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北米における権利擁護とサービスの質に関するシステム 連載23

2003年度の利用契約方式における支援費支給制度の問題点と北米等における支援費支給の動向について
その4

北野誠一

1 スウェーデンにおける支援費支給の動向

 今年8月にスウェーデン・デンマークに12年ぶりで訪れる機会を得た。イエテボリ市では、調査研究中の河東田博さんに、スウェーデンで最も進んでいると思われる知的障害者本人が企画運営するシステム等を案内していただいた。またストックホルムでは、大熊由紀子さんの紹介で彼女とともに、元厚生大臣(現国連特別調査官)のベンクト・リンクビスト氏に、2日間にわたってインタビューする機会を得た。
 ベンクト氏に対するインタビューは多岐にわたるものであったが、ここでは支援費との関係で「一定の機能的な障害のある人々に対する援助とサービスに関する法律」(LSS法1993年)に関する部分について見ておきたいと思う(注1)。
 LSS法は知的障害者を中心として、日常生活に多大な困難を有する身体障害者および精神障害者等が、基本的に無料で、以下の10のサービスを受ける権利を有し、かつ自治体がそれを提供する責務を負うことを定めた法律である。

1.特別な知識を必要とするアドバイス
2.パーソナルアシスタント(介助)手当法(1993年)による給付が行われない部分への給付
3.ガイドヘルプサービス
4.コンタクトパーソンによる援助
5.レスパイトサービス
6.ショートステイ
7.学童保育
8.養育里親等
9.サービス(ケア付)住宅
10.就労可能な年齢で、職業にも学業にも就いていない人々のための日中活動プログラム

 さらに、これらのサービスが本人との協議のうえで作成された個人計画に基づくものとしている。つまり、スウェーデンにおいては、ノーマライゼーションの理念に基づいて、重度の障害者が地域であたりまえに暮らすために必要な諸サービスが、貧富にかかわらず保障されている。
 問題はLSS法第2条の自治体によるサービス提供の責務と第7条のサービスを受ける権利(サービス受給権)との関係である。
 たとえば、これまで私たちが検討してきたカリフォルニア州においては、1985年のカリフォルニア州知的障害者連合(ARC─CAL)と州発達障害局(DSS)の裁判の州最高裁判決において、本人自立生活支援計画(IPP)で規定された福祉サービスは、エンタイトルメント(サービス受給権)を有するとされている。これは他の州では見られないことであり、カリフォルニア州において知的障害者関連予算のみが着実に増え続けている理由のひとつはここにある。
 ところが実際に、カリフォルニア州のグループホーム等のサービスの実態は、スウェーデンと比較すれば問題なしとは言えない。親等の親族と同居する成人の知的障害者が、スウェーデンでは1970年代から90年代にかけて3割から2割に減ってきているのに対して、カリフォルニア州では4割台で、しかも年々わずかではあるが増えてきている。私見では、入所施設の減少や解体と地域のニーズに、グループホーム等のサービス提供が追いついていないことがその原因であると思われる。
 つまりはサービス受給権があっても、サービス実施側の州や自治体には予算上の制約による免責が存在する。アメリカではそのために何度も裁判が起こり、この連載の第6回で見たコッフェルト訴訟のように、原告が勝訴すれば個別的に予算が積み上げられていくことになる。
 この件について、スウェーデンではどうなっているのかについて、ベンクト氏の発言を要約すれば以下の通りである。
1.社会サービス法における普遍的なサービスの中で、知的障害者や精神障害者等の支援サービスが十分明確で強力に実行されていれば、それでよかったのだが、完全ではなかった。
2.さらにいえば、強い地方分権システムを持つスウェーデンにおいては、障害者支援に対して積極的ではない自治体に対しても、LSS法のような、国のレベルでの法的な規制が必要となった。
3.ところが、LSS法は特定の重度障害者に対して、かなり大きな支出を必要とするために、それを拒む自治体も出てくる。
4.そのためにLSS法の第9条の2にもあるように、特別に支出の大きい65歳未満で週20時間以上パーソナルアシスタント(介助者)を必要とする重度の障害者の場合は、この法律とは別のパーソナルアシスタント(介助)手当法に基づいて、自治体ではなく国の社会保険局が直接に実施の責任機関となったわけである。
5.LSS法の他のサービスの実施主体は自治体があるが、必要なサービスを受給できなかった障害者が行政裁判所に起こす不服申し立てに対して、行政裁判所の勧告を無視する自治体も存在する。
6.国はLSS法の施行規則を有しているが、それを自治体に対して強制できないだけでなく、行政裁判所もまた強制的な執行権を持たない。
7.そのこともあり、ベンクト氏の報告書に基づいて、国は行政裁判所の判決に従わない自治体に対しては罰金を科すという決定を行い、最近ある自治体に30万クローナの罰金を科した。
 このベンクト氏の発言からも、地方分権化におけるサービス受給権とサービス実施側の責務との関係は、それ程簡単ではないことが理解できたと思う。
 それでもスウェーデンのLSS法におけるサービス受給権と、それがまさに障害者本人の希望とニーズに基づく、本人に対する支援費であることの意味は大きい。イエテボリ市にあるワーカーズコレクティブ方式の犬の保育園(共働き夫婦等が世話できない間、その飼い犬を預かる仕事)での、障害をもたない職員の発言は見事であった。
 「ここで働く障害当事者の支援費はLSS法の9条の10の日中活動プログラムとして保障されている。つまりここで働く障害当事者が、ここで共に働きたいという限り、ここは存在する。しかし、そうでなくなれば、二人の障害をもたない職員の給料は出せなくなり、ここはつぶれる。障害当事者の義務は辞める3か月前にそれを告げることだけ。それでも福祉工場は大変だが、公営の日中プログラムはつまらないという人たちの選択肢として、ここは需要がある。現在、みんなでどんどん新しいプログラムを創り出し、展開しているので何とかやっていけると思う」。
 まさにサービス受給権が障害者本人に対する支援費として明確に位置づけられていることの大切さが表現されている。
 支援費は、サービス(事業者)に対する支援費などでは全くない。必要なサービスを選択する障害者本人に対する支援費として、それは存在する。そのことはサービスが常に障害者本人の希望やニーズに基づいて組み立てられる必要があるだけでなく、障害者本人やその支援者の参画のもとで、その支援プログラムは創造されなければならないことを意味している。

