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ハイテクばんざい

電動式人工喉頭(電気喉頭)について

久永進

はじめに

 電気喉頭は、最初アメリカで開発されました。第二次世界大戦の際、頚部貫通銃創のために、余儀なく喉頭摘出手術を受けた戦傷者が続出しました。そこで、これらの声を失ってしまった気の毒な人たちへの対策として研究開発されたのが、この電気喉頭です。
 その後、喉頭ガンが原因で喉頭摘出手術を受ける人が増え、電気喉頭は一般に普及していきました。
電話会社の社会貢献事業として取り上げられ、効率の良いものが研究開発され、低廉な価格で提供されたこともありました。
 現在、アメリカでは食道発声、シャント発声(手術によって気管と食道を連結させる方法)と並び、電気喉頭が二○~二五%の割合で使用されているようです。

電気喉頭を使用する人

 喉頭摘出者は、食道発声の練習を勧められ、取り組んでいますが、むずかしくてなかなか成果が上がらない状況です。練習を重ねれば重ねるほど、カニューレ(気道の確保のため気管孔に挿入する筒)の動揺によって気管孔が刺激されて痛みます。しばしば発声練習を休まなければならないほどです。
特に高齢の人は、練習するとすぐ疲れてしまい、とても発声するまでにはなりません。このような人には電気喉頭をお勧めします。
 電気喉頭は、一週間ぐらいの練習と工夫が必要ですが、何よりも身体が疲れないという長所があります。
 あえて短所をあげるとすれば、音程の高低をつけることがむずかしいので、ロボットのような一本調子の声になりやすいということです。それから故障があることと、失くしたり、忘れたりするということです。

電気喉頭の構造

 外形は円筒形のものが多く、形は懐中電灯に似ています。先端に振動板があります。ブザーのような振動音を出し、これをのど(下咽頭)に直接当て、振動音をロ腔内へ伝える役目を果たします。振動板と反対側の末端を手のひらに載せて握り、振動板をのどに当てます。ちょうど親指の当たるところにON・OFFの電源スイッチがあります。また、音量及び音程の調節ダイヤルがあります。
使用方法 電気喉頭のボタンを押すと、電磁気作用によって、ジージーとブザーのような音が鳴る仕組みになっています。このブザー音を出す振動板をのどの皮膚に密着させ、体壁内へ伝導し、共鳴させて音源とします。これを原音といいます。
音の出ている時に、口の形や舌の動きを正しく「ア、オ、ウ、エ、イ」とすれば、そのまま「ア、オ、ウ、エ、イ」と聞き取ることができます。つまり口を動かす時だけ、親指でボタンを押せば、はっきりした発音が生まれます。
 持ち方は、当てる場所に応じて右側ののどであれば右手、左側ののどであれば左手を使用します。
ボタンの押し方は口を動かす時だけ、軽く押します。あまり強く押し続けると故障の原因になります。
振動板を押し当てるのは、手術を受けた後の、のどの部分です。しかし、いろいろと場所を変えてやってみると、あるところはガーガーといって音を外にはじきます。
 またあるところでは、振動音がジージーと体壁(皮膚)を通して、のどの内部へ染み込んでいく個所があります。この場所は人によって違いますが、一般的に瘢痕化して硬く厚くなっているところよりも比較的軟らかで平らなところ、つまり振動板がうまく密着するところを選んで音を出します。もし密着しなかったり、押し当てる場所が悪いと、バリバリ、ガーガーと雑音ばかりが外に聞こえ、肝心のロから声が出ません。
 それと振動板をペタリとくっつけることに、特に注意をはらってください。電池は普通、音量を大にして一日八時間くらい使用しても、約一週間はもちます。電気喉頭は湿気を嫌いますので、お風呂での使用は避けてください。また、乱暴な取り扱いは禁物です。
 電気喉頭は、円筒形をしていて、先端部分と中央バイブレーター部分、末端の電池部分は、三つの部分ともネジを回してはめ込む構造になっています。ネジを締める時は、三つの部分を同時に握ることはしないで、二つの部分だけに力をかけるように持って締めてください。

入手方法

 現在、構造がほとんど同じ電気喉頭が、日本、アメリカ、ドイツ、イタリアの各国で生産され、日本国内に出回っています。価格は七万円から九万円台です。どの機種でも日常生活用具として、最高限度額七万二千円まで地方自治体の公費負担による給付の対象になっています。
 電気喉頭の国内販売元は、患者団体では社団法人銀鈴会(TEL〇三-三四三六-一八ニ〇・FAX〇三-三四三六-三四九七)が日本製とアメリカ製を財団法人阪喉会(TEL〇六1六六八三-二四八六・FAX〇六-六六八三-六一九四) がドイツ製を取り扱っています。

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最近の開発状況

 日本国内で最も新しい研究開発は、道庁の援助を受けて、北海道大学工学部が行ったもので、一九九六年に完成し、すでに市販されています。
 国外のニュースとしては、韓国の延世大学校がアメリカと共同して、二年前から研究開発中であるとの情報があります。これは、従来のものより極端に小型軽量で、貼り付けて使用するものと、超小型で奥歯に取り付けて使用するものがあると伝えられています。

(ひさながすすむ 社団法人銀鈴会)


【参考文献】高藤次夫著 『人工喉頭と発声法の手引』、銀鍔会、九〇〇円