音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

北米における権利擁護とサービスの質に関するシステム 連載10

障害者の介助受給権と介助選択権
-カナダ・ブリティッシュコロンビア州から学ぶ-

北野誠一

1 はじめに

 いよいよ介護保険によるサービス実施が秒読みの段階に入った。今回はカナダのブリティッシュコロンビア州の障害者の介助サービスにおけるサービス受給権や選択権の問題を考察することによって、日本の介護保険や2003年に予定されている障害者の利用費助成制度の持つ問題点を明確にしておきたいと思う。なおカナダの他の州の障害者介助システム、なかんずくオンタリオ州の介助料直接受給方式については、ヒューマンケア協会の“当事者主体の介助サービスシステム”(注1)に詳しい。

2 ブリティッシュコロンビア州の
  自立生活選択支援方式(CSIL)

 カナダでは、各州とも州の公務員であるケースマネジャーが本人の介助必要量をアセスメントし、それに基づいて民間の在宅援助サービス機関のサービスを購入する形が一般的である。ブリティッシュコロンビア州においては、それぞれの行政区の継続ケア局(CCD)に所属するケースマネジャーがそれを行うことになる。このシリーズの第8回で述べたように、介助を必要とする障害者と高齢者は同じCCDが担当している。ちなみにブリティッシュコロンビア州の要介護認定区分は、日本の介護保険のそれとよく似ているのでここに示しておく。

表 カナダ・ブリティッシュコロンビア州の要介護認定方式(注2)

  要介助の内容 要介護認定に
おける比率
介助サービス
(身辺介護と家事援助中心)の月標準時間
要支援 移動はできるが家事援助等のサービスが必要 70% 40時間
レベル1 日常生活動作(ADL)の一部に介助が必要 46時間
レベル2 日常生活動作のある程度に介助が必要 18% 64時間
レベル3 日常生活動作にかなりの介助が必要で、見守り等が必要な場合もある 12% 98時間
最大レベル 移動に障害があり24時間の介助や見守り等を必要とするが、救急病院への入院は必要でない 120時間


 ここで問題となったのは、ケースマネジャーがサービスを購入するケアマネジメントシステムである。そこでブリティッシュコロンビア州においては1994年から自立生活選択支援事業(CSIL:Choice in Supports for Independent Living)をパイロット事業として立ち上げたわけである。
 1996年時点における二つのCSILプログラムの概要は次のとおりである(注3)。

A.CSIL Phase1

 このプログラムは、在宅介助サービスを自己管理することが可能な障害者のためのプログラムである。
1.その受給要件は、19歳以上で要介護認定レベル3以上の重度の障害者で、かつ金銭管理能力を含めて介助者を雇用者として管理する能力のあるものである。
2.1996年度のプログラム受給者は230人であり、90%は最大レベルの要介護認定を受けている。
3.23人の平均介助認定時間は月168時間であり、1時間あたり一般的に民間ホームケア機関に支払われている23ドルが、本人の介助に関する専用の口座に振り込まれる。
4.本人は特定の介助者から受けた介助時間分に見合う介助料と社会保険料等を介助者の口座に振り込むことによって、不正受給をチェックする。
5.年間数人は受給した費用の不正流用でプログラムの受給権を失っている(ただし通常のケアマネジメントシステムに戻ることは可能である)。
6.本人の自己負担は本人の所得に基づく応能負担であるが、1996年度においては78人が負担なしである。
7.このプログラムの利用者は介助利用者全体の0.6%であるが、介助予算の7%を占めている。
8.介助費用を一部使って、経理士や社会保険労務士等に税手続きや社会保険手続きを委託することもできる。そのことによって障害者は、かなりのペーパーワークを免除されうる。

B.CSIL Phase2

 このプログラムは、在宅介助サービスを管理するのに支援を必要とする利用者のために、利用者サポートグループ(CSG)が支援を行うプログラムである。
1.その受給要件は、19歳以上で要介護認定レベル3以上の重度障害者で、法定後見支援を受けている等、自らの介助サービスを管理することが困難で、そのことに支援を必要とする者である。
2.1996年度のプログラム受給対象者は24人である。
3.このプログラムの特徴は、本人の要介護認定に基づいて、費用を本人が受給するのではなく、利用者サポートグループ(CSG)が受給する点である。CSGが費用を受給して、本人に代わって民間ホームケア機関や介助者等と契約するわけであり、そのためにCSGは法律に基づいてNPO法人として届け出なければならない。
 ブリティッシュコロンビア州の非営利法人(NPO)に関する法律においては、特定の非営利の目的のもとに、3人以上の理事が集まれば極めて簡単に非営利法人をつくることが可能である。一定の定款(bylaws)を作成し、95カナダドルをはらって登記すれば、手続きは完了する。登記費用はプログラムから支払われる。
4.NPO法人であるCSGの要件は、5人以上の理事が必要であり、各理事は1年以上参加することが求められる。主なメンバーは利用者の家族・友人・近隣・家庭医・権利擁護者・後見人等であり、利用者の介助サービス提供者はメンバーになることはできない。また過半数は本人と同じコミュニティーに属していなければならない。利用者本人も6番目のメンバーになることができる。家族や親族はCSGメンバーにはなれるが、利用者の介助サービス提供者にはなれない。
5.このプログラムは利用者の家族や支援者、権利擁護者が、ケースマネジャー等に任せずに、よりアクティブな役割を担いたいという要望から生まれたプログラムである。その活動は本人の支援にとって有益でありうるが、支援の必要が高いということは、本人のバルネラビリティー(被虐待等可能性)も高いがゆえに、このプログラムが悪用されず常に本人の希望や思いに基づく“本人自立生活支援”であるかどうかのチェックが必要となる。そのためにブリティッシュコロンビア州はCCDのケースマネジャーが年2回は利用者を訪問することを求めている。

