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ハイテクばんざい!

脊髄損傷者の排せつ周辺機器

細谷実

1 はじめに

 脊髄を損傷したことによって、正常な排尿や排便に支障を来すことを、神経因性の膀胱直腸障害と言います。どちらも生命維持に直結するような重要な問題ですが、反面、その特性ゆえ(排せつに関することのため)公にしにくいこととして扱われることが多いのが実状です。したがって、脊髄損傷者(脊損者)の社会参加を妨げる大きな障壁のひとつとなっていながら、対応が遅れている分野であることは否めません。
 脊損者の生活上の特徴は、立ち上がりや歩行ができないため、車いすとベッドが生活の場となることです。その中でも、特に頸髄損傷者(頸損者)は上肢にも障害が残るため、手指の細かい動作ができません。しかし、市販の排せつ関連製品は、使用者が上肢機能に障害がないことを前提として作られていることが多く、上肢特に手指の障害があると使いにくい、あるいは使えないという声をよく聞きます。このため、各地のリハセンターなど多くの頸損者とかかわっている施設では、作業療法士(OT)が中心となって頸損者が使えるような独自の製品開発が続けられています。これらの中にはまだ試作段階のものもあり、一般には入手できないものもあります。しかし、これらを使用することで自立している方も多く、この機会に少しでも多くの方々に知ってもらい、そして自立してもらいたいと思っています。
 今回は、脊損者の中でも上肢に障害が残る頸損者に関する機器を中心に話を進めたいと思います。

2 排尿動作について

 排尿障害は、尿閉タイプや尿もれ、失禁タイプなどに分かれます。尿意、代償尿意の有無や尿閉、尿もれの有無、膀胱容量などから、自己導尿、自排尿、収尿器、外科的治療などそれぞれの排尿方法を選択します。排尿は一日の中で実施回数も多く、時間や場所が制限されると活動範囲に影響を及ぼすため、自分で、しかもトイレでできるための方法が必要です。そのため、自分の排尿障害に合ったものを実際に試してみることが必要です。以下、主な排尿方法別の関連機器を紹介します。

(1)間欠的自己導尿

 自己導尿は、定時的または尿意に応じて、尿道から膀胱へセルフカテーテルを挿入し、排出した尿をビニール袋や尿器などで採尿する方法です。セルフカテーテルには、長さや太さ、挿入先端の形状、キャップの形状、収容ケースの形状などさまざまなタイプがあります。必要に応じて改良が必要であり、手指機能障害のためにビニール袋などの取り扱いが困難な頸損者や、狭いトイレスペースで行う場合では、車いす上から便器へ直接尿の排出を行えるよう、延長チューブ付きセルフカテーテルを使用します。
 女性の頸損者の場合、解剖学的構造上の問題から車いす上での自己導尿は困難な場合が多く、仮にベッド上での自己導尿が可能であっても、尿道口を確認するための鏡や、陰唇開大器などの機器を必要とします。また、衣服の着脱を省略するために産褥用パンツや自己導尿用に改良されたズボンなどを使用します。

(2)留置カテーテル

 尿道、または膀胱瘻からバルーンカテーテルを留置し、連結した集尿袋に排尿を行う方法です。急性期や尿もれの重篤な脊損者が利用し、外出などで一時的に留置カテーテルを使用する場合には、間欠導尿用ディスポーザブルバルーンカテーテルを使用します。女性の場合も、ベッド上の自己導尿が可能でも、環境の制限や導尿周辺用具が多くて、持ち運びが不便なことから留置カテーテルの使用者が多くみられます。集尿袋の尿の排出が自分でできるよう改良を行い、排出口をチューブで延長したり、バルブにループを付けるなどします。

(3)収尿器

 尿道からもれる尿を、採尿部に連結した蓄尿袋にためて排尿する方法です。尿もれ、尿失禁のある脊損者が使用しています。男性の場合、陰茎に直接装着する陰茎固定式や、パンツ式などが市販されています。頸損者の場合、採尿部の装着や蓄尿袋の尿の排出などの自立のために改良が必要です。女性用に市販されているものがありますが、尿がもれるなどのトラブルが多いため実用性が低く、尿とりパッドの使用者が多いのが現状です。

3 排便動作について

 排便障害はほとんどの場合、便意がなく、マヒのため自力排便ができないので大腸内に便塊がたまった状態、すなわち便秘になります。これに対して、薬物や温水などを腸内に注入し刺激することによって排便を促すのが一般的な対応方法です。しかし、排便そのものの問題だけでなく、排便に至るまでの一連の動作、たとえば、ズボンや下着の着脱、車いすから便器への乗り移り、坐薬や浣腸の挿入などの動作一つひとつが自立の妨げとなっています。これらへの対応策としては、坐薬挿入器などの自助具から便器を埋め込み式にする専用トイレまでさまざまな方法が開発されています。
 ここでは解決方法の一つとして、当センターでの排便方法を紹介します。まず、ズボンや下着の着脱はベッド上で行います。ズボンや下着の改良だけでなく、ベッドのリクライニング機能を利用することで下着の着脱を容易にします。
 次にベッドから排便用車いすへ乗り移ります。これは、電動リフターを自分で操作して乗り移ったり、トランスファーボード(移乗板)を使ってベッドから排便用車いすへ直接乗り移ったりします。この排便用車いすは、自走が可能な車いすで、トイレまでは自走で移動します。そして、洋式便座の上に車いすごとかぶさる状態になります。車いすの座面の部分がU字型にカットされ、肛門の部分は空いた状態になっているので、便は下の便器に落下するようになっています。また、この排便用車いすは使用者の体型に合わせて製作するため、長時間の座位にも耐えられるように設計されています。さらに、シャワー用車いすとしても使用できるため、排便後にそのままシャワーを浴びることもできます。
 次に、坐薬や浣腸の挿入を車いす上で行うために、使用者の手の形や肛門までの距離や角度を考慮した装具型の自助具を使用します。これによって手指機能障害があっても挿入できるようになります。この方法は、使用者の状態に対応できるという利点がありますが、基本形が決まらないため製品化しにくいのが欠点です。
 排便は排尿ほど頻度が高くないので、3日に1回とか1週間に2回とかのローテーションで管理している方が多いのですが、外出時には不意にもよおすことを想定して、おむつを装着しているのが現状です。

4 おわりに

 当センター以外で、OTが脊損者の排せつに深くかかわっている施設のいくつかを紹介します。各施設ともそれぞれ独自のアプローチを行っていますので、参考になることと思います。

(ほそやみのる 兵庫県立総合リハビリテーションセンター作業療法士)


〈参考文献〉
1 細谷実、他「特集 排泄 各地の施設で開発・使用されている排泄機器具」リハビリテーションエンジニアリング、6(3):25-44、1992。
2 玉垣努、他「間欠的洗腸システムの開発」作業療法、13:142、1994。
3 寺山久美子、大喜多潤、相良二朗編『テクニカルエイド-選び方・使い方』三輪書店、1994。
4 細谷実、野上雅子「C6B2頸髄損傷者の日常生活動作」OTジャーナル、30:725-730、1996。
5 石川齊、古川宏、他編『図解作業療法技術ガイド』文光堂、1998。

●神奈川県総合リハビリテーションセンター
 神奈川県厚木市七沢516-1
 TEL 0462-49-2560

●総合せき損センター
 福岡県飯塚市伊岐須550-4
 TEL 0948-24-7500

●国立伊東重度障害者センター
 静岡県伊東市鎌田222
 TEL 0557-37-1308

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2000年3月号(第20巻 通巻224号)