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夢のデジタル録音教科書
―みんなで使えてこそ価値がある―

小林好彦

1 はじめに

 「DAISY(デジタル音声情報システム)は優れた録音図書作成システムである。CD1枚に50時間以上の録音ができ、開きたいページをキー操作一つで開くことができたり、必要なところにしおりをつけてその個所を簡単に開くことも可能である」これが初めて聞いたDAISYについての紹介でした。「これなら理療教育課程の録音教科書を1枚に収めたうえに検索性の優れた夢のような音声教科書が作れるかもしれない」と漠然と考えたことがありました。少し時間がかかりましたが、ようやくこの夢の教科書が現実のものになりつつあります。
 この教科書は利用したい人みんなが使えてこそ価値があります。また視覚障害者もその製作に参加することができてこそ、より使いやすいものが生まれてくると思います。
 ここでは、国立塩原視力障害センターにおける「みんなでデジタル録音教科書を使うための取り組み」や視覚障害者である私が、DAISY録音図書を作成した経験などについて紹介したいと思います。

2 これが夢のデジタル録音教科書

 それではまずデジタル録音教科書第1号を紹介しましょう。これは、解剖学、生理学、東洋医学概論、経穴概論の4冊を収めたマルチタイトルCDです。録音時間は解剖学14時間52分、生理学18時間13分、東洋医学概論11時間54分、経穴概論15時間19分、合計60時間18分になります。点字なら約30冊、90分のカセットテープなら約40巻が1枚のCDに収まるのは魅力的です。
 実際にこのデジタル録音教科書を使って、解剖学の教科書で「頭蓋の骨」について書いてあるページを開くタスクをモデルにして手順を紹介しましょう。CD再生機はプレクストークを用いることにします。まず解剖学の教科書を選択し、「目次」に移動し、「第2章 骨格系」の「2.人体各部の骨格」の中から頭蓋が「35ページ」にあることを調べます。次に数字キーで「35」を入力し、「ページ」キーを押せば35ページが開き、読み上げが始まります。CDをセットした状態から始めて、1分以内で「35ページ」の読み上げを開始することができます。
 また、生理学の教科書を読んでいて、知識を確認するために解剖学の教科書に移動して、再び生理学の教科書に戻るような使い方をしても、はじめに読んでいた生理学の教科書の部分はプレクストーク(CD再生機)が覚えていてくれるので、解剖学の教科書へ移動する前に読んでいた続きを読むことができます。

3 視覚障害者にも作れます

 視覚障害者もマイスタジオ(音声ガイドあり)を用いて、DAISYフォーマットのデジタル録音CDを作ることができます。「マイスタジオ(音声ガイドあり)」はDAISY2.0規格に沿った録音図書を作成する録音編集装置で、本体、CD-R(CD-RW)ドライブとコントローラーによって構成されています。従来のカセットデッキの要領で、音声ガイドを聞きながら手軽に録音図書の作成を行うことができるようにデザインされています。このシステムではページをつけることはできませんが、配布用の録音教材の作成などには十分です。また、講演や式典の録音には、テープ裏返しの心配も要らないので大変便利です。

4 使える人づくりは二段階

 国立塩原視力障害センターでは、デジタル録音教科書を使える人の養成は二段階で行っています。まず、指導できる職員を養成し、次にチームで入所者の指導にあたります。今年度の入所者は全員一緒のチームインストラクションでスタートします。
 入門コースの内容は、CDのケースの開け方から始め、能動的読書の仕方に至ります。物語や小説の読み方と教科書のように、能動的に検索を行う読み方とは異なりますので、CDの階層デザインと検索性の違いについても理解してもらうことが必要です。

5 おわりに

 デジタル録音教科書は、国立塩原視力障害センター入所者に使っていただくところまできました。夢に近づいたと思います。しかしながら、録音されているデータはカセットテープ時代の遺産です。あまり良い音とはいえません。
 現在、いくつかの視覚障害者情報提供施設で、MOレコーダーによるデジタル録音で作成したDAISY録音図書の貸し出しを始めていますが、ヒスノイズのない、まさにデジタルの音です。夢のデジタル録音教科書にほしいのはこの音です。誤りのない朗読をデジタル録音し、検索しやすい図書設計をしたデータをできる限り圧縮して、できる限り多くの情報を一枚のCDにする。これこそが夢のデジタル録音教科書の姿です。
 技術は完成しています。この夢のデジタル録音教科書実現の日がくるように祈りつつ筆を置きたいと思います。

(こばやしよしひこ 国立塩原視力障害センター)