2 グループホームにおける支援費の一般理解

 支援費支給制度の最後として、ブリティッシュ・コロンビア州の身体障害者のグループホームの例を考察しながら、今後の日本における地域生活支援の要であるグループホームに関する支援費についての諸問題と展望について考えてみたいと思う。
 私はこれまでアメリカ・カナダ・イギリス・スウェーデン等のさまざまなグループホームを訪ねたが、グループホームはその設置費と運営費の出所が各国とも多様で複雑である。それはなぜかを図1を使って考えてみたいと思う。それはグループホームというものが、図を見てもわかるように中間的な存在だからである。入所施設の場合には基本的に設置費と運営費はワンセットのものである。なぜなら地域社会における住宅サービスの一環としての位置づけがない以上、その設置費は福祉政策においてワンセットで出さざるを得ないからである。一方、スウェーデンやデンマークのサービスハウスを見れば、これはもう明らかに一般的な住宅サービス政策の一環としてバリアフリーな住宅があり、また地域社会の一般的な福祉サービス政策の一環として地域ケアサービスがあり、それが組み合わされて活用されているのがケア付き住宅(サービスハウス)だと言える。
 問題はグループホームである。この中間的な存在を図1を使いながら、その設置費のあり方や設置方法に焦点を当てて、2003年以降の日本でも展開可能な五つのパターンで整理すると、次のようになる。

図1 施設・グループホーム・ケア付住宅(サービスハウス)の関連図

拡大図
図1 施設・グループホーム・ケア付住宅(サービスハウス)の関連図

1.自治体がグループホームを設置し、その運営を民間等に委託する方式

 この方式は、自治体の高い設置基準に基づいて設置されるために、レベルも高く、かつ運営を委託された側は、設置費用の原価償却等を必要としない。つまりは支援費に設置費の原価償却等が含まれないために、ケアコストを中心に支援費の設定が可能となる。ただしこの方式は、グループホームの設置が市の予算に強く影響されてしまう欠点を持つ。

