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IT革命と精神障害者
―インターネットを使った社会参加―

はじめに

 私たちの生活はインターネットの進歩で、どんどん変わってきています。障害のある人たちの中にはインターネットを生活の中にうまく利用している人もいますし、人間関係でトラブルを起こしてしまう人もいます。今回は、精神障害者ピアサポートセンター「こらーる・たいとう」の利用者の宇田川健さん、二宮英輔さん、小川哲也さん(仮名)に、実際にどういう使い方をしているのか、そして社会参加への手段として、どのように考えておられるのかをうかがいました。

二宮さん―人を介して必要な情報だけを得る

 二宮さんは、自宅に電話もないし、携帯電話もPHSも持っていません。パソコンができる友達に公衆電話から電話をしてインターネットの情報を得ています。主に引きこもりの人たちの例会情報を聞いて、会に参加して直接情報を得ます。今参加している会は、オフ会がメインでないところが気に入っているそうです。
 インターネットは、情報の取捨選択が面倒なので、人をフィルターにしてほしい情報だけ聞いています。精神障害の人のホームページはたくさんありますが、うつのホームページを見ると引きずられ、気持ちも暗くなるので、自分は見ないようにしています。

宇田川さん―インターネットを使いこなす

 インターネットを使いこなしている宇田川さんは5年くらい前から、ホームページを作っています。最近では、こらーるや他の障害者団体のホームページを作ったりしています。インターネットは、本やコンサートのチケットを取るときに使います。ほしい情報がすぐ入るし、結果もすぐわかるので、便利だと言います。
 最近ひとり暮らしをはじめてから、1か月の電話代が高くならないように注意しています。ふだんは友達とのメールのチェックくらいで、仕事を休むときにもメールを使います。宇田川さんは、パソコンで仕事をみつけました。朝が一番具合の悪いときが多く、そんな時は職場に電話するのが気が重いので、メールは精神的に楽です。「確認しました」という返事が来るので、理解のある職場です。

小川さん―チャットでトラブル発生

 小川さんは、2年前に使い始めました。きっかけは、精神障害のいろんな情報がほしかったからです。チャットにも参加するようになりましたが、当時は、病症も重かったので、いろんなところにいってはトラブルを起こしてしまいました。今振り返ってみると原因を作った自分も悪いが、相手の問題に巻き込まれてしまったと思っています。
 以前チャットのやり取りを見ていた人から、小川さんが書いた言葉を怖く感じたと言われたことがあります。小川さんの場合、文字だけの情報では納得いかないこともあるので、チャットの仲間と会うのはいいと思っています。当時は「話したい」「寂しさから逃げたい」「会いたい」からという理由でしたが、今は、ただ寂しさを紛らわすために会うのはしたくないと話しています。今は、チャットに参加しても深入りせずに、その場の雰囲気を楽しむほうに重きを置いて、仲のいい友達という感じに努めています。時間も1時間以上は使わないようにしています。

使ってみた感想―インターネットの流れは止められない

 宇田川さんは、「インターネットはただの道具でしかない。コンピュータの画面の裏側に人がいることをわかって対応することが必要だと思う」といいます。メールで伝えられる情報はとても少ないと思っているので、大切なことやきちんと伝えたいことはメールでは送らないようにしています。
 二宮さんは、インターネットに将来性を感じています。いやな話も聞くけど、失敗しながら自分の意志でやり取りする感覚をトレーニングする場所だと思うので、パソコンを取り上げると永久にトレーニングする機会がなくなってしまうと話しています。
 また、二宮さんは、インターネットを使って精神障害だけでなく、ハンセン病や在日朝鮮の方など社会で生きづらい思いをしている人たちが集まったロックコンサートのイベントに参加しました。単に情報交換だけにとどまらない動きもインターネットならではのことですし、パソコンはあくまでも道具ですが、その先をきちんと活用した人のそばにいるととてもいい思いをさせてもらっていると話してくれました。

社会参加をすすめるための要望

 二宮さんは、「チャットでトラブルなどがたくさん起きるけれど、周りの人がそれを心配してブレーキばかりかけようとする。引きずりこまれたりするのを心配するけれど、それは失敗できるチャンスでもあるので、利用方法を考えればいい」と話しています。たとえば、昨年末の医療法改正のときに精神科特例の改正も含まれていました。そのときにみんながメーリングリストなどの機能を知っていたら全国に情報を送って、みんなで国会に集まることができたのにと残念がっています。
 宇田川さんは、今後は当事者団体にコンピュータを配布して、みんなに使い方を教えてほしい。会報やホームページをつくれば、どんどん安くいろんなことができると期待しています。
 小川さんは、情報は求めるだけでなく、自らも情報を発信することもたいせつと言っています。

さいごに

 インターネットでいろいろな情報が手に入るようになりました。一方でその情報に振り回されてしまい、トラブルが発生することもあるようです。今回お話をうかがった人たちは、その点については注意してかかわっているようです。
 パソコンは精神障害のある人たちの社会参加や交流活動への一つの方法として大いに期待がもてます。失敗しながらコミュニケーションのしかたを学べる場所でもあります。そのためには、実際に使える環境の整備が必要ではないでしょうか。

(編集部)