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特集/検証「障害者プラン」

本格的な「障害者プラン」実現に向けて

調 一興

1 現状の認識

 「国連・障害者の十年」が終わり、1993年から2002年までを「アジア太平洋障害者の十年」とすることが、アジア太平洋社会経済委員会(ESCAP)で採択された。わが国では1993年4月に、政府の「障害者対策に関する新長期計画」が発表された。

 この政府の新長期計画は〝完全参加の社会づくりをめざして〟というサブタイトルが付され、施策の基本を次の五項目としている。

 ①障害者の主体性、自立性の確立

 ②すべての人の参加によるすべての人のための平等な社会づくり

 ③障害の重度化・重複化および高齢化への対応

 ④施策の連携

 ⑤「アジア太平洋障害者の十年」への対応

 そして、その後も新しい法律の制定や改正、あるいは具体的な施策が次々とうち出された。法制だけみても、障害者(通信・放送)利用円滑化法、福祉用具の研究開発および普及に関する法律、ハートビル法など各法の制定、精神保健法の改正、障害者の雇用の促進等に関する法律の改正、そして画期的ともいえる障害者基本法の成立などがあった。また運輸省や建設省等からは、バリアフリーをめざすいくつかの施策がうち出された。

 これらの制度や施策の動向をみる限り、わが国の障害者施策は急速に進むものと映ったが、現実は内容の伴わない形だけの流れのままであった。

 「国連・障害者の十年」の中間年以降の障害者関係の予算は、毎年自然増にとどまっており、体裁が整えられるばかりで、ノーマライゼーションの理念や「完全参加と平等」のテーマである、すべての障害者があたりまえの生活をすることのできる地域社会と、地域で自立するための諸条件は、どういう道筋で、いつ頃を目途に実現するのか、見とおしの立たない状況が続いていた。象徴的に数字をあげれば、重度身体障害者が地域で暮らすことはきわめて困難、知的障害者の三分の一の約9万人は主として入所更生施設での生活であり、今も増え続けている。

 精神障害者は34万人強が入院生活であり、横ばいが続いている。社会復帰施設等の受け入れ体制の整備は、遅々として進まないままである。また、全国に無許可の小規模作業所が4000か所もあり、さらに増え続けている。

 今回の障害者プランは、こうした閉塞状況を打破して、本格的な障害者施策を進めるために、障害者関係団体の強い要望を、政府(行政)と国会が受けとめたことによって、実現したものということができる。

2 「障害者プラン」の評価

 「障害者プラン」は、施策の基本を、障害者が施設ではなく、地域で自立した生活が送れるように、ライフステージの各段階で必要な施策を講じるとしていることである。そのためには障害の種別をこえた総合的な施策を、市町村を中心に推進すること。また複数市町村域、都道府県域の各段階の役割を明確にするとともに、厚生省の障害保健福祉の行政組織を一元化(障害者保健福祉部)するなど、推進体制についても踏み込んでいること。施策を数値化して計画的に推進するとする方針を示していること。市町村障害者生活支援事業、精神障害者地域生活支援事業、障害者児(者)地域療育支援事業を、それぞれ人口30万人の広域的な圏域に配備すること。介護については当面保険ではなく公費で実施するとの方針のもとに、新たにホームヘルパー4万5000人増員を決めたことなど、評価できる内容となっているといえる。

 問題もある。そのひとつは精神薄弱者入所更生施設を8万5000人から9万5000人へと1万人分を増設するとしていることであり、これはこのプランの基本理念に反するだけに重要である。精神障害者の分野でも、新たに精神障害者保健福祉施設(心のケアを目的とする)といった、医療寄りの入所施設構想が精神医療の分野にあり、これを許容するような表現があることと相まって連動する恐れがあり、注意が必要である。

 また、今回の「障害者プラン」は、本格的な障害者プランという点からは、厚生省関係以外の施策に具体性が乏しく、総体としては評価を下げる結果となった。厚生省は一昨年9月に「障害者保健福祉施策推進本部」を設置して、具体的に施策の詰めを行ってきたのであり、平成8年度予算に項目として予算要求をしていたが、その他の省庁はそうした作業をしてこなかったのである。関係省庁は現行の施策のポイントを羅列するにとどまり、厚生省関係の施策の厚みとのアンバランスが目立つものとなったのである。したがって私たちは、本格的な「障害者プラン」の実現に向けて、引き続き行動することが必要である。

3 課題

 課題はたくさんあるが、紙数がないので主な点のみ項目的に述べる。

 ①決定された数値目標について、その根拠を明らかにするよう求めつつ、的確なニーズ把握に努め、2~3年後の見直しのときに備えること。

 ②プラン全体の見直しに向けて、関係省庁の施策の具体化を要請し、障害者関係団体が共同して、具体的な提案を行えるよう作業を進めること。

 ③平成8年度に予定されている市町村障害者計画において、まだ市町村に権限委譲されていない知的障害者や精神障害者を含めた計画となるような措置をとられるよう、国に要請するとともに、障害者団体も市町村に働きかけること。

 ④厚生省内に障害保健福祉部が発足(本年7月予定)した後、施策全体について整合性が図られるよう問題点を整理して意見をあげること。

 また、施策体系全体を新たな視点で全面的に見直すよう、具体案をもって提案すること。

 ―などが課題である。

(しらべかずおき 日本障害者協議会代表)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年4月号(第16巻 通巻177号) 17頁~18頁