2.運営主体がグループホームを設置して、それについての原価償却費用を支援費等に一部組み込む方式

 この方式では支援費が非常に高くなるだけでなく、本人のサービスの必要度と支援費がリンクしなくなる可能性がある。これはカナダにおいてもアメリカにおいても同様であるが、身体障害者のグループホームについては、かなりの住宅改造を必要とし、借家の場合にはそれがどこまで可能かという問題もあって、運営主体が各種の補助金の活用、関係者の寄付、自己資金等を使ってグループホームを所有している場合も多い。そもそも土地も住宅も日本とは違ってリーズナブルな単価であることもあるが、何よりも利用者に対する家賃補助制度があり、そのことが住宅ローン返済のために少々高めになっている家賃の支払いを可能ならしめている。この家賃補助は、アメリカ・カナダでは、生活費の30%を超える住宅費の部分について補助される仕組みが一般的である。日本でも最も求められる施策のひとつである。この2.の方式においては、住宅ローンはできる限り家賃等で返済すべきであって、支援費の中に原価償却費用を組み込むべきではない。その建物自体がだれのものかという問題も生まれてくるし、何よりも同じニーズを持つ障害者において、家賃を使ったグループホームの支援費との格差があってはならないからである。

3.公営住宅や公が資金提供したアパート等の開発に際して、一定のグループホームを確保する方式

 カナダでは、障害者団体等が住宅局から助成金を得て、高齢者や低所得者向け住宅の一部を、障害者のグループホームとして活用する方法が行われている。最もここまでくれば、それはグループホームというよりは明らかにケア付き住宅やサービスハウスと呼ぶべきであり、その運営主体が障害者団体であるというだけである。つまり住宅サービス施策の一環を活用して、そこにケアシステムをドッキングさせたものと言える。

4.民間が運営する予定の住宅をグループホーム運営主体が借り上げる方式

 この方式は横浜市や大阪府箕面市などが一部採用している方式である。横浜市では、一般住宅の建築許可が下りない地区においても、福祉目的住宅という形で民間住宅をグループホームとして借り上げている。土地の有効利用を考える民間にとってもメリットがあり、市町村や運営主体にとっても、グループホームの設置費や原価償却費が不要という、両者にメリットがある。もちろん、これはすぐに設置費用がいらないというだけであって、当然貸す側は家賃という形で設置費用を償却するわけである。とすれば、借り上げグループホームを建てようとする側に低額融資等の誘導政策も必要となる。借りる側の運営主体にとっては家賃補助制度が必要となる。
 何度も言うように、それを支援費に組み込むのは望ましい方法ではない。支援費の基本は、本人の障害ゆえに必要な支援サービスにかかる費用であることが望ましい。そして一般的な生活費は、賃金および障害基礎年金で組み立てられるべきであり、現状の基礎年金に住宅扶助部分を組み入れるか、それとも家賃補助としてそれを制度化すべきである。

5.運営主体が既存の賃貸住宅を契約して借りる方式

 地域社会の中にさまざまな住宅サービスがあり、そのサービスを使って、そこに一定のケアサービスをドッキングさせるという意味では、この方式は4.とともに最もケア付き住宅(サービスハウス)に近い形である。
 この方式のむずかしさは、第1に日本の現状の民間物件がバリアフリーにはほど遠いということである。つまりは重い障害をもつ人にはとても使えない物件がほとんどで、かなりの改造(改造の許可と改造費用)を要するという点である。第2に、地域社会の差別偏見ゆえに、物理的にはバリアフリーの物件がたとえ見つかったとしても、理解や意識のバリアのために拒否されてしまうことがほとんどだという点である。
 これらを解決するためには、ハートビル法を含めたバリアフリー法のレベルアップとアメリカの公正住宅法のような差別禁止法が必要となる。

