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特集/結婚と生活~さまざまな状況~

大切なコミュニケーション

米山知子

 夕方、保育園へ3歳半になる娘を迎えに行くと、砂場で遊んでいた娘が、私の姿を見るなり、「お母さん」と走って抱きついてきました。娘を見ていると今までの4年の歳月の流れが思い返されます。

 私は14年前、会社に勤める傍ら、地元の聴覚障害者協会に入り、ろうあ運動にかかわりをもち始めました。そこの手話サークルで活動していた主人(健聴者)と知り合い、さまざまな困難を乗り越え、平成2年に結婚しました。

 結婚当初は、主人と私は、それぞれ育った環境や立場が違っていたので、よく衝突をしました。例えば、私が、「あなたは、聴障者の苦しみを理解していない。頭だけで理解するのはダメ」と言うと主人は、「聞こえない人も聞こえる人について理解することが、お互いを理解する早道ではないか」とお互いに譲りませんでした。でも、お互いによく話し合って一つひとつ問題を解決していきました。

 その後、私は娘を出産したのですが、その時は、子育てがうまくできるかどうか、不安でいっぱいでした。ある冬の夜、生後2か月の娘が夜泣きをしました。私は主人に起こしてもらえると思い寝ていましたが、その日は運悪く主人はひどく疲れていて眠り込んでしまい、夜泣きに気づきませんでした。ようやく主人が気がついてあわてて私を起こしてくれたことがありました。

 娘とのコミュニケーションは、私は発音がうまくできませんが、娘が私の声に聞き慣れるように赤ちゃんの時からいろいろ話しかけていました。娘は、2歳頃から自然に手話で表すようになりました。娘は新しい言葉を覚えて私に話しかけるのですが、私が「分からないから、もう一度話してね」と何度も繰り返して聞くうちに、娘は癇癪を起こしてしまいました。ようやく言葉が通じた時は、「手話ではこう表すのよ」と教え、覚えてくれました。

 私は、結婚前から協会の活動をしてきました。出産後は子育てに追われ、活動から遠ざかってしまいましたが、やはり私にはさまざまな情報が必要なので、主人の協力を得て、例会や行事に少しずつ参加するようにしていきました。現在、私は埼玉県聴覚障害者協会婦人部の中で子育て班のメンバーとしてかかわっています。

 ここでは、子育て中のお母さん同士がお互いの悩みを話し合い、情報交換をしながら、活動しています。

 活動の内容は、子育ての先輩の聴障者の体験談を聞く学習会やレクリエーションなどです。今、お母さんたちが共通して悩んでいるのは、親子のコミュニケーションの問題です。子どもが小さい時は手話でコミュニケーションがとれていても、子どもの成長に伴い、言葉の数が増え、子どもが発する言葉に手話が追いつかなくなり、親子の手話によるコミュニケーションが難しくなるということです。

 その他、こんなこともありました。聞こえない両親をもっている子どもが学校でいじめにあい、その母親が学校にいって聞こえないことに対する正しい理解をするよういじめた子に話をし、そのいじめが解決したという報告もありました。聞こえない母親も親としてしっかりした態度を示し、子どももそれを見習うという素晴らしいお話しでした。私も、1人の母親として非常に参考になる話を聞くことができたと思っています。

 現在、娘が通っている保育園には、私と同じ聴覚障害のお母さんが3人います。また、手話のできるお母さんもいて、子どもを通して近所づき合いをしています。

 娘は保育園に入ってからたくさんの友達ができ、どんどん新しい世界が広がっています。私も娘に負けないようさまざまな人たちとの人間関係を築いていきたいと思っています。

(よねやまともこ 大宮市聴覚障害者協会会員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年10月号(第16巻 通巻183号)17頁