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IT施策と障害者

薗部英夫

IT国会(第150国会)での意見陳述

 昨年11月7日。私は、衆議院内閣委員会の要請でIT基本法について参考人意見陳述をしました。参考人は5人。IT戦略会議議長の出井伸之ソニー会長、“ミスターインターネット”と言われる慶応義塾大学の村井純教授、同じく経営管理研究科の国領二郎教授、横浜美術短期大学の福富忠和講師、それに私です。1人15分と決められた時間で、私にできることを考えました。そして、この10年間のパソコン通信やインターネット、パソコンボランティアの活動を通して出会ったさまざまな障害者のITに対する希望や不安の声をダイレクトに伝えることにしたのです。
 ITは障害者には無が有になる希望の道具です。しかし、それを使いこなすためには、さまざまなバリアーが山積しています。情報バリアフリーのためには、1.情報・コミュニケーションを人権として保障する、2.緊急改善課題(日常生活用具にパソコン、公的機関の通信環境整備、人的サポート体制)、3.国の責任、4.調査・研究・開発・決定への当事者参加を強調し、「ITはすばらしい可能性を持っています。それゆえに、どのような重い障害があっても人生は自由ですばらしいと実感できるように、もっと本格的な、すべての人のためのIT基本法を希望します」と述べました。
 参議院では同月21日に、東京工科大学の清原慶子教授が、日本電気社長や岐阜県知事など4人の参考人の1人として、高齢者・障害者の取り組みの事例をもとに「情報保障はIT時代の基本的な人権として共通認識を持つべき」と意見を述べました。
 IT基本法の制定をめぐって、9人の参考人中2人が障害者の問題から意見を述べたことは、すべての人のためのIT社会実現のためには、障害者を含めた情報格差是正の問題が大きなテーマとなっていることを象徴したようです。閣僚や省庁の発言を含め、詳しくは次のホームページをご覧ください(http://www.nginet.or.jp/box/it/)。

情報アクセス権は基本的人権

 「同年齢の市民と同じ人権を保障する」とした「障害者の権利宣言」は、1975年に国連で採択されました。1993年には、「どのような障害の種別をもつ人に対しても、政府は、情報とコミュニケーションを提供するための方策を開始すべきである」と「障害者の機会均等に関する基準規則」で明確にしました。以後「情報アクセス」の保障は、世界的に確認されている理念です。わが国では「情報アクセス、情報発信は新たな基本的人権」と郵政省電気通信審議会が1995年に指摘しました。
 制定されたIT基本法は、第3条で「すべての国民が情報通信技術の恵沢を享受できる社会の実現」を述べ、第8条で「利用の機会等の格差の是正」を強調しています。今年3月にIT戦略本部で議論された「e-japan重点計画」でも、「横断的な課題」として情報格差を位置付けています。
 この間の政府の動きを見ると、情報通信にかかわるものについては総務省(旧郵政省)が、情報機器の使い勝手については経済産業省(旧通産省)がそれぞれ研究してきました。
 1995年には郵政省通信政策局内に「高齢者・身体障害者の社会参加支援のための情報通信のあり方に関する調査研究会」が設置され(報告書は郵政省通信政策局企画課監修『共生型情報社会の構築』NTT出版、1996年)、以降旧厚生省との合同研究会として「高齢者・障害者の情報通信の利活用の促進に関する調査研究会」(1996年度)、「ライフサポート(生活支援)情報通信システム推進研究会」(1997年度)、「情報バリアフリー環境の整備の在り方に関する研究会」(1998年度)、「高齢者・障害者の情報通信利用に対する支援の在り方に関する研究会」(1999年度)、そして現在「高齢者・障害者の情報通信利用を促進する非営利活動の支援等に関する研究会」(2000年度)が、内閣府や経済産業省のオブザーバー参加も受けて、情報バリアフリーに向けて研究を重ねています。
 また、1999年には郵政大臣の私的諮問機関として「情報バリアフリー懇談会」が、今年1月には総務省に「IT推進有識者会議」が設置されて、二つのワーキンググループの一つを障害者などの情報格差是正をテーマに行動計画への提言を検討しています。「使いやすいIT機器・サービスの普及」「使いやすいホームページや放送の普及」「人的サポートのための非営利活動の支援」「人材育成の強化」などが検討の柱とされています。
 90年代を通じて検討されてきた旧通産省の「障害者・高齢者等情報処理機器アクセシビリティ指針」とともに、前記のような動きは、ITをめぐる全体的な政策動向にも反映しているでしょう。ただ、「連邦政府が購入、用いる機器は、障害者でも使えるものでなければならない」とするアメリカと比べると、強制力がありません。

どうするIT講習体制、「愛と手(アイティ)推進」を

 「IT普及国民運動」として、550万人を対象としたIT講習会が全国の自治体で取り組まれようとしています。
 しかし、ほとんどの障害者は講習会への参加は難しいのです。たとえば、個々の身体や障害の状態にフィットした機器の整備、障害に知識と理解のある講師と講義内容、会場のバリアフリー(段差や受講する机やいす)や交通アクセス。また、視覚障害者には、音声合成装置や点字ディスプレー、聴覚障害者には手話通訳や要約筆記などコミュニケーション手段の違いの考慮。自宅に戻ってからの使用環境設定、二次障害の予防等々総合的かつ継続的な講習体制が必要です。
 日本障害者協議会は、障害者が参加できるIT講習の実現のために、また単年度限りでなく中期的な見通しに立って「もの」だけでなく「ひと」(=専門的力量ある)の育成、さらに省庁の枠を超えた当事者参加による総合的な検討体制づくりを大きな柱とする、「緊急提言-すべての人のための『愛と手』推進のために-」を「IT講習会モデルケース」の提案とともに3月末、IT戦略本部や関係省庁、各政党、マスコミなどに提出しました(4月9日福祉新聞参照)(http://www.jdnet.gr.jp/JDWebLetter/20010328.htm)。

 きめ細かい配慮や、人的体制の確保は、単に障害のある人たちのIT普及にとどまらず、高齢者をはじめ、まさに「すべての人のための」IT推進に向けて、さまざまな有益な視点やノウハウを提供してくれるでしょう。ともすればITの「技術面」がイメージされて、「こころ」や「ひと」が疎遠に感じられがちですが、障害のある人たちのIT活用の取り組みの現場からは、「生きててよかった」と感じられる社会実現のための手段としてのITの本質が見えてくるように思われます。

(そのべひでお 日本障害者協議会情報通信ネットワークプロジェクトプロデューサー・全国障害者問題研究会事務局長)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2001年5月号(第21巻 通巻238号)