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情報の高度化に対応できる仕組みを

川越利信

1 情報障害者

 視覚障害者の障害の本質は、情報障害である。人間が外部の実情(情報)を脳に知覚する手段としての役割を、視覚は70%から80%も司っていると言われている。その圧倒的量の情報をもたらす視覚機能が損傷している視覚障害者は、まさに情報障害者と言える。

2 高度情報社会における視覚障害者

 ところで、情報の高度化は日ごとに進展し、今まさに高度情報社会が到来したと言える。情報障害者あるいは情報弱者としての視覚障害者は、この高度情報社会にあってきわめて不利かつ不愉快な生き方を強いられている。
 たとえば新聞を例に挙げてみよう。新聞は一般社会においてはほとんど食事と同じぐらいの感覚で、生活の一部ですらあると思える。しかし、その生活の一部とも言える新聞を視覚障害者の多くは原則としては読むことができない。情報格差は、日常的にあたかも当然のように生じているのである。また、読書をするにしても、あるいは受験の勉強をするにしても、テキストや本を入手しても第三者の目を借りたり、録音または点訳をしなければならない。費用もさることながら、読める状態、視覚障害者のメディアである点字か音声に変換するまでには相当な時間を要する。
 情報は、即時性が大事で、必要だと思ったとき、読みたい、見たい、入手したいと思った瞬間にアクセスできなければ情報の価値は半減するし、場合によってはまったく不要なものになってしまうことすらある。この即時性を伴う情報に、視覚障害者は今のところ原則としてアクセスできない。本の場合は、視覚障害者情報提供施設(点字図書館)で貸出しサービスを受けられる。その際、自分の読みたい本のタイトルと共に自分の名前を名のり、郵送してもらい、数日後にその情報にアクセスすることが原則的にはできる。でも、その本の内容や種類が人にはばかるような場合もあるだろう。それでも、第三者に名前、住所を名のって送ってもらわなければならない。これが現在のサービス状況だ。視覚障害者の尊厳が守られているとは言い難い。

3 気になる情報把握

 今回の基礎構造改革においては、個人の尊厳を守る制度がうたわれ、利用者が自らサービスを選択しサービス事業者との対等な関係のもとで利用できる仕組みを基本とするということになっている。もちろん、賛成である。が、新聞や本など一般社会の情報においても今なおきわめて不利な状態にある視覚障害者は、必要なサービスの情報を、その障害のゆえに、どこまで把握し、選択肢がどれぐらいあり、どのサービスを選択すればより自分にとって利益があるのかを適切に選択していけるのか、気になるところではある。

4 高度情報社会への対応

 1999年3月時点において、社会福祉事業法に障害者の情報伝達を支援する事業法が組み込まれる予定になっていた。視覚障害者の情報サービスにかかわっている関係者は、大いに期待し、視覚障害者の情報環境が飛躍的に整備される可能性を信じていた。4月に入り、この新法は抹消され、代わって身体障害者福祉法第33条の視聴覚障害者情報提供施設の機能の拡充という表現が登場した。
 この身障法第33条は、視覚障害者の部分で言えば、「図書」であり、聴覚障害者の場合は「ビデオカセット」という概念がベースとなっている。しかし、今日の高度情報社会の実情を踏まえると、郵送を主体とするオフラインの「図書」と「ビデオカセット」という概念ではもはや対応できないことは明白である。つまり、通信や放送などを融合・活用したマルチメディアに対応しながら視聴覚障害者へのサービスを展開しなければ、もはや情報サービスは成立しない時代に入っている。そういう意味において、視聴覚障害者情報提供施設の機能が拡充されるという提案は、どのように拡充されるかは定かではないにしろ大いに期待したい。
 ただ、もともと情報伝達を支援する事業法案の中で考えられていた四つの内容(1.文字情報―文字情報の中には点字や拡大文字が含まれている。2.音声情報、3.映像情報、4.放送)が、身障法第33条においても果たして生かされるのか、危惧しているところである。というのも、現在の視聴覚障障害者情報提供施設における「図書」と、「ビデオカセット」というオフラインのメディアを越えた概念のサービスに止揚しなければ、今日の日々進展する情報の高度化には太刀打ちできないからである。
 身障法第33条の機能拡充の内容として、高度情報社会に対応できる仕組みを、ぜひとも組み込んでいただきたいと願うものである。

(かわごえとしのぶ 日本盲人社会福祉施設協議会情報サービス部会長)