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フォーラム2000

ガイドヘルパー派遣事業、
養成研修体制の充実に向けて

赤塚光子

1 ガイドヘルパー派遣事業について

 ガイドヘルパーは、身体障害者ホームヘルプサービス事業運営要綱(平成2年12月28日社更第255号各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省社会局長通知)において「ガイドヘルパーに関する特例措置」として「外出時の移動の介護等外出時の付き添いに関する」業務を専門に行うホームヘルパーのことを言います。
 派遣対象は、「重度の視覚障害者及び脳性まひ者等全身性障害者であって、市町村、福祉事務所等公的機関、医療機関に赴く等社会生活上外出が必要不可欠なとき及び社会参加促進の観点から実施主体が特に認める外出をするときにおいて、適当な付き添いを必要とする場合」とされています。この「社会参加促進の観点から実施主体が特に認める外出」とは、「日常生活上必要な外出のうち、通勤、営業活動等の経済的活動に係る外出、通学等の通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上本制度を適用することが適当でない外出を除いたものをいうものであること。なお、原則として1日の範囲内で用務を終えることが可能な外出とすること」となっています(昭和63年6月9日社更第142号各都道府県・各指定都市民生主幹部(局)長あて更生課長通知)。
 ガイドヘルパー派遣事業の実施主体は市町村で、費用の負担割合は国が2分の1、都道府県及び市町村が各4分の1です。
 また、重度の視覚障害者が都道府県及び指定都市間にまたがって外出する場合に、目的地において必要なガイドヘルパーを確保できるよう連絡調整するガイドセンターの設置運営も、都道府県事業として実施されています。
 ガイドヘルパー派遣事業は、外出に支援を要する人たちの社会参加促進に重要な役割を担うものです。しかし、市町村における事業実施率は低く、平成9年の時点で実施していたのは全国で約4分の1の市町村であることが報告されています。

2 ガイドヘルパー業務と養成研修について

 ガイドヘルパー派遣事業の実施がなかなか進まなかった理由として、ガイドヘルパーの業務内容の明確化及び養成研修体制整備に遅れがあったことが指摘できます。
 ガイドヘルパーに求められる要件は、1.心身ともに健全であること、2.身体障害者福祉に関し、理解と情熱を有すること、3.外出時の付き添いを適切に実施する知識と能力を有することの3点です。前述した課長通知において「ガイドヘルパーは所定の研修を終えたあとで登録すること」「ガイドヘルパー経験者については、所定の研修を終えたものとして登録すること」とありますが、研修内容等は講義、実技の大まかな研修科目名を示すにとどまっていました。平成2年の身体障害者ホームヘルプサービス事業運営要綱でも、ガイドヘルパーの養成研修は「別に定めること」とされました。その内容がなかなか示されなかったことなどから、事業の実施主体である市町村では、研修が組みにくい、あるいは実施できないという状況があったと推察されます。
 平成9年に、ようやく「ガイドヘルパー養成研修実施要綱」が定められ、ガイドヘルパーの養成研修は都道府県または指定都市の事業として実施されることとなりました。
 ガイドヘルパー養成研修カリキュラムは、重度視覚障害者研修課程と重度脳性まひ者等全身性障害者研修課程の2課程です。研修カリキュラムは表のとおりですが、「地域性、受講者の希望等を考慮して、必要な科目を追加することは差し支えない」としています。

表 ガイドヘルパー養成研修カリキュラム

1 重度視覚障害者研修課程
 (1)講義
  ア ホームヘルプサービスに関する知識
   (ア)ホームヘルプサービス概論
   (イ)ホームヘルパーの職業倫理
  イ 障害者(児)福祉の制度とサービス
  ウ 移動介助の基礎知識
  エ 障害・疾病の理解
  オ 障害者(児)の心理

 (2)実習
  ア 移動介助の基本技術
  イ 屋内の移動介助
  ウ 屋外の移動介助
  エ 応用技能
2 重度脳性まひ者等全身性障害者研修課程
 (1)講義
  ア ホームヘルプサービスに関する知識
  (ア)ホームヘルプサービス概論
  (イ)ホームヘルパーの職業倫理
  イ 障害者(児)福祉の制度とサービス
  ウ 障害者(児)の心理
  エ 重度脳性まひ者等全身性障害者を介助する上での基礎知識
  (ア)重度肢体不自由者における障害の理解
  (イ)介助に係わる車いす及び装具等の理解
  オ 移動介助にあたっての一般的注意
  (ア)姿勢保持について
  (イ)コミュニケーションについて
  (ウ)事故防止に関する心がけと対策

