音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

1000字提言

「精神保健福祉士」はソーシャルワーカーか?

池末美穂子

 精神障害者やその家族の生活支援を職とする「精神保健福祉士」の第1号が誕生した。初めの5年間は現任者のための経過期間とされている。今年1月に行われた第1回の国家試験には全国の医療機関や社会復帰施設、共同作業所等で働いている人々が挑戦し、4,338人が合格した。
 法律上の名称は「精神保健福祉士」だが、一般的にはソーシャルワーカーと呼ばれている人々である。今回、ソーシャルワーカーとは医療機関だけでなく、地域の幅広い部署で働く生活支援の専門家ということになった。本人・家族にとっては何よりの援軍であり、全国精神障害者家族会連合会は資格制度実現のため精力的な運動を行った。
 しかし、注文がある。当事者・家族の「精神保健福祉士」への一番の期待は、病院や地域で起きているさまざまな人権侵害を明らかにして改善につなげてほしいということである。日本の障害者福祉はかけ声と実態がかけ離れている。家族介護を前提としたままであり、人権の軽視は施設や地域社会のあちこちに存在している。
 なかでも精神障害者の場合は医療と福祉と二つの領域で「見える人権侵害」と「見えにくい人権侵害」にさらされている。「見える人権侵害」とは、いわゆる病院職員による虐待・殺人・横領などの不祥事であり、施設づくりにともなう住民の反対や圧倒的な施策不足である。「見えにくい人権侵害」とは、このような劣悪な医療や福祉の状況のもとで苦しんでいる当事者・家族を、結果的には見て見ぬふりをすることである。やれることしかやらない職員またはソーシャルワーカーのありようから生じている現実の隠蔽という側面である。
 当事者・家族の細部にわたって現実に触れているソーシャルワーカーが、その痛みを共感し、立ちふさがっている壁の本質と解決すべき課題を見極め、変革する意志をもち、共に行動してくれるとき、当事者・家族にとってその人は初めてソーシャルワーカーになる。「当事者主体」の立場を貫き「自己決定」と「エンパワメント」を実態化するためには、当事者・家族が正しく選択でき、内在している力を十分に発揮できるような環境を整えていくことが、ソーシャルワーカーの重要な仕事、役割となってくる。そのためには、当事者・家族との連携が必要である。不安定な症状と障害から逃れることのできない当事者と高齢の家族は、「精神保健福祉士」が真のソーシャルワーカーとして連携を強めてくれることを、そして、変革の先頭に立ってくれることを心から期待している。

(いけすえみほこ 全国精神障害者家族会連合会)