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1000字提言

理事長のぼやき

高田三省

 私が勤務する財団の小倉昌男理事長が、この頃しきりにぼやいてやまないことがある。共同作業所に通所している障害者の給料がむちゃくちゃに安いことである。
 財団では5年前から、共同作業所の幹部職員を対象に、作業所活動の活性化を目的とした研修会を開催しているが、それを通じて私たちにも作業所の実態がだんだんと分かってきた。
 作業所のやっていることはいろいろである。企業の下請け作業、公共施設の清掃作業などのほか、空き缶つぶし、喫茶店経営、また自主製品と称して木工、廃油利用による石けんづくりなど、いろいろなものを製造し、販売している。それらの収益のほとんどが、通所者の給料、工賃となる。ところがその額たるや、大部分が1人月額1万円以下である。「障害者だからといって、今どき月給1万円とは何ごとか」と小倉さんはぼやく。
 給料が安いのは、言うまでもなく作業所の収入が少ないからである。収入が少ないのは、利益の上がらない仕事をしているからである。自主製品にしても、何が売れるか、何が儲かるかを考えないで作っているものが多い。作ってから売れないと言って嘆き、販路の開拓で苦労している。順序が逆ではないか。まず「何が売れるか」を考え、調べることからスタートしなくては。
 以上に対しては当然、反論もある。収益性の低い仕事をしていると言うが、仕事の選択に当たって作業所は、まず第1に障害者のできる仕事、障害者に適した仕事を優先して考えなければならない。収益性は二の次三の次である。それに作業所は、障害者同士の交流、親睦、情報交換など、広く障害者の福祉を目的とした場所でもあって、就労や生産活動はその一部に過ぎない。
 もっともな反論だと思う。が、意地悪な言い方かもしれないが、それはまた低賃金しか支払えないことへの言い訳のように聞こえないでもない。「福祉」を隠れ簑にして障害者の収入を増やすための努力を怠っているということはないか。障害者、とりわけ知的、精神の障害者は、声に出して「賃上げ要求」などしない。それだけに作業所運営に責任をもつ者が、努めて通所者の収入増を考え、行動しなくてはいけないように思う。
 それにしても、小倉理事長のぼやきがやむのはいつのことか。

(たかださんせい 財団法人ヤマト福祉財団常務理事)