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ハイテクばんざい!

マジカルトイボックス第9回イベント報告
―障害者のニーズに応えるための基礎技術―

小松敬典

はじめに

 マジカルトイボックスは障害児をもつ親とそのサポーターの集まりです。会の始まりは、8年前に米国から帰国した児童の保護者が、米国では当たり前に提供されていた「障害者が主体的に表現したり遊んだり活動するための機器利用」を在籍していた都立府中養護学校でも行ってほしいという要望でした。
 こうして始まった親子パソコン教室は土曜日の午後に行われて参加者も増えてきたので、4年目には同好会として名称も「楽しむ」イメージを大切にした「マジカルトイボックス」としました。この頃から自分たちの活動で得たものを他の人々とも共有しようという気運が起こりました。学校の文化祭で展示発表を行うようにもなりました。同時に、共有をめざすなら学校の枠を超えた地域で展示・交流の場をつくったらどうかと、毎年イベントを行うようになりました。
 東京が豪雪に見舞われた1月27日、国立オリンピック記念青少年総合センターから眺める代々木公園は、一面の銀世界でした。マジカルトイボックスの第9回イベントは標記のテーマで、1泊2日の日程で行われました。参加者は青森から鹿児島まで全国の養護学校や施設の職員、保護者の方たちでスタッフを含めて約40人でした。

障害者のニーズを知ること

 1日目のセミナーは、中島重則さんのお話でした。中島さんは、他人にあまり話したことがないという、重い障害をもったために幼いうちに亡くなられたお子さんとのかかわりから話し始められました。わずかに残された体の働きを使ってお子さんが意思表示できるように、当時では最新のPワードに工夫を凝らした装置をお子さんのベッドサイドに持っていって試そうとした時のことです。父親の期待に相違してお子さんは喜ばなかったそうです。なぜなら、簡単なコミュニケーションならすでに表情によって可能な状態になっていたからです。装置では面倒な操作を強いられるうえに、うまく表現しにくいという問題もあったのでしょう。だれのための技術なのか、何のための工夫なのか、技術が先回りして障害者のニーズを見失うことがないようにと、あえて失敗例として語ることで、「障害者のニーズ」を知る原点を示していただきました。
 お子さんを見送られた後、中島さんは地域で技術ボランティア仲間とさまざまな工夫・開発をしてきています。特に視力障害の方たちへのサポートが多いそうです。開発の一つとして、最近のインターネット利用の拡大に応じて、インターネットのソフト上で簡単に扱える意思伝達方法が紹介されました。一つのスイッチで音声と画像を選んで扱えるので、参加者からも強い関心がもたれました。

製作講座で「できる」喜び体験

 製作講座はイベントの中でも人気のあるコーナーです。製作技術の習得を目的とする人もいれば、障害児が「楽しく・できる」技術・工夫を交流したい、「できる」喜びを自ら体験してみたい、玩具の簡単な仕組みを理解したい、技術サポートをしてくれる人たちとのネットワークをつくりたい、面白そうな玩具に出会いたい等、参加の動機もさまざまです。
 製作講座では、まずBDアダプター(電池ボックスに絶縁銅板を差し込んで外部スイッチで操作できるようにする装置)を作って、電池で動く猫を歩かせてみました。
 次にACリレーを作りました。これは、AC100V電気を玩具用などの外部スイッチで制御する装置です。ミキサーや扇風機などを思いのままに動かせるのに便利です。最後にボイスメモの改造をしました。外部スイッチをつなげられるように分解してジャックを取り付ける工作です。これが応用できれば、電動玩具の改造はできるのです。いろいろなセリフを録音しては、スイッチで再生して楽しみました。

交流会でアイデアや実践の紹介

 夜は交流会です。夏のイベントは障害児・者が参加してそのまま楽しめるという一般向けの会ですが、冬のイベントは障害児・者をサポートする人たちのための学習・交流会というのが目的です。交流会ではいろいろなアイデアや物、実践が紹介されます。紙面の都合上、詳しく紹介できないのが残念ですが、いくつかの項目だけでも列記しておきます。
・耳にひもスイッチのゴムひもを掛ける。
・バスポンプを使ったジュース注ぎ器。
・ダミービデオカメラとピッチングマシーンを組み合わせた射的コーナー
・風船を使ったソフトなスイッチ
・自動綿菓子製造器
・二つのパソコンを利用したジャンケン
・スイッチで「だるまさんがころんだ」
・ウォーカーにメッセージメイトをつける
・外部スイッチの交換方法について
・電子メールを利用した学年だよりの発行
・パソコンのワンタッチ再起動装置
・PC98→PS2の変換コネクター
・ワンスイッチで操作できるマウス
・パワーポイントを使った簡単なカウントダウンの作り方
・外部スイッチジャックのついた電池式ミシンの紹介
・学校でスイッチトイのコーナーを作った
・電子メールでAAC学習会
・ACリレーとミキサーを組み合わせて紙漉
・パームパソコンで漫画を使ったコミュニケーションツールの開発 等々

遊びとコミュニケーション

 2日目のセミナーは「障害を支援する技術」(Assistive Technology)を主に研究している京都府立南山城養護学校の大森さんでした。ブザーとチャイムを一体にして、二つのスイッチで選択すると「はい」「いいえ」をピンポンとブーという音で表現できる道具のアイデアは、氏が工夫したものです。
 ヒロくんの事例は印象的でした。ヒロ君の機能に配慮して、綱引きでは爆竹を鳴らして開始の合図ができる工夫をして、参加できる役割を与えたのに、結果的には、ヒロ君は「うまくできなくても、みんなの中で綱引きをしたかった」と言ったそうです。「できる」ということは大切だけれども、それよりも「自分で」「選択する」「楽しい」ということがもっと大切ではないかと、またいくつかの事例が紹介されました。
 「道具の工夫に流れると、子どもに合わないというジレンマが起きる」など、中島さんのお話と重なる部分がいくつかあったのが印象的でした。

おわりに

 今年の夏もイベントを予定しています。詳しくは決まり次第、ホームページで紹介していきますので、ご覧のうえご参加ください。
http://member.nifty.ne.jp/kinta/

(こまつひろのり マジカルトイボックス)