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フィンランドからの便り

フィンランドの聴覚障害事情

柴田浩志

 豊かな自然と親切な人々の多いフィンランドは人口約510万人、国土の面積は日本国土のおよそ90%、ちょうど北海道、本州、四国を合わせた大きさです。言語はフィンランド語とスウェーデン語が公用語となっており、憲法ではこの他少数民族の言語や手話も言語として保障することが明記されています。私はフィンランドろうあ協会のコーディネートにより、約2か月間、国内のろうあ者福祉施設やろうあ学校等を訪問し、関係者への聞き取り調査や施設見学を行ってきました。今回は、この国における聴覚障害児教育と重度障害のあるろうあ者の福祉についてご紹介したいと思います。

第1言語の選択が重要な鍵

 聴覚障害の疑いのある児童は、まず大学病院や地域のセンターなどの病院で診断され、必要な援助が開始されます。補聴効果のある児童には補聴器が交付され、病院で訓練が行われます。現在、フィンランドの一般の就学年齢は7歳からで、6・3制の9年間の義務教育となっています。聴覚障害児の場合は、6歳からろうあ学校での就学前教育が開始されます。
 現在、ろうあ学校の教育言語は手話で、フィンランド語は「手話修得後のほうが、子ども同士の話し合い、親との会話等コミュニケーションが円滑にでき、言語とは何かについて理解しやすい」とのことから、手話を修得した後、指導が始まります。補聴効果のある難聴児は病院で訓練を受け、7歳になると普通学校に入学します。聴覚障害児のうち、半分以上が普通学校に入学しており、現在全国に17校あるろうあ学校には143人(98年度)の生徒が在籍しています。
 いくつかの公用語を認めているフィンランドでは、保護者が手話等の教育言語を選択します。ここで大切なのは、聴覚障害児の保護者に対し、聴覚障害について十分な情報保障を行うことですが、フィンランドの場合、聴覚障害児親の会やろうあ協会、難聴者連盟が、病院、ソーシャルワーカー、ST等と連携し、保護者が子どもたちの将来を見通しながら第1言語を選択できるよう、きめ細かな援助を行っています。
 ろうあ学校または普通学校における義務教育を終了した生徒は、特別職業訓練校(全国に2校)、職業訓練校、高校、国民学校等に進学します。これらの学校の授業では、補聴器の使える生徒は磁気誘導ループやFM補聴器を活用し、手話を第1言語とする生徒には手話通訳が派遣されます。またろうあ学校からストレートに高校に進学できる生徒は少なく、国民学校で再教育を受けたり、職業学校に進む者が多い現状です。したがってフィンランドでは、高校卒業検定試験合格者のみが大学入学試験を受けられることから、大学に進学するろうあ者はきわめて少ない状況です。

重度障害のろうあ者への援助

 フィンランドではろうあ協会、ろうあ者サービス財団(The Service Foundation for the Deaf)といった当事者団体自らがサービス提供者となり、組織的に重度障害者対策に取り組んでいます。
 知的障害や視覚障害、精神的な障害のある重度障害者は、ろうあ学校卒業後「オンニプログラム」という自立訓練プログラムに参加します。これは1週間~10日間の宿泊研修施設における訓練で、人間関係、福祉サービスの使い方、金銭管理といった日常生活力の向上など幅広いプログラムが組まれています。
 そしてこのプログラムを通じて、より継続的に訓練が必要と判断された人は、サービス基金が運営するユバスキュラ市のグループホーム「アンチンコーチ」で約1年間の訓練を受けます。訓練では手話の学習、ろうあ者としての自覚、身辺整理、食事の作り方、金銭管理、コミュニケーション機器の使い方、サービスの活用等の指導が行われます。
 このプログラムを修了すると、バンタ市にあるグループホームに入居するか、グループホームの近くにある「フラット」と呼ばれる個人向け賃貸住宅に入居します。この住宅は既存の集合住宅の一室をろうあ協会が購入し、重度障害のろうあ者に貸し出すもので、ろうあ者はここでソーシャルワーカーの援助を受けながら、各種のサービスを利用して自立した生活を送ります。

フィンランド唯一の授産施設「サンポラ」

 ハーメリンナ市の「サンポラ」授産施設は1960年に設立され、現在19人のろうあ者、11人の盲ろうあ者が七つの部署に分かれて働いています。仕事の内容は製本、ブラシ磨き、椅子の張り替えや修復、籐工芸、製品販売などで、町の中心には製品の販売ショップもあり、町では有名なセンターとなっています。また、授産施設と関連してアパートと小規模グループホームを運営し、授産施設で働くろうあ者が生活しています。
 この他ろうあ者施設としては、最も古いヒュービンカ市の「オービックホーム」(1911年設立)、オウル市の「ルノラホーム」(1981年設立)があり、盲ろうあ者や介護の必要なろうあ老人が生活しています。

(しばたひろし 京都府聴覚言語障害センター)