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新しい仕組みへの評価と課題
―障害者福祉3法改正をめぐって―

吉本哲夫

1 はじめに

 国際障害者年以来の障害者施策は、障害者基本法の改正と「障害者プラン」の策定、成年後見制度(民法)と欠格条項の見直しなど、これまでにない前進がありました。しかし、改善しなければならない重要な課題が残されています。学校教育を終了した後の働く場が保障されておらず、進路は小規模作業所に通所するほかはない現状です。法律に定めた雇用の義務を企業が守っていないことが最大の原因です。さらに、無年金障害者救済の国会決議は無視され、低い障害基礎年金は経済的自立の道を閉ざしています。療育事業の充実も切実な願いです。
 1996年に設置された「障害者関係3審議会合同企画分科会」の設置は、「障害者プラン」の見直しによってこのような深刻な現状の解決の方策を示すものと期待され、障害者団体からも積極的な要望と提案がなされました。しかし3審議会の審議経過は、私たちの期待に反するものとなっていきました。

2 「社会福祉基礎構造改革」の問題点

 1997年11月、「社会福祉事業法等の在り方に関する検討会」にはじまった「社会福祉の基礎構造改革」の検討に対して、さまざまな機会をとらえて厚生省と積極的に話し合いました。その中で、福祉の根本にかかわる措置制度廃止、公的責任の放棄、自由契約制度、民間企業の参入が明らかにされました。
 介護保険では老人福祉の措置制度が廃止され、児童福祉法「改正」では、保育所は措置施設ではなくなりました。そして、いま社会福祉事業法「改正」によって、障害者福祉への措置制度を基本的に廃止することは、社会福祉全体の措置制度廃止の総仕上げと言えます。
 厚生省は、一貫して「措置制度は行政処分であり、自由な選択を阻害している『悪』」として廃止の理由を説明してきました。これは、措置制度の果たしてきた役割を無視した暴論です。
 戦後の社会福祉は、国と地方自治体の責任を明確にしたこの制度のもとで、収入の高低にかかわらず、すべての国民が安心して働き、人間らしい生活を送れる制度として定着してきたのです。それでも、障害者の切実で多様な要求・選択に応えられないのは、貧弱な措置基準のもとに施策が実施されているからです。実際、市町村の6割以上には障害者の法定施設がなく、選択しようにもその施設さえ確保されていないのです。
 措置制度から契約制度への切り替えは、公的責任を放棄し、年金だけを頼りに生活している低所得者は、サービスから除外されかねません。介護保険では保険料と利用料の支払いが困難な低所得者は排除されるのではないかと指摘されていることからも明らかです。
 営利企業の参入によって自由にサービスを選択できるという説明も納得できるものではありません。障害者の生存権にかかわる社会福祉事業に、利益を最優先する営利企業の参入に道を開くことは、福祉を金儲けの場にするもので、費用負担がいっそう拡大され、「手のかかる」重度・重複障害者が排除されることは目に見えています。

3 政府のなすべきこと

 いま政府のなすべきことは、措置制度の廃止ではなく福祉拡充の責任をいかに果たすかにあります。そのためには「障害者プラン」の拡充・推進の見直しを早急に具体化することです。特に、重度障害者の暮らしが家族の負担と犠牲によって支えられている現状を改め、立ち後れている精神障害者施策の拡充が必要です。
 自立できる所得保障としての年金は、生活保護よりもはるかに低い障害基礎年金の抜本的引き上げが必要であり、無年金障害者の解消は開会中の国会で実施すべきことです。雇用では、従業員1,000人以上の大企業はその65.8%が未達成である現状を改めるなど、法定雇用率(民間企業の雇用率は1.8%)を企業に守らせなければなりません。
 地域福祉計画の法定化は、なによりも、全日介助できるホームヘルパー派遣の保障(東京では「重度脳性麻痺者等介護人派遣制度」が最大365日保障されています)、デイサービス、ショートステイ制度の拡充、さらに基盤整備を充実するために、すべての市町村に法定施設を設置することを基本に、施設入所待機者の解消を図ることが社会福祉事業の緊急の課題です。施策利用にあたっての費用の減免制度と手続きの簡素化も必要です。法定施設の認可条件の緩和が示されていますが、10人以下の小規模作業所が認可されるように条件整備と具体的支援を求めます。
 最後に、法・制度の見直しにあたっては、生活保護法のように、憲法規定とのかかわりを明確にして具体的施策が推進されることを強く要望します。

(よしもとてつお 障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会会長)