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21世紀の障害者福祉発展のための
社会福祉事業法の改正を

荒井元傳

(1) 社会福祉事業区分・範囲を見直し、規模要件を緩和

 精神障害者は平成8年の患者調査によると217万人とされ、精神病院等の医療施設に34万人が入院している。昭和58年の精神病院等に勤務する精神科医が答えた国の実態調査によると、条件が整えば58%が退院できるとの結果が公表されている。
 この10年間で社会復帰地域福祉関連予算は30倍に増え、1万人弱が施設事業の利用と聞くが、34万人の入院患者は1万人減ったものの、長期入院傾向と人口比に対する入院患者の比率は、10年間ほとんど変わらない。これは2位を大きく離して世界一である。精神医療・精神障害者の社会復帰地域福祉ケアの改革が焦眉の急務である。
 筆者に与えられたテーマは、社会福祉基礎構造改革の社会福祉事業法の改正に伴う、関連法としての障害者福祉3法の改正の評価と課題である。改革の大きな柱は「福祉サービスの利用制度化」で、措置から理念としては対等な契約制度への転換であろう。
 精神保健の分野では昭和62年の法改正において、社会福祉事業法とリンクする精神障害者社会復帰施設の創設以来、利用制度がすでに導入されている。
 全家連はこの経験を踏まえ、今回の社会福祉事業法改正は大綱において賛成で、早期成立を推進してきた。これは契約による「地域権利擁護制度」「苦情解決の仕組み」「サービスの質の向上策」「事業の透明性の確保策」等利用制度の弊害を補完する施策が盛り込まれているからで、予算等の裏付け、実施体制整備等、さまざまな乗り越えなければならない課題を指摘しつつ、新しい時代の障害者施策の方向付けとして評価したい。
 以下は社会福祉基礎構造改革の構想に関する全家連の要望であり、本稿の主旨である同改革への問題意識からくる具体的提言である。

1.第1種・第2種の事業区分を撤廃し、補助金を平準化する。
2.小規模作業所を「障害者地域活動センター」として社会福祉事業に位置付ける(現在、作業所は生活訓練や集団の諸活動が主のところが多くある)。
3.授産施設の要件を緩和し、十分な運営費を補助する。補助金が長期にわたって継続し、実績があることを要件に借地や借間でも認可する。
4.精神障害者地域生活支援センターを法内事業化し、単立型を創設する。

(2) 利用制度

 措置制度から契約を基本とする制度への転換は、対等な関係での契約は理念として崇高ではあるが、精神保健福祉分野での経験にかんがみ、以下の事項について整備すること。

1.利用者側に立った斡旋・調整機能の確保
2.集団に適応できる、処遇しやすい等の予断による利用者選別の排除策
3.施設の圧倒的不足の是正策

(3) 市場原理・競争原理の導入

 宇都宮病院事件に象徴される精神科医療の経験から、障害が軽度で職員が扱いやすいケースが集まる施設と、障害が重度で扱いにくいケースが集まる劣悪な施設との二極分化を危惧する。

1.施設等が地域において必要数あること
2.利用者に対する一定の所得保障
3.家族・関係者の意識水準の確保
4.情報の公開性の確保
5.当事者の判断力の向上とその支援体制のレベルアップ
6.保健所や市町村の強力なケア・マネジメントの実施

(4) 当事者(障害者・家族)活動支援策を制度的に位置付ける

 今後の障害者福祉施策の推進において当事者活動支援は極めて重要である。この支援策の強化と、障害者本人や家族のニーズと意見が反映され、当事者参加が認められる制度を明文化する。

1.地域利用型の施設(クラブハウス、ドロップインセンター等)の創設
2.回復者(障害者)クラブ、家族会等への支援策の強化
3.当事者相談員制度の拡大強化

(5) 地域福祉権利擁護制度

 社会福祉協議会が実施する場合には、精神障害者サービスの経験が少ないので、保健所や精神保健福祉センターとの連携が必要である。また、民間の当事者団体も一定の基準を設け、この制度の対象とすること。

(6) 地域福祉計画の策定を都道府県・市町村に義務付ける

 社会福祉事業の総合的・計画的整備のため、都道府県・市町村において地域福祉計画の策定を法定化する。

 精神保健福祉法は社会福祉事業の関連法とは別立てで、「人権に配慮した医療の確保」「移送に関する事項」「保護者に関する事項」「保健福祉の充実」等を内容に、今国会に上程され、この5月28日に改正法案が可決された。本改正の実施についての政省令、予算化についても注目していきたい。

(あらいもとつぐ 財団法人全国精神障害者家族会連合会専務理事)