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内閣府、吉冨宣夫参事官に聞く
―障害者に係る欠格条項の見直しをどう評価するか―

聞き手 藤井克徳 本誌編集委員、きょうされん常務理事

今年度中に100パーセントの達成

藤井

 1993年に策定された障害者対策に関する長期計画の中で、欠格条項の見直しの検討が提示され、1999年に対処方針(「障害者に係る欠格条項の見直しについて」)が出されました。あれから3年が経ちますが、欠格条項の見直しの進捗状況をどのように見ておられますか。

吉冨

 藤井さんがおっしゃったように新長期計画で四つのバリアがあげられています。その中の一つ、いわゆる制度的バリアの代表的なものとして、この欠格条項があげられています。また、障害者プランでも、いわゆる心理的バリアの観点で、たとえば精神障害者について偏見をなくすという観点から、精神障害者の方の欠格条項の見直しを行う必要があるとしています。その後、それぞれの所管省庁で個別に検討が進められてきましたが、必ずしも十分な成果が上がっていませんでした。このような状況を受けて、政府として欠格条項見直しを促進するため、平成11年8月に障害者施策推進本部で統一的な方針の下に欠格条項の見直しを進めるための具体的な方針決定がなされました。その際、見直しの対象とする制度は、各省庁でその所管制度を洗い出した結果、63制度とすることにしたわけです。
 昨年の通常国会では、厚生労働省関係の一活法が成立したことにより、大きく前進しました。特に医事資格、薬事資格という、国家資格の中でも重みのある資格について見直しがなされたことは、意義あることだったと思います。今回内閣府では、その他の省庁で残されたものを取りまとめて、今国会に提出し、5月7日成立しました。
 政府としては、新長期計画の期間内に63制度すべての見直しを完了するという決意で進めているわけですが、今国会に提出されている他の関連法案が成立すれば、60制度の見直しが終了することになります。残された制度についても14年度中には、見直しが終わるように、鋭意取り組みたいと考えています。

「能力」をどうみるか

藤井

 お話しをうかがっておりますと、63条項についてはほぼ見直しが終わるということですね。改めて1999年の対処方針を見てみますと、一つは見直し期限を2002年度中と区切っていること、もう一点は、見直しの視点について言及していることです。見直しの視点については、さらに二つに分かれるのですが、一点目は「原則撤廃」であり、もう一点は、「真に必要な場合」について、四つの項目があって、たとえば「障害を特定しない」などとなっています。
 見直し内容をざっと見ますと、確かに栄養士法は医師法のように撤廃したものもありますが、かなりの条項で相対的事由が残ったとされているという点で、関係者から不本意であるとの感想が出ているのですが…。全体に見て見直しの質について、参事官はどのように考えておられますか。

吉冨

 今回の見直しの趣旨は、障害を欠格事由としている資格制度について、障害のある無しではなく能力によって判断するようにするということです。すなわち、障害のある人を特別扱いするのではなく、それぞれの資格制度において必要とされている能力があるか否かを唯一の判断基準にするということです。そのような考えに立って、能力をどう見るかという点については、昨年の厚生労働省の一括法も同様ですが、補助具や治療なども考慮しながら、最大限、障害のある人の能力を評価し、資格を与えるとの方針で見直しを行っています。
 これまでの見直しでは、栄養士、調理師免許など12制度で障害者の欠格事由が廃止されています。今回の一括法案の取りまとめに当たっては、関係省庁に対して障害を欠格事由とする必要性について根本から再検討するよう求めましたが、結果として廃止するものはありませんでした。しかし、資格制度の設けられた趣旨に照らしてどうしても必要なものについては、本部決定の対処方針に沿って、対象を厳密化することや絶対的欠格となっているものを相対的欠格に改めること、また規定の仕方を障害者を特定しない形に改めることなど、できる限りの見直しはできたと考えています。