 (2)実習
  ア 移動介助の方法
  (ア)抱きかかえ方及び移乗の方法
  (イ)車いすの移動介助
  (ウ)歩行移動介助の注意
  イ 日常生活における介助の方法


 受講対象者は、AとBに分けられています。Aはホームヘルパー養成研修1、2級課程修了予定者または修了者及び介護福祉士で、Bはそれ以外の人たちです。Bに該当する人たちが全科目を受講するのに対し、Aに該当する人たちはホームヘルパーあるいは介護福祉士資格を得るための履修科目と重複する科目は重ねてとる必要はなく、B該当者より科目、時間数とも少なく設定されています。
 この年に、「ガイドヘルパー研修用教材試案」が、日本障害者リハビリテーション協会から発行されました。また、ホームヘルプサービス事業の事業費補助方式への移行にあたり、「ホームヘルプサービス事業実務問答集」が、各都道府県・指定都市・中核市及び関係団体に配布され、この中でガイドヘルパーの取扱いや業務内容が具体的に示されました。
 ガイドヘルパーの主要なサービスとしては例として次のようなものがあげられ、これを踏まえた個別派遣計画の参考事例も紹介されています。
1.基本サービス(利用者を問わず毎回の派遣において必要なサービス)
●健康チェック
●外出準備確認
●移動介助
2.利用者ごとの必要性に応じて提供されるサービス
●コミュニケーション介助
●食事・喫茶介助
●排せつ介助
●更衣介助
●姿勢の修正介助
●買い物支援
●町並み等の紹介
 このように、平成9年はガイドヘルパー派遣事業や養成研修の充実に向けて大きく前進した年であったと言えます。

3 養成研修カリキュラム等の検討について

 さらに同年10月には、厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課社会参加推進室に「ガイドヘルパー研修カリキュラム等検討会」が設置されました。検討会は理学療法士、作業療法士、歩行訓練士、介護福祉士、行政関係者など計12人の委員で構成され、ガイドヘルパー実務経験や養成研修実施経験、実態等を踏まえ、研修カリキュラムや教材などについて、翌年3月まで11回にわたって検討が行われました。
 ガイドヘルパーには安全なガイドを行うと同時に、利用者の目的に合わせた快適なガイドを行うことが望まれています。また、実務問答集に示されたような、家を出るところから帰宅するまでに、外出先で必要なさまざまな介助を適切に提供することが必要です。利用者の主体性を尊重した、利用者の希望に添うガイドであるべきことはもちろんです。このような観点を盛り込んだ研修教材の内容について、細部にわたる丁寧な議論がなされました。職業としてのガイドヘルパーを確立していくために、研修内容に「ガイドヘルパーの制度と業務」を新たに加えました。
 平成11年8月に発行された「ガイドヘルパー養成研修テキスト」は、この検討会の成果物として作成された研修教材です。「重度視覚障害者研修課程」「重度脳性まひ者等全身性障害者研修課程」の2冊にまとめられています(厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課社会参加推進室・障害福祉課監修、中央法規刊)。ガイドヘルパー養成研修における標準的教科書として使用していただきたいものです。

4 これからの課題

 外出介助を必要とする人たちを支えるガイドヘルパー派遣事業の実施、ガイドヘルパーの増員に向けての都道府県等のガイドヘルパー養成研修の実施、充実が望まれます。ガイドヘルパーは、社会参加推進に不可欠な存在であり、家族やボランティアヘの依存から脱出し、一人の人間としての生活をつくり上げるうえで重要なサービスであるからです。
 しかし、課題もあります。一つは、養成研修講師確保の問題です。また、視覚障害と全身性障害を併せもつ利用者への対応、医療的な対応などがどこまでできるかなどがあげられますし、ホームヘルパーとガイドヘルパー業務の境界についてもまだ不確かなところがあります。また、現在のガイドヘルパーは利用対象が限定されており、知的障害などへの対象拡大も早急に実現したいことです。
 いよいよ4月から介護保険が導入され、障害者の一部もこの対象となります。ガイドヘルパー派遣事業は障害者固有のサービスで、障害者施策から提供されます。本事業について関心がより深まり、いっそうの充実に向けた取り組みがなされ、この中でさらに議論が積み重ねられていくことが望まれています。

(あかつかみつこ 立教大学コミュニティ福祉学部)