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社会福祉基礎構造改革と障害者施策

遠藤浩

1 はじめに

 「社会福祉基礎構造改革」と銘打った議論が始まり、2年が経過しようとしています。その改革の趣旨は、戦後構築され、以後50年間継続している社会福祉事業、社会福祉法人、措置制度など社会福祉の共通基盤制度について、今後増大・多様化が見込まれる国民の福祉需要に対応するため、見直しを行うことです。
 中央社会福祉審議会において一昨年11月から審議が開始され、昨年6月の「中間まとめ」と、同年12月の「追加意見」で一区切りがつけられました。
 ところで、措置制度の見直し等は、障害者施策においても重要課題であり、また、障害者関係3審議会の合同企画分科会が一昨年12月にまとめた中間報告でも検討課題として指摘されていました。このため、昨年3月から合同企画分科会において、障害者施策では社会福祉基礎構造改革にどのように対応すべきか審議を進め、本年1月に意見具申がまとめられました。
 このような経緯を経て、現在、これらの審議会のまとめに基づき、

1.利用者の立場に立った社会福祉制度の構築
2.サービスの質の向上
3.社会福祉事業の充実・活性化
4.地域福祉の推進

の四つの柱からなる制度改正を行うこととし、まずは所要の法律改正のための作業及び調整を鋭意進めているところです。
 障害者施策については、これらの柱の中に、措置制度の利用制度への変更、社会福祉事業への新たな位置付け、知的障害者に関する事務の市町村への委譲などの改革を織り込み、社会福祉事業法等の改正とともに、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法等の改正も一括して行うための法律案を準備中です。
 なお、精神保健福祉法については、平成5年の改正の際に施行(平成6年4月)から5年後の見直し規定が設けられていること、また、精神障害者の医療分野及び福祉分野の両面にわたる改正が必要なことから、先行して改正法案を国会に提出し、成立をみたところです。

2 合同企画分科会意見具申の概要

 今回の障害者関係制度の改正は、前述の合同企画分科会の意見具申におおむね沿って具体的内容をつめているところであるので、当該意見具申の概要を紹介します。

(1) 措置から利用制度へ

 合同企画分科会では、主として措置制度の利用制度化について審議を深め、意見を集約していただきました。
 その意見具申では、ノーマライゼーションや自己決定の理念の実現のために、利用者の選択の保障及び利用者と福祉サービス提供者との間の直接で対等な関係の確立を基本理念として、障害者施策の在宅・施設サービスで措置制度によっているもの、たとえばホームヘルプサービスや更生施設への入所などについては、利用制度に移行することが適当としています。
 ここで、利用制度というのは、中央社会福祉審議会の「中間まとめ」にあるように「個人が自らサービスを選択し、それを提供者との契約により利用する制度を基本とし、その費用に対しては提供されたサービスの内容に応じ、利用者に着目した公費助成を行う」という仕組みです(図参照)。

福祉サービスの利用制度化の概念図

 ただし、障害児施設については、児童が発達途上にあることに由来する公の責任、つまり児童相談所などが高度の専門性をもって施設の入退所を判断する必要があること、また、家庭の事情などにより要保護性のあるケースへの対応などのため、利用制度への移行については、引き続き検討が必要とされています。
 そして、利用制度へ移行するには、次のような条件整備を総合的に図ることが前提とされています。
 まず、利用者の選択を保障するための条件整備として、

1.地域で生活する障害者のための総合的な相談体制の充実
2.行政庁・サービス提供者による在宅・施設サービスに関する情報提供
3.障害保健福祉サービスの供給基盤の整備
4.知的障害者等の自己決定を支援する仕組みの制度化

 次に、利用者とサービス提供者との直接で対等な関係を確立するための条件整備として、

5.サービス利用の申込みに対するサービス提供者の応諾の義務付け
6.福祉サービスの苦情解決体制の整備
7.利用者とサービス提供者の契約の適正化を図るための施策の推進

などが指摘されています。
 また、利用制度を有効に機能させるため、次のような指摘もされています。

1.市町村等による斡旋・調整の仕組みを導入する必要があり、さらに、緊急の場合などには現行の措置制度を活用することにより、必要なサービスは確実に利用できるようにすること。
2.公費負担は現行の水準を維持する一方、利用者の自己負担分は、措置制度の費用徴収と同様に、負担能力に応じた額を設定すること。

