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フォーラム2001

介助犬に関する検討会報告書の概要

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 企画課社会参加推進室

 近年、いわゆる「介助犬」については、テレビや新聞等で取り上げられる機会が多くなり、社会的関心が高まってきています。介助犬は、たとえば、落としたものを拾う、ドアの開け閉めを行う、エレベーターや電気のスイッチを押す、車いすを引くなど、肢体不自由者の日常生活動作について何らかの介助ができる犬として捉えられています。しかしながら、公共利用機関や施設の十分な理解が得られない等の問題があり、これらの解決に向けての対応が求められています。
 このため、厚生労働省では、平成12年6月から8回にわたり「介助犬に関する検討会」を開催し、障害者に対する介助犬の役割や有効性、社会的受け入れ方策等について検討を行ってきたところですが、今般、その検討結果がとりまとめられたので、その概要を紹介します。

1 介助犬の現状

 介助犬は、1970年代に米国で育成団体が発足して以来普及し、その後、英国やカナダなどの国々でも育成されてきました。現在、介助犬の実働頭数は、最も多い米国で数千頭、英国では千頭以上にのぼっています。また、介助犬に関する法的な整備をしている例としては、米国のADA法(Americans with Disabilities Act of 1990;障害をもつアメリカ人法)において、障害者が公的施設を利用する権利を保障する規定が設けられており、さらに行政規則において介助動物を伴う場合も利用を認めるべき旨が規定されています。
 一方、日本では、1995年に介助犬第1号が誕生し、現在、国内における育成団体は15団体となっていますが、その多くは任意団体もしくは個人で運営されており、介助犬の育成方法も個々となっているのが現状です。なお、介助犬の実働頭数は、平成13年4月現在19頭となっています。

2 介助犬の機能と役割

(1)介助犬の機能

 介助犬のもつ機能は、1.上肢の代償機能、2.作業の補完機能、3.緊急時の連絡確保機能が挙げられます。

(2)使用者の障害の範囲

 介助犬を使用することが有効な障害者は、1.上肢機能に障害があるため日常生活動作が制限される肢体不自由者、2.移動機能に障害があるため、社会での日常生活活動に支障のある肢体不自由者であると考えられます。

(3)介助犬の役割

 直接的には、肢体不自由者の日常生活動作を介助することであり、それにより、肢体不自由者の自立や社会参加を促進し、生活の質の向上が図られ、エンパワメント(自分自身が主体者であることを自覚し、自分に自信が持てるように力を高めていくこと)につながるといえます。

(4)介助犬の定義

 介助犬は、「然るべき知識と経験を有する訓練者によって、肢体不自由者の一定の介助ができるよう訓練され、生活等の訓練を共に修了した肢体不自由者によって使用される犬」と定義づけることができます。

3 介助犬の育成のあり方

(1)介助犬の適性

 介助犬に求められる性質としては、1.陽気な性格であり、動物や人間に対して友好的で臆病でないこと、2.人間と一緒にいることを好むこと、3.他の動物に対し強い興味を示さず、挑発的な行動をしないことなどが挙げられます。
 また、股関節形成不全や網膜萎縮症等の疾患の有無を検査する必要があります。

(2)介助犬訓練者等

 介助犬訓練者には、犬の適性評価や訓練についての知識や技術はもとより、障害者のニーズを的確に把握し得るよう、障害や疾病に関する知識が求められます。
 また、介助犬の適性評価や育成訓練計画の作成に当たっては、介助犬訓練者を中心に、医師、獣医師、PT、OT、ソーシャルワーカー等の専門職が関与したチームアプローチが必要です。

(3)訓練内容等

 介助犬は、全国的に見ても実働頭数が極めて少数なうえ、その育成団体も脆弱な組織体制であり、それぞれが独自の考え方や方法で介助犬を育成している現状を踏まえれば、介助犬の訓練内容については一定の共通基準が必要と考えられます。
 また、その基準は育成団体のほか、障害当事者、学識経験者などが加わって検討され、作成されるべきものと考えられます。

4 介助犬使用者の要件

 犬の行動および公衆衛生上の管理能力を有することが不可欠であり、犬が行った行為については、使用者が責任を負わなければなりません。

5 介助犬の社会的受け入れ

 公共交通機関の利用においては、1.交通機関の安全性に支障を来さないこと、2.乗客等に迷惑をかけないこと、が前提になります。
 また、ホテル、飲食店、スーパー、百貨店等の利用においては、特に公衆衛生上の十分な管理が求められます。
 このほか、介助犬が社会に受け入れられていくためには、介助犬の役割等について、社会全体の認知度を上げていくための啓発活動等が求められ、また、円滑な受け入れを推進していくためには、何らかの認定に基づいた統一的な表示も必要です。

6 当面の課題

 介助犬は、統一的な訓練基準等のもとに育成される必要があることから、介助犬訓練基準のあり方等について、育成団体関係者、障害当事者、学識経験者等により、具体的な検討が必要であり、そのためには、育成団体による協議会の組織化など、育成団体間の連絡協調体制の確立が望まれます。

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2001年10月号(第21巻 通巻243号)