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障害の経済学

福祉用具市場の将来予測

京極高宣

はじめに

 すでに、福祉用具の多様な機能とその経済効果については、前回述べました。これが集績し、福祉用具市場(メーカー側では福祉用具産業)となると、二十一世紀にはどのくらいの規模になるのか?これについては、予側は必ずしも容易ではありません。通産省が将来推計をしているので、それを参考に見てみることにしましょう。

1 成長が期待できる産業としての福祉分野

 最近、通産省では「経済構造の変革と創造のためのプログラム」(一九九六年)を発表し、その中で、「成長が期待される産業の将来像」として、医療・福祉分野を例示としてあげ、特に福祉分野については、次のように予想しています。
 「高齢化の進展により要介護者が増加する一方で、少子化が進み介護力が減少していることや、社会参加等の高齢者、障害者の自立に関するニーズが増大していることから、在宅介護サービス業や福祉用具産業、生活空間のバリアフリー化(障壁の除去)関連産業等の成長が期待される。さらに、健康志向も高まってきていることから、健康サービス業、健康機器産業の成長も見込まれる。」 そして、医療福祉分野で二〇一〇年の市場規模を九一兆円程度、雇用規模を四八0万人程度と予測しています。
福祉分野に対する総合的施策パッケージとしては、自己表現、社会参加、自己実現といったQOLに対応すること、介護力不足に対応して要介護者、介護者の置かれたさまざまな環境に適合する介護の支援を行うことが求められているとして、次のものがあげられます。
 1 生産・流通実態の把握、新規参入の促進等のための市場環境整備、2 バリアフリー化を図る生活空間・社会環境整備、3 研究開発等のための技術開発の推進、4 JIS化及び国際標準化などへの対応を図る標準化の推進、5 サービスの提供・開発のための情報化の推進、6 福祉用具の評価、使用ノウハウ、参入アドバイス等を行う人材育成、7 福祉サービスに市場メカニズムを最大限に機能させる観点による規制緩和(なお、この中に現行シルバーマーク制度に関する行政関与の撤廃を平成八年度中に行うことが含まれている)。

2 福祉用具市場の将来予測

 以上、述べた政策的位置付けから、通産省は福祉機器市場の増大見込みに関して、一定の推計をしています。なお、ここでは福祉機器も福祉用具も同じ意味で使用されていますが、概念的には福祉用具のほうが幅広く、機器以外のさまざまな細かな用具を含むものと考えてさしつかえありません。ただ金額的には、福祉機器が圧倒的多数を占めるので、将来予測については、両者はほぼ一致するとみてよいでしょう。
 「福祉用具産業政策の基本的方向」(通産省、平成九年)では、福祉機器市場を次の三つのシナリオに分けて、将来予測を行っているところが特徴です。
 第一のシナリオAは、利用者の年額購入額ベースで推計したもの、第二のシナリオBは、品目別の市場規模増大ベースで推計したもの、第三のシナリオCは、機器の利用が飛躍的に増えるケースで推計したものです。
 私見では、近年の技術進歩や利用者の意識変化を考慮すると、シナリオCが最も現実的であり、それによると、現状の八、○四〇億円(一九九五年度)が、二〇〇五年には六兆一、二〇〇億円となります。それにしても、六兆円産業と言えば、自動車産業(四〇兆円)には及ばぬものの、パチンコ産業(二〇兆円)などにも匹敵する規模となることは明らかで、国民経済に占める割合の大きさに注意を払ってもよい規模ではないかと思います。

図 福祉機器市場の増大見込み

グラフ 福祉機器市場の増大見込み

終わりに

 周知のように、福祉用具または福祉機器の普及は現在、厚生省の施策によれば、補装具または日常生活用具として、障害者や要介護高齢者に対する給付事業として位置付けられています。
平成十五年度から、障害者の福祉機器に関しても、福祉措置制度を廃止して、新たな利用契約制度になれば、福祉機器の需要(ニーズ)は飛躍的に拡大するに違いありません。
 わが国では福祉機器の開発普及に関しては、それが小規模な品種産業に属することから、大企業の参入が困難であることで、中小零細企業に任されているきらいがありますが、今後は、その過渡期性に注目して、大企業も含めて福祉機器産業の全体に対しての奨励策がなされなければならないと思われます。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)