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特集/検証・市町村障害者計画

市町村障害者計画策定と実施に向けて

高田英一

1 遅れる市町村の障害者計画策定

 「障害者基本法」に基づく市町村における障害者計画策定がなかなか進まない実情は、一昨年12月に行った、新・障害者の十年推進会議のアンケート調査によって明らかになった。
 これは、地域における障害者施策実施の中核機関と位置付けられた市町村が、事実として計画策定に齟齬を来しているだけではない。さらに、策定以上に、より困難を伴うその実施においても機能しない、あるいは機能できない可能性を示しているとみるべきであろう。
 市町村としてもいろいろ言い分があることだろう。曰く計画策定が義務規定でない、財源がない、障害者種別や程度が多様すぎて、これまでの経過からして経験も知識もない、云々と数多くあろう。これらのことは単なる言い訳ともいえない。一面的には客観的、現実的な背景がある。われわれはこの現実を克服するために、この現実に回答を求めなければならない。

2 なぜ義務規定でないのか

 国、都道府県における策定が義務規定であるのに、市町村のそれが努力規定であるのは、市町村における計画策定や実施の困難が、法律制定に先立つ段階ですでに見通されていたからにほかならない。それゆえ、法律制定の後は国、都道府県がその困難を打開するだけの支援体制を組む責任、いいかえれば市町村の義務規定とするに相応しい条件を整備する責任がある。そうでなければ、市町村が中核機関として位置付けられている障害者計画そのものが画餅と帰しかねない恐れがある。
 それは市町村自体の責任だけでなく、同時にその指導的役割を果たすべき国、都道府県の責任も示している。まず、この点の追求が必要であろう。また、市町村も自らその問題点と要求を整理して国、都道府県に迫る必要があるが、それもはっきり目に見えてこない。そういう点で、行政全体としての障害者計画に取り組む姿勢は極めて不十分といわざるを得ないところにも大きな問題がある。

3 障害者計画策定を迫る力

 国が、不十分とはいえ数値的な目標を明らかにした障害者計画を策定した意義は大きい。しかし、その実施には大きな困難が予想される。400兆とも600兆ともいわれる赤字を抱えた国の財政が非常に苦しい、というのがその有力な論拠である。
 しかし財政は、いつの時代にあっても、その配分を受ける立場からすれば苦しいものである。要求は常に予定される財源を上回り、出してなお余りあるということは決してない。しかも、要求は四方八方から押し寄せる。そういう状況の下で国が配分のバランスを図ることは普遍的な現実である。
 問題は財政の苦しさにあるのではなく、要求する立場の大義にある。障害者計画そのものは国民の要求に合致し、その必要性を訴え、協力を求めるに何の隠しごとも必要でない。
 ところが、われわれの側の問題は、それを声高く訴える迫力に欠けていることである。それはいうまでもなく、障害者が一丸となって運動できるだけの強力な組織をもたないために、関係者や国民を含めた大きな力を結集できないことによる。

4 国際的障害者運動に学ぶ

 北欧では社会保障が進み、障害者福祉も一流である。その大きな原因には、障害者組織がまとまり、政策も整理されて運動も民主的でしかも非常に強力なことがあげられる。
 一口に障害者といってもその障害の内容、程度は千差万別であり、その異なった要求を練りあげ、全体として統一した政策にまとめるには、大きな努力と優れた理念に基づく技術を必要とする。それは障害者の個別性を尊重することに尽きるといえるかも知れない。
 その個別性を尊重しない限り、少数は多数に埋没させられる。実は、このことが障害者の大同団結を妨げるのである。それは論理的に矛盾しているかもしれないが、多数は結局、少数となるからである。
 北欧の障害者運動は、障害者の個別性を尊重することによって、本当の意味での多数の結集に成功している。アメリカのADAの成立の歴史をみても、この法律制定の原動力となったのは全米障害者協議会であり、さまざまに異なった障害者団体あるいは個人の力を結集した組織と運動の有り様は、基本的に北欧と共通している。また、このような障害者自身が中核となる条件があってこそ、その大義に幅広い関係者の支援があり、国民の共感を集め、ADA実現の力となったのである。
 この国際的な経験は、わが国の障害者運動も学ぶことが多いと思う。わが国の障害者団体の組織化と運動の統一を図り、主体的な力の構築を真剣に追求することが、障害者計画の策定と実施につながることは疑いない。

5 障害者運動の新しい構築

 課題を明らかにすることは、課題を解決する第一歩である。計画策定がたかだか10%台であるという状況は、市町村に策定を急がせるだけでは問題は解決しないということもあわせて明らかにしたと思う。
 策定の遅れは、直接的に市町村の責任であるとしても、冒頭にあげたように国、都道府県の指導、換言すれば物心両面の支援が不十分なことにも由来する。そのために策定の遅れを市町村だけの課題として矮小化してはなるまい。また主体的には、わが国の障害者運動の弱さがあり、運動を総括すべき全国的障害者組織の鼎の軽重が問われている。
 それゆえ、日本身体障害者団体連合会、日本障害者協議会、全国社会福祉協議会、日本障害者リハビリテーション協会などによる、今の段階におけるわが国唯一の障害者関係の統一組織、「新・障害者の十年推進会議」が責任を自覚する必要がある。
 残された時間は少ない。新・障害者の十年推進会議は、市町村障害者計画策定の遅れについて幅広い視野から真剣に議論を交わし、その原因を追求、整理して今後に続く具体的な運動方針を立て、速やかに行動に移るべきである。

(たかだえいいち 財団法人全日本ろうあ連盟理事長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年6月号(第17巻 通巻191号)24頁・25頁