3 日本におけるグループホーム支援費の展望

 日本では現在、知的障害者のグループホームの就労条件がなくなり、かつホームヘルパーやガイドヘルパーの導入が可能になったということは大きな前提条件である。言うまでもなくホームヘルパーやガイドヘルパーは、グループホーム利用者個々人への支援であって、グループホームの職員ではない。このことは日本のグループホームをAの入所施設型からCの地域生活型に一気に展開させる可能性を与えている。
 つまり、グループホームに導入されるケアサービスは地域ケアサービスであり得るからだ。一方、住宅サービス政策は日本では遅れに遅れている。障害者に関しては、公営車いす住宅等でお茶を濁している程度である。ノーマライゼーション理念に基づく入所施設の縮小・解体を本気でやるのなら、住宅政策が変わらなければならない。
 ではグループホームの支援費はどうあるべきか。それは非常に簡単であって、グループホーム自体としての支援費は、これまでの世話人という仕組みを、グループホームの利用者一人ひとりの介助等の支援計画を本人と一緒に立てて、サービスをコーディネイトするスタッフにすればいいだけである(アメリカやカナダではそのスタッフをスーパーバイザーと呼んでいる)。このスーパーバイザーはどのグループホームにも一人配置されている。
 たとえばカナダのブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバーを拠点としているM協会のGホームを見てみよう(データはすべて1996年のもの)。そこには5人の20代の脳性マヒの男女がそれぞれの個室と共同のバス・キッチンを使用して暮らしている。その年間の介助関連予算は35万カナダドルであり、その内訳はケアスタッフの費用20万ドル(常勤換算7人分、実際のケアスタッフは9人)、スーパーバイザー費用3.3万ドル(1人分)、その他代休職員等費用3.5万ドル、職員の社会保険費用4.6万ドル、管理運営費用2.9万ドルである。5人の利用者に9人のスタッフと1人のスーパーバイザーという体制である。実際のローテーションは月~金の日中スタッフ4人、夜勤専門スタッフ2人、土日のスタッフ3人となっている。
 注目すべきは利用者一人ひとりの介助等支援に関する支援時であるが、Aさん8.5時間、Bさん5.6時間、Cさん9時間、Dさん8.5時間、Eさん8.9時間となっている。このうちBさんは平日デイプログラムに参加しているために、グループホームでの介助時間が少なくなっている。すべての利用者についてのデータはないが、たとえば、Cさんのケアプランを見ると、Cさんは言語表現ではなくコンピューターの言語発生装置を使用しており、電動車いすが操作できず、全介助でベッドから車いす、車いすからシャワーチェアへの移動は職員とリフターを使用している。痰が詰まりやすくてチアノーゼ、呼吸困難がよくあるが、それでも本人は親から独立して、大学で会計学を勉強するためにこのグループホームで暮らしている。
 一方Dさんは言語表現が可能で、一部の入浴介助やベッドから車いすへの移動以外のADLには支援は不要だが、買い物や食事作り等が困難である。本人はコンピューター技術の獲得に向けて大学に入るために準備中である。
 私は保健婦の立てたこの2人のケアプランがあまりに医療モデルで、ほとんど本人の将来や希望・目標に向けた支援項目や本人の社会関係や人間関係についての支援項目がなく、血圧や尿の管理、食事、排せつ、皮膚の状態のことばかり書いてあるのにショックを受けたが、それ以外にもこのCさんとDさんの介助必要量の違いの割に認められた個人の介助支援が違わないことにも驚いた。全介助のCさんに対する介助支援が9時間であるのを見れば、どうやら9時間が介助支援時間の上限だと思われる。つまりは、Dさんのようにそれ程介助量の多くない人にも、ほとんど最上限の介助時間を確保しておいて、それを全体としてスーパーバイザーがコーディネイトして5人の利用者の支援に振り当てているのであろう。
 このシステムは前回のカリフォルニア州の仕組みで見たように、グループホーム自体のサービスレベルを固定化するよりは、より柔軟に、さまざまな障害の程度やサービス利用程度の障害者が利用可能な仕組みではある。
 しかし、Bさんが平日デイプログラムを利用しているために、グループホームの支援費が減っているというのは、やはりまだグループホームに対する補助金という考え方が拭いきれていない。
 このカナダのグループホームと比較しても、日本の知的障害者のグループホームには大きな可能性が秘められているといえる。支援費については、カナダの介助関連予算のうち、スーパーバイザーの費用と管理運営費用のみをグループホームの支援費とすればよいわけである。そして、ケアスタッフの費用はそれぞれの必要量に応じて、ホームヘルプの支援費とすればよいわけだし、土日の遊びや社会参加活動については、ガイドヘルプの支援費とすればOKである。さらに本人の日中活動については、それぞれの活動に見合った日中活動支援費とすればよい。日本の障害者の支援費支給については、それぞれのサービスの種類ごとに支援費が決められることになっている。カナダの限界を超えることも大いに可能であろう。

(きたのせいいち 桃山学院大学)


(注1)LSS法およびパーソナルアシスタント(介助)手当法については、二文字理明編訳『スウェーデンの障害者政策[法律・報告書]』(現代書館、1998)等を参考にした。
(注2)この報告書はLINDQVISTS NIA(SOU 1999)である。