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実効性のある真の改革を

三澤了

1 不明確な新しいシステム

 4月15日付で厚生省より社会福祉事業法等の改正案大綱が明らかにされた。これは一昨年来、社会福祉の基礎構造改革というテーマで続けられてきた各種審議会における検討のひとつの到達点ということであり、内容的には昨年12月に社会福祉構造改革分科会で了承された「制度改革の骨格(試案)」ならびに1月19日に明らかにされた障害者関係3審議会合同企画分科会の意見具申を踏襲したものとなっている。

 今回の大綱を見る限り、「基礎構造改革」の議論でいう「措置から契約制度への転換」が大きな比重を占めるものであるが、障害者分野で真に対等な関係に基づく「契約方式」が成り立つ前提条件をどのように進めていこうとするのかが依然として不明確なままである。特に障害者が人としてもつ権利、護られなければならない権利や基本的な前提条件であるはずの所得保障の実現などの方向付けに関しての言及がなく、今後の重要な検討課題にしていかなければならない。

2 利用者本位の仕組みを

 新しい利用制度では、「利用者が福祉サービスの提供者(ケア・マネジメント提供機関)と直接契約し、市町村がその費用について支援費を支給する方式とする」とし、市町村は利用者に代わり支援費を事業者に直接支払う事業者代理受領方式をとることになっている。
 この方式では、利用者自身の手をまったく介在することなく市町村からサービス提供者へ直接利用料が支払われることとなり、利用者がサービスの消費者としての主体意識をもちにくい状況が生み出されることとなる。
 利用者の主権を確立していく仕組みとしては、ダイレクトペイメント方式(そのための方法論としてのバウチャー方式)の導入を検討していかなければならない。障害者のニードに基づいて利用費支援が決定されれば、その金銭をチケット方式で本人に渡したうえで、それに基づいて自らのニードにあったサービスを利用できるように提供機関を主体的に選べるようなシステムにすべきである。
 また、利用料の支払いに関しては、「利用者の自己負担額は、本人及び扶養義務者の負担能力を勘案したものとすること」という規定がなされている。真に「利用者本位」のシステムであるとするならば、利用者の自己負担はあくまでも利用者本人の所得に応じた負担とすべきであり、成人となった障害者をいつまでも親の扶養義務の下に縛りつける方式からは、この機会に全面的に脱却すべきである。

3 自立生活センターの実績を生かすものに

 1月に出された新たなサービスのあり方に関する審議会の意見具申では、利用者の選択を適切なものとする条件として、相談業務の充実がうたわれており、障害者地域生活支援事業を制度化する方向が示されていた。それに沿って今回の法改正では、従来の「市町村障害者生活支援事業」が障害者生活支援相談事業として法定化されることとなり、地域における福祉サービスのマネージメントの中心的な役割を果たしていく方向が示されている。
 こうした事業の重要性が認識されることは必要ではあるが、市町村生活支援事業は元来ピア・カウンセリングを必須事業項目とするなど、障害をもつ当事者の役割を重視する形で組み立てられたものであり、地域での障害者の生活支援を実践している各地の自立生活センターが市町村から委託を受け、有効な活動をしているという実態がある。法定化されることにより、障害者に対する生活支援の具体的な実績をもつ自立生活センターが実施機関から除外されてしまうようなことがあってはならない。もし、当事者の主体的な関与が保障されないようなことになれば、この事業は単なる福祉事務所の肩代わりをするだけの何ら新鮮味のないものとなってしまうであろう。

4 トータルな権利擁護活動を

 一昨年の審議会中間報告当時から権利擁護の重要性が再三にわたり言及されていた。しかし今回の大綱では、権利擁護が単なる「福祉サービス利用援助機関と援助事業」の問題になってしまっている。私たちが必要と考える権利擁護とは、一人ひとりの障害者の正当な権利行使を阻害するさまざまな権利侵害や無視に対抗して、権利回復を図ろうとする当事者に対する支援活動全体を言うものであり、財産管理や福祉サービスの利用援助だけが権利擁護の活動ではないはずである。差別の問題やセルフ・アドボカシーの展開を含めたトータルな権利擁護活動を事業として明確に位置付ける必要がある。これらの問題以外にも、障害者のケア・マネジメントの位置付けや社会福祉協議会の役割の規定などに関して、いくつかの不審点が残る。それらに関する私たちからの問題提起に対し、現時点では厚生省からは明確な回答が出されていない。基礎構造改革と言うには不十分なものであるにせよ、今回の改革は基本的なシステムの変更であることは確かである。この改革の理念に言う「個人の尊厳の尊重」「利用者主体」「地域での自立の追求」が、言葉だけに終わらない真の改革が行われることを望むものである。

(みさわりょう DPI日本会議事務局長)