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列島縦断ネットワーキング

東京
パソコンボランティア・カンファレンス’99
レポート

梅垣まさひろ

400人が出会い語る

 去る3月6、7日、今年で3回目となるパソコンボランティア・カンファレンス’99(PSVC’99)が早稲田大学国際会議場(東京都新宿区)にて開催されました。全国から集まったパソコンボランティアや技術ボランティア、障害者、機器メーカーのエンジニアなど、2日間で延べ400人の仲間が熱く議論し、学び語り合う集いとなりました。今回のカンファレンスは「情報バリアフリーの新世紀をむかえるために」をメインテーマに、現在注目されている情報バリアフリーの問題についても、積極的な議論と提案が行われました。
 1日目は、筆者と島谷綾子氏(JD情報通信ネットワークプロジェクト委員)を講師に川崎パソコンサポートボランティアのメンバーの協力を得て「パソコンボランティア・スキルアップセミナー」を開催、50人を超える人が参加しました。また、両日にわたって、福祉機器メーカーなどによる展示が行われたほか、パソコンボランティアやパソコン通信ネット、技術ボランティアなどのブースで賑わいました。今回初めて行われた「私の工夫展」では、パソコンを使ううえでのいろいろなアイデアが展示され人気を集め、恒例の「らくらくマウス」の自作コーナーも、慣れないハンダゴテを握り奮闘する姿が見られました。
 2日目は、「情報バリアフリー」をキーワードに井深大記念ホール中心のプログラムが展開されました。午前のリレートークでは伊藤英一氏が米国スタンフォード大学からのインターネット中継で、「現実のユニバーサル・インターフェース」と題し、アルキメデスプロジェクトのTASを紹介しました。続いて田中克典氏の「パソコンリサイクル活動の取り組み」、「地域にパソボラの種をまこう」(川崎パソコンサポートボランティア)、ネットワークで知り合い熱愛の末ゴールインしたお二人による「ネット婚、そして新婚家庭を地域の中で」(中村和正、久仁子夫妻)と、それぞれの立場から情報バリアフリー、パソコンボランティア、障害をもつ人にとってのネットワークの重要性などについて話されました。午後の冒頭あいさつに立った花田春兆氏(JD副代表)は、「今切実にパソコンをマスターしたいという気分だ」と述べ、パソコンボランティアの支援を受け自ら挑戦したいとの意欲満々の言葉に、会場から熱い拍手を受けました。
 続いて、主催者を代表し基調提案を行った薗部英夫氏(JD情報通信ネットワークプロジェクトプロデューサー)は、3年の間にパソコンボランティアの活動が大きな広がりを見せ、またその重要性への認識が広がっていることを指摘しました。今後、さらにこの運動を発展させるために、行政に対して制度の改善や積極的な施策を求めていくことと同時に、「パソコンボランティア支援センター準備室」の開設を宣言し、ボランティア活動への支援体制強化を訴えました。情報バリアフリーを最も障害者に近い現場で実践し、保証しようと努力するのがパソコンボランティアの活動であり、テクノロジー、制度、そして人の三つの側面が相互に支えあってはじめて、情報バリアフリーの新世紀を拓く新しい展望が生まれてきます。その一角を支えるパソコンボランティアの支援と強化が、今強く求められています。

インターネットはすべての人のために

 特別メッセージという形でビデオ出演した村井純氏(慶應大学教授、WIDEプロジェクト)は、「インターネットはすべての人のために役立つテクノロジーでなければならない。したがって障害をもつ人を含む世界中のすべての人に評価され、検証される必要がある」「パソコンボランティアの活動とともに、すべての人のための新しいインターネットを一緒に作っていきたい」とエールを送りました。インターネットがこれからの社会を支える情報通信の基幹テクノロジーとなるであろうことを考えると、インターネットがすべての人に使えるものでなければならないという、村井氏のテクノロジーに対する思想は、パソコンボランティアのこれからの役割と課題を研究者の立場からズバリと言い当てた重みのある言葉でした。

情報バリアフリーの新世紀を

 2日目の午後のシンポジウムは、清原慶子氏(東京工科大学メディア学部教授、JD情報保障に関する政策委員会座長)をコメンテーターに、中根雅文氏(W3Cチームメンバー、NAP世話人)、高岡正氏(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長)、浮揚玲子氏(トーコロ情報処理センター在宅講習生)、古川享氏(マイクロソフト代表取締役会長)、岩下恭士氏(毎日新聞社メディア事業局サイバー編集部記者)の5人を迎え、「情報バリアフリー」をキーワードにそれぞれの立場からの問題提起が行われました。
 清原氏は、3年目を迎えたパソコンボランティアの、新しい視野での展開を見渡すシンポジウムをと提起しました。それに答えて、まず中根氏がW3C(World Wide Web Consortium)のアクセシビリティに関する取り組みを紹介したうえで、「インターネットがテレビやラジオのような重要な位置付けのインフラになってきた」と指摘し、インターネットのアクセシビリティを確保する努力をしなければ、新たな社会的ハンディキャップを生みだす可能性があると発言しました。高岡氏は難聴者の立場から、パソコンやネットワークが聞こえない人にとって大事なテクノロジーであることを強調し、インターネット放送や次世代のデジタルTVなどに文字放送がぜひとも必要であると訴えました。また、浮揚氏はパソコンやインターネットを使うことで、自分自身の世界を広げることができた経験を報告しました。一方、古川氏は自分自身の学生時代の渡米経験から国境や社会を越えたネットワークの可能性について語るとともに、マイクロソフト社も障害をもつ人を積極的にサポートしていくことを表明しました。岩下氏もメディアの立場からパソコンボランティアを支援していきたいと述べました。その後、会場からの質問に答えて古川氏は、「パソコンリサイクルを支援するためであれば、ボランティアが利用するリサイクルパソコンにウィンドウズなどのOSを提供できる特別なライセンスを検討したい」と約束しました。障害者のためのパソコン再利用への道を開く画期的な表明に、会場から歓迎の大きな拍手がわき起こりました。あっという間に時間は過ぎ、参加者からは「もっと聞きたかった」「時間が足りない」という声も出る中身の濃いシンポジウムでした。

新たなるパソコンボランティアの挑戦

 「ボランティアの活動の限界を感じている」「有料化も含めて今後の組織づくりを考えたい」、1日目のスキルアップセミナーでは、実際にボランティアグループを運営するメンバーからこんな悩み多き声が洩れてきました。実際、2年前には活発に活動していたのに、休止状態になっているグループもでてきています。パソコンボランティアの重要性を訴えるだけでは、より広範なボランティアの結集は望めなくなってきているという現状があるのです。ボランティアを運営するための財源や組織、方法論など、より細やかで具体的なボランティアへの支援なくしては、大きなパソコンボランティア運動への飛躍が生みだせない状況になってきているといってもよいでしょう。その点では、基調報告で提案された「パソコンボランティア支援センター」の活動の如何が、これからの運動を大きく左右するカギを握っているといえそうです。
 また行政的な側面からも、障害者がパソコンやインターネットを活用し、生活や社会参加の道具として活用するための支援が不可欠です。パソコン、福祉機器を開発する企業はエンジニアなどを育成し、専門的に障害者へのサポートを行う行政の努力、それにボランティアの三者が縦横の糸となり広がりのある支援を行うことなしに、情報バリアフリーの新世紀がやってくることはありません。情報バリアフリー社会を自らの力で生みだす最前線の現場で、パソコンボランティアの活動がこれからも続きます。

(うめがきまさひろ 日本障害者協議会情報通信ネットワークプロジェクト)