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フォーラム'96

英国の障害差別法の制定

小鴨英夫

昨年11月8日、イギリス障害差別法が制定された。

 1995年障害差別法(Disability Discrimination Act 1995)は、次の三つの目的をもって、1995年11月8日に制定された法律である。第一に、雇用、物品、施設そしてサービスの提供もしくは建物の処理とか管理と関連して障害者を差別することを違法とする、第二に障害者の雇用に関する規定をつくること、そして第三に全国障害者評議会を設置すること、を目的とする法律である。

 全体は8章に大別され、第1章は障害、第2章は雇用、第3章は他の領域における差別、第4章は教育、第5章は公共輸送機関、第6章は全国障害者評議会、第7章は補助的事項、第8章は雑件、それに付則が8項まであり、全体は70の条項から構成されている。各章の要点について紹介する。

 第1章の障害では、「障害」と「障害者」の意味、「過去の障害」について次のように規定している。

 先ず、この法では障害をもつ者とは、付則1の規定に従い、正常な日常活動を行う能力に関して、実質的かつ長期にわたる不利な影響を与える身体的もしくは精神的な障害をもつ場合、その者は障害をもつ者とみなされる。

 そして付則では、この定義に用いられる主要な用語について説明を加えている。例えば「長期にわたる影響」とは、次のような場合であるとしている。(a)少なくとも12か月持続している場合、(b)少なくとも12か月継続すると思われる場合、(c)その人の残りの人生に影響を及ぼすと思われる場合で、また障害が正常な日常活動を行うのにその人の能力に実質的に不利な影響を与えなくなった場合でもその影響が繰り返されると思われるならば、その影響はずっと継続するとみなされる。「正常な日常活動」については、次の一つでも影響が及ぶならば、障害が正常な日常活動を行うことに関して、その人の能力に影響を及ぼすとされる。(a)移動、(b)手先の器用さ、(c)身体的協応、(d)自制、(e)日用品を持ち上げる、運ぶ、動かすといった能力、(f)言語、聴力、視力、(g)記憶、集中力、学習能力、理解力、(h)身体的状態の危険の認知。第2項では、「過去の障害」について、ここでは障害者は過去に障害をもっていた人を指し、現在、正常な日常活動を行うのに不利な影響がなくとも、その影響が繰り返されるならば、その影響は継続するとみなされる。

 第2章は雇用に関する章で「雇用主による差別」の節では、(1)職への申込者および従業員に対する差別、(2)差別の意味、(3)調整されるべき雇用者の義務などについて触れている。

 (1)については、雇用主は、(a)雇用を申し出た人の採用の取り決めにおいて、(b)雇用を申し出たことに関して、(c)雇用の申し出を拒んだり、故意に申し出ないようにすることによって、障害者を差別することは違法であるとしている。そして従業員として雇用している障害者に対しては、(a)雇用に関して、(b)昇進、転任、研修もしくはその他の特典を受ける機会において、(c)いかなる機会をも彼に与えることを拒否したり、故意に与えないことによって、(d)いかなる他の損失のために彼を解雇したり、服従させたりすることにより、雇用主が障害者を差別することは違法であるとしている。

 (2)については、(a)雇用主が、障害者の障害に関し、障害者以外の人には適用しないような理由で障害者に好意的でない取扱いをしたり、(b)雇用主がその問題の取扱いを正しいものと示すことができない場合、雇用主は障害者を差別することになる。同様に、雇用主が次の(3)の義務に従わなかった場合にも適用される。

 (3)においては、(a)雇用主によりなされる取り決め、もしくは雇用主に代わってなされるいかなる取り決めにおいても、(b)雇用主によって使用されている建物の物理的な特徴において、障害者が障害をもたない人と比べ実質的な不利な状況に置かれている所では、雇用主は、取り決めや特徴がもつ影響を防ぐために適正な処置を取ることは義務である。

 そして雇用主が障害者に関して取らねばならないステップの例として次のように示している。(a)建物の調整、(b)障害者の義務のいくつかを他の人に配分する、(c)彼を条件のあったところへ移す、(d)労働時間を変更する、(e)仕事の場所を選んでやる、(f)リハビリテーション、判定とか治療のために、労働時間内に休むことを許可する、(g)訓練を与えたり、訓練が与えられるよう準備する、(h)装具や機器を取得したり、修正したりする、(i)検査や判定の手続きを修正する、(j)指示や関連マニュアルの修正、(k)朗読者や通訳の用意、(l)監督者の準備。ただし、この項は従業員20名以下の中小企業の事業主には適用されない。以上のほか「旅行等」、「他者による差別」の節がある。

 第3章は、その他の分野での差別の章である。先ず、「物品、施設そしてサービスに関する差別」について、サービス提供者が次の事項で障害者を差別することは違法であるとしている。(a)サービス提供者が一般社会の人々に提供しているサービスを障害者に提供することを拒否したり、故意に提供しなかった場合、(b)後の項により、彼に課せられた義務に従わなかった場合、そのため障害者がサービスを利用することが出来ない、もしくは過度に困難な情況に置かれた場合、(c)障害者に提供しているサービスの基準やマナーにおいて、(d)障害者へのサービスに関して、である。

 そして適用されるサービスの例として以下のものをあげている。(a)一般の人々が入場が許可されている場所へのアクセスと利用、(b)コミュニケーションの手段のアクセスと利用、(c)情報サービスへのアクセスと利用、(d)ホテル、下宿、その他の類似の宿泊施設、(e)銀行、保険、契約、金銭関係の施設設備、(f)娯楽、レクリエーション、飲食関係の施設、(g)職業安定所とか1993年雇用訓練法の2項のもとで提供される施設、(h)職業、商業もしくは地方その他の公共事業機関のサービス。そして、前項の目的のためにサービス提供者は次の場合、障害者を差別している。(a)障害者がもっている障害に関して彼が他の人には適用しない理由で障害者を好意的に取り扱わない場合、(b)その問題の取り扱いを彼が正当化できない場合。

