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街なか探検隊 Vol.21

島根
松江市
-楽乗りバスで宍道湖夕日見物-

矢野秋男

 松江市で自慢できるものに宍道湖や嫁ケ島があります。その夕日はすばらしく、その景色を撮るために県外からも大勢の人がやって来るほどで、松江城や宍道湖遊覧船、ラフカディオハ-ン記念館、風土記の丘などでは外国人観光客もよく見かけます。デンマークから電動車いすのステイさんが来られた時も、江戸時代からその姿を変えずにいる堀川遊覧船が一番気に入ったようです。食べものも宍道湖七珍や出雲そばなどおいしいもの、珍しいものがあります。
 今回は、施設入所の重度障害者という立場から、松江市を紹介します。
 私は25年間施設に入所していて、これまでボランティアや家族、職員のだれかの付き添いがないと外出できませんでした。ところが6年前から、電動車いすで1人で外出してもよいと施設の方針が変わりました。これによって私たち障害者自身の意識も、周辺住民の方の意識も、ずいぶん変わりました。やはりふだんから出かけることが大事なんだと認識しました。
 この辺りは、車が多いし古い城下町だからでしょうか。道路は道幅が狭く、歩道もデコボコだったり、ナナメだったりします。それが、私たちが電動車いすで日常的に出かけるようになってから、道路が平らに整備され、安心して歩けるようになりました。
 わが街の交番の所長さんは、車いす交通安全教室で「車も多く危険な所だから、あまり1人で外出しないように」とは言わずに、反対に「どんどん出かけて、危険から身を守る知恵を身に付けてほしい」と言い、橋南地区(松江市の南側半分)の手押し信号機のボタンの位置を、すべて車いすで手が届く高さに直してくださいました。
 橋南周辺には喫茶店、美容院、書店、スーパー、コンビニ、電器店、カラオケなどがありますが、そのほとんどの店がこの6年間の間に、入口にスロープを付けてくれたり、身障者用トイレをつくってくれたりしました。店員さんも最初は戸惑ったようですが、もうすっかり慣れて、財布からお金を出し入れしてくれたり、買物袋を車いすまで運んだりしてくれます。どこで会っても「こんにちは」とあいさつしてくれて、すっかり顔なじみになりました。
 また私たち自身が外出した時に転倒してけがをしたり、店の品物に車いすをぶつけて壊してしまったりした時に、交通傷害保険を利用して対処することも覚えました。まちづくりという意味では、私たちが外出することによって得られた成果は大きいと思います。
 ノンステップバスが日本に誕生したのは4年前です。何と松江市は全国でも先駆けて導入しました。最初が2台、現在は6台と、今後も増車していく予定です。市交通局は高齢社会も踏まえ、バス停などの整備も含めて大変な力の入れようです。
 今まではバスの入口は狭くて急な階段があり、80kgの電動車いすと本人の体重も合わせれば130kgにもなるので、さすがに乗車をあきらめざるを得ませんでした。ノンステップバスは段差がなく、自動スロープがついているので、介助がなくても電動車いすで1人でスイスイ乗車できます。リフト付きバスはいちいち運転手の介助が必要で、車いすの人だけがそのつど特別に1人ずつ乗り降りさせてもらわなければなりません。ノンステップバスになってから、気がねなくみんなと一緒に乗降できる点がとても気に入っています。
 ところがある時、バス停で待っていたお年寄りがせっかくノンステップバスが来ているのに乗りませんでした。なぜだと思いますか。「これは車いすなどの“福祉バス”であって、健常者の自分は乗ってはいけないと思った」と言うのです。「えっ? それはないでしょう」。そういうイメージを変えてもらおうと「誰でも楽々乗れる《楽乗りバス》」のステッカーを作り、バスに貼らせてもらいました。
 ノンステップバスのほかにも市社協によるたんぽぽサービスも始まりました。これは登録ボランティアが運転し在宅者の通院、買物等を援助しようというものですが、まだ1台しかなく、利用範囲が限られています。バス停に行かなくても、時間を待たなくても、天気に左右されずに、行きたい時に行きたい所へ行ける……。玄関から玄関ドア・ツウ・ドアと言われ、今後の発展が期待されています。
 移動・交通と言えば、福祉タクシーもあります。現在4台で、料金は普通タクシーと同じです。以前は、時間帯や行き先の制限がありましたが、現在はありません。
 交通アクセスという点では、松江市はよくやっているほうだと思います。今後もますます充実されるようですし、もし県外から電動車いすで観光に来られても、移動・交通面は大丈夫です。JRは電車とホームの間のすき間は、駅員に言えばスロープを付けてくれます。降りる時はホームの端っこにある荷物用エレベーターで降ろしてくれます。駅に出れば各バス停に1時間ごとに北循環、南循環、福祉センター行き、大学行きのノンステップバスが来ます。福祉タクシーは電話して頼めばいつでも来ます。
 ご連絡いただければ私が“楽乗りバス”に乗って松江市内、宍道湖の夕日をご案内いたします。「あ、そうだ」。湖岸には県立美術館もあります。あそこのチョモランマというケーキ、おいしいそうですよ。それでは皆さん、お出でください。

(やのあきお 障害者いきいきネットワーク)