音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

特集/結婚と生活~さまざまな状況~

聴覚障害女性の結婚後の問題と聴覚障害者連盟婦人部の役割

荒川孝子

 わが国では、1960年代から聴覚障害者の基本的人権を保障する運動が大きく前進しました。「完全参加と平等」をスローガンとした「国際障害者年」(1981年)、「国連・障害者の10年」(1983~1992年)、「アジア太平洋障害者の10年」(1995年~)が聴覚障害者の運動に対して画期的な刺激を与えましたが、聴覚障害者の「完全参加と平等」を実現するのにまだまだ多くの課題が残されています。

 社団法人東京都聴覚障害者連盟婦人部は、その傘下にある46団体の各区市聴覚障害者協会婦人部からの、広い意味で女性にかかわるさまざまな問題をとりあげ、また女性会員の声を反映した活動を進めています。毎年5~6回、当部事業(定期総会・女性フォーラム・懇談会・東京都ろうあ婦人の集い・新年会等)を実施しています。

 特に「女性フォーラム」では約100名、「東京都ろうあ婦人の集い」では約800名と年代を問わず多くの方々が参加されています。

 「女性フォーラム」では聴覚障害女性にかかわる諸問題について情報交換、問題提起、解決方法などを話し合い、「東京都ろうあ婦人の集い」では聴覚障害女性の地域社会への啓蒙、福祉向上、自立などの目的から毎年1回、各区市で巡回開催されています。聴覚障害者、手話を学ぶ関係者、開催地の協力団体等のさまざまな関係者との交流をはかっていますが、年を追うごとに参加者も多くなってきています。

 ろう教育、年金、女性の就職難、会社での身分保障、手話、育児、活動、近所づきあい、コミュニケーション、家庭など各々で数多くの問題が残されていますが、最近では、災害、また高齢化社会に伴うホームヘルパー、一人暮らしの不安、お墓、遺産、年金、保険の問題なども出されています。

 聴覚障害女性の1番の問題は、コミュニケーションと情報不足です。情報は人によって千差万別ですが、昔、手話通訳者派遣制度がなく、また障害者に対する偏見が強かった頃、親が聞こえないために子どもに予防注射を受けさせようとすると保健所で断られ、やむを得ず自費で病院で受けたり、民法11条のために郵便局、銀行などで融資、預金を断られたり、電話もできないため連絡が思うようにとれなかったり、事故などでコミュニケーションがうまくとれないため不利な立場になったり、社会の障害者に対することばの暴力、いじめがあるなど年輩の方々には、はかり知れない大変な苦労があったと思います。

 最近、マスコミによる手話ブームなどで障害者をとりまく環境も昔と比べ少しずつ変わってきましたが、障害者の「完全参加と平等」までにはまだまだ遠いのが現状です。

 現在、男女雇用機会均等法、育児休業法、戸籍法などの法律の整備は進んだものの、まだまだ現実は「男は仕事、女は家庭」といった男女の役割を固定的にとらえる社会の意識が根深く残っています。このことが家庭や職場、地域などで障害者、男女といった二重差別を生む原因となっています。聴覚障害女性の抱えている問題は、そのまま健聴女性の問題と共通している面があるのではないでしょうか。

 私は、青年部活動からはじめて11年。青年部活動時代(主に結婚前の20~30代が仕事、活動、人生、恋愛等を討論していた)には気付かなかったことが結婚後、あらゆる問題となってぶつかりました。その例として妊娠、出産に関することで、電話もできないことなどから病院、消防署、手話通訳者と連絡体制について話し合いをもち、それぞれの理解、協力を得て無事、出産を終えることができました。

 しかし、それだけで終わりではありません。子どもの成長に伴い、さまざまな所で育児中の親のグループに入り込めず、また地域社会の障害者に対する偏見、無理解に悩まされながら、ある日、子どもが同年代の子どもと遊びたがっていることをみて、何より前向きに生きていかなければと強く感じ、自ら地域社会のさまざまな所でのつきあいにとびこんでいき、人々への理解、啓蒙活動を続けてきました。時間はかかるけれど、少しずつ理解を得て子どもたちもいったりきたりの近所づきあいをしています。

 また、子どもがまだ1~3歳頃、親子のコミュニケーションもままならず、子どもから何か話されても「なに?なに?」と聞き返すといった毎日。子どもは母親の私にわかってほしいのに、私も子どものいうことをわかりたいのに通じない。だんだん子どもが癇癪を起こして泣き出す始末……。子どもとともに私も泣き出したことがありました。

 でも、子どもは成長していきます。子どもなりに工夫して字を覚え、また手話を覚えるようになり通じない時は文字を書いてくれたり、手話を交えながら何より真正面で向かい合って話をしたりしています。親子でこそ、通じるものがあります。何より、心と心のふれあい、そして心のゆとりが大切ではないでしょうか。

 多くの聴覚障害女性は、家族や仕事を抱えながらも、家族の理解が得られず、さまざまな活動、社会参加を見合わせる方も少なくありません。社会の中で情報、つきあいなどの面で孤独な女性も多く、さまざまな悩み、苦しみを一人で解決しようとせず、婦人部を通して多くの女性たちと情報交換、悩みを聞いてもらったりするなど、それなりの解決方法を見い出せたら……と思っています。

 聴覚障害者である前に人間、あたりまえの人間です。差別をなくすために、障害の有無にかかわらず、男女、若者も高齢者も、国籍も、民族の違う方もみんな同じ人間であるという考え方をもち、またお互いの立場や考え方の違いを認め合い、尊重しあうことから真のノーマライゼーション社会が生まれると思います。

(あらかわたかこ (社)東京都聴覚障害者連盟婦人部副部長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年10月号(第16巻 通巻183号)15頁~16頁