 次の項ではサービス提供者の調整を行うための義務について次のように規定している。物理的障壁(例えば、建物のデザイン、構造から建物へのアプローチ、アクセスの問題が生じる)により障害者がかかるサービスを利用できない、著しく困難をきたしている場合、サービス提供者の義務は、(a)障壁を取り除く、(b)その影響がなくなるよう改造する、(c)その障壁を避ける適正な方法、手段を提供する、(d)障害者に問題のサービスを利用できる適正な代わりの方法を提供する。

 「建物」の項では、「建物に関する差別」に関し、建物の売買を営む人が次の事項で障害者を差別してはならない。(a)彼が障害者に建物の売買を提供することに関して、(b)障害者に建物の売買を拒むことにより、(c)記載の建物を必要としている人のリストでの障害者の取り扱いにおいて、また、これらの建物に居住している障害者に対し、建物の管理人は、(a)障害者の施設の利用方法において、(b)障害者が恩恵や施設の利用を故意に許可しないことによって、(c)障害者を立ち退かせたり、その他の損害を被らせることによって、差別してはならない。

 第4章の教育では、1993年教育法の161項(年次報告の中の特別の教育ニーズをもつ生徒に関する情報)に、次の事項を付記している。「(6)各公立、私立学校の年次報告書には次の事項に関する情報を含む報告をすること。(a)障害児の入学についての取り決め。(b)障害児が他の生徒より不利に取り扱われることのないようにとられた対策。(c)障害児の学校へのアクセスを援助するために準備される施設設備、についてである。

 第5章は、公共輸送機関についての記述である。タクシー、公共サービス車、鉄道、追加事項となっている。

 タクシーの節では、(a)障害者が安全にタクシーに乗り降りできるようにする、また、タクシー内で安全に気持ちよく運送できるようにする。(b)車いすの障害者が、車いすに乗ったまま、タクシーの乗り降りが安全にできるように、また、車いすに乗ったまま、安全に気持ちよく運送されるようにする。以上の安全の目的のために国務大臣は「タクシー・アクセシビリティ規則」を設ける。

 この規則では、特に、(a)正規のタクシーは次のことに関して規定に従わなければならない。(i)乗客の利用の際に開けるドアの大きさ、(ii)客室の床の面積、(iii)客室の頭上のスペース、(iv)タクシーが動いている間に、車いすの安全度を確実にするためにつくられた制動装具の備え付け。(b)タクシーの運転手は、乗降用の階段(ランプ)とか、車いすの積みおろしを容易にするようにつくられた装置を備えていなければならない。(c)いかなるタクシーの運転手も車いすで運ばれてきた障害者が(車いすに乗ったままでいる場合も)、車いすが安全である位置に関して、規則に従わなければならない。そして、タクシーの運転手が(a)規定により課せられた必要条件に従わなかった場合、(b)タクシーが守らなければならない規定に従わなかった場合、違反の罪となり、即決の裁判で(標準スケール、レベル3を超えない範囲の)罰金を支払わなくてはならない。

 「車いすの乗客の輸送」についても次項で次のように規定している。タクシーの運転手に課せられた義務について、(a)車いすに乗ったままの乗客を運送すること、(b)そうすることへの付加的料金を徴収しないこと、(c)もし乗客が客席へ坐ることを選んだ場合、車いすを運ぶこと、(d)乗客が安全にしかも気持ちよく運送されることが保障されるよう必要なこのようなステップをとること、(e)次のような援助は正当なこととして要求される。(i)乗客がタクシーの乗り降りができるように、(ii)乗客が車いすのまま乗車を希望するならば、車いすのままでタクシーの乗り降りができるようにすることなどである。

 盲導犬、聴導犬の運搬についての項では、次のように規定している。タクシーの運転手は、盲導犬、聴導犬を同行している障害者を乗せた場合、次のような義務が課せられる。(a)乗客の犬を乗せ、犬が客と一緒にいることを許可すること、(b)そのことに対し付加的料金をとらないこと。

 公共サービス車については、国務大臣は障害者の安全の目的で「PSVアクセシビリティ規則」をつくり、(a)正規の公共サービス車に安全でかつ、あまり無理なく乗り降りできるために(車いすの障害者の場合は、車いすに乗ったままの場合でも)、(b)平に安全で気持ちよく運ばれるようにしている。この規則では、特に、(a)車輌の設備の適合、(b)走行中、車いすの安全度を保つようつくられた制止装置の適合を使用、(c)走行中、車いすが安全である位置、といった公共サービス車の構造、使用そして維持に関する規則をつくることとしている。

 また、鉄道車輌の項では、「鉄道車輌アクセシビリティ規則」をつくり、ほぼ公共サービスの場合と同じ規定であるが、特に、車輌に設けられるトイレの設備、車輌に設けられる車いすを置く場所と床の面積の規定がある。

 第6章では、全国障害者評議会について規定している。全国障害者評議会は次の事項について評議会自身の首唱で、もしくは国務大臣により要請されたときに大臣に勧告を行う義務を有している。(a)障害者や過去に障害をもった人に対する差別の排除に関連した問題、(b)かかる差別を排除する施策に関して、(c)この法律やこの法のもとで行われる規定の運用に関する事項について、である。

(おがもひでお 淑徳大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年4月号(第16巻 通巻177号) 51頁~54頁