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当事者の立場から

長野英子

 この国の精神医療政策は、この100年間一貫して、「危険な精神障害者から社会を守る」という治安的視点と、「危険な精神障害者をいかに安上がりに収容するか」という経済的視点の下で展開してきた。
 こうした精神医療政策の根底にあるのが保安処分思想だ。私たち「精神病」者を「犯罪を犯しやすい危険な者」と規定し、その「危険性」を根拠として予防拘禁し強制医療を施す、これが保安処分および保安処分思想である。保安処分思想に基づく精神医療政策が60年代の精神病院病床の闇雲な増床、その結果としての長期入院者の社会復帰問題、そして精神病院での患者虐待などの不祥事を生み出してきた。それゆえにこそ私たち「精神病」者は、単に刑法に保安処分制度が新設されることに反対するのではなく、精神保健福祉法体制を今ある保安処分と規定し、その解体を主張してきたのだ。
 現在この保安処分思想はなくなっただろうか?「人権に配慮した」とされている精神保健法が準備される過程で、「精神障害者の人権保障はいいが、被害者の人権はどうなる」という議論がされ、それに応えるものとして「処遇困難者専門病棟」新設の動きが始まった。これは「厄介者」とされた「精神障害者」を特別な施設に厳重に監禁しようとする保安処分政策である。また厚生省研究班「精神医療事故の法政策的研究」班は、「触法精神障害者対策」を一つのテーマとして今年度中に報告書を出す。
 昨年、精神保健福祉法見直法案が国会で成立する際に、衆参両委員会は、満場一致で「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇のあり方については、幅広い観点から検討を行うこと」という旨の付帯決議をあげた。自民党は精神保健問題検討小委員会を設置し、「触法精神障害者」に対する対策を3年以内に結論を出すとしている。
 一方、日本精神病院協会は「触法精神障害者対策プロジェクト」を組織し、法務省刑事局と共に保安処分について、月1回の会議を定例化して行っている。「触法精神障害者」という切り口から保安処分推進の動きが急激に強まっている。
 こうした動きと無縁かのように、一方で社会参加・ノーマライゼーションなどの大合唱がある。しかし「触法精神障害者」とラベリングされた仲間はここから排除されている。精神保健法成立までの、すべての精神障害者をともかく隔離拘禁しようという底流が、より洗練され近代化された流れへと変化している。すなわち徹底して隔離拘禁し、特別な施設に監禁すべき「精神障害者」とそうではない「精神障害者」を分断処遇していくという流れだ。仲間の一人でも特別な施設に追放した上での「社会参加」など私たちは拒否する。
 この100年にわたる保安処分思想に基づく政策が根元的に改められない限り、私たちは社会参加・人権回復・ノーマライゼーションなどの言葉を信じ、自分たちの未来を信じることはできない。

(ながのえいこ 全国「精神病」者集団会員)