあるので無駄な時間はかからないと思い、我慢に我慢を重ね目的の駅に到着、そしてトイレに…。

安心したのもつかの間「流すのはどこ?」と個室内を探したのですが見つかりません。探すこと数分。そこで決断しました「ええい、このまま出ちゃえ!」と。後日気がついたのですが、ちょうど顔のところにあったのです。それも小さくて押しにくい親指くらいのボタンが。「あ~、こんなところにあったんだ」と独り言を言った私でした。

●旅館とホテルはどちらが好き?

皆さんはどちらをえらびますか? 最近ではホテルも旅館も区別がなくなってきていますが、こんな面白い話を聞きましたよ。

私たちは仲間と一緒に出掛けた時に宴会をします。その時に「浴衣」に着替えて参加したいのです。それは醤油が飛んだり、お酒をこぼしたり、何があっても「浴衣」なら大丈夫だからです。ある時「浴衣」で宴会に行こうとしたら「ここはホテルだから着替えて」と言われました。なぜでしょう?

ホテルと旅館の違いは宴会などに行くときに「浴衣」で行けるかどうか、館内を「浴衣」で歩いてもよいかどうかです。ホテルと名前がついていても、もともとが旅館の場合は「浴衣」で館内を歩けるんです。皆さんが泊まったホテル?で聞いてみてはいかがですか? ちょっと面白いかもしれませんね。

●広いより狭い所が動ける

先ほども書きましたが、私たち視覚に障害のある人は、広いところよりそれなりの狭さの方が自分の位置がわかりやすいのです。たとえば12畳の部屋に一人で泊まったことがありますが、落ち着きませんでしたねぇ。畳のヘリを足で感じながら動く人もいますがなかなかのものですよ。

反面、洋室では、ある意味わかりやすいのです。部屋が広くてもベッドや椅子やテーブルなどがガイドラインとなって動きやすいのです。シングルルームなどはよいですね、なぜかって? 部屋の中を動くときにわかりやすいので安心して動けるからですよ。

●温泉に入りたいけど

温泉に入りたいときには同性の人と行くのが良いですね。女性だとなんだか恥ずかしい?感じがするからです。

我が家には男の子がいて旅行の時には一緒に行っていました。この息子は温泉が大好きで一緒に行くのですが、自分は遊んでばかりいるのですが、物心ついたころから手を引いてくれるようになりました。

しかし、なかなか上がろうとしないので一緒に上がる算段を考えないと、ず~っと入っているはめになるのをどう避けたらよいか考えるのでした。

そうそう温泉に行くときには家族風呂があるととっても楽ですよね。最近では家族風呂があるところを選んでいくこともありますよ。

●バリアフリーで移動が楽?

最近の宿泊施設はほとんどがバリアフリーになっているような気がします。これも高齢の皆さんがよく利用するためだと考えています。

それに、相当古い旅館?でない限りエレベーターが設置されていますし、音声も出るものが多いように見受けられます。でも、各階のボタンが交互に配置されているものや順番に配置されているなどまちまちで基準がないようです。それに困るのはタッチしただけでボタンを押した状態になることです。探しているだけなのに各階のボタンが押されていたりして…。私たちにとっては押し込み型のボタンがよいのです。

それにエレベーターの機種にもよりますが、到着時に上に行くか下に行くか音の高低でわかるようになっているものもあります。そういうのが設置されているところでは楽に移動ができるのです。

●バイキングは苦手

旅行に行ったとき朝食はどうでしょうか?一部でセットメニューの朝食もありますが。ホテルだったらほとんどがバイキングですよね。

視覚に障害のある人、それにロービジョン(弱視)の仲間も含めて苦手なんですよ。

混んでいるときなどはしっかり見て選ぶことが難しいのです。例えば厚揚げとコロッケを間違えたり、ハンバーグとミートボールを見間違えたり、色が似ているものの判断がつきにくいのです。だからゆっくり見定める時間が欲しいのです。

私は、ホテルの人にお願いをするのですが、なんとなく悪い気がしてメニューをきめてしまっていることも多いのです「スクランブルエッグ、ベーコンかハム、ソーセージかウインナー、ロールパンかクロワッサン、スープとコーヒーとオレンジジュース」で決まりですよ。

最近ではカレーがあるところも多いですね。イチローが「朝カレー」を食べているニュースの影響かビジネスマンが好んで食べているようです。私もカレーがあれば絶対に選びますね。

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地域によってはその地域の特産品を出していることがあります。そんな時にはホテルの人にチョイスしてもらうとホテルの人もちょっと鼻がたかくなってうれしそうです。