音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

私にとっての旅行

星加理絵

 3年ほど前、私は10数年ぶりに海外旅行に出かけました。アメリカ・ロサンゼルスのディズニーランドを訪ねる視覚障害者向けのツアーでした。そのころ私は精神的に少し落ち込んでいて、何か自分自身が元気になれるようなことはないかと思っていたところでした。たまたまツアーの広告を見て、問い合わせをし、説明会に出かけて、その勢いで参加することになりました。わが家にはまだ小学生の子どもがいて、1週間近く家をあけるので「よくそんな決心をして行く気になったね」と、あとから友人などに言われましたし、自分でもよく行けたものだと今になって思うのですが、その時には、それほど深い考えはなかったように思います。
 そのツアーは、視覚障害者と晴眼者が半々ぐらいで、視覚障害者はほとんどが私のような単独の参加でした。障害者の旅行というと、必ず自分で付き添いを見つけなければいけないのではと思っていた私は、その参加者の構成に驚きました。晴眼者のほうも、ツアーパートナーと称して、いろいろな方面から集まってきた人たちで、つまり参加者の大多数は初対面ということだったのです。
 ところが、空港で顔を合わせた時から、みんな友達のような感じがしました。それは旅行中もずっと続き、本当に楽しい旅行となりました。私たちはツアーパートナーの方に手引きをしていただくわけですが、それは「お世話をする、してもらう」の関係というより、私にとっては、晴眼者の友達と一緒に旅を楽しんでいる、という感覚を覚えました。
 そういう形で行く旅行の楽しさを知ってしまった私は、その後、同じような形のツアーで、2度ほど四国を訪れました。そして今年の夏は、もう少し少人数の、プライベートツアーのような形で、黒部への旅行を計画しているところです。
 私たち視覚障害者にとっては、一緒に行ってくださる方とともに楽しむことで、旅行の素晴らしさが何倍にもなるのだと思っています。旅先の空気を肌で感じることはできますが、景色や周囲の様子など、説明を受けなければ分からない部分も多くあります。一緒に行ってくださる方の目を通して楽しむわけです。その時私がいちばん大事だと思っていることは、相手の方も楽しいと思っていてくれることだと思います。私たちに説明することに気を使いすぎて、その人自身が疲れてしまったり、旅行を楽しめなくなったりしては困ります。よく、目にしたものは1から10まで説明したほうがいいと思っている人がいるようですが、そんなことはありません。基本的には、その人が説明したいと思うものを説明してくれれば、それでいいのだと思います。お互いが楽しめなければ、つまり参加している人みんなが来てよかったと思えなければ、旅の楽しさは半減してしまいます。
 それから、私たちにとってはやはり、実際に触れたり体験したりして楽しむことも大事です。そのため、視覚障害者向けのツアーには「体験型」「体感型」と名の付いたものが多くあります。私たちが四国を訪れた時、土柱というものを見に行きました。これは川の浸食によってできた地形で、普通は展望台から眺めるだけのようですが、いくら口で説明してもらっても、その形のイメージがわきません。そこで私たちは谷へ下りていって、触ってみることにしました。ツアーパートナーの方などが小川を渡る飛び石まで、必死になって作ってくださり、私たちは土柱の根本まで行って、その大きさを触って実感することができました。
 このように、私たちの旅行には、晴眼者の協力や手助けが欠かせません。私は、今のところツアーに参加することで楽しんでいますが、もし自分でこんな所へ行ってみたいと思った時、ツアーパートナーのような人を見つけるには困難があります。時間的・経済的に余裕がなければ、晴眼者がツアーパートナーになることは難しいでしょう。旅行に行ってみたいと思っている視覚障害者の数に比べたら、その数は圧倒的に少ないのです。私には、うまい解決策はまだ思いあたりませんが、ツアーでも個人でも、行きたいと思った時に、手引きをしてくれる人がいないから行けない、ということが起こらないのが望ましいと思います。そして、もっと気軽に旅ができるようになればと思います。

(ほしかりえ 東京都在住)