内閣府の新たな役割

藤井

 見直し期間の途中で、総理府から内閣府へと再編されました。また、参事官ご自身も前任者と代わられました。これらの点で、ご苦労があったと思いますが…。

吉冨

 障害者施策推進本部は従来は総理府に設置されていました。それが内閣府設置に変わりまして、その庶務を内閣府が引き継ぐことになりました。今回の一括法では、内閣府所管の法律が一本もないのですが、関係省庁からは内閣府が取りまとめて出してほしいという、たいへん強い要請がありまして、まとめることにしました。用語整理法とは異なり、関係法律の制度を実質的に改正する法案をこのような形で国会に出すということは、今までの総理府ではなかったことだと思います。本部が変わり、内閣府も変わり、新しいこのような仕事がでてきたという感じがしています。

残された課題

―実効性をもった展開がポイント―

藤井

 今までのお話しをうかがいまして、おおむね対処方針どおりに進んでいるようですが、今後の課題として何があげられるのでしょうか。
 これは内閣府の役割ではないのかもしれませんが、自治体の条例や民間企業体の規則(約款)などに欠格事由が相当残されているようです。これらの見直しを含めて、今後の残された課題のポイントをお話しください。

吉冨

 そうですね。今言われたような条例の問題ですとか、あるいは民間企業の問題があることは認識しています。障害者欠格条項の見直し条例について言えば、方針は、国の新長期計画で決まっており、都道府県、市町村は、それぞれの障害者計画の策定に当たっては、国の基本計画を基本として作らなければならないことになっている訳です。ですから私どもとしては、国として欠格条項の見直しを行っていくという方針のもと、地方自治体においても国の方針を踏まえて、対応していただきたいと考えています。
 民間企業については、それぞれの所管省庁において障害者施策推進本部で決定された方針にしたがって、指導されるものと考えています。
 それからもう一つ、見直しはこれですべて終わっているわけではないんですね。実際に欠格条項の見直しを行って、それが実効性をもってうまく機能しているのかどうかが重要です。
 たとえば医師の欠格事由が見直されても、養成課程で知識を習得できる環境にあるのかどうか、ということが重要です。また、仮に免許が取得できても、実際に働く場の環境が整わなければならない。逆に働く場の環境が整っていれば、免許や許可を受けることも可能になるということも言えるわけです。
 障害者施策推進本部では昨年6月に、教育、就学等について障害補助機器の配置や職場のバリアフリー化を進めるよう申し合わせをしましたが、制度的な見直しにとどまらず、障害者の社会参加の観点から、何が必要かということを、これからもずっとフォローしていく必要があると思います。 

藤井

 各法で欠格条項の見直しが進んだわけですが、改正法が施行されたあとの定期的なチェックは考えておられるのでしょうか。

吉冨

 欠格条項の問題は、非常に大きな重いテーマですから、今申しあげたような環境整備の問題も含めて継続的にやっていきたいと思っています。 

藤井

 確かに欠格条項の見直しは進んだのですが、いくつかの点で不安が残ります。たとえば、ある資格制度で欠格条項は撤廃されたものの試験の段階で大きなバリアに遭遇することが考えられます。試験会場に物理的な障壁があったり、筆記能力を補完するための配慮がない等によって実質的には、欠格条項が存在するのと変わらない状況が生じることが考えられます。
 欠格条項の見直しの実効度を上げていくために、個別法ごとの主務官庁の対応が問われていくと思うのですが。

吉冨

 そのとおりですが、政府全体として取り組んでいく問題となれば、当然障害者施策推進本部で考えていくことになると思いますね。

藤井

 障害のある人の社会参加を実質化させていくために、四つのバリアフリーが必要であるといわれています。
 今般の欠格条項の見直しは、この中の制度的バリアフリーに直結する重要な政策テーマであったように思います。今後欠格条項のさらなる改善を実現しバリアフリー全体を具現化していくためには、個別法の徹底した改正と併せ、バリアを許さない包括的な法律の立法化、たとえば、すでに十数か国で制定されている「障害者差別禁止法」等が有効であるように思います。これらについても、海外動向を注視しながら検討を深めていく必要があると思います。
 本日はありがとうございました。