3 ブリティッシュコロンビア州における
  地域介助システムモデルをどう普遍化するのか

 図は2で考察した二つのCSILプログラムを含めたブリティッシュコロンビア州で現在行われている五つの地域介助システムモデルをまとめたものである。

図 カナダ・ブリティッシュコロンビア州における
  地域介助システムモデルとその普遍化

図 地域介助システムモデルとその普遍化


 サービス利用者の第三者への委任モデルから、サービス利用者による自己管理に基づくモデルまでを順に並べてみた。
 一見して、日本の介護保険に基づくケアマネジメントは多くの選択肢のひとつに過ぎないことが分かる。いや、日本の介護保険は本人が自分でケアプランを立てることが許されているのだから、5.の自己管理(セルフマネジメント型)モデルをも含んでいるという意見もあろう。しかしそれは間違っている。なぜなら、日本の介護保険で許されたケアマネジメントはケアマネジャーを通さずに、あくまで指定事業者に自分で申し込むことができるというだけで、そんなことは利用契約制度になったのだから当たり前のことである。
 自己管理モデルの最大の特長は2でもみたように、本人が介助費用を受け取り、サービスを購入する点である。そのため指定事業者とは無関係に、本人は雇用者の責任で、自らの自由裁量のもとにサービスを購入することができることになる。
 むしろ2003年の障害者の利用費助成制度を考えれば、日本において2.3.4.のモデルをいかに可能とするかが重要である。
 2.は現在の日本のNPO法では残念ながら困難である。アメリカやカナダのようなつくりやすく、使いやすいNPO法に改正することが必要である。このモデルを複数後見支援型としたが、それは決して特定の後見人に委ねるモデルではない。このシリーズの第3回でも述べたように、特定の個人の判断や保護下におかれることは、常に人権侵害の危険性をはらむ。複数の支援と複数のチェックが必要不可欠である。
 3.は現在も全身性障害者介護人派遣事業やガイドヘルプ事業において使用されている登録ヘルパーや自薦ヘルパーの仕組みである。
 問題は行政や社協や公社といった公的な在宅介助サービスを喪失した後の問題である。公的なサービスがあれば、自薦ヘルパーを登録させることは比較的容易だったかもしれないが、民間サービスでそれが可能かどうかである。ここはやはり自薦ヘルパーを容易に登録させることができる法人格をもった指定事業者、あるいは法人格はないが一定の要件を満たした基準該当事業者を、障害当事者が単独で、あるいは他の市民グループや高齢者支援グループと一緒になって立ち上げることが必要だと思われる。
 4.は自立生活センター型モデルである。ここでは「本人自立生活支援計画」に基づいて、本人の希望する地域での自立生活をどのように支援できるのかが問われている。確かに1.のモデルにおいても、本人とケースマネジャーが本人の希望に基づく「本人自立生活支援計画」を立てて、契約することも理論的には可能である。このシリーズの第7回でみたように、カリフォルニア州の発達障害者法に基づくPC-IPP(本人自立生活支援計画)はまさにそうであった。高い法的権限と当事者主導の理事会のもとで行われているために、サービス事業者全体に本人の希望に基づく「本人自立生活支援計画」の方針を徹底化させることができたのである。
 しかしそのような法的権限もまた当事者主導どころか中立公正性もなく、サービス提供者主導のケアマネジメントシステムしか持たない日本の介護保険においては、1.は所詮1.でしかないのである。
 そこで当事者主導の理事会や運営システムを持ち、当事者によるピアカウンセリングやピアサポート体制を持つ自立生活センターが意味を持つことになる。このようなシステムだけが、4.の自己管理中心・一部委任モデルに耐えうる。というのは一部を委任するということは、その委任するシステムが本人の希望する自立生活を支援する立場に立っていなければ、その本人らしい生き方がサービス提供者にコントロールされてしまいかねないからである。その意味でも今後、「障害者ケアマネジメント事業」が予定されている「市町村障害者生活支援事業」を、自立生活センター等の当事者主導のシステムが担うことが望まれる。

(きたのせいいち 桃山学院大学教授)


(注1)鄭鐘和編集『当事者主体の介助サービスシステム-カナダ・オンタリオ州のセルフマネジメント-』ヒューマンケア協会、1999。
(注2)ブリティッシュコロンビア州の要介護認定方式について、詳しくは、“The Way Home:Review of the Vancouver Continuing Care System”Vancouver Health Board 1996 を参照されたい。
(注3)CSIL Phase1及びPhase2については、ブリティッシュコロンビア州のCCDのシニアプログラムアナリストであり、州のCSILプログラムを統括しているSally Hamiltonに対する数回のインタビューと彼女が提供してくれた多くの資料による。今回紹介できたのは、その一部にすぎない。CSILプログラムを申請したのに却下された場合の不服申し立て(Appeal)の手続きや、他州のセルフマネジメントプログラム等については、他の機会としたい。