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PSWの立場から

古屋龍太

 1900年に精神病者監護法が制定されてから100年、1950年に精神衛生法が施行されてから50年を経て、新しい精神保健福祉法が2000年4月から施行された。
 新法は、精神障害者に対する居宅生活支援を初めて打ち出し、地域における福祉的施策を今後展開させようとしている。一方で、関係者から多くの批判を受けながら、地域で生活する精神障害者を強制的に入院させる移送制度が新設された。これらの評価は今後議論となろうが、わが国の精神障害者施策に新しい枠組みが設定されたことは間違いない。
 現在の法は、すべて1950年の精神衛生法を一部改正する形で肉付けされてきたために、基本的には社会防衛的視点からの強制入院手続き法としての色合いを強く残している。民法が改正され新しく成年後見制度がスタートしながら、いまだに精神障害者については別立ての保護者制度が残り、精神病者監護法以来、家族に加重な負担を強いている。
 それでも今日「病院から地域へ」という流れは確実に進み、多くの医療機関がデイケア等のリハビリテーション機能の拡充に取り組んできているが、その一方で、旧態依然とした長期収容型精神病院が数多く残存しているのも事実である。多くの入院患者が長期入院を強いられ、諸外国に例を見ない精神科病床数が温存されている。精神医療の抜本的改革は手つかずのままであり、診療報酬は低く押さえられ、人員配置も他科に比べて少なくてよいとする精神科特例があるために、相変わらず精神病院は貧しくマンパワーも薄い。
 医療の中身に手をつけずに、なお一部手直し的な法改正を続けるのでは、現在入院している34万人の精神障害者の社会参加には間に合わない。当事者のニーズに即して、時間を凝縮した行政の取り組みが必要であり、そのためにはまず、国がこれまでの精神障害者施策について反省的総括を示し、歴史的転換を宣言する必要があるのだろう。
 新世紀の到来を目前に、地域での在宅支援施策が打ち出され、ようやく他障害に立ち遅れていた精神障害者福祉のシステムが整いつつあることは、積極的に評価したい。今後は、ケアマネジメントの手法を軸とした地域での居宅生活支援がメインに置かれることになってくるのだろうが、そのためには、市町村単位の基盤整備が何よりも必要である。社会復帰施設等の配置や、福祉サービスメニューの整備については地域格差が著しく、「この国に生まれた不幸のほかに、この県に生まれた不幸を重ねる」ところもある。社会資源が無いに等しい状態では、ケアマネジメントも絵に描いた餅になってしまう。
 精神保健福祉士(PSW)は、精神障害者の社会的入院の是正と、社会参加の促進を担う国家資格職種として新設された。精神障害者福祉の中心的担い手として、精神障害者施策がパターナリズムからノーマライゼーションヘ視点を転換し、医療から福社にシフトチェンジする歴史的転換点にあることを、常に意識していたい。

(ふるやりゅうた 国立精神・神経センター武蔵病院、精神保健福祉士)