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大阪
リバティセミナー
「障害学の現在」を終えて

松永真純

 みなさんは、大阪人権博物館(リバティおおさか)をご存じでしょうか。部落問題や在日コリアンなどの差別問題に関する博物館です。その常設展示の1コーナーである「身体文化と環境」のなかで障害者問題に関する展示も行っています。また、展示以外ではこれまでに、障害者問題をテーマとした企画展や劇などを開催してきました。そして、去る6月2日から7月7日の毎週土曜日、リバティセミナー「障害学の現在」と題して、障害学に関する連続講座を行いました。以下、このセミナーの開催の意図やねらいについて、担当した私の感じるところを書いていきたいと思います。
 このセミナーを開催しようとした理由はいくつかありました。まず、当館では2005年度に常設展示のリニューアルを計画しています。その準備はすでにスタートしており、当事者団体や研究者、博物館関係者などさまざまな方の協力をいただき、議論を重ねているところです。また、障害者問題に関する展示もより充実したものとするため、ワーキングチームを結成して内容を検討したり、現在からさまざまな事業を計画して、常設展示のリニューアルにつなげていきたいと思っています。このような理由で今回のセミナーを計画しました。
 次に、私個人が障害学に関するセミナーを実施したかったという気持ちがありました。明石書店から出版された『障害学への招待』や、東京で開催された連続講座「障害学へのお誘い」の内容をまとめた『障害学を語る』を読みながら、私の知的好奇心は大いにかき立てられました。
 障害という視点から社会を読み解いていこうとする障害学は、従来の障害や障害者をめぐる考え方にパラダイムの転換を迫っていく実践です。また考えてみれば、既存の学問である歴史学や社会学、経済学などの世界では、障害や障害者に関する事柄が取り上げられることがあまりにも少なかったといえます。そのため、必然的に既存の学問のあり方も問い直し、それらの学問を横断していくようなことにもつながっていくでしょう。このような「学」としてのおもしろさをもつ障害学に関するセミナーを当館でも実施したいと思ったのです。
 さて、セミナーの実施にあたっては、当館で行う意義について考えました。結果的にですが、障害学に関する連続の講座は大阪においてこのセミナーがはじめてであり、東京で行われた連続講座とは違う特色をだしたかったという気持ちもありました。
 先に私は、障害学には「学」としてのおもしろさがあると書きました。しかし、それが障害をめぐるさまざまな現象に言及するかぎり、現実に生きている障害者の存在と無縁であることはできないでしょう。研究上で語られる被差別者の像は、現実のあり方と大きくずれていることがよくあります。既存の学問における、障害者の存在自体の隠蔽(ぺい)は、その最も極端な形であると言えるかもしれません。もちろん、障害学はこのような方向とは別の方向をめざしていると思います。そこで、今回のセミナーでは、研究の立場で障害学にかかわっている方だけではなく、障害者団体で活動し、障害学に関心をもっている当事者にも講師になってもらいたいと考えたのです。
 運動と研究の関係といったテーマについては、障害者問題の研究以外でも、さまざまに議論されてきたことでした。その答えは多様であるでしょうし、私自身にも答えがあるわけではありません。だからこそ、今回のセミナーは参加者にさまざまな視点を提供する場にしたかったのです。
 ところで、展示をつくるときに当事者と信頼関係を築いていくことは、私たちが最も大事にしている視点です。大阪人権博物館が展示のテーマとしている内容は、まさに現代社会に生起している差別問題であり、現実に生活している当事者の声を無視して展示を行うことはできないと考えるからです。さらに、博物館の展示が差別問題の理解にどのようにかかわっていけるのかを、私たちは追求していかなければならないと思っています。
 さて、いよいよ各回のテーマと講師についてですが、以下のとおりで実施しました。
1.6月2日
 「今、なぜ障害学か」石川准(静岡県立大学)
2.6月9日
 「障害の文化─盲文化を例として」杉野昭博(関西大学)
3.6月16日
 「ろう文化へのアプローチ」稲葉通太(草の根ろうあ者こんだん会)
4.6月23日
 「盲ろう者と障害学」福島智(東京大学先端科学技術研究センター)
5.6月30日
 「障害学と障害者運動」姜博久(全国障害者解放運動連絡会議)
6.7月7日
 「障害学、現在とこれから」倉本智明(聖和大学)
 各回の内容については、年度内に当館発行予定の報告書をご覧になっていただきたいと思います。参加者の反応で私の印象に残っていることは、障害者運動の現場で活動されてきた方の参加があり、障害学と障害者運動はどのような関係を築いていけるのかについて、意見が交わされたことでした。まさに、このような意見の交流の場を希望していたのでした。
 最後に、大阪人権博物館では、2002年度の秋に障害者の特別展を実施します。当館における初めての障害者問題の特別展です。多くの方のご来館をお待ちしています。

(まつながまさずみ 大阪人権博物館)