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1000字提言

企業がノーマライゼーションに目覚めるとき

小西 勝巳

 今般のように、経済環境が悪化してくるととても「社会貢献どころではない。そんな余裕はない」という考え方が企業内で起こりがちである。逆に言えば、ノーマライゼーションは、企業活動のプラスαの行為であり、その余力のある企業がすればよいという意見もよく聞く。果たしてそうであろうか。

 企業はすべて地域社会の中に存立する。例えば私が属する流通業界は地域社会の中にあって、その地域から働く人が通い、その地域からお客様が買物に来られる。地域が豊かにならない限り、そこに在る企業も決して豊かにはならない。企業だけが一人繁栄するということはあり得ない。その地域には障害を持った人もお年寄りも住んでいる。こうした地域社会をあるがままに受け入れたり、その地域社会に対し優しくあることは、決して企業にとってプラスαのことではなく、企業の経営活動そのものなのである。

 当社のある店舗に一人の車いすの女性が電話交換の仕事をするために入社してきた。トイレを直したりスロープをつけたりしたが、一つだけ改善できない箇所があった。それは店内放送用のスイッチのツマミの位置が高すぎることである。そこで店の仲間がみんなで考え、一本の竹の棒を作った。竹の棒の先にガスのゴム管を付けるとスイッチのツマミのギザギザと良くフィットして、車いすの人でも簡単にツマミを回すことが出来る。この竹の棒一本で、この女性は健常者と全く同じ仕事をこなせるようになった訳だ。

 そしてこの頃から、その店は活気にあふれドンドン業績を伸ばしていった。その原動力は、この女性が仕事をできるようにするために、皆で知恵を集め竹の棒を発明した「チームワーク」に他ならないと、私は思う。すなわちノーマライゼーションの推進が企業の業績を押し上げたのである。

 福祉施設で障害者の方が作った作品を販売する目的で当社の店舗内に無償で場所をお貸しする「ふれあいショップ」を開店したら、そのショップはもとよりそこをお貸ししている当社の別の売場も賑わうようになった。同様の事例は枚挙に暇がない。

 企業がノーマライゼーションに目覚めるとき、それは企業が地域との共生を単なる「社会貢献」ではなく「経営理念」として明確に位置づけたときである。経営理念として位置づけられたノーマライゼーションなら、その年の業績の如何に関わらず、推進し続けなければならない基本行為となるからである。

(こにしかつみ ㈱イトーヨーカ堂教育訓練部)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年4月号(第16巻 通巻177号) 26頁