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ほんの森

長田浩著
『少子高齢化時代の医療と福祉
-医療・福祉の経済社会学入門-』

〈評者〉二木立

 21世紀の超高齢社会を支える医療・福祉はどうあるべきか? この難問に答えるためには、医療・福祉のあるべき理念を強調するだけでは不十分であり、それらの社会科学的(経済学的・社会学的)分析も求められる。本書は、それに挑戦した野心作である。
 序章によると、著者の本職は「経済理論家」だそうだが、知的障害者の作業所設立等の障害者福祉実践にも長年携わってこられた「行動の人」でもある。そのため、本書全体を「憲法25条の精神の実現という観点」が貫いており、最近声高に叫ばれている「医療・福祉分野への市場原理導入論に対抗しつつ、それらを公共サービスとしていかに充実していくべきか」が、包括的に検討されている。ただし、分析の主たる対象は「高齢化」にあり、「少子化」についてはほとんど論じられていない。
 長い序章の後の本文は、次の3章から構成される。第1章経済社会のしくみと医療・福祉、第2章医療・福祉の仕事と経営問題、第3章高齢社会における保健・医療・福祉。最後に「補論」少子高齢化時代に挑む制度改革の構想が付けられている。
 第1章は、経済学および医療・福祉経済学入門と言える。前半では、まず日本の経済社会(市場経済)の原理を説明し、次に現在生じている「市場原理と生活原理のせめぎあい」に触れ、医療・福祉・教育などは市場原理にはなじまないと強調している。後半で、経済学の目でみた医療・福祉の特徴を簡単に説明している。
 第2章の前半では、医療・福祉サービスを含む対人サービスの特徴を、物の生産の労働過程と比較しながら、多面的に考察している。ここでは類書と異なり、「医療サービスにおける参画/信頼の意義」「福祉サービスにおけるラポールの意義」を強調している。後半では、医療・福祉を「制度資本」「社会的共通資本」と位置付ける立場から、医療・福祉の供給体制等を論じている。
 第3章は、わが国の医療・福祉が「危機」にあるという視点から、最近の医療・福祉改革を批判的に検討し、保健・医療・福祉の総合化の方向を展望している。
 意外なことに、本書では、著者が長年実践してこられた障害者福祉の経済学的分析は行われていない。しかし、障害者福祉をより広い視野から、しかも原点に立ち返って考えたいと願っている方は、本書から多くのヒントを発見することができるだろう。

(にきりゅう 日本福祉大学教授)