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フォーラム2000

盲ろう者向け通訳・介助者養成の
現状と課題

矢田礼人

はじめに

 盲ろう者福祉の必要性に対する認知は、徐々に広がっているように思います。読者の方々の中にも、盲ろう者への支援に直接・間接にかかわる方がおられるかもしれません。
 ここ数年の盲ろう者福祉における潮流は、「通訳・介助者」の養成と派遣に関する制度の整備、という一点に集約できます。国レベル、あるいは地域レベルにおいて、盲ろう者福祉の第一歩として「通訳・介助者」派遣の公的制度化へ向けての活動が着実に進んでいます。独自で重篤なニーズを抱えながら、これまでほとんどなされなかった盲ろう者へのサポートが各地で動き出したことは、微力ながら盲ろう者福祉にかかわる者として大変うれしく思います。
 本稿では、盲ろう者向け通訳・介助者の養成に焦点を当てつつ、その問題点や将来像について述べたいと思います。

盲ろう者とそのニーズ

 なじみのない方も多いと思われるので、若干説明しましょう。
 盲ろうとは、視覚と聴覚の両方に障害をもつ重複障害です。盲ろうという言葉から「まったく見えずまったく聞こえない」状態を想像しがちですが、実際は、その共通するニーズから、ロービジョンであったり難聴の人も含め「盲ろう者」と称しています。
 視覚と聴覚に障害がある場合、それぞれの単独障害とは異なる独自の困難をもちます。視覚障害における聴覚・音声情報の代替活用、聴覚障害における視覚・文字情報の活用等が難しいため、日常生活に著しい困難が伴います。
 現在、盲ろう者は日本に約2万人いると言われますが、その重篤な障害とサポートシステム不足とが原因で、多くは社会参加できずにいることが推測されています。

盲ろう者へのサポートと通訳・介助

 盲ろうがもたらす困難は、「コミュニケーションにおける困難」「情報獲得における困難」「移動・歩行における困難」の三つに集約されると言われます。それらを補償する人的サポートの一つが「通訳・介助者」です。
 通訳・介助とは「盲ろう者と外界との間の総合的な仲介を行う行為」です。単に言葉のやりとりの仲立ちと歩行の手引きさえすればよいのでなく、盲ろう者が必要とする情報を必要に応じて伝え、周囲の人に働きかけつつ、盲ろう者が周囲の人と同じ場を共有できるよう努力する役割をもっています。
 良質な通訳・介助者がいつでも必要なときに派遣される、という通訳・介助者派遣制度の確立・拡充は、多くの盲ろう者の夢であり、願いでもあります(ちなみに、通訳・介助者を指す用語としては、「訪問相談員」「通訳ガイドヘルパー」「ガイドコミュニケーター」「通訳・介助員」等、多くの名称が用いられていますが、この稿では、比較的広く定着している「通訳・介助者」という用語を使うことにします)。

通訳・介助者養成の現状

 通訳・介助者は、盲ろう者に関する多くの知識およびコミュニケーションにおける高度な技術を必要とします。この先、制度の整備と呼応して増加していくであろう盲ろう者のニーズに応えるに十分な数の通訳・介助者を確保するためには、通訳・介助者の養成事業は急務であると言えます。
 通訳・介助者の養成は、個人の支援団体における勉強会のような形で始められたのがその端緒のようです。91年に社会福祉法人全国盲ろう者協会が設立すると、東京近郊在住者を対象とした全国初の「通訳者養成講習会」が始められました(95年から対象は全国)。
 さらに、97年からは、埼玉県所沢市の国立身体障害者リハビリテーションセンター主催の「盲ろう者向け通訳・ガイドヘルパー指導者養成研修会」も開催され、通訳・介助者養成の裾野を広げる体制が徐々にでき上がりつつあります。
 一方、各地域での通訳・介助者養成は、東京盲ろう者友の会が96年から始めた講習会が最初のものです。さらに、ここ数年、全国各地の自治体が講習会・講座を相次いでスタートさせています。来年度から開始する予定のものも含めると、全国の10以上の地域で通訳・介助者養成が行われることになります。
 これらの講習会・講座の多くは、主催が都道府県や障害者センター等であっても、各地域の「友の会」が中心となり、テキストの編纂やプログラムの立案・実行を行っています。通訳・介助者は、盲ろう者個人個人によって異なる多様なニーズに応えていく必要があるため、地域に住む盲ろう者の状況について把握し、盲ろう者に対する適切な支援技術・知識をもった団体によって運営されなければなりません。
 通訳・介助者養成の観点からも、すべての都道府県に「友の会」を設立させていくことが重要な鍵になっていると言えます。

通訳・介助者養成における問題点

 このように、ここ数年急速に広がっている通訳・介助者養成ですが、まだ始動して間もないこともあり、いくつかの問題点を抱えています。
 まず、養成をしている側の知識・技術不足です。単に盲ろう者固有のコミュニケーション方法が使えるというだけでは、盲ろう者のニーズを満たす通訳・介助は不可能です。適切な状況説明や、コミュニケーション環境全体を管理するための技術がなければ、盲ろう者の社会参加は不可能です。しかし、そのような知識を伝えるべき指導者が、まだまだ全国に数少ないことが、通訳・介助者養成を難しくしています。
 また、予算や人材不足から、研修会の日程にほとんど余裕がないことも大きな問題であると言えます。どの講習会・講座も、5日間~20日間程度の日数しか確保できず、これでは本当に通訳・介助を行うのに必要な高度な技術とを身につけるにはあまりに少なすぎると言えるでしょう。
 また、盲ろう者の数も他の障害者ほど多くはないため、現場での経験によって学習していく機会が少ないことも、通訳・介助者の質の向上を難しくしています。
 さらに、現時点では、通訳・介助者は全国レベルにおいては公的な職業・支援者としての位置付けがなく、講習終了後も、ボランティアという「善意」によって自主的に通訳・介助者として働いていくしかないのが現状であり、学習の動機付けがなされにくいことも問題のひとつであると言えます。特に、友の会などが通訳・介助者のコーディネートを行っていない地域においては、その問題は顕著であると言えます。

まとめ

 こうした問題を改善していくためには、各地域における講習会企画者間のネットワーク作りがまず急務であると言えます。通訳・介助者に必須の技術を的確に指導するためのカリキュラム研究等も、各地の情報を集積して行っていく必要があるでしょう。
 通訳・介助者は、盲ろう者にとって必要不可欠な人的インフラであり、同時に、盲ろう者福祉の向上のための盲ろう者自身の運動の支援者です。まだ動き始めたばかりの盲ろう者福祉を拡充させるためには、盲ろう者と共に歩むことのできる通訳・介助者を、1人でも多く増やしていくことがまず必要でしょう。
 まだ産声をあげたばかりの通訳・介助者養成が、今後、良質で十分なカリキュラムを提供し、盲ろう者のニーズを満たすことのできる優れた通訳・介助者を次々と輩出していけるよう、努力していきたいと思います。

(やだあやと 東京盲ろう者友の会登録通訳・介助者)