(2) サービス水準の確保

 利用制度化するものに限らず障害者福祉サービス全般について、その水準を確保するために、社会福祉事業及び施設に関する運営基準の見直し、第三者による福祉サービスの内容に関する評価の仕組みの導入、行政庁による監査指導の重点化などが指摘されています。

(3) 社会福祉事業への位置付け

 地域における障害者の生活を支援するとともに、社会経済活動への参画を支援するため、次のような事業を社会福祉事業に位置付け、その普及推進を図るべきとされています。

●障害者地域生活等支援事業
●障害者の意思伝達を支援する事業
●身体障害者社会リハビリテーションサービス事業
●知的障害者デイサービス事業

など。

(4) その他

 小規模作業所については、地域での事業実績等を考慮して事業の適正な運営が期待される場合にあっては、要件の引き下げを行い、授産施設、デイサービス事業等への移行を促進する必要があるとされています。
 なお、今後の障害者施策を推進するに当たっての重要な視点として、障害者地域生活等支援事業、苦情解決制度、サービス内容の評価基準の作成、障害者計画の立案等に障害者が幅広く参画できるように支援が必要であることが強調されています。

3 身体障害者福祉審議会及び児童福祉審議会(障害福祉部会)の意見具申

 合同企画分科会の意見具申では、利用制度化の条件整備として障害者福祉サービスの供給基盤の整備が指摘されていましたが、量的な整備はもとより、できる限り多様な福祉サービスを利用できるようにすることも重要な課題です。このため、身体障害者福祉審議会及び児童福祉審議会(障害福祉部会)においても、合同企画分科会の審議と並行して審議が進められ、地域生活を支援する視点から、相談支援体制の強化、在宅福祉サービスの充実、社会参加の促進、施設体系の見直しなど全般にわたる意見具申がまとめられました。この意見具申での指摘事項の多くは、予算措置と運用の改善により対応できるものですが、今回の制度改正と併せて取り組むべき課題といえます。

4 精神保健福祉法改正案の概要

 既に触れたように、精神保健福祉法改正案を先行して国会に提出し、実現をみたところです。今回の改正では、人権に配慮した医療の確保とともに、精神障害者の社会復帰と自立を促進するため、地域生活支援センターを社会復帰施設の一類型として位置付け、ホームヘルプサービスやショートステイを法律上の事業として市町村中心に推進し、さらに、社会復帰施設等の利用の斡旋・調整も市町村が実施する体制を整備するなどの内容が盛り込まれています。これらの実現により、3障害の施策の総合的推進の基盤整備が相当に前進するということができます。

5 おわりに

 前記2及び3で紹介した意見具申に盛り込まれた数々の提言を実現することが、社会福祉基礎構造改革の中で行うべき障害者施策の改革であるということもできます。
 「社会福祉基礎構造改革」というと、福祉の現場は大きく様変わりしてしまうとのイメージを持たれがちですが、障害者施策の改革の実現後も、現場での運営は現行とあまり変わらないというほうが適当でしょう。
 特に、利用者、サービス提供者及び行政庁という三者の制度上の位置付けを変更するものであり、措置制度の見直しについては、理念的な改革が主であるということができます。すなわちこれらの三者の制度上の位置付けを図示してみると、措置制度は行政庁中心の仕組みである一方、利用制度では、利用者とサービス提供者が主役となり、両者は利用契約の当事者となって、利用料の授受が行われることにより、制度上も緊張関係が生じることが分かります。
 行政庁はといえば、現行水準の公費負担、サービスの供給基盤の整備、情報提供や苦情解決の体制整備などにより公の責任を果たすことになります。
 このような三者関係を構築し、有効かつ円滑に機能させていくためには、合同企画分科会の意見具申で指摘されているような条件整備を総合的に図ることが不可欠です。その具体的内容は関係者の意見も聴取しながら、検討を進めているところですが、利用制度への移行の時期は、実施現場での十分な準備期間を設ける必要があること、また、障害者プランが平成14年度で終了することを勘案して、平成15年度からをめどとしています。
 さらに、いっそう多様な保健福祉サービスを提供するための体制整備、福祉的就労から一般雇用に至る連続性のある施策の推進などにも重点的に取り組むこととしています。

(えんどうひろし 厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課長)