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変革をめざして旅に出よう!

戸谷知恵子

 6月に東京で1000以上の客室を持つホテルがオープンした。交通の便も眺望もよいうえ、レストランも多く、明るいイメージの客室もすてきというので期待して出かけた。ところが、いわゆるハンディキャップ対応の客室は1ルームと聞き驚いた。
 聞くと「特に障害者の方から要望はありませんでした。オーナーサイドとしてはもう少し多くてもよいかとも考えたのですが、設計サイドが特殊な客室を作るのはどうも…と言うのと、他のチェーンホテルも障害者の方のご利用が少ないので、結局は1部屋ということになりました」とのこと。
 残念な話である。
 〈特に障害者の方から要望はありませんでした〉と言うのも、どの程度の人に計画段階で何を聞いたのかと首を傾げたくなるし、〈他のチェーンホテルで利用が少ない〉と言うのも、どのレベルでの受け入れ状況に対してを言うのかはなはだ不明である。
 救いは〈オーナーサイドでは複数の対応客室を〉と考えたことだろうか。
 しかしそれも〈設計サイドから特殊な客室は〉と拒まれて0.1%以下になったとなると言葉を失うしかない…が、角度を変えて考えると現実的な学習材料ではある。

 障害をもった人の旅の1項目のバリアは、「思い立ったが吉日」…という気軽さで出かけられないところだと思う。
 移動~宿泊~トイレ~休憩~食事と、あらゆるシーンにおける情報がある程度そろわないと出かけられないのが、身体にハンディをもつ場合のハンディたるところだろう。
 実際、あらゆるシーンにおいて情報が少なく、団体旅行にせよ個人旅行にせよ、こちらの状態を説明しながら何度も確認をとった経験をもつ人も多いと思う。
 障害をもつ人の受け入れが遅々として進まず情報も少ないのはなぜなのか、ここを考えるべきではないだろうか。
 旅先で利用しにくいホテルや旅館でイヤな思いをしたり困ったことに遭遇しても『もうここに来ないんだから仕方ないか』とその場限りと諦めて黙って帰ってはいないだろうか?
 そこで受け入れ側は「文句が出なかったのだから問題なく利用できたのだろう」と都合よく解釈するわけである。
 たとえば私は1人で行動することが多いが、問い合わせの際「車いすでも利用できるドア幅」「手摺りは設置されているか」の2点は必ず尋ねることにしている。
 すると、9割近くは「特にドア幅が広いとか手摺りなどを付けているということはございませんが、以前にも何回も車いすの方のご利用はございましたので全く問題ないと存じます」とおっしゃる。しかし実際には1人で利用できるような状況はほぼあり得ない。
 「これでは利用は無理ですね」と言うと「お客様の車いすが特別大きいのでは?」などと言われるが、ちなみに私の車いす幅は53センチメートル。通常のものよりかなりタイトである。
 要するに、受け入れ側も決して悪気があってのことではないが、以前利用した人が「問題あり」あるいは「利用しづらい」と言わなかったことで、すなわち「利用しやすい」と誤った学習をしてしまうわけである。
 加えて言えば「あまりご利用がないので」と言うところに対しては「あまりに整っていないから利用できないのだ」とはっきり問題点を指摘しない限り、料金に見合った受け入れができているという勘違いは改まるまい。
 そこで、さまざまなシーンでそれぞれの工夫をしながら旅行する皆様に、楽しい旅の思い出づくりに付け加えてもう1つ、あなたの後に続く利用者のために、施設や接遇の<不足>に対して、はっきりと「ここをこうして」と伝えるチャレンジを提案させていただきたい。
 「よかった、楽しかった」という感想とともに「もう1つ、ここがこうだったら自力で利用できた」とか「こういった配慮があれば楽だからまた来られる」と正確に情報を伝え、今後の受け入れを変えていきたいという話である。

 楽しみたいから旅に出る。出るための数え切れないバリアも何のその、旅への期待に支えられてバリアを越えて行く。
 まだまだ交通機関や半公共施設の利用環境が整備途上の日本にあっては、バリアを取り除くための個人レベルでの工夫と努力が必要である。
 しかし、小さいことから大きいことまで数え切れないほど存在するバリアを、健康な人に「分かって」と期待だけするのは少々無理というものだろう。
 たしかに福祉のまちづくりや交通バリアフリー法案、ユニバーサルデザインの整備計画が法や条例によって推進されてはいる。しかし大事なのは、何のために整備がなされるのかが社会全体に理解されることである。
 それぞれが楽しい旅を体験しながら、必要な事柄について、はっきりと率直に伝えてこそ、バリアを越えて行く旅が未来への道に繋がる。
 有名な言葉を最後にお伝えしたい。
-変化を待っていてはならない。自ら変革の担い手となれ-

(とたにちえこ 環境プランナー)


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