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シリーズ 働く 43

広がるやまびこ広場の活動

谷口峰夫

はじめに

 時折、桜の花びらを散らす雨の落ちる中、大分市中心部に近い片島地区の緑に囲まれた丘陵にある「やまびこ広場」を訪ねました。やまびこ広場は、2002年に開催されるサッカー・ワールドカッブの会場となる総合運動公園の間近にあり、まさに急ピッチで建設されている会場を望むことができます。
 知的障害者通所授産施設やまびこ広場は、社会福祉法人幸福会の運営する福祉工場「ソレイユ」、小規模作業所「やまびこフレンド」、「スマイル」、大分県内では初めてとなるデイサービスセンター「ケアハウスやまびこ」と同じ敷地にあります。やまびこ広場は、これらの通所型の施設の中で最初にできた施設です。開設は1989年4月、この春で10周年を迎えました。

やまびこ広場開設

 やまびこ広場は、知的障害者が社会的な自立に向けて一定期間の訓練を行う場として開設されました。通所授産施設が開設されるまでの流れとしては、母体となる小規模共同作業所などが発展して開設されることが多いようです。しかし、このやまびこ広場は、まず最初に、通所授産施設開設への取り組みがなされ、その後に各施設の開設へと広がった比較的稀なケースです。
 地域の知的障害児養護学校の卒業生などが、開設時には折からのバブル景気終盤の波に乗って、開設1年目と3年目は、それぞれ1人の一般事業所での就職を果たしました。

やまびこ広場の活動

 やまびこ広場には、現在、定員の30人のメンバーが通所しています。作業場の扉を開けると、10個近くのテーブルに分かれて、3~4人のグループで軽作業に従事しています。訪問した日には、スレート葺に使用するボルト・ナットの組み立てや、釣り用のえさを入れる容器にシールを貼っていくカップシール作業、また工場で使用する手袋を仕分ける作業などに取り組んでいました。ほかに、カットした干し椎茸を袋詰めする作業や箱折り作業、またバザーで販売するためのコースターや袋物などの制作を行う手工芸の作業などがあります。これらの作業は、この不況下にあって減少する傾向はあるものの、確実に注文はあるようです。このようなことからも、作業の質の高さがうかがわれます。メンバーの最高齢は43歳、最年少は16歳ですが、比較的年齢の若いメンバーは、思わぬ訪問者に関心を寄せながらも、真剣な表情で作業に取り組んでいました。室内での作業のほかに生活指導の時間もあり、社会的自立に向けての広範な支援が行われています。

広がる取り組み

 次に、幸福会が運営する各施設の設立について紹介します。
 やまびこ広場が設立され、さまざまな障害の知的障害者が通所するようになりました。通所者の中には、就職に向けての前訓練が長期にわたって必要な者もおり、施設のサービスを広げる必要が生じてきました。このため、1992年4月に小規模作業所やまびこフレンドをオープンし、通所利用者へのサービスの拡大を図りました。
 また、やまびこ広場の開設当初は、社会情勢や好景気の余韻の中で、一般事業所への就職という道も開かれていましたが、バブル崩壊後の状況は悪化の一途をたどっています。そのため、授産訓練で効果が上がっているのに就職先がないという状況が生じています。家族も「成功する確率の低い就職にもし途中で失敗して、施設に戻れないと大変だ」と、しり込みする傾向が強くなりました。そこで、作業種目のひとつに「ビル・マンションの一般清掃作業」が導入されました。導入してみると、ビル清掃作業は授産訓練の1科目として取り上げるには作業に必要な時間が多くなるという課題が残りました。そのため、ビル・マンションの一般清掃作業を独立させて福祉工場を設立するというアイデアが生まれ、1996年4月、福祉工場ソレイユがオープンしました。
 ソレイユの定員は20人で、徐々に入社希望者が増え、現在は定員に達しています。ソレイユの指導のノウハウを活かして、在宅障害者の社会参加をすすめるため、1999年4月に小規模作業所スマイルが開設されました。スマイルでは、ソレイユの作業とほぼ同じビル・マンションの一般清掃や公園清掃をしています。
 知的障害者が働くことを通して社会参加を目指す中で、障害の重度化という状況を目の当たりにすることになりました。その人たちのために1998年4月、デイサービスセンターケアやまびこが開設されました。ケアやまびこは定員15人ですが、うち10人以上は重度障害者を受け入れる「重介護型」の施設で、障害の重い人でも社会との接点を見い出すことを目的としています。

適した職種とは

 やまびこ広場で当初取り組まれ、現在ではソレイユ、スマイルの中心になっている清掃作業について少し内容を紹介します。
 清掃作業を始めるまでは、室内作業が中心でした。室内作業は環境の変化が少ないというメリットはありますが、その反面、受注による納期や設備面の整備など規制が多いといえます。これに対して一般清掃は、受注単価が高く、障害の状況に合わせた指導がしやすく、また屋外での作業なので人の目に触れる機会が多いことから、社会との接点が得られるということがあげられます。このほかに、マンションの一般清掃は、民間業者があまり入っていなかった隙間的な業種であり、景気に左右されにくく安定しています。その反面、屋外に出るため危険が多く、技術的な向上を図ることが難しい点も注意すべき点としてあげられました。

今後の取り組み

 やまびこ広場を核として広がった社会福祉法人幸福会の今後について首藤統括園長におうかがいすると、「就労できる力のある人には、就労へ向けた援助を可能な限りしていきます。今考えていることは、ナイトケアや親亡き後の社会的自立に向けた支援です。その試行として数日間の『短期宿泊訓練』を行う計画です。次のステップとしてグループホームの開設を考えたいですね」と、種々の構想を話してくださいました。
 授産施設や福祉工場で、メンバー一人ひとりが、時には小さなトラブルを起こしたりしながらも、社会的自立へ向けてその能力と個性を発揮している姿が印象的でした。
 地域の中での社会参加の場をつくり出す、やまびこ広場の活動が進み、知的障害者の「働く」生活の質が向上されることを期待しています。

(たにぐちみねお 大分障害者職業センター)