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列島縦断ネットワーキング

[東京]

リウマチ患者の実態を知ってください

吉田雅子

 「日本リウマチ友の会」は、5年ごとに会員の実態調査を行い、その結果を『リウマチ白書』としてまとめ、広く世の中にリウマチ患者の実態を訴え、リウマチへの理解の促進につとめてきました。

 平成7年に皇后陛下の御臨席を仰いで、記念式典を開催した創立35周年・社団法人25周年の記念事業の一環として、平成7年から8年にかけて『’95リウマチ白書』と『同資料編』を発行しました。

 今回その概要を紹介し、リウマチとリウマチ患者の実態に対する理解を深めていただきたいと思います。

●身近な難病

 わが国のリウマチ患者は、70万人とも言われています。リウマチは太古の昔からあったと言われる古くて新しい病気です。

 リウマチの特徴は、関節に病変が現われることです。痛い、脹れるに始まり、放置すれば、人によってはいくら治療に励んでも、関節が壊れ、立てない、歩けない、握れないなど極めて不自由な障害者になる場合も少なくありません。

 身近かなありふれた病気でありながら、リウマチの発病原因は解明できていません。

 したがって根本的な治療方法が確立されておりません。発病すれば一生、リウマチと付き合わなければなりません。ですからリウマチは身近かな難病と呼ばれています。長い療養生活を強いられるため、患者同士が助け合い、励まし合ってリウマチと上手に付き合っていきましょうと誕生したのがリウマチ友の会です。

 最近は医学の進歩によって、免疫機能の異常が深くかかわっていることが明らかにされつつあり、早期発見、早期治療でリウマチの進行を遅らせ、寛解にまでもっていけるようになってきました。

 リウマチが治る病気になる日を期待しながら、リウマチ患者は療養をしております。

●働き盛りに発病

 一番多い発病時期は40代(27%)、次が30代(22%強)、3番目が50代(22%弱)です。

 調査した会員の9割は女性です。つまり、家庭の主婦、キャリアウーマンとして一番充実した大切な時期に発病します。本人にとってはもちろん、家庭にとっても職場においても大きな損失です。

 しかも、リウマチは進行性の病気ですから長引くにつれて、障害が重度化します。調査結果では、約60%が身体障害者手帳の交付を受け、その65%以上は1・2級の重度障害者です。

 働き盛りに発病するリウマチ患者の平均像は、40代に発病し20年間療養をつづけた60代の女性で、重度の障害者ということでしょうか。

 15歳以下で発病した小児リウマチもわずかですがあります。

●3つの大きな不安

 リウマチ患者の不安の第1は、「病気の再発・進行」(66%複数回答)です。

 調査直前の1年間の全身状態は、「悪くなった」36%、「痛み・脹れが増えた」35%、「歩くのがつらくなった」38%で、どうしても不自由さが増してきます。この不安は、若い人、初期の人に多く見られます。リウマチ患者の一番つらいことは激しい痛みですから痛みに慣れていない初期の方には、再発・進行の不安は大きいことでしょう。

 第2の不安は「薬の副作用」(65%)です。リウマチ患者は、薬を長い期間、飲みつづけることになります。副作用のない薬はないと言われる中で、リウマチ患者の92%は、主治医の処方通りに薬を服用しています。

 第3の不安は「生活動作の低下」(63%)です。『白書』に見る現状は、「普通にできる」23%、「なんとかひとりで、自助具を使って」55%、「介助を受けて」21%、「寝たきり」1%でした。この中では、「なんとかひとりで」に注目してください。生活動作には、人に頼みにくいものがあります(例えば夜間の布団かけやトイレのことなど)。これは何とか自分でしなければなりません。「努力と工夫と時間をかけて」が『白書』に現れた回答です。友の会ではそのための道具(自助具)を研究・開発し、関係者のご協力のもとに会員にお分けして喜ばれ、役に立っております。

●生涯医療費はマンション1戸分?

