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ほんの森

秋元波留夫、調一興、藤井克徳編
精神障害者のリハビリテーションと福祉

〈評者〉村田信男

 わが国精神医学の大先達呉秀三は、「わが国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」(大正7〈1918〉年)という警句を残した。以来80年余り経た今日、この二重の不幸はどれ程解決しえたのだろうか。それをまず検証し、21世紀にこれらの不幸を持ち越さぬためにはどうすべきかという精神障害者や家族、関係者などへの強い思いが本書の編纂を思い立たせたと、まず記している。
 そして、治療の進歩、人権保障の高まり、当事者や関係者の運動の展開、障害者基本法など国の法律整備の要因などにより、今世紀後半になり、二重の不幸から解放されうる可能性が強まってきたが、しかし、到達すべき目標からはいまだ程遠いものがあると総括している。
 編者らが特に強調しているのは、他の障害者に比べいまだ遅れてはいるが、ようやく精神障害者に対する地域支援が具体化されてきたなかで、あらためて「医療・保健」と「福祉」の役割と連携のあり方を問うことである。具体的には、それぞれ独立であるべき医療・保健と福祉を混同して作りあげた「精神保健福祉法」では、継ぎ足された福祉が他の障害者のそれと比べてすこぶる貧弱であることである。その点を鋭く指摘したうえで、「国の施策の基本となる法制度は、医療・精神保健の法体系である〈精神保健法〉、福祉の法体系である〈障害者福祉法〉、および〈障害者雇用促進法〉の少なくとも三つであり、それらの整備が21世紀の精神障害者施策を実りあるものとするために着手されなければならない」と提言している。
 本書編纂の三氏は斯界の大家であり、歴史的、総合的な視点による記述は重厚かつ論理的な展開であるので、精神障害関係領域以外の人たちも問題点と方向性を把握できよう。
 「ノーマライゼーション」の理念を具体化するためにも、本誌の多くの読者に読んでいただきたいと考える。

(むらたのぶお 精神科医師、東京都立多摩総合精神保健福祉センター所長)