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ほんの森

障害者とともに生きる
シリーズ

評者 坂部明浩

 このシリーズでは、「ありのままに生きる姿が胸を打つ!」とのPR通り、障害者自身の生の声が、自伝を中心に収録された内容を通じてストレートに伝わってくる。
 第1期の10巻は、「光は闇より」(岩橋武夫)、「この命ある限り」(玉木愛子)、「それでもぼくは走る」(永井恒)、「妻吉自叙伝 堀江物語」(大石順教)、「足のない旅」(香川紘子)、「我が人生『日本点字図書館』」(本間一夫)、「人間の詩」(夏目文夫)、「春は残酷である」(星三枝子)、「雨の念仏」(宮城道雄)、「負けてたまるか車椅子」(八代英太)といった充実ぶりである。
 明治末期より活躍された先人たちから、現在大いに活躍中の方たちまで、十人十色。その一方で、編者の花田春兆氏、谷合侑氏の言われるように、障害の種類、程度、選んだ生き方もそれぞれに異なりながらも、積極的な生き方を貫いているという点に共通するものを見いだせると言えよう。まさに「いのち」の軌跡が記されているわけである。
 たとえば、夏目文夫氏の軌跡。生後2か月、小児マヒにより歩行能力を失う。幼少時の家族からの疎外。松葉杖で初めて立ち上がった日。苦学と牧師の日々。さらに塾経営を経て、念願の弁護士人生に。そこにさらに背景としての戦争や、戦後の憲法下における期待(と不安)が絡む。氏も当時を生きた一人として、その歴史に流されたことを隠さずに素直に語っている。軍国少年であった、と。しかし、氏のすごいところは、流されつつ、その場その場で誓いを立てることである。もちろん、その意味は本人にも分からない。でも、分からないということを「分かって」しまわずに、未来の自分に賭ける人なのだ。
 たとえば、氏の退学届けを前にして先生が「落ちつけば、将来必ず、早まったと思う日がくる。高等科卒業の免状をほしくなる日がくる」と説得する。それに対して「高等科の免状が何ですか。ぼくは自分で学んで、それ以上の資格をとってみせます」と。あるいは、敗戦直後、家主が理不尽に立ち退きを迫る。退去の日、「決着は10年先に、必ずつける」と家主に言い残す。それらを後の人生で、単なる怨恨を越えて広い視野から見事に成しえているのだ。これこそ、人生とは自分への真摯な応答、他者への気づかいであることを教えてくれる貴重な一冊だ。私は泣けた。生きる知恵と宿題を授かったがゆえに、である。

(さかべあきひろ ライター)