 現在の医学ではリウマチは、完全には治らない病気と言われていますから、療養年数は長くなります。『白書』では、発病後10~19年(34%)、20~29年(24%)、30~39年(11%)、40年以上(6%)でした。

 普段の通院は保険適用がありますが、入院手術となれば期間も長くなり、差額ベッド、付き添い等の医療費も高額になります。

 調査前の1年間に入院した方では、入院期間4か月以上25%、1か月の医療費10万円以上50%でした。

 また患者の20%以上は、漢方やハリ灸など保険適用外の治療を受けており、その費用が月に2万円を超える割合は26%でした。

さらに、約35%は通院に介助が必要で、85%はタクシーか自家用車を使用しています。

 これらを総合的に考えれば、患者同士の会話で「リウマチになったためにマンションを買い損なった」と言っても決してオーバーでないことがおわかりいただけると思います。

●リウマチは専門医に

 リウマチの研究は、大きく進歩・発展しています。新薬もでき、その使い方の研究も進みました。薬の種類は多くなりましたが、体質や症状によって各人、効く薬が違います。ですからリウマチに詳しい専門医にかかることが大切です。これまでリウマチ専門医の多くは、整形外科か内科でしたが、平成8年リウマチ科の標榜が認められ、リウマチ患者が迷わずに専門医にかかれるようになりました。

 また、リウマチが進行し、関節が壊れた場合でも、人工関節に置き換える手術が目ざましく進歩し、特に膝と股関節の手術が増加しました。『白書』では、31%が人工関節を入れ、その結果は、「痛みがなくなった」82%、「一人歩きができる」63%、「動きがよくなった」54%と大きな成果をあげています(複数回答)。

 リウマチの治療では、薬物療法、手術療法に加えて、リハビリテーション(リハビリ)が大切です。でもリハビリはまだ遅れています。リハビリは少しずつでも毎日することが大切ですが、「毎日している」21%、「時々している」31%、「以前はしたが今はしていない」27%でした。

 その原因は、患者の自覚の不足もありますが、リウマチを理解している指導者の不足もあるようです。病状が違う一人ひとりに合った正しいリハビリと、日常生活の実践指導が望まれます。

●リウマチ患者の願い

 リウマチ患者は、病気と障害の二重のハンディキャップを負っています。でもこのハンディキャップさえ補えれば、普通にできること、一人でできることがたくさんあります。そのために行政に対してお願いしたい第1は、「リウマチへの理解」(62%)です。リウマチが難病であることが理解されれば、「公費負担の拡大」(34%)への道も開けるでしょうし、リウマチの痛みが理解されれば、身体障害者手帳交付に「リウマチの特性への配慮」(30%)も実現するでしょう。

 また福祉制度の利用は、あまりされておりません。1番多いのが「福祉タクシー券の助成」で24%、2番目の「補装具の支給」は11%にとどまっています。

 家事が自分でできず、手伝ってもらっている人は、「買い物」34%、「掃除」31%、「炊事」19%、「洗濯」15%です。しかし「ヘルパーの派遣」を受けているのは、6%にすぎません。

 「住宅改造補助」は4%が受けただけ。しかし、リウマチ発病後の改造は、「トイレ」50%、「風呂」25%、「段差の解消」15%、「台所」6%がされています。もう少し利用できればと思います。

 リウマチ患者の最大の願いは、「QOL(生活の質)の向上」です。生きがいのある毎日の生活です。「外出したい」、「買い物をしたい」、「音楽会に行きたい」などは、周囲の理解と協力、社会環境の整備で実現できます。

 幸いに政府の「障害者プラン」は、バリアフリー化の促進に積極的に取り組むと宣言しました。生活環境面での物理的な障壁が除去され、障害及び障害者についての社会の理解が深まって、心のバリアが取り除かれることを、リウマチ患者は願っております。

(よしだまさこ (社)日本リウマチ友の会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年10月号(第16巻 通巻183号) 48頁~51頁