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障害のある子どもたちは、いま vol.22

障害児福祉の課題(2)
障害児支援の国際協力

清水直治

NPO法人日本ポーテージ協会

 日本ポーテージ協会(会長・山口薫)は、「ポーテージ乳幼児教育プログラム」を普及し、発達に遅れや偏りが見られる乳幼児の発達支援や家族支援を行うとともに、早期教育システムの確立と発展に寄与することを目的に、1985年に設立されました。現在では会員数は1300人を超え、全国に30あまりの支部が置かれ、国内での普及活動を行っています。
 これまで任意団体として活動をしてきた日本ポーテージ協会ですが、このたびNPO(特定非営利活動)法人として認証申請を行い、2000年3月に正式に認証され、NPO法人日本ポーテージ協会が誕生しました。
 アメリカ合衆国などでは、市民活動としてすでに不可欠な役割を担っているNPOですが、日本においても次第に重要な機能をもつようになると思われます。利益追求という市場原理によらずに、市民がもてる能力や技術を社会に提供し、自由な社会貢献活動を通して公益の増進をめざすNPOの理念は、21世紀の新たな社会の価値になると考えられます。社会的信用と評判に裏打ちされた社会貢献として、設立の目的を果たしていくことが、NPO法人日本ポーテージ協会に求められていると考えます。
 こうして、このプログラムの指導者を養成するための3泊4日の研修セミナーや1日研修セミナーなどのセミナー活動や、年1回開催する講演会と研究発表会などの研究活動のほかに、さまざまな機会に企画され、国際協力のもとで行われる活動も、事業として、重要な位置を占めています。

発達障害乳幼児の早期療育と家族支援

 発達に遅れや偏りのある乳幼児やその家族に対する早期対応は、アメリカ合衆国でいち早く、1970年代前後から開始され、早期教育プログラムが盛んに開発されるようになりました。
 ウィスコンシン州ポーテージにおいて、1968年の「障害児早期教育援助法」(PL90-538)による助成を受けて、ポーテージ・プロジェクトが1972年に最初に作成した「ポーテージ早期教育ガイド」もその一つです。もともとは、訪問教師が一定期間(原則は1週間)ごとに障害のある子どもがいる家庭を訪問し、その間の指導プログラムを親に渡して、親はそれをもとに家庭で療育を行います(これを、ポーテージモデルと言います)。このように、親によって家庭を中心とする早期指導が繰り返されることや、普通の子どもの平均発達を基準に発達支援を行うという発達的アプローチを採用していることなどが、「ポーテージ早期教育ガイド」の特徴です。
 1976年に改訂された「ポーテージ早期教育ガイド」をもとに、日本の実情に合うように翻案した日本版が「ポーテージ乳幼児教育プログラム」です。562の行動目標(指導課題)が、「乳児期の刺激」「社会性」「言語」「身辺自立」「認知」「運動」の六つの発達領域に、発達水準が0歳から6歳までの発達の系列性・順次性の順に配置されたチェックリストと、すべての行動目標ごとに1枚の指導示唆が書かれたカリキュラムカードが用意されています。
 臨床的な効果に関するこれまでの研究や追跡調査の結果から、このプロジェクトはダウン症をはじめとする発達に障害がある子どもの発達支援や家族支援に有効であるという証拠が、数多く示されています。
 「ポーテージ早期教育ガイド」は、現在では30数か国語に翻案され、世界90か国近くで使用されています(総称してポーテージプログラムと呼びます)。

アジアの発展途上国における
CBRとしてのポーテージ指導の普及

 日本ポーテージ協会では、国際支援活動として、1989年から1994年までに、アジア4か国6地域で、ポーテージプログラム・ワークショップを開催し、アジアへのポーテージプログラムの普及を行ってきました。さらに、1996年度と1997年度には三菱財団から研究助成を得て、CBR(Community Based Rehabilitation)におけるポーテージプログラムの試用に関する研究を、アジア5か国5地域[ダッカ(バングラデシュ)、ダバオ(フィリピン)、大連(中国)、台北(台湾)、カラチ(パキスタン)]において実施しました。
 CBR活動としてのポーテージ指導には、次のような利点があります。
1.ポーテージプログラムの構成や指導手続きは構造化されているが、同時に柔軟に変更して適用できる。
2.家庭や地域社会を基盤とするプログラムであり、日常生活への般化や維持が容易である。
3.文化背景や言語体系に合わせて翻案でき、あまり経費をかけずに適用ができる。
4.障害がある子どもやその環境に対して、連続して全体的にかかわれる。
5.家族の障害や発達支援の枠組みを与える。
6.就学前の教育から小学校就学への橋渡しが円滑にできる。
 その結果、全地域でポーテージプログラムの適用可能性が示唆され、アジアにおける発展途上国のCBR活動のなかで、親による家庭での指導を中心とするポーテージモデルは、早期対応の形態として高く肯定的に評価されました。しかしながら、円滑なCBR活動を運営するためには、1.活動資金の確保、2.組織づくりと整備、3.親の参加とプログラムの適切化、などの重要な課題があることが指摘されています。

国際ポーテージ協会と国際ポーテージ会議

 国際ポーテージ協会(会長デイビッド・シェアラー)は1988年に組織され、それ以前の英国での大会を第1回として、以後、隔年ごとに国際ポーテージ会議を開催し、世界各国のポーテージプログラムに関連する研究報告や情報交換を行っています。
 日本においては、これまで第2回大会を1988年に東京で、第7回大会を1998年に広島で開催してきましたが、ことに第7回大会では「いっしょに育てよう:地域に根ざしたポーテージ」の大会主題のもとで、アジア各国各地域のCBRとして、ポーテージプログラムの活用に対する支援を発展させる必要があることが確認されました。
 また、隔年に開催されるアジア精神遅滞会議のプレカンファレンス・ワークショップやポストプレカンファレンス・ワークショップとしても、パキスタン、バングラデシュ、ネパールなどで、ポーテージプログラム・ワークショップを開催してきました。
 どの会場においても、真剣なまなざしと熱心な意見交換が見られ、文化や言語、社会状況を異にしながらも、障害のある子どもをもつ親や支援しようとする人々の思いは、通底することを強く感じています。

早期対応の今後

 早期からの療育的対応の効果は今では自明のこととされ、今日ではさらに、1人ひとりの障害がある子どもやその家族のニーズに、いかに的確に応えられるかが大きな課題となってきました。その文化や社会あるいは家族の障害観や価値を踏まえた、個別の早期対応計画が希求されます。
 ポーテージプログラムがCBR活動で適切に活用されるには、また
1.家族全員に焦点が当てられ、家族全員のニーズが考慮されているか、
2.療育活動に親が参加し、日常生活に統合されているか、
3.医療・教育・福祉の他の地域サービスと連携しているか、
などが重要な要件となるでしょう。

(しみずなおじ NPO法人日本ポーテージ協会研究担当理事、東京学芸大学教授)