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特集/検証「障害者プラン」

好転成るか、わが国の障害者施策

「障害者プラン」その背景と着眼点

藤井克徳

はじめに 本特集の趣旨

 数値目標が盛り込まれた障害者プラン、関係者にとっては待望久しいものがありました。「障害者プラン」(以下、プランという)が示されて約2か月が経ちました。注目度が高かっただけに、プランをめぐっては関係者のあいだでも多様な角度から感想や見解が行き交っています。「とにもかくにも策定されたことそれ自体を高く評価すべきだ」「目標値が余りにも小さく、困難な事態の好転にはつながりそうもない」「在来線型から新幹線型の転換を期待していたが、在来線のダイヤ改正ぐらいに留まってしまったようだ」…と、実にさまざま。

 そこで本号では、2月号に引き続き「障害者プラン」を特集し、今回は民間でかつ分野の異なるそれぞれの立場からみたプランへの「鋭言」、すなわちプランについての評価・検証を加えていただくことにしました。

 各氏よりの評価・検証に先立って、プランの全体像についての理解を容易にするために、策定に至るまでの背景・経緯、着眼点、当面の課題について簡単に記します。

1 プラン策定に至るまでの背景・経緯

 直接のきっかけとなったのは、障害者基本法の改正でした(旧心身障害者対策基本法・1993年12月改正法公布)。この基本法の中で「政府は、(中略)障害者の施策に関する基本的な計画を策定しなければならない」(第7条第2-1項)と、国に対して総合的で計画的な障害者基本計画の策定を義務づけました。94年9月、厚生省内に「障害者保健福祉施策推進本部」(本部長・厚生事務次官)が設置され、策定作業が本格化していきました。

 一方、プランの最終的な実施主体は市町村が担う内容が多く、その促進を図るために、総理府は「市町村障害者計画策定指針」を作成しました(95年5月)。加えて、プラン策定の背景として見逃せないのが、社会保障制度審議会の勧告「社会保障体制の再構築」(95年7月)です。本勧告の中で「障害者施策について、長期的観点に立ち、総合的、計画的推進を図る必要がある。(後略)」とあり、障害者施策の立ち遅れについて改善の必要を強調しています。

 この勧告の直後の7月25日、厚生省より今回のプランの原型ともなった「障害者保健福祉推進本部中間報告」が示されました。これ以降、総合的(全省庁的)なプランとしていくために、総理府主導で最終的な策定作業がすすめられ、95年12月18日「障害者プラン」が誕生したのです。

 なお、こうした直接的な経過とは別にプラン策定に大きな影響を及ぼした事柄をいくつかあげておきます。一つは、他の社会福祉分野の長期プラン、すなわち新ゴールドプランやエンゼルプランによる影響です。当然のことながら、先行した高齢者施策や育児環境改善施策との政策上の均衡を図っていくことは、障害分野にかかわる官民共通の課題となっていたのです。二つ目は、「完全参加と平等」やノーマライゼーションをテーマとする国際障害者年(1981年)以降の、障害分野についての新たな潮流です。国際障害者年と相前後して数々の国連決議や国際的な文献が紹介されましたが、これらに今回のプランの源流を見る思いがします。三つ目として、障害者運動全体の高揚ならびに個々の団体や各地でくりひろげられてきた実践や事業の発展があげられます。ことにプラン策定の最終段階で、民間団体が果たした役割は大きいものがありました。

2 どう読むプラン、その着眼点は

 プランの検証にあたって、プラン着眼点をはっきりさせておく必要があります。なお、この着眼点は「中間報告」で既に重点課題とされていたもので、次の六点があげられます。

 まず第一点目は、数値目標の水準についてでした。目標値が盛り込まれることが最大の目玉であった今回のプラン、厚生省はもとより他省庁を含めて、「値」の規模に関係者の熱い視線が注がれていました。

 第二点目に、総合化・統合化についての具体化があげられます。障害種別等による縦わり施策が本当に改められるのか、わけても厚生省での障害者行政組織がどんなかたちで一元化されるのか、この辺がポイントとされていました。

 第三点目に、障害者施策体系の見直しがあげられます。パッチワーク的な経過を辿って40種類近くにもおよんでしまった現行の施設制度。簡素化・統合化とはいうもののどんなふうに改革されるのか、地域生活と直接関係するだけに高い関心が示されていました。

 第四点目に、国・都道府県・市町村の役割がどうなるのか、とくにプランの実効度を高めていくための基本条件となる国の財政支援の規模がどの程度になるのか、その対応が問われていました。

 第五点目に、現行施策の範囲外、あるいは手薄い領域にどのような策が講じられるかということでした。各種の自主的な法定外事業、重度障害者や難病者、中途障害者に対する施策、本格的に着手されるのかどうか、プランの有効度のバロメーターともなるものでした。

 第六点目は、策定準備の過程で厚生省に大きく遅れをとった他省庁がどの程度の水準にまでこぎ着けることができたのか、ということでした。「総合性」を標榜していた今回のプラン、最終的に全省庁の揃い踏みが成るか、大きな注目点でした。

3 今、改めて問われつつあるもの

 プランが策定された今、改めていくつかのことが私たちに問われています。一つは、地方自治体を中心としながら民間レベルをも含め具体化すべき事項についての早期着手ということです。今ひとつは、「中間見直し」に向けての態勢確立を図っていくことです。緊急には、この見直しにも大きな影響を与えるとされている「市町村障害者計画」づくりに、個々の団体や地域が全力を傾注していくことが求められます(九六年度内策定が努力目標)。

 今回のプランは、ノーマライゼーション社会の構築というゴールからすればまさに一里塚にすぎません。しかし、新たな時代づくりのきっかけという視点からすれば超大な可能性を内包するものです。この好機にどう立ち向かっていくか、関係者の姿勢と責任がこれまでにも増して厳しく問われることになるのではないでしょうか。

(ふじいかつのり 本誌編集委員・共同作業所全国連絡会事務局長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年4月号(第16巻 通巻177号) 10頁~11頁